18-20世紀,世界文学は近代小説で大いに盛り上がったが,その頂点をなすのは,おそらくフローベール『感情教育』を除けば,この『アンナ・カレーニナ』だろう.
何がいいか,って‥‥ 何よりも芸術作品としての完璧な醍醐味を味わえる.バランスの良さが追随を許さない.長すぎず,短すぎず.冗長でもなく,未消化でもない.
芸術家が創作活動の絶頂,気力・体力の最充実期においてのみ見せることができる完成度の高さかもしれない.
あらゆる主要な伏線が回収される.物語が分かりやすく,同時にこの上ない深みに達している.劇的クライマックスに向け,無駄なく,余計なものなく,流れ込むようになっていて,しかもその途中経過の場面ひとつひとつも興趣にあふれ,不自然なストーリー性もなく,読み始めた読者をぐいぐい引き込み,離さない.
すべてが自然に,必然の力でもって流れてゆく.努力の跡とか,ウケ狙いの仕掛けとかは,どのページにも見られない.
こんな小説が存在するわけだから,ほかのあらゆる小説家がやる気をなくしたとしても不思議ではない.
マーラーの中期の交響曲(第5~7,大地の歌)のような,作家の絶頂期とジャンルの絶頂期が重なったような作品.
初めて読んだのは30年以上前だが,そして当時の岩波文庫版だったが,新訳の望月訳は現代的でこなれており,読みやすい.
中味はよく知られている.アンナの悲劇とリョーヴィン・キティーの幸せが,見事な対比で描かれている.読者は,どちらも人間の,そして自分自身の中に存在する両面の分身として受けとめ,あるとき笑い,あるとき悲しむことができる.一方で見栄や不安,他方で愛と共感や赦しが,ふたつの人生航路,人間の心の二つの顔として,鮮やかに描ききられている.
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アンナ・カレーニナ 1 (光文社古典新訳文庫 Aト 3-2) 文庫 – 2008/7/10
レフ・ニコラエヴィチ トルストイ
(著),
望月 哲男
(翻訳)
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- 本の長さ602ページ
- 言語日本語
- 出版社光文社
- 発売日2008/7/10
- ISBN-104334751598
- ISBN-13978-4334751593
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登録情報
- 出版社 : 光文社 (2008/7/10)
- 発売日 : 2008/7/10
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 602ページ
- ISBN-10 : 4334751598
- ISBN-13 : 978-4334751593
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上位レビュー、対象国: 日本
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2021年1月16日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2020年4月~12月にかけて読了。
なるべく毎日、最低でも寝る前に1章ずつ(十数ページ程度)を心がけた末、9か月でゴールした。
まだうまく感想をまとめられないけれど、備忘録程度に。
●巣ごもりの2020年、私はこの本のおかげでたくさんの経験ができた。
ロシアを旅し、狩りに行き、おいしいものを食べ、結婚式に参列し(マスク無しで!)。
たくさんの人たちの恋愛観や結婚観、人生観を見聞きし、時にはいっしょに悩み(マスク無しで!)。
そして、わが親友リョーヴィンが葛藤しながら成長してゆく様を、まるで自分のことのように側で感じていた。
ここには、もうひとつの「人生」がある、と思った。
リアリズムの巨匠であるトルストイが描く人物像は、まるで現実世界で出会った人の様にありありと記憶に刻まれるし(すくなくともSNS上だけの人間関係よりははるかに印象的)、また風景も、脳内に自然とクリアに映し出される(不自然さが無い)のだ。
激烈なドラマこそないものの、ゆるやかなドラマの波がひとつ起きては収まり、また次の波が来て-ーと、まさに現実の人生(日常)をそのまま切り取ったかのよう。
気の合う人もいるし、理解しがたい嫌な奴もいるし。
ロマンティックな一夜もあるし、夫婦喧嘩や些末事に忙殺される日もあるし。
ああ、2020年にこの本を読めるとは、なんという充足感!
不安げなニュースで心を痛めた日も、寝る前に1章だけでも読み進めることで、満ち足りた気分で床に就くことが出来た。
病床時の一番辛い時期に読破した「カラマーゾフの兄弟」(光文社版)と比肩して、
この「アンナ」も一生モノの読書体験になるに違いない、と私は確信した。
*映画版で予習復習することで、長期間読書でもストーリーを見失なわずに済んだ。
キーラ・ナイトレイ主演の2012年版が、リョーヴィンの話にもスポットがあてられていてオススメ。
-----------------------------------------------------
●ドストエフスキー(カラマーゾフ)とトルストイ(アンナ)。大雑把な印象で比較するとしたら;
ドストエフスキーは、「読む劇薬」、お酒に例えるならスピリタス。ロックや少年漫画風のテイストに近い?
トルストイは、「完全無欠のダイアモンド」、お酒に例えるなら最高級ワイン。モーツァルトや少女漫画のテイストに近い?
どん底の人間達を「欲望」や「絶望」の側面から描き、腹にずどんと一発かましてくるのがドストエフスキー。
一般的な社会生活を送る人間達を見事に美しく描き、その完璧さに思わずため息こぼれてしまうのがトルストイ。
どちらが上だなんてとても言えない。
ただ私の好みでいえばトルストイかなぁ、何故なら、若い頃に少女漫画と美少女ゲームをいっぱい嗜んできたから、それらの延長線上で読める本が自然に入ってくる本なので。
-----------------------------------------------------
●「カラマーゾフ」と「アンナ」、どちらの本にも、こういう賛辞をささげたい;
「これを読めば、人間を学べるだろう」-ーと。
そして「アンナ」の場合はさらに、「恋愛と結婚生活を学べるだろう」、と付け加えたい。
「小説ごときで恋愛を学べるか」「実体験には及ばない」だって?……まあ、一度読んでごらんなさいよ。
「恋愛の教科書」とか「結婚生活マニュアル」というものがあるとしたら、そのうち一冊はおそらく「アンナ・カレーニナ」になると私は思う。
2021年1月時点ではまだまだ、行動制限があるから、実体験に落とせていないけどね。
P.S. 宮沢りえ主演の舞台、いつか上演されるのを楽しみに待っています。
なるべく毎日、最低でも寝る前に1章ずつ(十数ページ程度)を心がけた末、9か月でゴールした。
まだうまく感想をまとめられないけれど、備忘録程度に。
●巣ごもりの2020年、私はこの本のおかげでたくさんの経験ができた。
ロシアを旅し、狩りに行き、おいしいものを食べ、結婚式に参列し(マスク無しで!)。
たくさんの人たちの恋愛観や結婚観、人生観を見聞きし、時にはいっしょに悩み(マスク無しで!)。
そして、わが親友リョーヴィンが葛藤しながら成長してゆく様を、まるで自分のことのように側で感じていた。
ここには、もうひとつの「人生」がある、と思った。
リアリズムの巨匠であるトルストイが描く人物像は、まるで現実世界で出会った人の様にありありと記憶に刻まれるし(すくなくともSNS上だけの人間関係よりははるかに印象的)、また風景も、脳内に自然とクリアに映し出される(不自然さが無い)のだ。
激烈なドラマこそないものの、ゆるやかなドラマの波がひとつ起きては収まり、また次の波が来て-ーと、まさに現実の人生(日常)をそのまま切り取ったかのよう。
気の合う人もいるし、理解しがたい嫌な奴もいるし。
ロマンティックな一夜もあるし、夫婦喧嘩や些末事に忙殺される日もあるし。
ああ、2020年にこの本を読めるとは、なんという充足感!
不安げなニュースで心を痛めた日も、寝る前に1章だけでも読み進めることで、満ち足りた気分で床に就くことが出来た。
病床時の一番辛い時期に読破した「カラマーゾフの兄弟」(光文社版)と比肩して、
この「アンナ」も一生モノの読書体験になるに違いない、と私は確信した。
*映画版で予習復習することで、長期間読書でもストーリーを見失なわずに済んだ。
キーラ・ナイトレイ主演の2012年版が、リョーヴィンの話にもスポットがあてられていてオススメ。
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●ドストエフスキー(カラマーゾフ)とトルストイ(アンナ)。大雑把な印象で比較するとしたら;
ドストエフスキーは、「読む劇薬」、お酒に例えるならスピリタス。ロックや少年漫画風のテイストに近い?
トルストイは、「完全無欠のダイアモンド」、お酒に例えるなら最高級ワイン。モーツァルトや少女漫画のテイストに近い?
どん底の人間達を「欲望」や「絶望」の側面から描き、腹にずどんと一発かましてくるのがドストエフスキー。
一般的な社会生活を送る人間達を見事に美しく描き、その完璧さに思わずため息こぼれてしまうのがトルストイ。
どちらが上だなんてとても言えない。
ただ私の好みでいえばトルストイかなぁ、何故なら、若い頃に少女漫画と美少女ゲームをいっぱい嗜んできたから、それらの延長線上で読める本が自然に入ってくる本なので。
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●「カラマーゾフ」と「アンナ」、どちらの本にも、こういう賛辞をささげたい;
「これを読めば、人間を学べるだろう」-ーと。
そして「アンナ」の場合はさらに、「恋愛と結婚生活を学べるだろう」、と付け加えたい。
「小説ごときで恋愛を学べるか」「実体験には及ばない」だって?……まあ、一度読んでごらんなさいよ。
「恋愛の教科書」とか「結婚生活マニュアル」というものがあるとしたら、そのうち一冊はおそらく「アンナ・カレーニナ」になると私は思う。
2021年1月時点ではまだまだ、行動制限があるから、実体験に落とせていないけどね。
P.S. 宮沢りえ主演の舞台、いつか上演されるのを楽しみに待っています。
2024年1月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
可憐な気立ての良い貴婦人が、現代でいうメンヘラ系女子に。 背徳的に貫く愛と破滅はパッケージなのかと思ってしまう。並行して進むリョービンの物語は対照的。華やかさはないが応援したくなる健気さがある。怒りを堪え自ら農作業を実践し使用人を教育する場面が感動。それにしても…人は都合が悪くなったときに「愛している」とやたら言う。これじゃ刺さらない。…といって多用するのも言葉のインフレに。となると節目節目を大切にし、そこでお互いの距離を図る(愛を伝える)現代人は丁度よく収まっているのかも
2023年10月12日に日本でレビュー済み
「戦争と平和」が最高に面白かったし
翻訳も良かったので紀伊国屋で「アンナ・カレーニナ」全巻を一気買いしました。
いやさ…「アンナ・カレーニナ」はもう半端なく面白かった。
更に翻訳も完璧なまでの気遣いがされていたので読みやすく、
全巻を一気に読み終えられました。ありがとう望月さん。
でもアンナのシーン読んでるときはハラハラして胃が痛くなって悲しくなりました。
リョーヴィン編は兎も角として
幾ら当時の宗教観を描いたとはいえアンナとブロンスキーに救いが無さすぎる…
(勿論それがテーマなんだろうけど)
戦争と平和みたいな「それでもアンドレイの思いは紡がれる!」といった救いが
マジで一切無いのは本当にキツかった。
カレーニンが中盤に一瞬だけ「戦争と平和」の覚醒ピエールみたいになって
(これはハッピーエンド来るか!?)と期待したのに…
最後の結末にカレーニン(とカレーニンの周囲の連中)ども、何か言うことあるだろ…って
思わず毒づきましたね。
しかし、これら全部含めてテーマなんだなと気付いたとき、
もう傑作と認めるしかなかったですね。
完全降伏です。
でも作中で一番好きなのはオブロンスキー。
いい加減で時には自制が出来ないけれど
物事自体に関しては実はよく分かってるおじさん大好き。
翻訳も良かったので紀伊国屋で「アンナ・カレーニナ」全巻を一気買いしました。
いやさ…「アンナ・カレーニナ」はもう半端なく面白かった。
更に翻訳も完璧なまでの気遣いがされていたので読みやすく、
全巻を一気に読み終えられました。ありがとう望月さん。
でもアンナのシーン読んでるときはハラハラして胃が痛くなって悲しくなりました。
リョーヴィン編は兎も角として
幾ら当時の宗教観を描いたとはいえアンナとブロンスキーに救いが無さすぎる…
(勿論それがテーマなんだろうけど)
戦争と平和みたいな「それでもアンドレイの思いは紡がれる!」といった救いが
マジで一切無いのは本当にキツかった。
カレーニンが中盤に一瞬だけ「戦争と平和」の覚醒ピエールみたいになって
(これはハッピーエンド来るか!?)と期待したのに…
最後の結末にカレーニン(とカレーニンの周囲の連中)ども、何か言うことあるだろ…って
思わず毒づきましたね。
しかし、これら全部含めてテーマなんだなと気付いたとき、
もう傑作と認めるしかなかったですね。
完全降伏です。
でも作中で一番好きなのはオブロンスキー。
いい加減で時には自制が出来ないけれど
物事自体に関しては実はよく分かってるおじさん大好き。
2019年8月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
アンナとキティの幸・不幸の分かれ目は何か?
出会いの良し悪しもありますが、アンナの拭い難い不信が彼女自身を破滅に追い込んだのでしょう。
猜疑心もほどほどに…そんな実感を与えてくれる一書。
出会いの良し悪しもありますが、アンナの拭い難い不信が彼女自身を破滅に追い込んだのでしょう。
猜疑心もほどほどに…そんな実感を与えてくれる一書。
2018年9月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現在手に入れやすいアンナ・カレーニナの邦訳は、岩波文庫版、新潮文庫版、光文社古典新訳文庫版の3つだが
一番読みやすい決定版は光文社古典新訳文庫版だ。文章の意味が明瞭であり人物名なども古めかしくない。
岩波新潮が3分冊に対して光文社は4分冊になっていて一冊、千円分くらい高いが訳で失敗はしないと思う。
一番読みやすい決定版は光文社古典新訳文庫版だ。文章の意味が明瞭であり人物名なども古めかしくない。
岩波新潮が3分冊に対して光文社は4分冊になっていて一冊、千円分くらい高いが訳で失敗はしないと思う。