主人公の松本康男は、戦闘訓練をほとんど受けたことのなかった整備兵だったが、昭和20年4月1日、沖縄の戦闘で部隊が壊滅。負傷した身で仲間二人と軍のある首里に向かうが、道路は敵だらけで山中を迂回することになる。行く先々に敵がいて、目的地に近付くことさえできず、１週間後、仲間は幻覚を見るようになり、敵兵を味方と間違えて飛び出し、銃殺され、康男も更に負傷する。自殺にも失敗し、壕に隠れながら、畑のイモを生のままかじって飢えをしのぐ、という日々を送っていた４月末、イモ掘りに来た難民キャンプの住民らに発見され、保護される。
難民キャンプの住民達は、米軍から食料の配給もあり、比較的自由でのどかな生活を送っていた。５月にはキャンプ内で小学校ができ、学歴のある康男らが先生に選ばれる。沖縄南部で悲惨な戦闘が繰り広げられていた時期に、首里より北部では、穏やかな生活があった。
この本を読んで感じたのは、日本軍の幹部の判断ミスによって、いかに多くの兵と沖縄住民が無駄死にさせられたか、ということである。幹部が別の決断をしていたら、多くの人が死なずにすんだのである。敗残兵は飢えに苦しみながら、山中を歩き回り、敵兵に見つかって殺されたり、野垂れ死にしたり、読むのが大変つらかった。
そして、日本軍と住民の間柄が非常に良好だったことがわかった。戦闘の前、康男らが村内を歩くと住民達が声を掛けてくれ、昼食をごちそうしてくれたり、昼寝させてくれたりした。敗残兵になって彷徨っていた時も、壕で出くわした難民達から食べ物を分けて貰えた。敗残部隊と難民が一緒になって山中を逃げ回ったケースもあった。
康男は沖縄の住民になるつもりでいたが、元日本兵だったことが米軍に知れたため、出頭し、捕虜収容所に収容された後、翌年故郷に帰る。すぐ沖縄に戻るつもりでいたが、兄が戦病死したため、家を継がなければならなくなり、またキャンプの仲間達とも連絡が取れなくなったため、沖縄に戻ることを断念した。１０年以上たってようやく、昔の仲間と連絡がつき、昭和48年以降、康男は何度も沖縄を訪れ、沖縄の人々と交流を続けた。小学校は姿を変えて、今も続いているという。テレビドラマか映画になってほしい作品である。
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