- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103259268
作品紹介・あらすじ
私は「男たちの夢」より自分の夢を叶えたかった、「書く」という夢を――。女は、男たちのように芸術に関わってはいけないのだろうか、芸術を生み出すこともできないのだろうか? 大正から戦後の昭和にかけて、詩人、作家、評論家……さまざまな文学者たちとの激しい恋の果てに、互いに傷つけ合いつつも礼子がついに掴んだものは――。時代に抗いながら創造する女を描き出した新たな代表作の誕生!
感想・レビュー・書評
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物語中盤までネタバレで書いていますので、これから読まれる方はお気をつけください。
愛するものは、死んだのですから、
たしかにそれは、死んだのですから、
もはやどうにも、ならぬのですから、
そのもののために、そのもののために、
中原中也「春日狂想」
明治37年広島県中島本町生まれの野中礼子は女学校へ人力車で通うお嬢様。
『少女画報』に作文を投稿したり、2歳上のお姉さまの寿美子との友情を育んでいます。
礼子の夢は松井須磨子のような女優になること。
礼子の父は脳溢血で亡くなり、母も後を追おうとして首を吊りますが助かります。
寿美子は医者になるという夢をあきらめて九州へお嫁に行くことが決まります。
寿美子に言われます。
「東京に行きなさい。新しい時代の新しい女におなりなさい」。
礼子は教会で知り合った川島悟のつてで東京に行きます。東京では小山内薫への紹介状は何の役にもたたず、大正12年9月1日、関東大震災で、礼子と川島は京都へ逃れ、礼子はマキノ映画製作所の大部屋女優となります。
そこに現れた3歳年下の中学生で詩を書いている水本正太郎と礼子は恋に落ちます。
「初めて好きになった人なのよ」
「あの人の詩が好きなの」
礼子は水本とともに上京し、日活に移ります。
礼子は水本の友人で帝大仏文科に通う片岡武雄と知り合います。
片岡に「僕と暮らさないか」と言われ、礼子はついていってしまいます。
水本が礼子を何度も迎えにやってくる場面では純真な水本が可哀想で涙が出ました。
写真(映画界)は男の世界で後ろ盾のない礼子はやっていけませんでした。
銀座のバーで働き始め、美術評論家の新田三郎に「あなたは確かに物書きの目と顔をしている」といわれます。
礼子は店のお客の子どもを身ごもりますが礼子の出産を喜んでくれたのは水本だけでした。
水本が滋雄と名付けた男の子はすぐに亡くなり礼子のかわりに水本が泣いてくれました。
礼子は文筆活動を始めます。
水本は他の女性と結婚し、第一詩集のみを遺して享年30歳で亡くなります。
戦争が始まります。
「千人針などで兵士の体が守られるものか」と礼子は書き、それも書き直しの指示が出されます。
そして、広島への原爆投下。礼子の本格的な文筆活動、と盛りだくさんの内容ですが、この作品は礼子が本当はたった一人の男性のみを愛していたのに、毒婦とよばれながら激しく生きた女の一生でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
激動の時代を生きたある女性の人生。
女優という仕事に魅了された礼子の苦悩が生々しくも描かれており、平凡な人生を歩みつつある自分としては、何だか羨ましくもあり、幸せでもあるような、複雑な思いで読み終えた。 -
実在の人物をモデルに描かれた小説とは知らずに読み始めた。
大正~昭和の激動の時代を、夢を追いかけながら生きていくというと素敵な感じがするけれど、礼子自体があまり好きになれなかった。
恐らく、恋愛に奔放というか、運命を感じたようなふうで長続きしないところ、「夢」って言いながら結構あっさり手放しちゃうところ(特に前半)などが共感できなかったせいだと思う。 -
<残>
"広島の町に電車が走り始めたのは私が八歳のときだった" 大正時代の広島から物語は始まる。・・・と、今回はいきなり本の中身について書き出してしまった。それはなぜか,と云うと。なんだか最近の窪美澄の作品には『ふがいない僕は空を見た』の頃のなんとも彼女特有の衝撃的なストーリー展開が無くなってしまった様な気がするから。大きな賞を獲った結果,落ち着いた作風の普通の作家にウマク収まろうとしている感じが一瞬だけした。
なので,その収まってしまおうとする作品の内容とはどんなのか、という事を書いてみようと思ったのだった。がしかし,ここまで文字数を使ってしまったので,また別の機会にすればいいか,と思い直す。いやはや本の中身/内容/ストーリーの要約などを書くのは僕はとにかく苦手だ。すまぬ。
だが実は本書は抜群に面白い作品なのだ。窪は 普通の作家の枠にウマク収まろう,としている訳ではなく、実はこういう分野でもこんなに面白い作品が書けるんだ,という挑戦とその成功例だと思う。
あまりにも面白く練られた物語なので、中原中也については何も知らない僕は、これは事実に基づく評伝小説なのではないか,と調べた。そうであった。モデルと云うより主人公 礼子 そのものの人生を歩んだらしい長谷川奉子という女性が実在していた。だがしかし異なるのは長谷川には著書は只一冊『ゆきてかへらぬ—中原中也との愛』が有るらしいが,それは口述によるもので決して作家ではなかったと思しい。しかし窪は本作で礼子を作家として描いており,そこにはもしかすると窪自身の半生が混ざっているのでは,と無責任にも僕は思った。すまぬ。 -
実在する人物名がでてくるわけではないのだが、どうやら中原中也、小林秀雄と恋愛の三角関係にあった長谷川泰子という女性がモチーフになっているよう。
彼らに「男の夢」として読まれるよりも、自らが「書く女」となって最後まで自立を目指す野中礼子の姿が美しい。
中原中也は『汚れつちまつた悲しみに』しか知らなくて、なんだかクールで淡々とした少年のようなイメージを抱いていたので、作中で描かれる人物とのギャップに驚いた。いろいろ読んでみよう。 -
大正から昭和にかけて生きた女性の生涯。登場人物はそれぞれモデルがいるのかなと思いながら読み進めた。読了後にモデルとなったらしい著名人の名前を調べてふむふむ…と合点したり。
自立した女性。挫折もあったけど晩年にかけて熱中できる何かがある人は幸せだなーと思った。 -
明治大正昭和を生きた女性のお話。
この時代の女性がここまで強い意志を持って生きたことは
きっと現代の私たちが想像する以上。
広島の原爆ドームが陳列物産館だった頃の話は貴重だった。
中原中也のイメージがガラッと変わった。笑
”髪を編んだり装飾具を身につけたり着飾ったりしてうわべだけの人になるのではなく、思いやりのある柔和で平穏な人になりなさい”
”じっと待つんよ。気が熟すのをじっと待つんよ”
”生きているうちは生きたいように生きれば、ただそれだけでいいのさ” -
きっとモデルがいるんだろうと思いつつも、最後まで読み終わってから、ああそうか、と気づく程度の文学的知識しかなく…。でも女性の一代記としてはとてもおもしろく読めました。礼子は、結局自分を捨てたり、曲げたりはしていなかった。こんな生き方もあるんだな。
2023/4/20読了