ヨーロッパ思想に対するキリスト教の影響をこれほど具体的に描いた本を知らない。十八世紀半ば、西欧諸国に「園芸協会」なる任意団体が無数に設立され、時に園芸技術こそがレッセフェールにとって理想の統治技術と言われたことは知っていた。その会員には地球を経巡る各国の東・西インド会社社員や宣教師などがあって、発見した植物や農業についての知識は全ヨーロッパで共有されていた。
本書に特異なのは「園芸協会」がその後の動植物の検疫につながり、それがどのような大失敗に至ったかを詳述している点である。応用生物学が、どのように地球生態系を破壊したか、を。
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招かれた天敵――生物多様性が生んだ夢と罠 単行本 – 2023/3/14
千葉聡
(著)
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『歌うカタツムリ』(毎日出版文化賞)などの著作で筆力に定評ある進化生物学者が、強力な「天敵」としての外来生物の研究史を通して、計り知れない複雑さをはらむ「自然」と、そこに介入せずには済まない人間と科学の業を描く。
外来の天敵種は有害生物を制圧する救世主となりうる一方で、ときに最強の侵入者にもなりうる。それでも、生物多様性が秘める可能性に魅了された多くの生物研究者たちが、自ら「夢の」天敵種と信じる外来生物を招いてきた。本書が語るのは、そうした天敵導入をめぐる知的冒険、成功、そして、壊滅的な失敗の歴史だ。
またその歴史は、産業革命の時代からグローバリゼーションの時代まで、時々の社会が奉じてきた自然観の驚くべき変転を映しだす鏡でもある。著者は、長く信じられてきた「自然のバランス」の実像や、生態系メカニズムの今日的な理解へと、読者を慎重に導いていく。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』に敬意を払いつつ、その自然観をアップデートする書でもある。
終盤では、著者自身が小笠原の父島で経験した、ある天敵との死闘が語られる。生物多様性の魅惑と生態学の醍醐味が詰まった、渾身の書き下ろし。
新聞各紙書評で続々紹介
どうして本書のカバージャケットの真ん中にはベダリアテントウのイラストが大きく描かれているのか。
450ページもある本書をめずらしくイッキ読みしてその意味がようやくわかった。この本はすごい。
…本書は実は途方もない本なので、書名に惑わされることなく、多くの一般読者に届いてほしい。
――三中信宏氏・日本経済新聞書評より
本書はいわゆる「害虫」に対する防除の歴史を、社会の流れや思想的背景を含めて、そこに関わった研究者たちの評伝を通して、丹念に描いたものである。
中心の主題は天敵を利用する生物的防除であるが、著者が繰り返し述べるように、防除は生物的防除の一本槍で済むものではない。
…話は「ああすれば、こうなる」という具合に単線的、一直線には進行しない。
…近代社会は単線的な論理構造で処理できることは、おおむね処理してしまったのではないか。
それでは処理できないことが「問題」として浮上している。
人の社会なら戦争、自然が対象なら環境問題。
――養老孟司氏・毎日新聞書評より
目次
はじめに
第一章 救世主と悪魔
夢の薬 / 自然のバランスを取り戻せ / 夢の天敵 / 赤い寄生蜂
第二章 バックランド氏の夢
外来生物 / 世界を支配するものは何か / 創造主の慈悲と夢の食材 / 豚か仔牛のようで、キジのような風味がある / 素晴らしい未来のために善を為せ
第三章 ワイルド・ガーデン
帝国の恵み / グレイヴタイ・マナーの領主 / 自然な庭園 / 赤い雑草 / 侵略の生態学
第四章 夢よふたたび
金の時計とダイヤモンドのイヤリング / 不毛な大地 / これを「自然のバランス」と呼ぶ / あれこれ考えるより、まず行動
第五章 棘のある果実
ブリスベンでの出会い / 赤い染料 / サボテン旅行委員会 / 謎の蛾 / 最初の一撃 / 赤い大群
第六章 サトウキビ畑で捕まえて
旅する昆虫学者 / 葉の上を跳ぶもの / 少しでも多く獲れ / グレイバックの災い / 海を渡ったカエルたち
第七章 ワシントンの桜
旅の始まり / 異国の旅 / 悲しい成功 / 友好の証 / 退く天敵 / 高まる敵意 / 危機を未然に防ぐとヒーローになれない / 大義の前に情を捨て
第八章 自然のバランス
分類学なくして防除なし / 密度依存 / 動物集団のバランス / 自然のバランス論争 / 自然はたいてい複雑である
第九章 意図せざる結果
理論か実用か / 光と陰 / 諸刃の剣 / 反自然的行為はもうやめなければならない / パラダイムシフト / 天敵には天敵を / 前車の覆るは後車の戒め
第一〇章 薔薇色の天敵
カタツムリの悪夢 / 戦いの始まり / 病気より悪い治療法 / 薔薇色の狼 / 楽園の行方
第一一章 見えない天敵
群島にて / 賑やかな夜 / 見えない捕食者 / 防除の行方 / もうひとつの道 / 封印の解き方
謝辞
参考文献
索引
外来の天敵種は有害生物を制圧する救世主となりうる一方で、ときに最強の侵入者にもなりうる。それでも、生物多様性が秘める可能性に魅了された多くの生物研究者たちが、自ら「夢の」天敵種と信じる外来生物を招いてきた。本書が語るのは、そうした天敵導入をめぐる知的冒険、成功、そして、壊滅的な失敗の歴史だ。
またその歴史は、産業革命の時代からグローバリゼーションの時代まで、時々の社会が奉じてきた自然観の驚くべき変転を映しだす鏡でもある。著者は、長く信じられてきた「自然のバランス」の実像や、生態系メカニズムの今日的な理解へと、読者を慎重に導いていく。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』に敬意を払いつつ、その自然観をアップデートする書でもある。
終盤では、著者自身が小笠原の父島で経験した、ある天敵との死闘が語られる。生物多様性の魅惑と生態学の醍醐味が詰まった、渾身の書き下ろし。
新聞各紙書評で続々紹介
どうして本書のカバージャケットの真ん中にはベダリアテントウのイラストが大きく描かれているのか。
450ページもある本書をめずらしくイッキ読みしてその意味がようやくわかった。この本はすごい。
…本書は実は途方もない本なので、書名に惑わされることなく、多くの一般読者に届いてほしい。
――三中信宏氏・日本経済新聞書評より
本書はいわゆる「害虫」に対する防除の歴史を、社会の流れや思想的背景を含めて、そこに関わった研究者たちの評伝を通して、丹念に描いたものである。
中心の主題は天敵を利用する生物的防除であるが、著者が繰り返し述べるように、防除は生物的防除の一本槍で済むものではない。
…話は「ああすれば、こうなる」という具合に単線的、一直線には進行しない。
…近代社会は単線的な論理構造で処理できることは、おおむね処理してしまったのではないか。
それでは処理できないことが「問題」として浮上している。
人の社会なら戦争、自然が対象なら環境問題。
――養老孟司氏・毎日新聞書評より
目次
はじめに
第一章 救世主と悪魔
夢の薬 / 自然のバランスを取り戻せ / 夢の天敵 / 赤い寄生蜂
第二章 バックランド氏の夢
外来生物 / 世界を支配するものは何か / 創造主の慈悲と夢の食材 / 豚か仔牛のようで、キジのような風味がある / 素晴らしい未来のために善を為せ
第三章 ワイルド・ガーデン
帝国の恵み / グレイヴタイ・マナーの領主 / 自然な庭園 / 赤い雑草 / 侵略の生態学
第四章 夢よふたたび
金の時計とダイヤモンドのイヤリング / 不毛な大地 / これを「自然のバランス」と呼ぶ / あれこれ考えるより、まず行動
第五章 棘のある果実
ブリスベンでの出会い / 赤い染料 / サボテン旅行委員会 / 謎の蛾 / 最初の一撃 / 赤い大群
第六章 サトウキビ畑で捕まえて
旅する昆虫学者 / 葉の上を跳ぶもの / 少しでも多く獲れ / グレイバックの災い / 海を渡ったカエルたち
第七章 ワシントンの桜
旅の始まり / 異国の旅 / 悲しい成功 / 友好の証 / 退く天敵 / 高まる敵意 / 危機を未然に防ぐとヒーローになれない / 大義の前に情を捨て
第八章 自然のバランス
分類学なくして防除なし / 密度依存 / 動物集団のバランス / 自然のバランス論争 / 自然はたいてい複雑である
第九章 意図せざる結果
理論か実用か / 光と陰 / 諸刃の剣 / 反自然的行為はもうやめなければならない / パラダイムシフト / 天敵には天敵を / 前車の覆るは後車の戒め
第一〇章 薔薇色の天敵
カタツムリの悪夢 / 戦いの始まり / 病気より悪い治療法 / 薔薇色の狼 / 楽園の行方
第一一章 見えない天敵
群島にて / 賑やかな夜 / 見えない捕食者 / 防除の行方 / もうひとつの道 / 封印の解き方
謝辞
参考文献
索引
- 本の長さ464ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2023/3/14
- 寸法19.4 x 13.1 x 2.6 cm
- ISBN-104622095963
- ISBN-13978-4622095965
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出版社より
『歌うカタツムリ』(毎日出版文化賞)の著者が繙く、 有害生物vs外来の天敵、自然vs人為の攻防の歴史。 著者自身が経験した、ある天敵との死闘も語られる。 渾身の書き下ろし!
商品の説明
著者について
千葉聡
(ちば・さとし)
東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。著書『歌うカタツムリ──進化とらせんの物語』(岩波科学ライブラリー、2017)で第71回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞。ほかに、『進化のからくり──現代のダーウィンたちの物語』(講談社ブルーバックス、2020)、『生物多様性と生態学──遺伝子・種・生態系』(共著、朝倉書店、2012)などの著作がある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
(ちば・さとし)
東北大学東北アジア研究センター教授、東北大学大学院生命科学研究科教授(兼任)。1960年生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。静岡大学助手、東北大学准教授などを経て現職。専門は進化生物学と生態学。著書『歌うカタツムリ──進化とらせんの物語』(岩波科学ライブラリー、2017)で第71回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞。ほかに、『進化のからくり──現代のダーウィンたちの物語』(講談社ブルーバックス、2020)、『生物多様性と生態学──遺伝子・種・生態系』(共著、朝倉書店、2012)などの著作がある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2023/3/14)
- 発売日 : 2023/3/14
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 464ページ
- ISBN-10 : 4622095963
- ISBN-13 : 978-4622095965
- 寸法 : 19.4 x 13.1 x 2.6 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 47,257位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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上位レビュー、対象国: 日本
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2023年12月28日に日本でレビュー済み
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2023年12月23日に日本でレビュー済み
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日本語で書かれた本だから世界的な影響力は持たないでしょうが、これ、かの「沈黙の春」に比肩する名著なのでは?
2023年5月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「生物界のバランス」という普遍の正しさなど無い。この世界はは成り行き上、現状のようになっているのであって、理想的な環境といった幻想を維持する圧力など存在しない。
生物は、この地球上で押し合いへし合いしながら生きている。平地に住む日本人は、水田を作り里山をつくるなどして大規模な環境破壊をしたうえで、そのまわりの生物の一員として生活している。この数百年でまわりの生物たちと妥協しあいながら作り上げてきた水田・里山風景は、ヒトをふくめた地域の生物たちの、いうなれば話し合いの産物としての正しさなのだ。話し合いは、ときに土砂崩れ、農作物荒らし、種の絶滅といった荒っぽいものになりがちだが、これが自然界での対話の作法だ。
生物界はこうあるべきだという普遍的な正しさはない。しかし、こうすればみんな仲良くこの地球で生きていけるといいう方法を、生き物たちと対話しながら探り、実行していくことはできる。
ヒトの多すぎる人口を保つには、農作物が必要だ。農作物を荒らす生物との対話がそこで行われる。農薬をつかう、天敵を放飼する、あるいはその両方。なんとかして折り合いをつけなければいけない。しかし、時には、というか、たいがい物別れに終わる。そして農作物が、希少な在来種が、絶滅する。絶滅を望んでいるのではなく、数を減らしてほしいだけなのに。
ヒトは無力なのか? いや違う。無力と思うことがおこがましい。自然を思うままにコントロールできはしないのだ。あるのは対話だ。その地域に生きるものすべてが折り合いをつけて生きていくのだ。
この本は、生物たち(害虫、絶滅しかけている在来種、増えすぎて困る外来種)との対話の歴史である。自然環境へのヒトによる勝手な解釈がまかりとおった時代から現代にいたるまで、害虫防除の現場を中心に話が進む。互いにハッピーになることもあれば不幸になることもある。
最終章で作者はうまくいかなかった対話(害虫駆除)を報告し、自らの非を認め、次世代への展望を語る。自然をコントロールできると考え、おこがましかった先達たちとは、一線を画す。物悲しく、やるせない思いが残りつつも、よりよい未来を予感させてくれる最終章だった。
生物は、この地球上で押し合いへし合いしながら生きている。平地に住む日本人は、水田を作り里山をつくるなどして大規模な環境破壊をしたうえで、そのまわりの生物の一員として生活している。この数百年でまわりの生物たちと妥協しあいながら作り上げてきた水田・里山風景は、ヒトをふくめた地域の生物たちの、いうなれば話し合いの産物としての正しさなのだ。話し合いは、ときに土砂崩れ、農作物荒らし、種の絶滅といった荒っぽいものになりがちだが、これが自然界での対話の作法だ。
生物界はこうあるべきだという普遍的な正しさはない。しかし、こうすればみんな仲良くこの地球で生きていけるといいう方法を、生き物たちと対話しながら探り、実行していくことはできる。
ヒトの多すぎる人口を保つには、農作物が必要だ。農作物を荒らす生物との対話がそこで行われる。農薬をつかう、天敵を放飼する、あるいはその両方。なんとかして折り合いをつけなければいけない。しかし、時には、というか、たいがい物別れに終わる。そして農作物が、希少な在来種が、絶滅する。絶滅を望んでいるのではなく、数を減らしてほしいだけなのに。
ヒトは無力なのか? いや違う。無力と思うことがおこがましい。自然を思うままにコントロールできはしないのだ。あるのは対話だ。その地域に生きるものすべてが折り合いをつけて生きていくのだ。
この本は、生物たち(害虫、絶滅しかけている在来種、増えすぎて困る外来種)との対話の歴史である。自然環境へのヒトによる勝手な解釈がまかりとおった時代から現代にいたるまで、害虫防除の現場を中心に話が進む。互いにハッピーになることもあれば不幸になることもある。
最終章で作者はうまくいかなかった対話(害虫駆除)を報告し、自らの非を認め、次世代への展望を語る。自然をコントロールできると考え、おこがましかった先達たちとは、一線を画す。物悲しく、やるせない思いが残りつつも、よりよい未来を予感させてくれる最終章だった。
2023年8月25日に日本でレビュー済み
自分のなかの自然観、人生哲学まで問われる本だ。
10章にわたって描かれる「生物的防除」の“失敗”の歴史。これは長い長いプロローグに過ぎない。しかしここを読み飛ばしてはならない。メインである第11章の本質を理解するためには、過去へ遡り何が起きていたのかを知らなければならないからだ。
第1章で紹介される、カーソンが残した「重要なメッセージ」。読み進めていけばいくほど、このメッセージが効いてくる。すなわち、安全神話の裏には恐るべき危険が潜んでいる場合があること。自然や生物を十分に知っているものと過信しないこと。そして「有害とみなす生物」以外にも、さまざまな生物が存在し背後には彼らを育んでいる自然があるのを無視してはならないこと。
失敗は成功の母とはいわれるが、こと生物的防除に関しては「成功は失敗の素」になってしまった。害虫防除に導入されたペダリアテントウの劇的な成功こそ、その後数々の壊滅的な“失敗”を生み出すことになったからだ。
その“失敗”の一つがアフリカマイマイの駆除のため、太平洋やインド洋の各地の島々に導入されたニューギニアヤリガタリクウズムシ。この影響が巡り巡って、父島の固有種カタツムリを野生絶滅まで追いやることになった。「招かれた天敵」は、結局招かれざる天敵になってしまったのだ。第11章は、作者が関わったウズムシ防除戦線での死闘が描かれている。
結果として失敗に終わった防除作戦。その反省の弁で語られるのはなんと、生物的防除「も」考えるべきではなかったのかということ。数々の生態系を危険に晒し、功を奏するどころか危機に陥らせたこの罪深い手法は、保全の専門家にとってタブーといえるものになっている。しかしイデオロギー的なものや感情的な拒否感で、最初から考えにも入れないのは科学的な態度といえないのではないかと。「有害生物」の防除は「あれかこれか」という一つの方策ではなく「あれもこれも」と複合的に対策を考える方が、結局は「自然にやさしく」効果的なのだ。
「あれもこれも」というのは、ウズムシの防除一辺倒ではなく、最悪の事態に備え固有種カタツムリの飼育保全というリスクヘッジが図られたことにもあらわれている。父島の固有種カタツムリたちは現在、島民の協力のもと世界遺産センターで野生に帰る日を待っている。しかしウズムシ防除はまだまだ戦いの途上にあるのだ。ウズムシが根絶されない限り、カタツムリたちを野に戻すことはできないからだ。その意味で第11章のお話は現在進行形で続いているということになる。今後の行く末を見守りたい。
……とか言ってる場合ではない。
問いかけは私たち自身にも向けられている。ここまで生物的防除の歴史や、小笠原のウズムシ防除のプロセスをたどってきたあなた。そのあなたはウズムシ対策をどうすべきと考えるか?小笠原の自然保全をどう考えるか?解決の可能性を広げるため、招かれた天敵「も」用いるべきと思うか?
かつて父島の夜明平は、夜、蠢くカタマイマイが立てる音で賑やかだったという。
“それがいまやなんの音もせず、沈黙だけが森に横たわっている”
カーソンの『沈黙の春』に準えられたこの言葉は、今の父島の森の現実なのだ。夜明平に音を取り戻すために私たちに何ができるか?あなたはどう考え何をすべきと考えるか?この本はそのことを切実に問うている。
10章にわたって描かれる「生物的防除」の“失敗”の歴史。これは長い長いプロローグに過ぎない。しかしここを読み飛ばしてはならない。メインである第11章の本質を理解するためには、過去へ遡り何が起きていたのかを知らなければならないからだ。
第1章で紹介される、カーソンが残した「重要なメッセージ」。読み進めていけばいくほど、このメッセージが効いてくる。すなわち、安全神話の裏には恐るべき危険が潜んでいる場合があること。自然や生物を十分に知っているものと過信しないこと。そして「有害とみなす生物」以外にも、さまざまな生物が存在し背後には彼らを育んでいる自然があるのを無視してはならないこと。
失敗は成功の母とはいわれるが、こと生物的防除に関しては「成功は失敗の素」になってしまった。害虫防除に導入されたペダリアテントウの劇的な成功こそ、その後数々の壊滅的な“失敗”を生み出すことになったからだ。
その“失敗”の一つがアフリカマイマイの駆除のため、太平洋やインド洋の各地の島々に導入されたニューギニアヤリガタリクウズムシ。この影響が巡り巡って、父島の固有種カタツムリを野生絶滅まで追いやることになった。「招かれた天敵」は、結局招かれざる天敵になってしまったのだ。第11章は、作者が関わったウズムシ防除戦線での死闘が描かれている。
結果として失敗に終わった防除作戦。その反省の弁で語られるのはなんと、生物的防除「も」考えるべきではなかったのかということ。数々の生態系を危険に晒し、功を奏するどころか危機に陥らせたこの罪深い手法は、保全の専門家にとってタブーといえるものになっている。しかしイデオロギー的なものや感情的な拒否感で、最初から考えにも入れないのは科学的な態度といえないのではないかと。「有害生物」の防除は「あれかこれか」という一つの方策ではなく「あれもこれも」と複合的に対策を考える方が、結局は「自然にやさしく」効果的なのだ。
「あれもこれも」というのは、ウズムシの防除一辺倒ではなく、最悪の事態に備え固有種カタツムリの飼育保全というリスクヘッジが図られたことにもあらわれている。父島の固有種カタツムリたちは現在、島民の協力のもと世界遺産センターで野生に帰る日を待っている。しかしウズムシ防除はまだまだ戦いの途上にあるのだ。ウズムシが根絶されない限り、カタツムリたちを野に戻すことはできないからだ。その意味で第11章のお話は現在進行形で続いているということになる。今後の行く末を見守りたい。
……とか言ってる場合ではない。
問いかけは私たち自身にも向けられている。ここまで生物的防除の歴史や、小笠原のウズムシ防除のプロセスをたどってきたあなた。そのあなたはウズムシ対策をどうすべきと考えるか?小笠原の自然保全をどう考えるか?解決の可能性を広げるため、招かれた天敵「も」用いるべきと思うか?
かつて父島の夜明平は、夜、蠢くカタマイマイが立てる音で賑やかだったという。
“それがいまやなんの音もせず、沈黙だけが森に横たわっている”
カーソンの『沈黙の春』に準えられたこの言葉は、今の父島の森の現実なのだ。夜明平に音を取り戻すために私たちに何ができるか?あなたはどう考え何をすべきと考えるか?この本はそのことを切実に問うている。
2023年6月6日に日本でレビュー済み
まずは最後の11章から。著者は、2005年から小笠原諸島の父島で、固有カタツムリ・カタマイマイ類の保護増殖に関わることになる。カタマイマイを激減させていたのは、外来種のニューギニア原産のウズムシ(ニューギニアヤリガタリクウズムシ)。陸生プラナリアで、体長が50mmになる。ほぼあらゆるカタツムリやナメクジを攻撃して捕食するのだそうで、父島に先に定着していた肉食性カタツムリ・ヤマヒタチオビも捕食され、激減していた。
父島のカタマイマイの保護増殖は環境省の事業として取り組まれたもので、土木工事により電流の流れる防護壁を設置するなど様々な対策が講じられるも、設定した「防衛ライン」はウズムシに次々に突破されていき、ついに2017年、父島のカタマイマイ類は野生下で絶滅するに至った(並行して取り組まれた人工飼育による保護増殖は成功している)。
この失敗を経験した著者が、失敗の理由の1つとして考えているのが、必ずしもあらゆる防除手法を試したわけではないこと。試さなかったのは、「天敵の導入による生物的防除」(要するに天敵となる新たな外来種による既存の外来種の防除)なのだという。
著者の考えは次のようなものだ。生態学者、保全の専門家、行政機関にとって、過去に失敗を繰り返した天敵の人為的導入はタブーとなっているが、その技術を二度と使わないのではなく、失敗の理由と過程を学び、同じ失敗を繰り返さないように対処して、その技術を再び使うことがあってもよいのではないか。
本書の最初に戻る。著者は、1章で真っ先に、レイチェル・カーソン『沈黙の春』を紹介する。『沈黙の春』はDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の大量使用により様々な生物が姿を消していることを問題視するものだが、そうした悪影響のある「化学的防除」ではない「もうひとつの道」として、「生物的防除」を提示しているのだ。
本書の大部分は「生物的防除」が封印されるまでの歴史を書いていて、必然2000年以前の比較的古い話が多いが、3章のうち「侵略の生態学」の項では2000年以降の懐疑論(例えば、邦訳『外来種のウソ・ホントを科学する』のケン・トンプソン)が紹介されているし、8章のうち「自然はたいてい複雑である」の項では野外生物の個体数変動のメカニズムを最近の有力説まで含めて示しているので、最近の話題まできちんと取り上げていて読み甲斐がある。
また、本書は科学史の研究であるかのようにも見えるが、著者自身が父島でのカタマイマイ保護に失敗した当事者であるので、その経験を経た進化生物学と生態学の研究者が過去の「生物的防除」の歴史をいかに捉えているかというところも読みどころと言えるだろう。
人為的導入による失敗例を並べ連ねて、言わんこっちゃない、だから止めておけばよかったのだと述べ、手段が目的化した防除事業の無限ループを礼賛するような主張がもはや様式美だが、そのようなものとは一線を画す内容となっている。
父島のカタマイマイの保護増殖は環境省の事業として取り組まれたもので、土木工事により電流の流れる防護壁を設置するなど様々な対策が講じられるも、設定した「防衛ライン」はウズムシに次々に突破されていき、ついに2017年、父島のカタマイマイ類は野生下で絶滅するに至った(並行して取り組まれた人工飼育による保護増殖は成功している)。
この失敗を経験した著者が、失敗の理由の1つとして考えているのが、必ずしもあらゆる防除手法を試したわけではないこと。試さなかったのは、「天敵の導入による生物的防除」(要するに天敵となる新たな外来種による既存の外来種の防除)なのだという。
著者の考えは次のようなものだ。生態学者、保全の専門家、行政機関にとって、過去に失敗を繰り返した天敵の人為的導入はタブーとなっているが、その技術を二度と使わないのではなく、失敗の理由と過程を学び、同じ失敗を繰り返さないように対処して、その技術を再び使うことがあってもよいのではないか。
本書の最初に戻る。著者は、1章で真っ先に、レイチェル・カーソン『沈黙の春』を紹介する。『沈黙の春』はDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)の大量使用により様々な生物が姿を消していることを問題視するものだが、そうした悪影響のある「化学的防除」ではない「もうひとつの道」として、「生物的防除」を提示しているのだ。
本書の大部分は「生物的防除」が封印されるまでの歴史を書いていて、必然2000年以前の比較的古い話が多いが、3章のうち「侵略の生態学」の項では2000年以降の懐疑論(例えば、邦訳『外来種のウソ・ホントを科学する』のケン・トンプソン)が紹介されているし、8章のうち「自然はたいてい複雑である」の項では野外生物の個体数変動のメカニズムを最近の有力説まで含めて示しているので、最近の話題まできちんと取り上げていて読み甲斐がある。
また、本書は科学史の研究であるかのようにも見えるが、著者自身が父島でのカタマイマイ保護に失敗した当事者であるので、その経験を経た進化生物学と生態学の研究者が過去の「生物的防除」の歴史をいかに捉えているかというところも読みどころと言えるだろう。
人為的導入による失敗例を並べ連ねて、言わんこっちゃない、だから止めておけばよかったのだと述べ、手段が目的化した防除事業の無限ループを礼賛するような主張がもはや様式美だが、そのようなものとは一線を画す内容となっている。
2023年5月20日に日本でレビュー済み
本書では、その地域に昔から生息する固有の生物や植物といった在来種が、人間などにより持ちこまれた外来種からの攻撃により絶滅するのを防ぐために、過去どのような取り組みが行われて来たかが、克明に記されている。
その方法は大きく二つに分かれる。一つは殺虫剤や除草剤を使用する「化学的防除」で、もう一つは外来種の天敵を外来種の元々の生息地や似たように気候の場所で探し出し、それを持ち帰って大量に散布することにより外来種を駆除しようとする「生物的防除」である。
化学的防除は、ターゲットとなる外来種以外の固有種も駆除してしまう可能性があり、人体にも悪影響を与える恐れがあるので、「生物的防除」の方がよいと最初は思っていたが、持ち込んだ天敵が駆除には意外と効果がなかったり、更に悪いことにはその天敵自体が固有種まで攻撃して害虫化する事例も多数あることがわかり、外来種を防ぐことは一筋縄ではいかないことがよくわかった。
本書で取り上げられているのは、欧米やオーストラリアといった海外の事例が大半だが、最後の小笠原諸島の在来種のカタツムリを守る戦いは、著者自身が体験した割と最近の事例であったので、身近に感じられたし、駆除の難しさを改めて思い知らされた。
普段はあまり考えることのないテーマであるが、非常に読み応えがある一冊だった。
その方法は大きく二つに分かれる。一つは殺虫剤や除草剤を使用する「化学的防除」で、もう一つは外来種の天敵を外来種の元々の生息地や似たように気候の場所で探し出し、それを持ち帰って大量に散布することにより外来種を駆除しようとする「生物的防除」である。
化学的防除は、ターゲットとなる外来種以外の固有種も駆除してしまう可能性があり、人体にも悪影響を与える恐れがあるので、「生物的防除」の方がよいと最初は思っていたが、持ち込んだ天敵が駆除には意外と効果がなかったり、更に悪いことにはその天敵自体が固有種まで攻撃して害虫化する事例も多数あることがわかり、外来種を防ぐことは一筋縄ではいかないことがよくわかった。
本書で取り上げられているのは、欧米やオーストラリアといった海外の事例が大半だが、最後の小笠原諸島の在来種のカタツムリを守る戦いは、著者自身が体験した割と最近の事例であったので、身近に感じられたし、駆除の難しさを改めて思い知らされた。
普段はあまり考えることのないテーマであるが、非常に読み応えがある一冊だった。