普段行かない小ぶりの本屋で、この小説を手に取った。
冒頭からその詩的な文章の美しさに圧倒された。
一方、「少女小説」という触れ込みだったから、終始この調子の文体なら少し重いなという印象があった。そんな私の心配は杞憂に終わった。話の筋の動かない部分では詩的な文章を用い、話が展開する部分ではさらりと流す。そんな作者の技量と姿勢がこの上なく心地よかった。
「石狩少女」の全編を通じて、「生き方の純粋性」と「文章の純粋性」が強調される。過去の作者の分身であろう主人公悠紀子は現代日本にも通底する「建前」を排し、あくまでも純粋であろうとする。作中の人物に向けられる文章の軽薄さへの指摘は、そっくりそのまま作者へ跳ね返ってくる厳しい部分でもある。私がいちばん感動したのは作者の過去の自分と誠実に向き合い、自らの文章と誠実に向かい合おうとする姿勢だった。通常、こういった小説は現実への諦念で終わるものだが、作者は最後まで過去の自分の純粋性と向かい合い、それを貫き通した。
この小説は単なる私小説ではない。かといって少女時代の甘い感傷を描いた小説でもない。過去の自分への癒しであると同時に強い自己肯定の小説だと私には感じられた。予期していた内容とは裏腹に、作者の強い人間としての力を感じた小説だった。
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