分断の克服 1989-1990 ――統一をめぐる西ドイツ外交の挑戦 (中公選書 128)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121101297

作品紹介・あらすじ

一九八九年に「ベルリンの壁」が崩壊し、ドイツ統一への機運が高まる。だがソ連のゴルバチョフは統一に反対。英仏やポーランドも大国ドイツの復活を危惧し、米国のブッシュは冷戦の勝利とNATOの維持拡大を優先する。冷戦後の国際秩序について各国の思惑が交錯する中、「ヨーロッパの分断」を克服する外交を展開したのが、西ドイツ外相ゲンシャーだった。本書はドイツ統一をめぐる激動の国際政治を、最新の史料を駆使し描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 東西冷戦終結の契機と象徴となったベルリンの壁崩壊とドイツ統一。西ドイツのコール首相やソ連のゴルバチョフ書記長を軸にドイツ統一への軌跡が語られることが多いなか、本書は最新史料を駆使して西ドイツ外相だったハンス・ゲンシャーの視点を中心に東西ドイツの統一過程を辿った内容である。

    彼の外交手腕と構想を丹念に辿ることで、東西に分断されたドイツと同じく東西に分断されたヨーロッパを再統一しようとした壮大な構想を浮き彫りにする。それは現在の欧州秩序と異なるもうひとつのあり得たかもしれないヨーロッパとロシアの姿だった。

    ただ、ゲンシャーが描いた全ヨーロッパ的な安全保障秩序の具体的な輪郭がいまいち掴めない。ゲンシャーは一貫してソ連や東欧に対して協調・緊張緩和を重視し、CSCE(欧州安全保障協力会議)がNATOとワルシャワ条約機構の橋渡し役になり、東西両同盟の性格転換、そして最終的には両同盟に取って代わる全ヨーロッパ的な安全保障秩序が生まれるという冷戦後のビジョンを描き主張し続けていた。しかし、それが果たしてどこまで当時の権力政治のなかで実現可能だったのか分からない。
    冷戦の勝利とNATOの維持拡大を優先した米国のブッシュと、なによりドイツの再統一を優先させた西ドイツのコールの現実主義に押し切られる形で、ゲンシャーが描いた冷戦後の全ヨーロッパ安全保障は潰えた。

    その後の経緯を知る今日からみれば、冷戦後のNATOの東方拡大や東西対立の継続、そして現在のウクライナ戦争まで視野に収めると、ゲンシャーのこれらの冷戦後ビジョンはドイツ再統一のためには役立った。が、そのビジョンに安心と希望を託したゴルバチョフとソ連(ロシア)にとっては結果として国際秩序のなかで東側を「敗者」へと墜とすことになった。言葉は悪いが西側が騙したことになる。もちろんゲンシャーとってそれは「意図せざる結果」なのだけれども。現在のプーチンの逆恨みとウクライナ侵略への屁理屈を生む動機がここで生まれたように思えてならない。

  • ゲンシャーに焦点を当てた考察がとても良かったし、勉強になった

  • 2023/6/25
    ベルリンの壁崩壊と東西ドイツの統一、統一ドイツのNATO加盟とポーランドとの国境の安定化など、今では既定の事実として受け止められていることがなかなか一筋縄では進まなかったことがドイツ外相ゲンシャーを軸に描かれている。
    ドイツ統一のきっかけが特定の政治家や集団が意図・先導したのではなく、東ドイツから西ドイツ出国が認められた(勘違いもあったようだが)事による雪崩現象に端を発していること、そして東ドイツ国民の多数が西ドイツとの一体化を望み、ソ連・東ドイツがそれを力で封じなかったこと、そして統一を不可避の流れと受け止め、短期間で関係各国間で駆け引きがなされたことなどなかなか面白かった。
    意外だったのはソ連側の態度が決して頑なではなく、自国の安全保障の点に留意する以外は統一やNATO加盟に対して決して否定的ではなかった事。
    また生々しい具体的なやり取りについては各国の意思というより各政治家の個人的な思惑や協議、進め方が大きなウエイトを占め、そこには理想論だけでなく選挙対策等を含めた国内外の建前や反対派への懐柔等、いわゆる切った張ったの政治家の世界という印象も受けた。そして正論が必ずしも解決への正解・近道ではない場合があることも。
    読みながらこの半年足らず前の天安門事件がなければこの展開はなかったのだろうな…あの反動によって武力弾圧が回避されたんだろうなと改めて感じた。
    でもいわゆる西側はこの時の平和的・建設的なソ連を仲間としては受け入れず、強硬路線の中国には手を差し伸べた。
    当時の双方の戦力と経済予測を見据えた結果なのだろうが、もしそれが逆だったら今現在の大問題はなかったような…もっと別の悪い状態になっていたかもしれないけれど。

  • 2022I197 319.34/I
    配架書架:C2

  •  ゲンシャー西独外相を中心に統一までの過程を見る。英仏ソは統一への警戒から容認へ。ゲンシャーもコールも、統一と共に欧州統合を推進していたが、「東西融和・和解」を目指したゲンシャーに比べ、コールは西側の勝利という「冷戦の終わらせ方」を志向。ゲンシャーも同調するが、ゲンシャー外交はなおCSCEやNATOの中での統一ドイツという目標達成に貢献した、というのが著者の主張。
     また、ポーランドとのオーデル・ナイセ線という国境画定には、コールが西独右派の主張に配慮する一方で米や仏の介入により問題が国際化。最終的にはコールも妥協し国境条約調印に至る。

  • ベルリンの壁崩壊後、ソ連の反対、英仏の大国ドイツ復活の危惧の中、なぜ統一はできたのか。激動の国際政治を最新の史料から描き出す

  • 日経新聞20221015掲載
    朝日新聞20221022掲載 評者: 犬塚元(法政大学法学部政治学科教授,政治学,イギリス思想史)

  • 東2法経図・6F開架:319.3A/I86b//K

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著者プロフィール

東京大学大学院法学政治学研究科教授。1978 年生まれ、北海道大学大学院法学研究科博士後期課程修了、博士(法学)。国際政治史、ドイツ政治外交史。主要著作:『黒いヨーロッパ──ドイツにおけるキリスト教保守派の「西洋(アーベントラント)」主義、1925~1965 年』(吉田書店、2016 年)、『分断の克服1989–1990 ──統一をめぐる西ドイツ外交の挑戦』(中公選書、2022 年)ほか。

「2024年 『民主主義は甦るのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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