Schoolgirl

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163915081

作品紹介・あらすじ

第166回芥川賞候補作!令和版「女生徒」

どうして娘っていうのは、こんなにいつでも、
お母さんのことを考えてばかりいるんだろう。

社会派YouTuberとしての活動に夢中な14歳の娘は、
私のことを「小説に思考を侵されたかわいそうな女」だと思っている。
そんな娘の最新投稿は、なぜか太宰治の「女生徒」について――?

第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」を同時収録。

感想・レビュー・書評

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  • すべての元・14歳女子たちへ。

    さきほど『東京都同情塔』で芥川賞を受賞された九段理江さんの前著。こちらも同賞(第166回)の候補作になっている。

    令和を生きる少女の実存的不安と、母娘の葛藤を描く。
    その鮮やかさに、こちらは眩暈のような錯覚を覚える。

    タワマンで暮らすスノッブな家庭の母娘。
    「聡明な」14歳の娘が、YouTube配信で資本主義を斬り、人々の啓蒙を試みる。環境活動家グレタのような。そこには憂鬱な既視感がある。

    少女の、曇りのないまぶしさと愚かさ、不安定さに、頭を抱えたくなる。

    太宰治の『女生徒』になぞらえた母娘の対話シーンは、ぜひ読んでいただきたい。
    「じゃあ、お母さんは何者?」
    あなたは彼女をどう受け止めるだろうか?


    同収録の『悪い音楽』はストレートにヤバい(!)。こちらの方が面白いと感じる方は多いと思う。日本語ラップ好きは特に。笑

    短編2作だが、決して軽くはなく、こちらに結構なエネルギーを要求してくる。素通りさせてくれない文章の圧力があった。

  • 第166回芥川賞候補作である表題作を含めた中編2編収録。

    表題作は太宰治の「女生徒」の本歌取り的作品だそうだ。太宰は好きではないけど、「女生徒」は読んでみようと思った。

    それより、もう一編収録された九段さんのデビュー作で第126回文學界新人賞受賞作の「悪い音楽」!。
    女性のとんでもない中学音楽教師の話なんですが、軽く狂っていてヤバい。めちゃくちゃ笑えた。

    5点満点で「女生徒」が4点、「悪い音楽」が6点のトータルで5点、といった感じです。

    読みやすいので、深い意味を考えず感じるままに読むべき小説。
    九段理江さん、ファンになりました。
    次回作を強く期待。

  • 私が常々感じているのが、母と娘の親娘関係が
    母と息子の親子関係と全く異なった関係性になる
    ことで、同性にしか感じ合えない何かテレパシーみたいなものがあるのかと感じてしまうのです。
    本作の「School girl」は、中学生の娘とその娘を
    過保護に愛している母のストーリーなのですが、
    娘は、とても意識が高くて、環境問題や世界平和についていつも考えていて、youtubeを上げて
    問題提起を続けている。その娘と真逆で、あまり
    そういった問題に目を向けてなくて、妄想好きで、小説をこよなく愛している母。現実を見ない母にイラついてる娘と本当の親娘関係を探している母との言葉の言い合いがとてもユニークでした。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    言葉で表現することの可能性


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    祝・第170回芥川賞受賞
    新芥川賞作家の原点。第73回芸術選奨新人賞受賞作。

    どうして娘っていうのは、こんなにいつでも、
    お母さんのことを考えてばかりいるんだろう。

    社会派YouTuberとしての活動に夢中な14歳の娘は、
    私のことを「小説に思考を侵されたかわいそうな女」だと思っている。
    そんな娘の最新投稿は、なぜか太宰治の「女生徒」について――?

    第126回文學界新人賞受賞作「悪い音楽」を同時収録。


    ⚫︎感想
    2作ともこれぞ純文学という感じで、芥川賞に選ばれてもよかったじゃないか?と思えた。大変面白く読めた。

    「School girl」
    小説の可能性を見出せる小説。母になる前の母を知りたいと思い娘が見つけた太宰治の「女生徒」

    太宰治の「女生徒」を踏まえた、対照的な娘と母の話。「女生徒」を読んでから本作を読み、よかったと思う。社会派YouTuberの聡明で正義感あふれる娘をもち、娘に小馬鹿にされる発言を受けながらも一生懸命子育てはしようとしている母である主人公。当たり障りのない言葉を探しながら。でもしれっと不倫していたりもする。

    「東京都同情塔」でも指摘されていた2点。
    誰も傷つかない言葉の追及、生まれながらにして恵まれていれば当然良い人になり、悪い人になりようがないという指摘。

    周りのでき事も人も早回しで進み、娘は世界の真実を把握するのに「5分で分かる世界の真実」の動画を再生し、あっという間に子供に追い越され遠ざかる。これは現代の親の立場では共感する部分だ。

    太宰が書いた時代の女生徒と、九段さんが書いたSchoolgirlとでは、同年齢の女の子たちでも、およそ100年違えば相当に異なった状況にある。思考のスピードの違いを「女生徒」の読点の多さという表記に重ねて考察しているところもおもしろい。

    また、娘は、母親を小説に思考を侵されたかわいそうな人という一方で、母の蔵書のラインナップを探索することで、自分が生まれるまえの母という人を探る、そして見つけた「女生徒」。母を思う(いいも悪いも)気持ちは時代を超えても変わらない。



    ※特に印象的だった部分

    「私とあなたではたぶん、前提の共有ができてないだけだと思う。あなたにとっては本当の反対は嘘で、夢の対義語が現実なんでしょ?フィクションの反対はノンフィクションで、良いの反対は悪い?…でも私の脳の言語野ではそんなきれいに言葉の意味ってわけられていないのよ。…」

    「戦争に勝利すれば何かいいことがある」のような大きな「大説」は今はほとんど相手にされていないにしても、少なくとも太宰治が残したような「小説」は私もあなたも共有している。




    「悪い音楽」
    感情がうすい音楽教師、三井ソナタ。音楽の抜群の才能がある。生徒が怪我する場面、父(世界を飛び回る音楽家)が音楽教師などだめだと意見する場面、「横田かのん(情熱的だが、音楽の才能は皆無)」が訴えかけてくる場面…など深刻な場面で、ほぼ感情が動かないどころか笑えてきたり、別のことをかんがえたりしている。真剣な場面で無意識に微笑んでいたらしく、指摘される。
    彼女自身、感情について考察する場面がある。芸術家たちがが感情のバリエーションを創り出し、それらを吸収しているだけではないのか?と。「表情なんてものは、ただの顔を組織している筋肉の動きじゃないか」。と、考えたその夜、表情筋トレーニング講座に申込をしている。生徒たちの合唱よりも、合唱祭にかける自らの音楽とその完成度からも、全く教師には向いていない。最後は横田に担任先生としての立場を奪われる。

    三井ソナタと横田かのんは対照的な人物像で、おもしろい。二人ともバランスが著しく悪い。一方は音楽の天賦の才能を持つが感情が薄く、もう一方は大変情熱家で自らが中1にもかかわらず、生徒を率いる力があるが音楽の才能はない。

    感情がうすくて客観的すぎるものの見方のせいで、笑える箇所が何ヶ所かあり、最初から最後まで一気に読めた。

  • わーお。この作者の文章好きだなー。
    作者の感性がドバドバドバーっと私の中に入ってくる感覚。(こんな素晴らしい文章を読んだ後の自分の語彙力に泣けますが。)

    School girlを読んで、あーもうちょっとこの世界観読んでたかったーと思っていたら、悪い音楽が超えてきた。おもしろかったー。三井先生やばいけど、きっと天才。でも生徒だったら凡人の私は大嫌いだっただろうなー。うちの音楽の先生やばいよね。って言ってただろうな。

    次作が出たら読みたい作家さん。

  • 感情が露わになっているようないないような。なんともいえない文章が、グッと入ってくるようなこないような。好きなような、嫌いなような。
    歪な親子関係や理解し難い教師が、最後には一件落着とはならないことが、いいような悪いような。
    とにかくもやもやする作品でした。

  • 表題作は芥川賞候補とのこと。

    あ、おもしろい。

    ざっくりとしたイメージとして、直木賞=エンターテイメント、芥川賞=文学的、という印象を持ってしまっていて、どうしてもまず読むならとっつきやすい直木賞からみたいなところがあるのだけれど、芥川賞系な本作は意外なほど読みやすかった。

    とはいえ、Aの立場の汚点を挙げ、その後Bの立場の汚点を挙げ、明確な結論は読者任せ的なところは”ぽい”と言えば”ぽい”。

    それでも、SNSがどうとか、YouTubeがどうとかの文脈の中、現代的な葛藤をシュールに皮肉的に描いていく物語はとてもおもしろい。
    個人的には表題作も良いけれど、『悪い音楽』の世間と適用しようと空回りする、絶妙な具合で極悪とは思えないサイコ音楽教師がたまらなく好き。

    今後の期待を込めて敢えての星4つ(実測4.5)。

  • 文學界の新人作品 太宰治『女生徒』を今日的に再解釈 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/716805

    Schoolgirl 文學界12月号 | ちょい読み - 本の話
    https://books.bunshun.jp/articles/-/6714

    【インタビュー動画付き】九段理江『Schoolgirl』 | COTOGOTOBOOKS
    https://cotogotobooks.stores.jp/items/61d54c42113ce022a0a61758

    西山寛紀 |【東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)】Tokyo Illustrators Society
    https://tis-home.com/hiroki-nishiyama/

    『Schoolgirl』九段理江 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163915081

  • 令和版『女生徒』と言われる『Schoolgirl』

    なるほど、太宰ファンなら、ん?ってなる、まんま『女生徒』の本文がはじめのほうに出てきたりもしてわかると思うんですが、『Schoolgirl』は太宰治の『女生徒』を下敷きにして描かれているオマージュ作品、とでも言うのでしょうか。

    テーマは「母と娘」
    語り口は母。タワマンで良い暮らしをしてる専業主婦。
    しかし、母親にぶたれたりしながら育ったトラウマ持ちで、自分はそうなるまいと努力しているお母さんです。

    娘は14歳の反抗期真っ只中。
    グレタ・トゥーンベリの影響をもろ被りしたような意識高い系の中二病で、環境問題なんかに夢中なYouTuber。

    母親はダメな大人としてけちょんけちょんに言われ放題。
    娘のYouTubeを観ることでしか、娘の胸の内をうかがえないような関係性の中で、ある日、娘がYouTubeで太宰の『女生徒』について語り出す。

    お母さんのクローゼットから見つけた『女生徒』を、普段、小説を毛嫌いしている娘が読んだところから、2人の関係性が動き出していく。

    お母さんっていうのはどうしたって特別な存在な訳で、自分の半身を理解として得たい欲求がどうしたって拭えない。
    小説を通して母に歩み寄り、心を通わせていく。そこからほのかに灯る光がとても良い。

    世の中の大きな説ばかりに耳を傾け声を乗せるばかりの娘が、意味のないとしか思えない小説を読み、そこから感じ取ったもの、それによって動き出したもの、そしてこのラストを迎えての、読後、自分の中でも小さな説が続いていくこの感じ。たまらなく好きです。

    この令和に再び現れた女生徒が、わかり合えない母と娘の手を取り合って、うふふと微笑みを浮かべているようで、思わず私も微笑んでしまう。

    ふたたびお目にかかれて嬉しいです。

  • 「School girl」では、14歳の娘をもつお母さんの想いと映像で語っているyoutuberの娘の想いを交差しながら読むことが不思議な感覚でした。
    さらにそこに太宰治「女生徒」の話しが出てきて、時間軸的にも面白く描かれていました。
    まだ「女生徒」読んだことないので、読んでからまたこの本を読み返してみたいです。何かまだトリッキーな仕込みがありそうです。

    そしてもう一つの「悪い音楽」ですが、癖があり、新しい視点であり、そしてつい笑ってしまう場面あり、音楽で例えるとロック?いやカートコバーンやビリーコーガンを思わせるオルタネイティブ的な気持ちを感じました。
    わたしも心当たりがあるのですが、笑ってはいけない状況で笑う場面が所々にあり、失笑恐怖症なのか映画の「ジョーカー」を思い出し、不謹慎さの状況の中自分だったらどう感じたか、ここがポイントだったのかなと感じます。
    この本を読む人によっては批判はあると思いますが、わたしは好みでした。
    二世のイメージ、教員のイメージ、世の中ステレオタイプだらけの中でも、気にせず生きていく本物の素直さが目に沁みます。

    どちらのお話しもストーリー重視で攻めず、人間の癖で攻める九段理江さんの本は、また読むのが楽しみです。

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