友人のS氏から頂いた纐纈厚著『戦争と弾圧』という本を、昨夜遅く読み終えた。
「3・15事件と特高課長・纐纈弥三の軌跡」というサブタイトルにあるように、纐纈弥三の辿った人生を、日記などの資料にあたって明らかにした書である。
特高とは、特別高等警察のことであり、思想犯やスパイなどを取り締まる官憲のことである。
10年ほど前に、同じ著者の『田中義一 総力戦国家の先導者』という本を読んだことを思いだしたので、本書をその続編として読むことになった。
田中義一首相は、中国侵攻を企図し、1927年(昭和2年)から1928年(昭和3年)にかけて3度にわたって山東省へ派兵して戦闘を起こしていた。
中国侵略と纐纈弥三が指揮した三・一五事件(1928年3月15日に、日本共産党等の活動員数千名を検束、検挙)と翌年の四・一六事件(日本共産党への大弾圧)とは深く関係していることを本書で詳しく知ることができた。
この二つの事件は、特別高等警察課長の纐纈弥三が指揮することによって強行され、その後担当課長は変わったものの、このような弾圧は太平洋戦争敗戦まで続いた。
戦後、治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟の調べによれば、特高警察の拷問などで命を奪われた人は514名、検挙された人は6万827名、検束・拘留となると数十万名に達する。(本書P272)
このような人道にも劣ることがまかり通っていたのは、万世一系の天皇を頂点とした「皇国史観」が齎したことなのです。
「皇国史観」という言葉から、昔読んだ俳優の池部良さんが書いていたことを思いだしてしまったのです。
池部良さんは、昭和17年に召集され、24歳から29歳まで兵役にとられ九死に一生を得て5年後の昭和21年6月に帰還した経歴があり、自著『風が吹いたら』のなかで「大陸侵攻には大義名分がなく、いつの間にか、曰く、天皇のために、曰く、おおみいつ、などなど納得いかないし、幕末の政権争いで勝ったったほうの『長』の孫のために死ねという国の指導者たちに憤りを感じた。」と書いていたのです。
赤紙一枚で兵役に就き、故国を遠く離れた地で亡くなった数えきれないほど多くのひとたちの無念を思えば、八紘一宇だの、大東東亜共栄圏だの、聖戦だの「糞食らえ!」と、評者は言いたくなってしまったのです。
戦後、纐纈弥三は、GHQによって公職追放されたのにも関わらず1955年(昭和30年)衆議院議員になり、紀元節復活を主な政策として国会で活動した。
特高関係者も含め、いわゆる警察官僚から国会議員となった者は、実に54名に上るという。(本書P276~267)
著者は、その指名を列記していたが、肩書を調べてみたら特高課長が最も多く24名であった。
纐纈弥三の国会任期中には、紀元節を祭日にするよう活動したが、任期中にこの法案は通らなかったものの1966年(昭和41年)に、「建国記念の日」として国民の祝日となり「戦前回帰」が始まった。
纐纈弥三は、皇国史観に凝り固まった男であり、自身の特高警察指揮下の拷問で514人の命を奪った反省など微塵もないことに驚きを禁じ得ない。
514名どころか何十万もの命を奪った辻政信も国会議員になり、敗戦時の閣僚であった岸信介もA級戦犯であったのに、その後公職追放を解かれて総理大臣にまでなっています。
著者の纐纈厚氏は、巻末で纐纈弥三のしたことや、その思想(戦前回帰)を許すことはできない述べています。
コロナ感染爆発している今も「戦前回帰」の政治が脈々と続いているこの国の未来を思い、暗澹としながら本書を読み終えました。
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戦争と弾圧──三・一五事件と特高課長・纐纈弥三の軌跡 単行本 – 2020/10/30
纐纈 厚
(著)
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戦前期の戦争の時代に天皇中心の国体思想に迎合しない人々を徹底的に弾圧し、その人権や生命すら奪った戦前期の権力者たち。その彼らが時を経て生き残り、再び戦後日本で新たな国体思想を普及すべく、紀元節復活を目的とする「建国記念の日」を目指す。その旗振り役を担った特高課長・纐纈弥三を通して、戦前戦後を通観する、迫真の書き下ろし。
- 本の長さ320ページ
- 言語日本語
- 出版社新日本出版社
- 発売日2020/10/30
- 寸法13.8 x 2.7 x 19.8 cm
- ISBN-10440606513X
- ISBN-13978-4406065139
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商品の説明
出版社からのコメント
戦前期には特高課長として人びとを弾圧し、戦後期には国会議員として「建国記念の日」の旗振り役を担った纐纈弥三を通して戦前戦後を通観する。戦前と戦後の日本政治の実態を、弥三を通して克明に追う!
著者について
1951年生まれ。山口大学名誉教授(同大学の副学長や理事も務めた)、現在、明治大学特任教授。著書に『「聖断」虚構と昭和天皇』(2006年)、『憲兵政治』(08年)、『戦争と敗北』(19年)〔ともに新日本出版社〕、『近代日本政軍関係の研究』(岩波書店)など多数。
登録情報
- 出版社 : 新日本出版社 (2020/10/30)
- 発売日 : 2020/10/30
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 320ページ
- ISBN-10 : 440606513X
- ISBN-13 : 978-4406065139
- 寸法 : 13.8 x 2.7 x 19.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 519,000位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 132位天皇制
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-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年8月24日に日本でレビュー済み
2021年9月17日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内容は良くても、話の持って行き方が、下手。
正直で、才能がない、政治家の演説のようだ。
正直で、才能がない、政治家の演説のようだ。
2021年7月18日に日本でレビュー済み
著者は1951年生れの歴史家で、日本近現代史に関する多くの著書がある。本書は、戦前は特高課長、戦後は国会議員だった纐纈弥三(こうけつやぞう)(1893-1978年)の評伝である。著者とは同郷であるが、姓は同じでも親戚関係にはないとのことである。纐纈弥三が残した日記等の大量の資料を見る機会に恵まれたので、本書の執筆に至ったという。
纐纈弥三は岐阜県会議員の長男として生まれ、第一高等学校、京都帝国大学法学部を卒業して内務省に入省する。高等試験行政科試験にも合格したエリート官僚である。その後警察畑を順調に出世する。1928年の三・一五事件、1929年の四・一六事件では共産党弾圧に特高課長として指揮し、その功績で勲章も受けた。戦後は一時期公職追放となったが、自民党から衆議院選挙に出馬して4期議員を務めた。「建国記念の日」制定に当たっては旗振り役を務めた。その思想は、戦前はもちろん戦後もゴリゴリの天皇主義者であった。ただし、家族や知り合いに対しては人情家であったという。
纐纈弥三が警視庁特高課長時代の日本共産党弾圧事件である三・一五事件は凄まじいものだった。特高研究で知られる荻野富士夫氏によれば、拷問による虐殺80人、拷問による獄中死114人、病気による獄中死1503人に及ぶ(p.82)。これほどの犠牲をもたらした動機は、天皇中心の国家(国体)を守る、という一点にある。この事件および類似の四・一六事件の後まもなく、満州事変をきっかけに日本は本格的な大陸侵出を開始し(1931年)、壊滅的な敗戦(1945年)に向かって一気に走り出すのである。
敗戦後纐纈弥三らの特高関係者は、一時期公職追放になった以外は、新しく設置された公安警察に横滑りしたりして、のうのうと戦後を生き延びた。上述のように、纐纈弥三に至っては国会議員になり「建国記念の日」制定の旗振りをしたくらいである。ほとんど根拠のない弾圧事件で多くの犠牲者を出したという反省は微塵もない。戦後になっても天皇神話を信じ、そのことを公言し続けた(p.309)。このように、自民党議員にとっては、戦前と戦後は思想的に一貫しているのである。このことは、天皇主義の精神的支柱を担っている「日本会議」に多くの自民党(だけではないが)議員が所属していることからも明らかである。安倍晋三氏がここ何十年も公言している時代錯誤の天皇主義と、本書の纐纈弥三の思想との間にはほとんどギャップがないのである!
コロナ禍にあって、自公政権のお粗末ぶりが天下に暴露されている(政策だけでなく、数多くの汚職事件など)。日本は二十年以上に渡り、国際的地位が低下し続け、また国民所得は減るばかりである。政権与党が、戦前と変わらない時代錯誤の思想と利権にしがみつき、前向きの考え方を打ち出せないことと国力の低下とは表裏一体の関係にある気がしてならない。
纐纈弥三は岐阜県会議員の長男として生まれ、第一高等学校、京都帝国大学法学部を卒業して内務省に入省する。高等試験行政科試験にも合格したエリート官僚である。その後警察畑を順調に出世する。1928年の三・一五事件、1929年の四・一六事件では共産党弾圧に特高課長として指揮し、その功績で勲章も受けた。戦後は一時期公職追放となったが、自民党から衆議院選挙に出馬して4期議員を務めた。「建国記念の日」制定に当たっては旗振り役を務めた。その思想は、戦前はもちろん戦後もゴリゴリの天皇主義者であった。ただし、家族や知り合いに対しては人情家であったという。
纐纈弥三が警視庁特高課長時代の日本共産党弾圧事件である三・一五事件は凄まじいものだった。特高研究で知られる荻野富士夫氏によれば、拷問による虐殺80人、拷問による獄中死114人、病気による獄中死1503人に及ぶ(p.82)。これほどの犠牲をもたらした動機は、天皇中心の国家(国体)を守る、という一点にある。この事件および類似の四・一六事件の後まもなく、満州事変をきっかけに日本は本格的な大陸侵出を開始し(1931年)、壊滅的な敗戦(1945年)に向かって一気に走り出すのである。
敗戦後纐纈弥三らの特高関係者は、一時期公職追放になった以外は、新しく設置された公安警察に横滑りしたりして、のうのうと戦後を生き延びた。上述のように、纐纈弥三に至っては国会議員になり「建国記念の日」制定の旗振りをしたくらいである。ほとんど根拠のない弾圧事件で多くの犠牲者を出したという反省は微塵もない。戦後になっても天皇神話を信じ、そのことを公言し続けた(p.309)。このように、自民党議員にとっては、戦前と戦後は思想的に一貫しているのである。このことは、天皇主義の精神的支柱を担っている「日本会議」に多くの自民党(だけではないが)議員が所属していることからも明らかである。安倍晋三氏がここ何十年も公言している時代錯誤の天皇主義と、本書の纐纈弥三の思想との間にはほとんどギャップがないのである!
コロナ禍にあって、自公政権のお粗末ぶりが天下に暴露されている(政策だけでなく、数多くの汚職事件など)。日本は二十年以上に渡り、国際的地位が低下し続け、また国民所得は減るばかりである。政権与党が、戦前と変わらない時代錯誤の思想と利権にしがみつき、前向きの考え方を打ち出せないことと国力の低下とは表裏一体の関係にある気がしてならない。
2021年3月28日に日本でレビュー済み
神話にすぎない神無天皇を実在と信じ、そこから天皇制絶対を導いてしまうのは、なぜか?
それで、民は幸せになるのか?
生存にほぼ苦労をしたことのない人物が、それを主張するのはなぜか?
その信仰が戦争を導き敗戦し多数の死者を出したのは間違いないのだが、それも認識できないのか?
本書は、その事実を淡々と追っていく。
異常だ。
それで、民は幸せになるのか?
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その信仰が戦争を導き敗戦し多数の死者を出したのは間違いないのだが、それも認識できないのか?
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異常だ。