NSA 上 (ハヤカワ文庫SF)

  • 早川書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150123529

作品紹介・あらすじ

携帯電話とインターネットが発展したナチスドイツ。第二次大戦が始まり、国家保安局NSAはデータをすべて監視していたが……!

感想・レビュー・書評

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  • 歴史改変SFの大作。

    舞台は第二次大戦中のドイツ・ワイマールにあるマイナーな国家機関、国家保安局(NSA)。19世紀にチャールズ・バベッジ卿がコンピューターの原型となる解析機関を発明して以来、世界は(現実世界より100年早く)情報化社会に突入していた。第二次大戦時には、ワールドネット(インターネット)が発達し、ヴォテル(携帯電話)が広く普及、電子マネーへの強制移行も済んでいた。そしてNSAは密かに、国内で生成されるすべてのデータにアクセスし、電子書簡(Eメール)を覗き見、銀行口座の預金残高を照会し、携帯電話の位置を探知し、テレビやラジオの視聴を把握して、ナチス政権のために不穏分子や隠れユダヤ人の摘発、都合のよい世論形成に一役買っていた。

    物語は、NSAに勤務する優秀なアナリストのオイゲン・レトケと、同じく優秀なプログラムニッター(プロブラマー)のヘレーネ・ボーデンカンプの二人を軸に展開する。

    レトケは、優秀だかプライドが高く執念深い質。おまけに他人の家に不法侵入して秘密を知る喜びを覚えてしまった変質癖のある危険人物。子供の頃辱しめを受けた男女8人のグループに恨みを抱き続け、メンバーを探しだしては順次復讐を果たしてきた。NSA就職後も、データを不正利用してこの女子達を探しだし弱味を握っては、性的に復讐することを生き甲斐としているヤバいヤツ。

    ヘレーネは、頭脳明晰だが女性としての魅力に乏しく、恋愛や幸せな家庭を諦め、NSAでの仕事を生き甲斐にしている薄幸の女。だがある日、かつて学生時代に一度会って惹かれたことのある男(アルトゥール)が脱走兵として突然目の前に現れると、忽ち恋に落ち、リスクを冒して男を匿ってしまう。

    熱病に罹ったかようなナチス・ドイツの異様な高揚、ユダヤ人迫害、思想統制…。これらが、情報化社会、監視社会という現代的シチュエーションの中で違和感なく進行していく。ナチス独裁と情報監視社会の相性抜群。まるで現代社会を舞台としたサスペンスドラマを見ているようだ。

    本作、下巻でどのような結末に向かうのだろうか?

    なお、大学生アルトゥールが<スペキュレーティブ・ヒストリー>(「特定の歴史上の出来事を、もしそれが起こらなかったらどうなったかをつまびらかにす」る学問)を研究していて、「もし、チャールズ・バベッジ卿が解析機関をつくらなかったら、どうなっていただろう?」というテーマに取り組んでいる、というのもなかなか面白かった。もちろんアルトゥールは、あり得た未来として現実の歴史を予測している(現実とフィクションの逆転!)。

  • 『ディファレンス・エンジン』の続きっぽい雰囲気
    端末からの検索で『日記』・『白バラ』が消されて行くところが恐ろしい
    果たして後半の展開は?
    散々語られた良識ある人々がヒトラーを指示する姿がウクライナ侵攻を指示するロシア国民にダブる
    この技術が既に実現していると思うとgoogleが邪悪にならないことを切に祈るだけでは駄目なのか

  • もしも第2次世界大戦中にコンピューターとインターネットと携帯電話があったら、もしもナチスがそれを使って国民の監視をしていたらという、もしも系のSF。しかし、同時に現代社会の風刺にもなっているのが面白いところでもある。
    上下巻で1000ページくらいある長い小説だけど、面白いからすぐに読み終えてしまう。

  • 端的に言えば、ホロコーストの物語。
    SF的な仮定をプロットに組み込んだとしても、物語の構造の大枠は、ホロコーストを扱った一般小説とさして変わらない、そういう意味では、SFらしい飛躍を期待していた私には、少々物足りない作品でした。
    ただ、ネットワーク環境だけが現代風という、ある意味大変バカバカしい設定が、逆に現代の監視社会を想起させ、いっそ没入しやすい...、のかもしれません。いや、わかりません。
    この方、意外とエンタメ系の作家っぽい匂いがします。
    重いテーマを扱っているのでそれなりに構えて読むのだけれど、人物描写が全体として軽薄で浅く、真面目に読み込んでいるとバカバカしくなってくる...、ちょっと困った作品でした。

  • 国家保安局は、国家の危険を未然に防ぐためコンピュータ網のデータ流を監視する機関である。
    第二次世界大戦下のドイツで携帯電話とインターネットが発展している設定の改変歴史物語。
    へレーヌ・ボーデンガンプとオイゲン・レトケの二人が主人公。二人とも国家保安局(NSA)で働いているいる。ヘレーネはプログラムニッターとして、レトケはアナリストして働いてるが、やがてそれぞれの立場を乱用しだす。ヘレーネの愛のために、レトケの復讐のために…

  • ナチスドイツの時代に、コンピュータ技術が発達していてネットワークと携帯電話とキャッシュレス決済をナチが握っていて、SNS/BBSでの情報操作やハッキングまでやってたとしたら… という小説。形の上では。
    それはもちろん、現代社会においてそれらの情報を使って国民を管理してる奴がいるんじゃないか、それに対してお前はどうするんだ、という警告でもあるんだろう。映画「スノーデン」で語られていた内容も思い出す。

    でもまあ、そんなことは横においといて、純粋に娯楽小説としてめちゃくちゃ面白い。
    スピード感もあって、長いけどダレない。読み出したら止まらない。
    上下巻一気読み。
    傑作だ。

  • 誰かがそわそわと神経質になったときは、黙るのが得策だ。そうすれば相手はたいてい勝手につづきをしゃべらずにはいられない。


    人が屈服してしかるべき唯一の法律は、自然の法則だ。自然は残酷な女神である。なぜなら自然は強者のみに生きる権利を与え、弱者を相手にしないからだ。強さは強者の自己証明であり、自己正当化だ。なぜなら自分が渇望するものを手に入れ、世界に自分の意志を強要できる者が強者だからだ。それは高貴な残酷さであり、同時に非常に明白なので、基本的にそれについて論議する必要がまったくないほどだ。論争とは弱者の陽動作戦にすぎやい。弱者は、強者が真実を知ることを望まないのだ。その真実とは、自然は強者が生き残り、弱者が死ぬのを望んでいること、つまり世界は強者のものであるということだ。


    「平和のためには二者が必要だが、戦争をするには片方だけでいい。」

  • 感想は下巻に

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