本書『最初の人間』は、作家カミュの未完の遺作、最後の小説です。
『最初の人間』というタイトルは、どういう意味か? 気になりました。
「『最初の人間』はいままでの道程を逆に辿り、自分の秘密を見つけようとするためのものだ」(441頁)
この本の目的。
「目次」に、「第二部 息子あるいは最初の人間」とありました。
この題目から、「最初の人間」とは、息子だということが分かりました。
巻末の「訳者あとがき」に、こんな言葉が記されていました。(訳者は大久保敏彦)
「この小説では、息子も父親も二人とも〈最初の人間〉なのだ」(440頁)
「経済的にも文化的にも何一つ引き継ぐものがなく、頼れる人間もいないままに、自分一人で成長していく人間、それが『最初の人間』である」(440頁)
「第二部」の最後の言葉を引用します。
「なぜなら先祖も記憶もない土地に生まれ、そこでは彼よりも前の世代の人たちの消滅はさらにまた全面的なものであり、老いは文明国で受けるような憂愁という救いを持っていなかったのだから」(340頁)
本書がカミュの自伝と重なる面があるとすれば、
カミュ自身も「最初の人間」と考えられます。
1913年 カミュが仏領アルジェリアに生まれる
1914年 父親が戦死
「先祖も記憶もない土地」とは、仏領アルジェリア。
「文明国」とは、フランス。
巻末の「補遺」に、「最初の人間(覚書と筋書)」(348頁)がありました。
その中に、「ジャンは最初の人間である」(350頁)。
「ジャン」って誰?
「第二部」の息子ジャックのことでしょう。「ジャック・コルムリイ」(53頁)
「ジャックは、他の仲間のことは気にせずに、ジョゼフとジャンと一緒に家の方に走って行った」(69頁) ジャンは、ジャックの仲間のひとりのようです。
本書『最初の人間』というタイトルは、誰が付けたのでしょう?
「初めて『最初の人間』という書名が書かれるのは1947年に作品の構想を記したとき」(435頁)
「1953年になって初めて具体的構想が記される」(435頁)
「補遺に記されている全体の構想とはまた違った面がある」(435頁)
カミュの「構想」は、あくまでも流動的で、確定していなかったようです。
「もしこの本が最初から終わりまで母親に宛(あ)てて書かれたとすれば、理想的だ――そして最後になって読者が彼女は字が読めないことを知れば――そうだ、それこそ理想的なのだが」(365頁)
字が読めない母親に宛てて本を書く?
面白い構想と言えば、面白いですけれど・・・
ここで「母親」が出てきましたので、母親について。
「父親の探求を通じてジャックはむしろ母親にたいするほとんど動物的な愛着を確信していくことになる」(440頁)
「人間は誰でも最初の人間であり、また誰も最初の人間ではない。それゆえ、彼は母親の足下に身を投げ出すのだ」(441頁)
「この本が最初から終わりまで母親に宛(あ)てて書かれたとすれば、理想的だ」(365頁)
「補遺」の中の、この言葉が、読者の心に残りました。
実現はしませんでしたが、そんな構想が理想的なのかな・・・
1960年 カミュ、突然、自動車事故死。未完原稿の入った鞄を持ったまま即死
1994年 本書の原書『 Le Premier homme 』が遺族らによって刊行される
未完原稿は、アルベール・カミュの手書きでした。
それを最初のタイプ原稿にしたのは、未亡人のフランシーヌ・カミュ。
「悪筆のカミュの原稿を解読できるのは夫人のフランシーヌと秘書のシュザンヌ・アニュリイだけだ、と言われていた」(433頁)
手書原稿とタイプ原稿とからテキストを確定したのは、娘カトリーヌ・カミュたち。
これらの人たちの根気強い協力があって初めて、
34年後にカミュの未完原稿が本になったのです。
ノーベル賞受賞作家の遺作『最初の人間』が読めることは、
読者としては、大変うれしい。感謝。
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最初の人間 (新潮文庫) 文庫 – 2012/10/29
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《2013年》カミュ生誕100年記念刊行。ノーベル賞作家の未完に終わった自伝的遺作。
イタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督により映画化された。
戦後最年少でノーベル文学賞を受賞したカミュは1960年、突然の交通事故により46歳で世を去った。友人の運転していた車が引き起こした不可解な事故の現場には愛用の革鞄が残されていた。中からは筆跡も生々しい大学ノート。そこに記されていたのは50年代半ばから構想され、ついに未完に終わった自伝的小説だった――。
綿密な原稿の精査によって甦った天才の遺作。補遺、注を付す。
【目次】
編者の注
第一部 父親の探索
二輪馬車の上で……
サン=ブリウー
3 サン=ブリウーとマラン(J・G)
4 子供の遊び
5 父親・その死 戦争・テロ
6 家族
エティエンヌ
6乙 小学校
7 モンドヴィ――植民地化と父親
第二部 息子あるいは最初の人間
1 リセ
鶏小屋と鶏の首切り
木曜日とヴァカンス
2 自己にたいする不可解さ
補遺
ノートI
ノートII
ノートIII
ノートIV
ノートV
最初の人間(覚書と筋書)
二通の手紙
原注
補遺の注
訳者あとがき
本文より
砂利道を走る覆いつき二輪馬車の上空で、大きな厚い雲が夕空を東の方に飛んでいた。三日前、雲は大西洋の上空で脹らみ始め、西風を待ってから、動きだし、初めはゆっくりと、その後はスピードをあげて、秋の燐光を発する海原の上を飛び、真っ直ぐに大陸へ向かってきた。一度モロッコの山の頂きで散り散りになった雲は、アルジェリアの高原地方でふたたび群れを作り、今やチェニジアとの国境に近づくと、チレニア海の方に抜けて、そこで姿を消そうとしていた。……(「二輪馬車の上で……」)
カミュ Camus, Albert(1913-1960)
アルジェリア生れ。フランス人入植者の父が幼時に戦死、不自由な子供時代を送る。高等中学(リセ)の師の影響で文学に目覚める。アルジェ大学卒業後、新聞記者となり、第2次大戦時は反戦記事を書き活躍。またアマチュア劇団の活動に情熱を注ぐ。1942年『異邦人』が絶賛され、『ペスト』『カリギュラ』等で地位を固めるが、1951年『反抗的人間』を巡りサルトルと論争し、次第に孤立。以後、持病の肺病と闘いつつ、『転落』等を発表。1957年ノーベル文学賞受賞。1960年1月パリ近郊において交通事故で死亡。
大久保敏彦(1937-2006)
横浜市生れ。早稲田大学大学院仏文博士課程修了。訳書にカミュ『最初の人間』『カミュの手帖 1935-1959』、グルニエ『存在の不幸』、『カミュ=グルニエ往復書簡 1932-1960』など。
イタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督により映画化された。
戦後最年少でノーベル文学賞を受賞したカミュは1960年、突然の交通事故により46歳で世を去った。友人の運転していた車が引き起こした不可解な事故の現場には愛用の革鞄が残されていた。中からは筆跡も生々しい大学ノート。そこに記されていたのは50年代半ばから構想され、ついに未完に終わった自伝的小説だった――。
綿密な原稿の精査によって甦った天才の遺作。補遺、注を付す。
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編者の注
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二輪馬車の上で……
サン=ブリウー
3 サン=ブリウーとマラン(J・G)
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6 家族
エティエンヌ
6乙 小学校
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1 リセ
鶏小屋と鶏の首切り
木曜日とヴァカンス
2 自己にたいする不可解さ
補遺
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最初の人間(覚書と筋書)
二通の手紙
原注
補遺の注
訳者あとがき
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砂利道を走る覆いつき二輪馬車の上空で、大きな厚い雲が夕空を東の方に飛んでいた。三日前、雲は大西洋の上空で脹らみ始め、西風を待ってから、動きだし、初めはゆっくりと、その後はスピードをあげて、秋の燐光を発する海原の上を飛び、真っ直ぐに大陸へ向かってきた。一度モロッコの山の頂きで散り散りになった雲は、アルジェリアの高原地方でふたたび群れを作り、今やチェニジアとの国境に近づくと、チレニア海の方に抜けて、そこで姿を消そうとしていた。……(「二輪馬車の上で……」)
カミュ Camus, Albert(1913-1960)
アルジェリア生れ。フランス人入植者の父が幼時に戦死、不自由な子供時代を送る。高等中学(リセ)の師の影響で文学に目覚める。アルジェ大学卒業後、新聞記者となり、第2次大戦時は反戦記事を書き活躍。またアマチュア劇団の活動に情熱を注ぐ。1942年『異邦人』が絶賛され、『ペスト』『カリギュラ』等で地位を固めるが、1951年『反抗的人間』を巡りサルトルと論争し、次第に孤立。以後、持病の肺病と闘いつつ、『転落』等を発表。1957年ノーベル文学賞受賞。1960年1月パリ近郊において交通事故で死亡。
大久保敏彦(1937-2006)
横浜市生れ。早稲田大学大学院仏文博士課程修了。訳書にカミュ『最初の人間』『カミュの手帖 1935-1959』、グルニエ『存在の不幸』、『カミュ=グルニエ往復書簡 1932-1960』など。
- 本の長さ443ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2012/10/29
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-104102114114
- ISBN-13978-4102114117
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登録情報
- 出版社 : 新潮社; 文庫版 (2012/10/29)
- 発売日 : 2012/10/29
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 443ページ
- ISBN-10 : 4102114114
- ISBN-13 : 978-4102114117
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 151,857位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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舞台でこの本をテキストにしていたことがきっかけでよんでみた。カミユの自伝とのこと、興味深い。
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この小説を読み始めた時には、カミュの自伝的作品のように考えていた。何故なら少年時代の生活の描写は、実に生き生きとしていて細部に至るまでが事実通りに詳述されているからだ。彼は貧民街に住み、世間とは貧しいながらも人種の違いに拘ることなく互いに助け合うものだと身をもって体験していた。しかしそこには自伝では描き切れないような大きな愛のテーマが流れている。アルジェリアの夏の強烈な青空、そして夏の終焉を告げる土砂降り、すべてを育む広大な海などの自然に対する美的感覚や畏怖の念は他の作品にも頻繁に表れるカミュの常套手段だ。また従来の宗教にとらわれない超越した宗教観も彼が生涯持ち続けた哲学だろう。おそらくは彼の数少ない本当の友人の一人、ロジェ・マルタン・デュ・ガールが書いた大河小説『チボー家の人々』のような作品を構想していたのではないだろうか。つまりたまたま遺された部分が彼の幼少期の忠実な描写になったに違いないと思わせる。
カミュの小学校時代の担任であり、彼が生涯に亘って交流を続けた教師ルイ・ジェルマンとの逸話は感動的だ。カミュの家は祖母が総てを取り仕切っていて、彼が小学校を終えた時、当然祖母は一家の稼ぎ手として働かせるつもりだったが、ジェルマンはカミュの能力を見極めて彼女を説得して上級学校リセの試験を受けさせる。試験当日の朝、他の生徒三人と共にリセに連れて行き、クロワッサンをふたつずつ買ってきて食べさせる先生の姿は微笑ましいだけでなく彼らの信頼関係を物語っている。カミュは奨学金を受けて食事つき半寄宿生となるが、ジェルマンでさえ彼が将来ノーベル文学賞を授与されるとは夢想だにしなかっただろう。巻末にカミュとジェルマンがお互いに送った手紙が収録されている。
惜しむらくはこの小説が彼のアイデアを書き留めた草稿段階で断ち切られてしまったことだが、そこには大まかな筋立てと推敲に必要な多くの走り書きが存在する。確かに同じ登場人物が実名で書かれたり、別の名前で出てきたりするのはややこしいが、読み進むと苦にならない。『最初の人間』という題名について、この遺作を編纂したカミュの娘カトリーヌは次のように語っている。「貧乏な人たちは人知れず、忘れ去られていく運命を余儀なくされています。この匿名性によって次の世代を背負う人たちはそれぞれ最初の人間となるのです。この小説では、息子も父親も二人とも最初の人間なのだと思います。父親は孤児院の出身ですし、若死にしたので、息子に何一つ伝えてやれなかったのです。それにこんな言葉もあります。つまりアルジェリアは忘却の土地であり、そこでは誰もが最初の人間であると」
カミュの小学校時代の担任であり、彼が生涯に亘って交流を続けた教師ルイ・ジェルマンとの逸話は感動的だ。カミュの家は祖母が総てを取り仕切っていて、彼が小学校を終えた時、当然祖母は一家の稼ぎ手として働かせるつもりだったが、ジェルマンはカミュの能力を見極めて彼女を説得して上級学校リセの試験を受けさせる。試験当日の朝、他の生徒三人と共にリセに連れて行き、クロワッサンをふたつずつ買ってきて食べさせる先生の姿は微笑ましいだけでなく彼らの信頼関係を物語っている。カミュは奨学金を受けて食事つき半寄宿生となるが、ジェルマンでさえ彼が将来ノーベル文学賞を授与されるとは夢想だにしなかっただろう。巻末にカミュとジェルマンがお互いに送った手紙が収録されている。
惜しむらくはこの小説が彼のアイデアを書き留めた草稿段階で断ち切られてしまったことだが、そこには大まかな筋立てと推敲に必要な多くの走り書きが存在する。確かに同じ登場人物が実名で書かれたり、別の名前で出てきたりするのはややこしいが、読み進むと苦にならない。『最初の人間』という題名について、この遺作を編纂したカミュの娘カトリーヌは次のように語っている。「貧乏な人たちは人知れず、忘れ去られていく運命を余儀なくされています。この匿名性によって次の世代を背負う人たちはそれぞれ最初の人間となるのです。この小説では、息子も父親も二人とも最初の人間なのだと思います。父親は孤児院の出身ですし、若死にしたので、息子に何一つ伝えてやれなかったのです。それにこんな言葉もあります。つまりアルジェリアは忘却の土地であり、そこでは誰もが最初の人間であると」
2014年5月31日に日本でレビュー済み
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アルベール・カミュが、交通事故によって不慮の死を遂げたのは、1960年1月4日。
その、事故現場で発見された革のカバンに入っていたのが、この、「最初の人間」の原稿だった。
そして、34年後、娘のカトリーヌによって確定されたこの小説が発行される。
あっという間に発行され、あっという間に消えてゆく本が氾濫するこの現代社会において、
こんなにもひとびとに待たれ、ていねいに時間をかけて編まれた本があるだろうか?
じつは、1995年に新潮社の雑誌に掲載された時にも購入し、その後単行本になった時にも購入し、今度は文庫本で購入。
この20年というもの、きちんと読んでこなかったのです。しばらく、カミュから離れていたので。
映画化されたのを知ったのもつい最近でした。
今度こそ心して読みたい。私にとっては、最後の読書となっても。
その、事故現場で発見された革のカバンに入っていたのが、この、「最初の人間」の原稿だった。
そして、34年後、娘のカトリーヌによって確定されたこの小説が発行される。
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この20年というもの、きちんと読んでこなかったのです。しばらく、カミュから離れていたので。
映画化されたのを知ったのもつい最近でした。
今度こそ心して読みたい。私にとっては、最後の読書となっても。
2016年1月25日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
カミュの遺作となってしまった自伝的作品。カミュの没後50年、生誕100年を立て続けに迎えたこと、この作品がカミュの死後も遺族の意思により、長年非公開であったということ、昨今のカミュ研究の行き詰まり感、悪く言うとネタ切れ感などから少しばかり過大評価され過ぎの感じがしました。
自伝的作品は作者の周辺を読み解く鍵となるという点で、非常に興味深いが、反面作品自体の面白さがあるかということが問題となります。それまでの『異邦人』『ペスト』『転落』などにあったカミュらしさが薄く、さらに草稿段階であることから全体としてまとまりを欠いた感じがします。
これ以降どのような作品が書けたのか、そう思わせると残念でなりません。
自伝的作品は作者の周辺を読み解く鍵となるという点で、非常に興味深いが、反面作品自体の面白さがあるかということが問題となります。それまでの『異邦人』『ペスト』『転落』などにあったカミュらしさが薄く、さらに草稿段階であることから全体としてまとまりを欠いた感じがします。
これ以降どのような作品が書けたのか、そう思わせると残念でなりません。