『生きる力の源に〜がん闘病記の社会学〜』は日本女子大学人間社会学部学術研究員の
門林道子による研究論文だったものをまとめた著書だ。
日本では、がんで亡くなる人は年間約34万人を超え、男性の2人に1人、女性の3人に1人が罹患する病気である。
がん治療後に生きる人は300万人を上まわり、闘病記を書く人も増加しているようだ。
最近“死”についての本が多く出版されているが、
がんは“死”と隣り合わせの病気でもあり、多くの人が当事者、または関係者になるかもしれない
へんな言い方だが身近な病気であり、身近で“死”と隣り合わせの病気だ。
がんになる人は40歳以降が多く、成人前の子どもたちを残して一家の大黒柱を失う働き盛りのがん死は
他人事ではないと痛感するところだ。
数年前、友人の母親ががんになり、母親と非常に仲の良い娘だった友人は
その闘病のときから亡くなるまで、そして亡くなったあとのグリーフケアに非常に長い時間を必要とし、
彼女の心と仕事や生活に影響し、うつ病傾向になっていた時期があった。
ひとり暮らしでバリバリ仕事の出来る女性だったからこそ、しばらくのうつ状態の友人の姿を見るのは忍びなかった。
その後の彼女の生き方にも大きく影響しているように思う。
友人、知人の立場で立ち入れる限界を感じたが、
その当時、彼女が受けていたカウンセリングの方や心療内科などの専門の医療従事されている方々が
グリーフケアという観点で、この著書に書かれていたこと知っていたらどうであっただろうか。
著書の中の〈5つの語りと「死」との関係〉という項では
「死」をどう意識するか、その闘病のどの時期かによって5つの段階に分けられており、
闘病記の語りにその心が反映されている。
その違いによって死のとらえ方もネガティブから、終末期や覚悟を決めた『探求』、『達観』となると
ポジティブになるという変化があるという。
第三者の立場で冷静に積み重ねられた研究は、
がん闘病の本人や、身近な愛する人を失った方の心のメカニズムが朧気ながら見えてくる様に思う。
この著書の中で、私が一番印象に残ったところがあった。
〈「二人称」の死〉というところだ。
ここでは、次男を自死で喪い『犠牲ー我が息子脳死の11日』を著した作家柳田邦男氏の話が紹介されていた。
それによれば死は「一人称の死」「二人称の死」「三人称の死」という3つの死に区別される。
「一人称の死」は「私」の死であり、「三人称の死」は第三者の立場から冷静に見ることができる死を指し。
その死によって人はすぐに生活が一変することはない。
問題は「二人称の死」である。
配偶者や両親、子ども、兄弟姉妹、恋人など身近な他者の死を意味している。
人生を分かち合い、共に生きてきた相手だけに、その多くの場合つらく悲しい試練となる。
その遺族たちが書き手となった闘病記は、出版する時期をみていくと半年から5年後で、
もっとも多いのは患者の死後2年から3年後ということようだ。
そこでは故人を追悼し故人の生きた証を残す“グリーフワーク”が行われており、
愛する人の死別から一定期間が経って、亡くなった人との人生を書き綴ることに肯定的な意味を見出し、
自己の喪失感を癒す行為となる……ということだ。
誰の人生でも、数度は体験するであろう、近親者や大切な愛する人との別れはあるものである。
この大きな出来事は人生の中で時間を掛けて呑み込んでいくことのひとつなのかもしれない。
そして、書くことで愛する故人と自分との関係性を確かめ「出会ったことに感謝」していけるかもしれない。
この著書で、もうひとつ側面で闘病記を残すことで病気の記録ということになる。
それは、今同じような状況で誰かががんと闘っている当事者たちに励ましや支えになり、共感になることだ。
300ページを超す、重量感のある本ではあるが、見た目よりも紙の斤量など工夫されているようで見た目よりは軽い。
内容もさぞ難しいのではないかと思いきや、非常に身近な問題を研究であられた成果を交えながら非常に読みやすかった。
医療従事者、グリーフケアに携わる方々だけに留まらず、患者、家族の声が込められ
ある意味ドキュメンタリーな読み物だったので一読されては如何だろうか。
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生きる力の源に-がん闘病記の社会学 単行本 – 2011/10/14
門林 道子
(著)
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- 本の長さ308ページ
- 言語日本語
- 出版社青海社
- 発売日2011/10/14
- ISBN-10490224957X
- ISBN-13978-4902249576
登録情報
- 出版社 : 青海社; 初版 (2011/10/14)
- 発売日 : 2011/10/14
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 308ページ
- ISBN-10 : 490224957X
- ISBN-13 : 978-4902249576
- Amazon 売れ筋ランキング: - 803,626位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 37,562位医学・薬学・看護学・歯科学
- カスタマーレビュー:
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2013年10月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
評者(私)自身が癌で半年前の手術退院後から多くの関連本を読んだが、医療社会学という分野があり、社会学の角度から記述された本があるとはアマゾンの関連本紹介で出てくるまで知らなかった。
医者・患者・ジャーナリストのほかに哲学、宗教の角度からの本も多数あるが、医学や科学では説明しきれず、哲学や宗教でも捕らえきれない癌=難病という分野では、社会学からの視点と言うのはうってつけで、内容も大変充実している。
また一般読者向けとはいえ、柳田邦男の癌関連の本をさらに突き詰めたような分析的かつ論理的な文章で、読みやすくなっている。ただし学者が書いた本だけにアカデミックな編成で、分量もやや多めなので多少この分野の本を読んでないとすんなり理解できないかもしれない。
この本の中にも記述されているが、闘病記や関連本が1970年代から相当な数が出版されており、私も200冊以上読んだが大半が情緒的、独断的、見え透いた利益誘導で90%以上がなんの役にも立たなかった。
特に、医者の本は矛盾が多く都合の悪いところは、意図的に看過するのが常套手段で、学者の本は、単なる仕事の一環として、つまり飯の種で書いた論文を一般向けに編集しただけのようなものが多く、いくつかをくっつけて全体を無理やり整合させたとしか思えない、要点がつかめないものが多い。
この本は、癌のような難しい病気をどう捕らえるべきかの指針として、罹患した人や関係者は本棚に加えるとよいと思われます。
難点は、本が高価な割りにペーパーバックの安物のつくりで紙の質も悪く、一見すると読み捨ての本かと思えてしまうところですが内容は十分です。
医者・患者・ジャーナリストのほかに哲学、宗教の角度からの本も多数あるが、医学や科学では説明しきれず、哲学や宗教でも捕らえきれない癌=難病という分野では、社会学からの視点と言うのはうってつけで、内容も大変充実している。
また一般読者向けとはいえ、柳田邦男の癌関連の本をさらに突き詰めたような分析的かつ論理的な文章で、読みやすくなっている。ただし学者が書いた本だけにアカデミックな編成で、分量もやや多めなので多少この分野の本を読んでないとすんなり理解できないかもしれない。
この本の中にも記述されているが、闘病記や関連本が1970年代から相当な数が出版されており、私も200冊以上読んだが大半が情緒的、独断的、見え透いた利益誘導で90%以上がなんの役にも立たなかった。
特に、医者の本は矛盾が多く都合の悪いところは、意図的に看過するのが常套手段で、学者の本は、単なる仕事の一環として、つまり飯の種で書いた論文を一般向けに編集しただけのようなものが多く、いくつかをくっつけて全体を無理やり整合させたとしか思えない、要点がつかめないものが多い。
この本は、癌のような難しい病気をどう捕らえるべきかの指針として、罹患した人や関係者は本棚に加えるとよいと思われます。
難点は、本が高価な割りにペーパーバックの安物のつくりで紙の質も悪く、一見すると読み捨ての本かと思えてしまうところですが内容は十分です。
2012年12月12日に日本でレビュー済み
ボリュームが多く、内容も多岐に亘っていましたが、著者の門林先生の文章が読みやすかったためか、すらすら読めました。
闘病記の時代変遷と、それにかける患者・家族・遺族の想い。とても参考になりました。闘病記専門の図書ブースや古本屋さんがあると記載されていましたが、びっくりです。
何のために闘病記をかくのか?
「自分が闘病中に得られなかった情報、同じ立場の患者の存在」「逝った家族の存在・想いを残したい」など、様々あります。
そして、闘病記だからこそ得られる情報が多々あることも解かりました。
家族・遺族の立場で書かれた闘病記から、「家族・遺族が必要としていること」を読み解きたいと思っている方には、良い本です。
・・・て、かっこつけてますが(苦笑)、前回読んだ「ケアの社会学」もそうですが、こういう社会学関係(社会心理学もそうですが)は、私、結構好きなんですね〜
個人的には、オススメの一冊です。
心に残った文をちょっとだけ書き出します。
闘病記専門の古本屋を営んでいる方のコメント「『闘病記を探している人は自分と同じ悩みを持つ人を探している』ことに気づいた」
著者の言葉「…人はまた、他者との関係性や状況のとらえ方において、自らにとっての意味を考え出し、自己を肯定できる新しい経験を見つけ出すこともできる存在である」
闘病記の時代変遷と、それにかける患者・家族・遺族の想い。とても参考になりました。闘病記専門の図書ブースや古本屋さんがあると記載されていましたが、びっくりです。
何のために闘病記をかくのか?
「自分が闘病中に得られなかった情報、同じ立場の患者の存在」「逝った家族の存在・想いを残したい」など、様々あります。
そして、闘病記だからこそ得られる情報が多々あることも解かりました。
家族・遺族の立場で書かれた闘病記から、「家族・遺族が必要としていること」を読み解きたいと思っている方には、良い本です。
・・・て、かっこつけてますが(苦笑)、前回読んだ「ケアの社会学」もそうですが、こういう社会学関係(社会心理学もそうですが)は、私、結構好きなんですね〜
個人的には、オススメの一冊です。
心に残った文をちょっとだけ書き出します。
闘病記専門の古本屋を営んでいる方のコメント「『闘病記を探している人は自分と同じ悩みを持つ人を探している』ことに気づいた」
著者の言葉「…人はまた、他者との関係性や状況のとらえ方において、自らにとっての意味を考え出し、自己を肯定できる新しい経験を見つけ出すこともできる存在である」
2013年3月13日に日本でレビュー済み
世の中には“闘病記”を読む人と、読まない人がいます。読む人の中には、わざわざ“泣ける本を探して読む人”もいますから、読まない人が読む人を「いぶかしく思う」のも当然です。
患者や家族はなぜ、極めて個人的な体験である病棟日誌や、療養エッセイを書くのか。読者はなぜ、赤の他人が病気になった体験を読むのか。それは自分の“生きる力の源に”なるから読むのです。患者は病状の進行について理解できるし、家族は病期ごとに、どう援助したらいいか手掛かりが得られます。
それに、「闘病という言葉は、なぜ“病気と闘う記録”なのか、不治の病と闘えば余計に苦しむだけではないか」と思っている方、この本は必読です。社会学の論文集ですから、国会図書館で“闘病”という言葉が使われるルーツに迫り、答えを見つけています。
ところで、病を科学的に治そうとするのが“医学”です。医学が数多くの病を治せるようになってきたことは確かです。しかし加齢や死には抗いがたく、今なお未知の病は多く、社会的な問題が新たな病を生みだすこともあります。
医療関係者以外が医療の問題を考える価値を、この本は教えてくれます。
患者や家族はなぜ、極めて個人的な体験である病棟日誌や、療養エッセイを書くのか。読者はなぜ、赤の他人が病気になった体験を読むのか。それは自分の“生きる力の源に”なるから読むのです。患者は病状の進行について理解できるし、家族は病期ごとに、どう援助したらいいか手掛かりが得られます。
それに、「闘病という言葉は、なぜ“病気と闘う記録”なのか、不治の病と闘えば余計に苦しむだけではないか」と思っている方、この本は必読です。社会学の論文集ですから、国会図書館で“闘病”という言葉が使われるルーツに迫り、答えを見つけています。
ところで、病を科学的に治そうとするのが“医学”です。医学が数多くの病を治せるようになってきたことは確かです。しかし加齢や死には抗いがたく、今なお未知の病は多く、社会的な問題が新たな病を生みだすこともあります。
医療関係者以外が医療の問題を考える価値を、この本は教えてくれます。