思い出せない脳 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065315132

作品紹介・あらすじ

頭の中には「ある」のに、なぜ出てこない?
最新脳科学が明かす「記憶のミステリー」

「記憶を食べる」脳細胞とは? 驚きの記憶研究最前線!

人の名前を思い出せないとき、ふっと思い出せたとき、
脳内ではいったい何が起きているのか。
日常的な「記憶の謎」のメカニズムから、
記憶という能力の本当の意味まで、
最先端の知識を分かりやすく解説する。
記憶とは、未来を決める「人格」であるーー

本書の内容
◎「思い出せない」5パターンで、記憶の全貌が分かる
◎記憶が消えるとき、脳の中で何が消えているのか
◎思い出そうと頑張るほど思い出せない理由
◎日中に学んだことを睡眠中に脳が「復習」している
◎お酒を飲みすぎると記憶を失う仕組み
◎なぜドラマの「記憶喪失」は重要なことだけ忘れる?
◎記憶の「いい加減」さこそが人類を進化させた
◎認知機能を保持できる「認知予備能」とは何か

脳とは、こんなにも自由奔放だったのか!

感想・レビュー・書評

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  • 脳と記憶のメカニズムを分かりやすく説明した本。
    思い出せないときに脳の中で起こっていることのパターン別に、記憶力向上のポイントも示されているのがありがたい。
    ①神経細胞を減らさないように、健康的な生活習慣を身につける。
    (過度な飲酒をしたり、ストレスを溜めすぎたりしないように)
    ②好奇心を持ち、心を動かしながら日々を過ごす。
    (覚えたいことに意識的に注意を向ける)
    ③質の良い睡眠をとる。
    (睡眠の深さ、ステージごとに整理される記憶の種類が違う)
    ④どうしても思い出せないときは、思い出すのをやめてみる。
    (脳の抑制を解くために、普段とは違う豊かな刺激を)
    ⑤どうしても忘れたくない記憶は、定期的に思い出す。

  • 脳科学の話が好きでいろいろ読んできました。
    でも澤田誠先生の本は初めて。
    それもそのはず、一般向けの記憶や脳の解説書としては
    10年ぶりで2作目の著作だそうです。
    とっても面白かったです!
    初めて知ったこと3つだけ記録しておきます。

    「名前だけ思い出せないのはなぜか」
    それが「意味記憶」だから。
    それに対する「エピソード記憶」であれば、
    情動の動きに関係している。
    その人と話したことや印象は思い出せても、
    名前が「意味記憶」で、
    「意味記憶」は生存に必須でない記憶だから、
    情動が動かず、脳にとって思い出しにくい。

    「睡眠中の脳の活動」
    大脳辺縁系は寝ているとき活動が10~20%上がり
    視覚連合野はレム睡眠中5~10%アップ
    前頭前野は25%下がります。
    夢に生き生きとした視覚イメージが伴うのは、
    視覚連合野が活動しているためでしょう。
    情動が伴うのは大脳辺縁系の活動の影響でしょう。
    また、支離滅裂で論理的におかしい内容が多いのは
    思考を担う前頭前野が休んでいるためです。
    「夢というのは、先生(前頭前野)の監視がない夜の時間に
    神経細胞たちがわいわい騒いでいる姿だと思うと
    何だか面白くなってきませんか?」と澤田先生。

    「思い出そうとするほど、思い出せなくなるのはなぜか」
    〈興奮性神経細胞の周りには抑制性神経細胞がいます。
    これらの抑制性の神経細胞は、
    活性化した神経細胞によって活性化します。
    活性化した抑制性神経細胞は、
    抑制性の神経伝達物質を放出し、
    最初に活性化した細胞も含めて、
    周りの細胞を抑制します〉
    わかりにくかったら、この本を読んでみてください。

    とりあえず私たちにできることは
    生活習慣を改めて、睡眠を十分にとること。
    マルチタスクをやめること。
    何かに注意を向けること。
    (変化に気づくことは情動を刺激して活性化することにつながる)

    ちなみに澤田先生はお酒好きとのことですが
    過度の飲酒習慣の継続は確実に脳に悪影響を及ぼすとおっしゃっています。
    ほどほどができない私は断酒実行中です(もうすぐ二年になる)。
    酒やめてから、悪夢が激減した気がします。

  • タイトルがいい。歳をとると、まず名前(名詞)が出なくなり、次に動作を表現する言葉(動詞)が出にくくなったり、挙句の果てには表現力(形容詞)が衰える、という話は聞いたことがある。
    老夫婦の会話で、アレ誰だっけから始まり、ああだったよなぁが続き、あれなんだよなぁ、で終わる禅問答みたいな笑い話があるが、実際に経験し出すと自虐的になる。
    本書は、そんな脳のカラクリについて、専門用語にも触れながら、最初から最後まで、平易に理解が浸透するような語り口で説明されていく。そもそも、思い出せないとは、どういうことか、5つの要因に分解して、それぞれについて章立てして解説されている。なぜ思い出せないかは、
     ①そもそも記憶を作ることができなかった
     ②情動が動かず、重要とみなされなかった
     ③睡眠不足で記憶が整理されなかった
     ④抑制が働いて記憶を引き出せなかった
     ⑤長い間使われなかったため、記憶が劣化した
    このうち、③と④は新しい知見として興味深かった。起きているときより、寝ているときの方が活発化する脳の部位(視覚連合野や大脳辺縁系)があり、生々しい映像として夢を見る謎の一端が明かされている。また、一生懸命に思い出そうとするほど思い出せず、何かの拍子にふっと思い出す現象として抑制性神経細胞の働きがあり、お酒を飲み過ぎたときの記憶がない、という現象も説明されている。まだまだ謎だらけの脳だが、自由意思はあるか、という哲学的な探究が続けられていて、その実験結果には驚かされる。それは手首を動かすという動作を、本人の意思で始めようとする前に、脳内ではその準備のための活動が始まっていることである。脳は身体の部位なのに、実は意思そのものがあるかのように不可思議な結果が後をひく。

  • 名前が思い出せない!と困ったことは何度も。もう痴ほう症の始まりかな と心配になるが、小さな脳梗塞は健康な40代で3割、60代では7割の人に見られると言う。そして当然血流が悪いと、脳に必要な栄養と酸素が十分に行かず、記憶力に影響を及ぼす。

    記憶に関する脳のメカニズムを優しく説明し、ではどうすれば と言う指針も示してくれるのはありがたい。
    ちなみに、いわゆる脳トレは、脳のパフォーマンス向上には役立たない。(読書は良いそうだ)

    メモ
    1、記憶を維持するには、神経細胞をなるべく減らさず健康な血流を保つこと。頭を打ったり、過度な飲酒をしたり、ストレスを溜めすぎたりしない。
    2、忘れにくくするには、覚えたいことに意識的に注意を向けること(無意識に覚えたものはすぐに忘れる)。また心を動かして体験すること。脳の苦手な意味記憶を覚えるときも、丸暗記をするのではなく、なぜそうなるのかという仕組みや理由を知って納得したうえで覚えると、心が動くので記憶に残りやすい。理性と情動の両方が協力しあった方が脳は力を発揮できる。
    3、睡眠中に長期記憶が作られる。海馬から大脳新皮質へ情報を移動させるときに、大事な情報を取捨選択や整理が行われる。
    睡眠には深さによってステージがあり、そのステージごとに整理される記憶の種類が違う。意味記憶が関係する学習に重要なのは、最も深い睡眠ステージ3と4。楽器演奏やスポーツなどの手続き記憶の学習効率の増大に必要なのは、浅い睡眠しかも朝の目覚めの前の最後のステージ2。眠りは脳と記憶には重要。
    4、抑制性の神経細胞の働きが思い出せないメカニズムに関与している。思い出そうと頑張れば頑張るほど、本当の答えは抑制されて、ますます思い出せなくなる。脳が本来の機能を果たすには、自由奔放に活動する神経をコントロールする必要がある。そのためには抑制というメカニズムは欠かせないが、ときには抑制を解くことも重要。
    気分転換は脳の抑制を解く行為だが、良いアイデアが出やすい。
    ぼんやりしたり、自然の中を歩いたり、映画を見たり、小説を読んだりなど、身体や五感や想像力を刺激する気分転換がおすすめ。思い出せないものを思い出そうと頑張ってみても、脳が鍛えられるわけではない。
    脳を健康に保ち、覚えたいことに注意を向けて情動を動かし、覚えにくい意味記憶はエピソード記憶に変換し、さらに定期的に思い出すと記憶に残る。また答えを知ったときに「そうだったのか」と情動が動けば、より強く記憶に残る。思い出した後に、さらに紐づけを増やしてから記憶すると、次は忘れにくい。その記憶が意味記憶だったとしたら、エピソード記憶に変換すると良い。
    5、使われないシナプスが消去されて記憶が劣化する。使われない記憶が劣化していくことは、生きるために必要なプロセス。それに抗いたいのならば、努力や工夫をするしかなく、忘れたくない記憶は定期的に思い出す等する。
    思い出すことで記憶は変容し、生存により有利なものとなっていく。複雑な脳の働きをコントロールするのは難しそうだが、脳に与える刺激をコントロールすることは可能。

  • 脳の記憶について。

    思い出せないことが必ずしも悪いことではなく、人類の進化にとって必要な過程であることがわかった。
    また記憶と脳の働きについて様々なことを知ることができた。

  • "顔は浮かんでるのに名前が出てこない"なんて事が起こるのって、そもそも脳とか記憶ってどういう構造なんだろう?とか常々思っていた中で、このタイトルが刺さった。

    物忘れ等の現象は、我々の脳が人類何百万年ものサバンナでの生存競争を生き抜く上での必要に応じて構築されて来た脳の機能、仕組みに、その原因があるとの説明は非常に分かり易く納得度も高く、これ迄の疑問の答えも多く得られた気がする。

    自分なりに理解したのは
    ・人類の何百万年もの生存戦略の中で、脳の機能はその必要に応じて対応、進化してきた
    ・目や耳等感覚器官から入って来る情報を、重要度に応じて取捨選択して記憶し、低いものは忘れる様にする必要があった(獣に遭遇した時に取るべき対応を瞬時に判断するのに役立たずの情報は邪魔)
    ・記憶は関連するものまとめてどこか1箇所に保管されているのではなく、細分化されたものが神経細胞のネットワークとして保管されている(ネットワークが繋がって思い出す)
    ・そのネットワークは繰り返し繋がる事で記憶として強化される
    ・記憶にも色々な種類があり(80分から長くて2,3日の短期記憶と長期記憶。名前や年号等の意味記憶と、経験や体験に基づくエピソード記憶、等)、それらを持つ脳の部位(海馬とか大脳新皮質とか)も異なる。
    ・その為、記憶喪失(短期記憶を担う海馬を損傷し、記憶が作られない記憶喪失状態)であっても、手続き記憶(繰り返して身体が覚えている状態)を担う大脳基底核という部位が問題なければ、字が書ける、言葉も話せる、食事も出来る、という事になる
    ・名前は「意味記憶」であり、その人がどんな人か、危険かそうでないか等の「エピソード記憶」より(サバンナを生き抜く上での)重要度が低い為に思い出し難い

    などなど、書ききれない程の多くの学びがある。
    何度も読み返して、整理して、理解を深める事でまさに記憶に留めたい内容。

  • 「あれっ、思い出せない!」が増えている。「思い出せない」には5パターンあるとの本書の内容説明。記憶定着には反復するくらいしか思い浮かばない現状を変えるために読みたい

    #思い出せない脳
    #澤田誠
    23/5/18出版

    #読書好きな人と繋がりたい
    #読書
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    #読みたい本

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  • ●マインドセット。私たちは、それぞれ脳の中に外界を解釈するための、記憶をもとに作られた自分だけの世界を持っている。そしてそれを形成する基礎になるものが記憶なのです。
    ●歳をとって、衰えるのは新しいことを覚える力ではなく、引き出す力だと言う研究結果があります。
    ●海馬を大きく損傷すると、過去の記憶にもアクセスできなくなります。しかし、手続き記憶の再生には、海馬が関わっていないため、文字を書いたりご飯を食べたりすることができます。
    ●神経細胞が加齢で死ぬ主な原因は血液不足。
    ●後で取り出して、生存戦略に役立てるためには、生存のために必要な情報を選択し、重要と言う目印をつけておく必要があります。この選別基準となるのが「情動」です。情動は、感情の1種で、身体反応を伴います。
    ●名前だけが思い出せない理由、太古の昔の人類にはあまり重要では無かったから。

  • 脳の機能を記憶面からアプローチした興味深い内容。思い出せない理由や記憶の仕組みなど勉強する観点からも多くの気付きを得られました。やはり睡眠が大事と言うのは変わりませんね。記憶の秘密の一端を覗くことができて、脳の機能の神秘を感じました。

  • 一読目にきつい内容だと思って放っていましたが、図書館の期限が近づき、読まずに返そうと思ってバッグに入れていたところ、病院の待ち時間が意外にあったことから、ふと読み始めたら止まらなくなりました。
    超特急で、とばしながら読みましたが、読む前と読んだ後では、感覚が別物です。
    意識が俯瞰的になったと言う感じ。
    ちなみに、いま図書館でこの本を読み終えましたが、方々で新聞をめくるバサバサした音がしていました。
    今までだったら、イライラしそうなものを、全然気にしていない自分がいて驚きました。
    脳の仕組みを少しは理解した効果なのだろうか?

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著者プロフィール

1958年香川県生まれ。東京工業大学大学院総合理工学研究科博士後期課程生命化学専攻修了。理学博士。専門は神経化学、神経薬理学。米国国立衛生研究所ポストドクトラルフェロー、科学技術振興事業団「さきがけ研究21」研究員、藤田保健衛生大学(現 藤田医科大学)総合医科学研究所教授等を経て、2005年名古屋大学環境医学研究所教授に。2012年同所所長に就任。脳の免疫機能を担うグリア細胞の一種ミクログリアの研究を20年以上にわたり行っている。趣味はテニス、映画鑑賞。出身高校は神奈川県立横浜翠嵐高等学校。

「2023年 『思い出せない脳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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