考古学的な知見を元に筆者の自説をまとめたのが本著です。結論を急がず両論併記の形も多いですが、自説に合わないDNA的な知見には触れません。考古学的な知見は新しいものも含めて豊富ですが、余談が多い割にDNA的な知見に乏しく、筆者の推論や結論には全く説得力がありません。お値段もやや高め、⭐️は2に近い3とします。
以下、言ってもせんない感想になってしまいますが・・・、
まず、筆者の珍妙なこだわりの1例として、シナドントが北京原人由来だと期待しています。本著の説明には無いですが、原人のDNAの東アジア人への遺伝はあまり考えられません。デニソワに原人の遺伝子があるとか、謎の人類からの遺伝とかいう説も有りますが、それらを足してもせいぜい1%未満でしょう。しかも、北京原人がデニソワまたは謎の人類の祖先である事を証明しなければなりません。ゲノムの1%で200個程度の遺伝子に換算できますが、そこにシナドントの決定因子(群)がなければなりません。可能性がゼロではありませんが、説明もなく夢見がちなのは甚だ苦痛です。
この1例に留まらず、他にも弥生開始年を前950年から前750年ぐらいに修正しようとしたり、理論的に怪しい理由で自説を正当化しようとしています。サイエンスリテラシーに乏しいなら自説を捨て、最新のDNAモデルに追随して筆者の豊富な考古学的知識を並べ替えていく方がはるかに魅力的かもしれません。DNA的に示唆された日本人の3重構造モデルでは、主な渡来が弥生期に先立って縄文期、4400年前から3000年前に起きたといわれています。多少時期的ズレは有りますが、例えばp.147の華奢な縄文人から堅牢な縄文人への遷移をぴったり説明できるでしょう。また、骨の形態的に縄文人によく似た西九州弥生人は、縄文人と(やや南方の)東アジア人の混血である事がDNA的に示されました。さらに、渡来系弥生人といわれる北九州弥生人はさらに混血が進んで、大陸よりとはいえ現生日本人クラスター内に位置します。ところが本著にも登場するこれらの重要な弥生人の上記のDNA的な知見は全く記述されていません。筆者にとっては受け入れられない事でしょうが、おそらく本著の内容は解析を含めて根本的なやり直しが必要です。
最後に、p.300の1節「・・・男性主体の渡来を想定しているわけだが、・・・決して安全ではない当時の海を越えての渡航を考えれば、このような想定もあながち不合理ではないだろう。」に注目します。というのも現在の日本人や東アジア人、縄文人などのy染色体型とmtDNA型は、渡来人の多くが女性である事を示しています。さらにp.278に出てくる青谷上寺地遺跡でも、本著にはありませんが女系が渡来系で男系が主に縄文系である事が示されました。この仕事を手がけ、本著にも筆者の仕事仲間として登場する篠田氏は、これまでに日本人女性の北海道であったり朝鮮半島への渡海・進出を述べられる一方で、東アジア人女性の日本への渡海・進出を強く否定してきました。青谷上寺地遺跡の結果が出てからでも、縄文人男性が渡海し東アジア人女性を伴ってUターンした可能性も指摘したりと、決して東アジア人女性の渡海・日本進出をストレートに認めません。こうした人類グループに偏った不愉快な主張が不思議だったわけですが、上記の一節は、人類グループに偏った思想・信条ではなく、考古学者の頑迷さによるものという可能性を示しています。非常に罪深い一著だと考えます。
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日本人の起源 人類誕生から縄文・弥生へ (講談社学術文庫) 文庫 – 2019/1/12
中橋 孝博
(著)
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日本列島の旧石器時代はどこまでさかのぼれるのか?
縄文から弥生への移行の真相は?
遠くアフリカ大陸に誕生した人類が、どのようにしてここまでたどり着いたのか?
「わたしたちはどこから来たのか」をめぐる、明治から現在まで白熱し続ける大論争を、最新人類学の到達点から一望検証。
いま、どこまでわかっているのか。残される謎は何か。日本人の最大にして不変の関心に、古人類学の第一人者が、深く、わかりやすく解説します。
【本書の内容】
第一章 太古の狩人たち――旧石器時代の日本列島人
第二章 人類の起源と進化
第三章 アジアへ、そして日本列島へ
第四章 日本人起源論――その論争史
第五章 縄文人から弥生人へ
第六章 倭国大乱から「日本」人の形成へ
縄文から弥生への移行の真相は?
遠くアフリカ大陸に誕生した人類が、どのようにしてここまでたどり着いたのか?
「わたしたちはどこから来たのか」をめぐる、明治から現在まで白熱し続ける大論争を、最新人類学の到達点から一望検証。
いま、どこまでわかっているのか。残される謎は何か。日本人の最大にして不変の関心に、古人類学の第一人者が、深く、わかりやすく解説します。
【本書の内容】
第一章 太古の狩人たち――旧石器時代の日本列島人
第二章 人類の起源と進化
第三章 アジアへ、そして日本列島へ
第四章 日本人起源論――その論争史
第五章 縄文人から弥生人へ
第六章 倭国大乱から「日本」人の形成へ
- 本の長さ368ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2019/1/12
- 寸法10.7 x 1.6 x 14.8 cm
- ISBN-104065144310
- ISBN-13978-4065144312
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商品の説明
著者について
中橋 孝博
1948年、奈良県に生まれる。九州大学大学院博士課程中退。現在、九州大学名誉教授。博士(医学)。主な編著書に『倭人への道』(歴史文化ライブラリー)、『古代史の流れ』(共著、岩波書店)、『Ancient people of the Central Plains in China』(編著、九州大学出版会)などがある。
1948年、奈良県に生まれる。九州大学大学院博士課程中退。現在、九州大学名誉教授。博士(医学)。主な編著書に『倭人への道』(歴史文化ライブラリー)、『古代史の流れ』(共著、岩波書店)、『Ancient people of the Central Plains in China』(編著、九州大学出版会)などがある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2019/1/12)
- 発売日 : 2019/1/12
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 368ページ
- ISBN-10 : 4065144310
- ISBN-13 : 978-4065144312
- 寸法 : 10.7 x 1.6 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 356,465位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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トップレビュー
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2019年4月6日に日本でレビュー済み
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2024年4月8日に日本でレビュー済み
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日本人の起源について、旧石器、縄文、弥生、その後と時代を分けて、旧い学説から新しいものまで分かりやすく説いていて、概観するにはよい本と思う。しかし、結局日本人の起源はどうなのかを断定しているわけではなく(若干ほのめかしてはいるが)、その点では満足感はない。各学説を系統図的にまとめたものをつけてくれれば、有り難かったと思う。
2019年4月18日に日本でレビュー済み
『日本人の起源――人類誕生から縄文・弥生へ』(中橋孝博著、講談社学術文庫)は、日本列島人の起源を考えるとき、知識を整理するのに恰好の一冊です。
いつ、どこから、どのような人類が日本列島にやってきたのか、縄文人とはいかなる人々か、渡来系弥生人とはいかなる人々か、縄文人と弥生人の関わり合いはいかなるものだったのか、アイヌとはいかなる人々か、琉球人とはいかなる人々か――等々について、さまざまな学説がバランスよく紹介されています。その上で、古人類学者としての著者の推考が述べられているが、さらなる古人骨や石器など新資料の発見やDNA分析を待たねば確定的なことは言えないという姿勢に好感が持てます。
いつ、どこから、どのような人類が日本列島にやってきたのか、縄文人とはいかなる人々か、渡来系弥生人とはいかなる人々か、縄文人と弥生人の関わり合いはいかなるものだったのか、アイヌとはいかなる人々か、琉球人とはいかなる人々か――等々について、さまざまな学説がバランスよく紹介されています。その上で、古人類学者としての著者の推考が述べられているが、さらなる古人骨や石器など新資料の発見やDNA分析を待たねば確定的なことは言えないという姿勢に好感が持てます。
2020年2月22日に日本でレビュー済み
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いつもの段ボール箱に、ほかの一冊と一緒に、スカスカに梱包され、帯が破け、もう一冊の方も仲が折れていました。珍しいなと思いました。どうしたのでしょう! 読む分には問題ありません。綺麗な商品なだけに、惜しい!
2020年4月6日に日本でレビュー済み
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形態学は古いという印象を持っていたが、遺伝子研究の新情報も踏まえて、形態学の具体的研究方法もわかり、日本人祖先に関する研究状況がほぼ押さえられているようだ。関心の真ん中を読めた気がする。
それだけに、遺伝研究の人にありがちな陥穽が記述に垣間見える点が気になった。女子学生への講義で、自身の耳垢の特徴を挙手してもらいながら、その後その特徴が腋臭と関連付くとの知見を披露するのは良識ある講義法とは思えない。また、中世の特徴として反っ歯の骸骨を見たときに自分が中世に生まれなくてよかったとの実感を敢えて記すのも、美醜差別の感情露呈の印象が強く不快感がある。男性の平均身長160センチ以下の集団はホッテントットだけだという記述は客観的事実なら当然の記述だろうが、言い回しには気を付けたほうがいい。遺伝研究がなんとなくマイナーなイメージに陥りがちな理由はそのあたりの配慮不足にもありそうな気がする。
それだけに、遺伝研究の人にありがちな陥穽が記述に垣間見える点が気になった。女子学生への講義で、自身の耳垢の特徴を挙手してもらいながら、その後その特徴が腋臭と関連付くとの知見を披露するのは良識ある講義法とは思えない。また、中世の特徴として反っ歯の骸骨を見たときに自分が中世に生まれなくてよかったとの実感を敢えて記すのも、美醜差別の感情露呈の印象が強く不快感がある。男性の平均身長160センチ以下の集団はホッテントットだけだという記述は客観的事実なら当然の記述だろうが、言い回しには気を付けたほうがいい。遺伝研究がなんとなくマイナーなイメージに陥りがちな理由はそのあたりの配慮不足にもありそうな気がする。
2020年10月17日に日本でレビュー済み
広範な範囲を丹念に実証して積み重ねる手法は、常識と安定感、説得力に満ちており、著者の悠々としていながら、緻密な叙述を成功させている。平凡であるが、随所で披露されるそのライト・モチーフともいうべき真実への近似値は、読者の胸に鳴り響いてやむことがない。大きな枠を緻密な論証の積み重ねた、碩学による労作は、現時点でのまとめとして、今後の指針として役立つ。学究として範とするに足る。
2021年2月20日に日本でレビュー済み
良く言えば、大変客観的、冷静、公正、正直、慎重な著作であると思います。「これで分かった日本人の起源!」などというセンセーショナルな文言は一切ありません。分かっている事実だけを淡々と積み上げて行きます。AとBは整合性があるが、Cとは矛盾するからこれも採用できない、、、、といった記述が延々と続きます。将来、新たな事実が判明しても、著者の述べたことは絶対に否定されないと思います。分かっていることしか述べていませんから。
著者が実施しているような基礎研究/調査/分析はきっと将来役に立つのだろうと思います。地味な作業ですが必要不可欠な作業ですよね。
しかし結局、日本列島にいた石器時代人とは、縄文人とは、弥生人とは、中世人とは、現代人とは、、、、何も分かっていない! というのが現状のようだ、ということが分かりました。ま、アフリカを出て、いつしか日本列島まで到達した、という説は否定していないようですが。
相沢忠洋の岩宿遺跡発掘から記述が始まり、世界中の考古学の先人たちの活動の歴史を縷々述べる一連の流れは、興味深いものがあります。
著者が実施しているような基礎研究/調査/分析はきっと将来役に立つのだろうと思います。地味な作業ですが必要不可欠な作業ですよね。
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相沢忠洋の岩宿遺跡発掘から記述が始まり、世界中の考古学の先人たちの活動の歴史を縷々述べる一連の流れは、興味深いものがあります。
2019年4月19日に日本でレビュー済み
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データを多用して、説得力があり、面白い。但し、緻密過ぎる面がある。