福田村事件 -関東大震災・知られざる悲劇

著者 :
  • 五月書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909542557

作品紹介・あらすじ

四国から千葉へやってきた行商人達が朝鮮人と疑いをかけられ、正義を掲げる自警団によって幼児、妊婦を含む9名が惨殺された。
映画『福田村事件』(森達也監修)が依拠した史科書籍。長きに渡るタブー事件を掘り起こした名著。【森達也監督の特別寄稿付き】

「辻野さん、ぜひ調べてください。......地元の人間には書けないから」
その時から、歴史好きの平凡な主婦の挑戦が始まった。
「アンタ、何を言い出すんだ!」と怒鳴られつつ取材と調査を進め、2013年に旧著『福田村事件』を地方出版社から上梓したものの、版元の廃業で本は絶版に。
しかし数年後、ひとりの編集者が「復刊しませんか?」と声をかけてきた。
さらに数年後、とある監督が「映画にしたいのです」と申し入れてきた──。
福田村・田中村事件についてのまとまった唯一の書籍が関東大震災100年の今年2023年、増補改訂版として満を持して刊行!

【福田村・田中村事件】
関東大震災が発生した1923年( 大正12年)9月1日以後、各地で「 不逞鮮人」 狩りが横行するなか、 9月6日、 四国の香川県からやって来て千葉県の福田村に投宿していた15名の売薬行商人の一行が朝鮮人との疑いをかけられ、地元の福田村・田中村の自警団によって、ある者は鳶口で頭を割られ、ある者は手を縛られたまま利根川に放り投げられた。虐殺された者9 名のうちには、 6歳 ・ 4歳 ・ 2 歳の幼児と妊婦も含まれていた。犯行に及んだ者たちは法廷で自分たちの正義を滔々と語り、なかには出所後に自治体の長になった者まで出て、事件は地元のタブーと化した。そしてさらに、行商人一行が香川の被差別部落出身者たちだったことが、事件の真相解明をさらに難しくした。

感想・レビュー・書評

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  • 映画「福田村事件」は、昨年の邦画でマイベストワンだった。日本アカデミー賞でも、インディーズ映画としては異例の入賞を果たしていた。それと同じ題名を持つ本が昨年発行された。映画があったから発行されたのではない。むしろ、この本があったから映画ができたし、著者も企画協力をしている。10年前の著書を大幅に増補改訂した決定版である。

    100年前のことで、もはや生きている人は多分いない。生き残った(映画にも出てきた)当時13歳の男性からの詳しい証言も残っていた。それらを含めて、さまざまな証言を集めて、事件の基になった千人以上が犠牲になったという朝鮮人虐殺の「輪郭」がわかってきたのは、つい最近だ。本書は、前半でそれらのことも比較的わかりやすく紹介してくれている。

    震災翌日の9月2日に政府は「戒厳令」を発した。その日は警官による虐殺が堂々と行われたようだ。「戒厳令」は流言蜚語に踊らされ発せられた。発令は更に蜚語を強化し、発令取り消し後も、既に歯止めが効かなくなってしまった。僅かに残っている一つひとつの記録を見ると、警官や軍人は誰一人として逮捕されていない。千葉県内で検挙された一般人はたった90名ほどだし、牢屋に入ったのはたった17名である。福田村事件だけでも、その数倍の村人が関与していたという証言があるのに、である。その他多くの「事実」に唖然とし、怒りが湧いた。特に政府は、国家責任を一部自警団員に転嫁している。

    千葉県内で発生した自警団・民衆が朝鮮人を殺害し、或いは朝鮮人と誤認して日本人を殺害した一覧表がある(裁判になった事例のみ)。「誤認して日本人殺害」が22例中10例もある(福田村事件もそのうちのひとつ)。概要しかわからないが、暗澹たる気分になる。

    福田村事件は、9月6日、香川県から薬の行商に来ていた一行15人が地元民に襲われ、9人が命を落とした事件である。讃岐訛りを咎められ、もはや君が代を歌っても警官が確認するから待っておれと言っても効かなかった。被害者の中には幼児3人と妊婦も含まれていた。

    ある程度(ことの本質という)フィクションを含みながら経過は、映画では具体的に描かれている。「福田村事件」監督の森達也氏の特別寄稿が載っていた。
    「善良な人が善良な人を殺す。その理由とメカニズムについてずっと考え続けてきた」
    オウム信者を追い続けてきた森監督は、しかし監督でさえ、「虐殺が始まる瞬間の人々の表情について」「さんざん煩悶した」と告白する。いわんや、私にはわからない。でもだからこそ、加害する側、被害側、両方を知ろうしなくてはならない。

    辻野弥生さんは主に博物館・美術館の紹介本を書いてきたライターさんではあるが、本書は丁寧な記録の掘り起こしを基に、(一般的にはタブーと言われる)朝鮮人・部落民被害者のこの事件への、自らの感想を臆することなく語っている。ノンフィクションはこうでなくてはいけない。なかなかの力作、良書である。

    2024年3月15日読了



    • kuma0504さん
      土瓶さん、aoi~soraさん、
      コメントありがとうございます♪

      昨年1番エネルギーがある作品でした。
      何よりも、大企業がお金を出す映画な...
      土瓶さん、aoi~soraさん、
      コメントありがとうございます♪

      昨年1番エネルギーがある作品でした。
      何よりも、大企業がお金を出す映画ならば、こんなにも様々な「差別タブー」を持つ映画は作れなかった。
      一切賞をもらっていませんが、自警団の若頭的な立場の水道橋博士の怪演が素晴らしい。
      たとえDVDが発売されても、レンタル屋に入ってくるか不安でしたが、アカデミー賞優秀賞をとったことで、その可能性は大きくなりました。その時は是非観てください。
      2024/03/19
    • kuma0504さん
      autumn522akiさん、コメントありがとうございます♪
      森達也さんの寄稿は、十数ページもある本格的なもので、森さんのこの数年間の創作活...
      autumn522akiさん、コメントありがとうございます♪
      森達也さんの寄稿は、十数ページもある本格的なもので、森さんのこの数年間の創作活動の考え方を書いていて私にとっても興味深いものでした。

      井浦新演じる知識人は、ちょうど四年前1919年に起きた朝鮮半島の独立運動で挫折した男です。また、本書を読むと、この4年前の運動で政府が敏感になっていて、不逞鮮人を排除したいという気持ちが出て「虐殺」につながったようです。だからこそ、日本政府の責任は重大で‥‥。
      というようなことは、本を読まないとわかりませんね。
      2024/03/19
    • autumn522akiさん
      ありがとうございます。ほんとやるせないですね、その結果がこれですか…
      この本も読んで勉強したいと思います。
      ありがとうございます。ほんとやるせないですね、その結果がこれですか…
      この本も読んで勉強したいと思います。
      2024/03/20
  • 福田村事件聞いた事がありませんでした。
    関東大震災で 朝鮮の人が水に毒を入れたという嘘が出回り多くの人が殺されたと言う事は学びましたが、日本人の方もこのように殺された事実は全く知らず 映画のニュースを見て気になって読みました。

    福田村事件に至るまで 当時の関東では どんな様子であったかとか 被害に遭われた人以外も 襲われたとか書かれていました。

    大災害の後で 多くの民衆が不安の中 このような嘘の情報を流した お役人達が 罰せられることなく過ごしていたのは酷い事です。

    殺害した人達も 元々良い人だったからなのか 多くの人は 加害者なのに そういう目で見られなかった。

    しかし こういった事件は 隠されていった。

    本当に大切なのは 人は狂気してしまった事実を隠すことではなく それを残して 二度とこのような事件が起きないようにする事だと思います。

    普通の人が 変わってしまう。
    自分も 混乱時に そうならないように 心がけたいと思いました。

  • 「福田村事件」を伝え続ける人たち | NHK
    https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/015/51/

    「福田村事件」著者・辻野弥生さんインタビュー | 隈本ゼミ調査報告(2015-02-09)
    https://ameblo.jp/kumakuni05/entry-12503143852.html

    100年前、村で起きた虐殺…描いた絶版本に脚光 森達也さん映画化:朝日新聞デジタル(2023/2/11 有料記事)
    https://www.asahi.com/sp/articles/ASR2B741JR26UDCB00H.html

    五月書房新社
    https://www.gssinc.jp/

    福田村事件 辻野 弥生(著/文) - 五月書房新社 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784909542557

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ◆地道な検証と歴史的考察[評]永田浩三(武蔵大教授)
      <書評>『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』辻野弥生 著:東京新聞 TOKYO...
      ◆地道な検証と歴史的考察[評]永田浩三(武蔵大教授)
      <書評>『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』辻野弥生 著:東京新聞 TOKYO Web
      https://www.tokyo-np.co.jp/article/272727?rct=shohyo
      2023/09/01
  • 歴史の裏側に隠された真実が明かされていく。この本を読み、書き残さずにはいられなかった著者の思いを知った。

    「朝鮮人なら殺してええんか!」2023年公開の映画の中で、被害者となった行商の親方が加害者らに向けて吐いた言葉に、立ちすくむ思いがしたという著者、辻野弥生さん。
    「殺していい命などあろうはずがない」

    どうしてこのような悲惨な事件が起こってしまったのか。
    背景に植民地支配の歴史や部落差別があるという。当時の新聞や雑誌の記事、聴き取り調査の内容が提示されることにより、次第に事件の全貌が見えてきた。

    関東大震災後の流言飛語で民衆は不安、恐怖にさらされる。「朝鮮人に間違われて虐殺された人達は、香川県から薬の行商にやってきた被差別部落民」だった。闇に葬られたままだった真実を綿密に調べ上げ、本にまとめた著者の取り組みに敬意を表したい。

  • 関東大震災の混乱下で様々な差別的悲劇が起きていたことは知っていたが、部落問題が絡む虐殺があったことは恥ずかしながら初めて知った。世に溢れるフェイクニュースやヘイトスピーチ、同調圧力、国民に責任転嫁する行政…100年たって暮らしは豊かになっても、人間の根源的な部分は何も変わっていないと感じる。一度絶版になったこの本が復刊された意味はとても大きい。タブー視される事件の資料集めや関係者への取材は困難を極めたに違いない。地域に根差した執筆活動から〝なかったことにされた事件〟を掘り起こして出版にこぎつけた著者の執念に敬服。さらに映画化に踏み切った森達也監督もしかり。「善良な人が善良な人を殺す」のは何故かを問う巻末の寄稿が胸にズシンと響く。集団心理の怖さを改めて思い知らされた。

  • 【はじめに】
    2023年9月1日の関東大震災からちょうど100年後のその日に森達也監督の『福田村事件』が全国で公開された。心揺さぶられるその映画を観たあと、歴史の底に沈んで永らく触れられることのなかった福田事件に光を当てる契機となったと言われるこの本を手に取った。
    2013年に出版されたこの本は、出版社の廃業によって一度は絶版となったものの、映画化の話とともに増補改訂版として再出版された。

    【福田村事件】
    福田村事件とは、関東大震災後の混乱の中、千葉県福田村(現柏市)で香川から薬の行商団が地元の自警団に殺害された事件である。行商団15名のうち、2歳、4歳、6歳の子供、および妊婦を含む9名が亡くなった。6名が商業団の鑑札の識別を終えた警察署長の説得により助かった。6名の命が助かったにも関わらずそこから世間にこの話が伝わらなかったのは、彼らが被差別部落の出身であったからだとも言われている。100年を経てようやく知られることとなったのである。

    この事件のことを記録し記憶に留めるのは、加害者を非難するためではもはやない。被害者の鎮魂のためでも、被害者の親族・知人への慰謝のためでもない。そんなことは可能ですらない。普通の人が、普通の人を自発的に殺害してしまうということが実際に起きえてしまうという事実を認めるためにこそ伝えられるべきものではないかと思う。

    増補改訂版として、映画『福田村事件』公開後に出版された本書では、森達也監督によるあとがきが添えられている。彼は、福田村事件だけではない、過去何度も世界中で繰り返されてきた集団化による排他と暴力について「知らなくてはならない。その理由とメカニズムについて。スイッチの機序について。学んで記憶しなくてはならない。そんな事態を何度も起こさないために」と伝える。知ることと、記憶すること、それだけがまずできることなのかもしれない。

    【映画『福田村事件』】
    映画『福田村事件』は、かなり本書にも書かれている史実に沿って忠実に描きながらも、福田村のやや閉塞した空間における(フィクションとして創作された)人間関係を絡めて深みを加えた心に残る映画だった。関東大震災の際に、多くの韓国人が殺されたということは知っていたが、それがどのようにして起きたのかを描き、伝えようとする気持ちが、ずんと伝わってきた。そしてまた、森監督のマスメディアに対するおそらくは伝わることのない期待と絶望もにじみ出ていた。

    映画の中で被害者となった香川の行商団が村人が囲まれ、その讃岐方言を怪しんで日本人かどうかを議論している村人に対して、「朝鮮人なら殺してええんか!」と叫ぶシーンがこの出来事だけでなく、その後、今も続く多くの事態に対しての叫びのように感じた。そして、その叫びを切っ掛けとするように虐殺は始まったのだ。

    映画もぜひ見てもらいたい。

    ------
    『「A」 マスコミが報道しなかったオウムの素顔』(森達也)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/B00GUBVS54
    『A3 上』(森達也)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4087450155
    『A3 下』(森達也)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4087450163
    『増補 普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊』(クリストファー・R・ブラウニング)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4480099204
    『容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別 』(ジョン・ダワー)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4582764193
    『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』(ハンナ・アーレント)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622020092

  • 福田村事件と検索するとあまりの悲惨な事件に慄然とします。香川から来た被差別部落の行商人15人のうち幼児、児童、妊婦を含む9人(胎児を含めて10人)を惨殺した福田村の村人。そして、それは関東大震災の時に発生した朝鮮人大虐殺の中で、朝鮮人に間違えられた為に起こった虐殺で、当時朝鮮人は殺してもよいという風潮になっていたという事です。勝手に労働力として連れて来ておいて、勝手に仮想的にして殺す。こんなにひどい事を行ったのは我々日本人です。
    そして幼児まで殺した鬼畜のような福田村村民の所業。それは異常者の集団ではなく、我々と何ら変わらない一般の人々です。
    刷り込まれた差別意識、同調圧力、人間が持っている残虐性、集団心理。今でも発生する可能性のある事件です。
    隠蔽されたこの陰惨な事件が明るみに出る切っ掛けになったこの本の存在意義はとてつもなく大きいです。
    そして映画化迄されたわけですが、加害者の子孫、被害者の子孫へ不当な迫害などが起こらない事を祈るばかりであります。

  • 関東大震災のときに流れた朝鮮人に対して流れた流言飛語(デマ)によって自警団に殺された四国の薬行商達について、資料を踏まえて書かれている内容である。
    正直、このような事件があること知らなかったです。
    殺された方々も子供や妊婦などがいてとてもつらいないようでした。
    さらにはこれらの問題は朝鮮人差別だけではなく、部落差別や関東大震災のときの含めた様々な要因が絡んでいることに
    気付かされます。
    また、さらに気づいたのは加害者である自警団の人達の答弁内容や態度です。
    「他人事のように冷冷淡々と」,「勇壮活発なもの」,「演説口調」
    これらの様子は戦前に戦争に進めさせた政治家か陸軍の連中の態度、さらに今なら不正の疑惑を抱えた政治家や官僚達がやる態度とそっくりだった所に驚いてる。
    やっぱり日本は相変わらず変わってないと実感する。
    福田村事件は映画もあるので、そちら今度みてみます。
    映画や本含むて、ぜひ、みてください。
    #福田村事件
    #読書記録
    #読書
    #読書好きな人と繋がりたい

  • 福田村事件の映画鑑賞をきっかけに読みました。
    関東大震災の時に多くの悲惨な事件が実際に起きていたショックと、実際に自分がこの環境にいた時に抗えたのかと非常に考えさせられた。
    集団ヒステリーの怖さ、恐怖心や思い込みによって人間はとても残酷な行為に走りうるということを実感した。
    こういった悲劇がまた起こらないように、決して忘れてはいけない出来事。

  • 「『福田村事件』を観る前には、いや、9月1日が来るまでに読み切らなければ」と半ば義務的に読み始めたのだけど、一気に読んでしまった。当時の資料と証言を徹底的にかき集めた辻野さんによる執念の裏取り。まさしく魂の一冊だと思います。巻末に載っている資料「朝鮮人識別資料に関する件」の忌々しさと「藤田喜之助さん」による手記の生々しさ。

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著者プロフィール

福岡県生まれ。1981年より千葉県流山在住。流山市立博物館友の会会員。『東葛流山研究』企画編集委員。1988年、地域の文化賞「北野道彦賞」受賞。2003年、子育て後の人生を楽しむ女性の会「あしたば」創設。2006年、吉目木ひなこ氏と『ずいひつ流星』創刊。
著書に本書の旧版『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』(崙書房出版・ふるさと文庫)のほか『呉服屋のお康ちゃん奮戦一代記』が、共著に『日本ユニーク美術館・博物館』『江戸切絵図を歩く』『幕末維新 江戸東京史跡事典』ほかがある。

「2023年 『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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