先日、NHK番組でノーベル化学賞受賞者の田中耕一氏の、その後について放送していた。田中耕一氏は受賞後に、周囲からの期待が重荷となり、長くてつらい時期を過ごされる。自らが立てたテーマの困難に行き詰まり成果が出ず、そのテーマを自分が立てたかどうかさえ分からなくなってくる。しかし彼を救ったのは、その間の彼の行動だった。異なる専門領域の多くの研究者、とりわけ若い研究者たちに会いに行くことで、その領域の専門家であれば可能性がないと見向きもしないことに、田中氏が専門ではないがゆえに取り組むことで、若い研究者とともに思わぬ成果を上げることができた。田中氏は振り返られて、これからの日本の科学に必要なこととして、「イノベーション」を挙げられた。彼によると、イノベーションは、通常の日本語訳では技術革新だが、言葉の本来の意味から、「新結合」「新しい捉え方」「新しい解釈」であり、そのことが新しい発見につながり科学を前進させるとのことだった。
柄谷氏の著作を以前から読み続けているが、なぜ彼の著作に惹かれるのか、なぜ面白く感じるのか、考えてみると、柄谷氏はイノベーターだからと思い至った。可能性の中心、変形的読解、トランスクリティーク等、色々な呼称はあれども、彼の著作に本質的にイノベーションを感じるからではなかろうか。各領域についての教科書的な解説や定説ではなく、思わぬ視点や横断的な補助線から見えてくること、そこに立ち会える。
柄谷氏が以前、様々な領域の専門家たちと対話した『ダイアローグ』『思考のパラドックス』は、文庫で再発刊してもらいたいもののひとつである。
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世界史の実験 (岩波新書 新赤版 1762) 新書 – 2019/2/21
柄谷 行人
(著)
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大勢の死者が出た東北大震災の後、著者は柳田国男が戦争末期に書いた『先祖の話』を読み返す。外地で戦死した若者たちの霊を思う柳田にとって「神国日本」とは、世界人類史の痕跡を留める「歴史の実験」場だった。柳田の思考の「方法」を見極め、ジャレド・ダイアモンド、エマニュエル・トッドらを援用した卓抜な世界史次元での「文学」と「日本」批評。
- 本の長さ204ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2019/2/21
- 寸法10.7 x 0.9 x 17.3 cm
- ISBN-104004317622
- ISBN-13978-4004317623
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商品の説明
著者について
柄谷行人(からたに こうじん)
1941年生まれ.思想家.
『定本柄谷行人集』『定本柄谷行人文学論集』『哲学の起源』(岩波書店),『トランスクリティーク』『定本日本近代文学の起源』『世界史の構造』(岩波現代文庫),『世界共和国へ』『憲法の無意識』(岩波新書),『遊動論』(文春新書)ほか著書多数.
1941年生まれ.思想家.
『定本柄谷行人集』『定本柄谷行人文学論集』『哲学の起源』(岩波書店),『トランスクリティーク』『定本日本近代文学の起源』『世界史の構造』(岩波現代文庫),『世界共和国へ』『憲法の無意識』(岩波新書),『遊動論』(文春新書)ほか著書多数.
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2019/2/21)
- 発売日 : 2019/2/21
- 言語 : 日本語
- 新書 : 204ページ
- ISBN-10 : 4004317622
- ISBN-13 : 978-4004317623
- 寸法 : 10.7 x 0.9 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 125,979位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 519位歴史学 (本)
- - 576位岩波新書
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- カスタマーレビュー:
著者について
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1941年生まれ。評論家 (「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 世界史の構造 (ISBN-13: 978-4000236935 )』が刊行された当時に掲載されていたものです。)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2019年2月26日に日本でレビュー済み
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2019年12月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者は前著「世界史の構造」で、交換様式に基づいて、マルクスの「資本論」を読み解き、交換様式A:互酬性に基づく社会構成体、交換様式B:略取と再分配に基づくアジア的、古典古代的、封建的社会構成体、交換様式C:商品交換に基づく資本主義構成体と分類した。この著作は、柳田国男の論文「実験の史学」をスタートに、交換様式Aの内容を、柳田の著作を読み解きながら豊かにする試みである。
とても読みやすく、柳田の著作を読み慣れない評者にも面白く読むことができた。
とても読みやすく、柳田の著作を読み慣れない評者にも面白く読むことができた。
2019年3月2日に日本でレビュー済み
『世界史の構造』を書いた著者の実証編である。人類学者ジャレド・ダイアモンドの「自然実験」の手法に着目し、そこから柳田国男の「実験の史学」に思いを馳せる。柳田国男の評伝的記述が前半を埋め尽くす。後半に入り、著者は、農政改革者としての柳田の実践を取り上げる。それは、共同体的土地所有としての山林であり、そこから追われた山地民と漂泊民「山人(やまびと)」の発見、政府の神社合祀令による「先祖の神」の破壊、村人の天皇崇拝への一元化である。柳田は東北の寒村に生産協同組合の先駆を見いだす。
ここまで来ると、著者の発想は、独立小生産者の生産協同組合を介して西洋近代に成立した市民=独立小生産者の連帯の思想としてカントとマルクスを横断する『トランスクリティーク』とリンクする。著者の思い描く理想的社会は独立小生産者の生産協同組合にあったのだ。それを柳田国男の民俗学=新国学に発見したのである。著者特有の理論的で難解な抽象的記述はなく、具体的な記述は大変面白く、柳田国男の評伝としても読める。お勧めの一冊だ。
ここまで来ると、著者の発想は、独立小生産者の生産協同組合を介して西洋近代に成立した市民=独立小生産者の連帯の思想としてカントとマルクスを横断する『トランスクリティーク』とリンクする。著者の思い描く理想的社会は独立小生産者の生産協同組合にあったのだ。それを柳田国男の民俗学=新国学に発見したのである。著者特有の理論的で難解な抽象的記述はなく、具体的な記述は大変面白く、柳田国男の評伝としても読める。お勧めの一冊だ。
2019年6月1日に日本でレビュー済み
私は哲学というものを学問としてきちんと修めた者ではありません。
ですから柄谷さんの著書も、理詰めできちんと理解しながら読むというのではなく
あくまで自分流に読んで楽しんでいるだけです。
自分流とはどういうことか
柄谷氏の著書は至るところに
どきっとするほど鋭利な「ものを考えるヒント」がちりばめられています。
それらのヒントを見つけ出し、見つけ出す都度立ち止まって色んなことを考える。
自分のそれまでの考え方を修正したり
謎解きに夢中になって時間を忘れたり
そういう作業がたまらなく楽しいのです。
ただ、最初に申し上げたように私は哲学のシロウトですから
カントやマルクスといったあたりを真っ向から取り上げられるとやはりついていけないところがあるんですよね。
でも、この本のテーマである柳田国男は私が昔から大好きで
著書もかなり熱心に読んできている思想家ですから
私にとってはちょうどいい。
「遊動論」も面白かったし
「小さきものの思想」も柳田の魅力を再認識させてくれる名編集でした。
「柳田国男論」ももちろん手に取って、夢中で読みました。
そんな風に柄谷さんの語る柳田国男の魅力にどっぷりハマッてしまった私ですから
今回の「世界史の実験」の最初のページをどれほどドキドキしながら開いたか十分お察しいただけるでしょう。
なのに…あれ?
なんだかノッていけないぞ~
あれっ、あれっ?
書いてあることがこれまでみたいにうまく頭に入ってこない…
お前の理解力がないだけだろと言われればそれまでですが
どなたか私と同じような感想持った人はいらっしゃいませんか。
なんだかこれまでの柳田モノと比べて散漫なところがあるというか
柄谷さんが何をおっしゃりたいのかよく分からないというか…
こんな物分かりの悪いの、私だけでしょうか。
ですから柄谷さんの著書も、理詰めできちんと理解しながら読むというのではなく
あくまで自分流に読んで楽しんでいるだけです。
自分流とはどういうことか
柄谷氏の著書は至るところに
どきっとするほど鋭利な「ものを考えるヒント」がちりばめられています。
それらのヒントを見つけ出し、見つけ出す都度立ち止まって色んなことを考える。
自分のそれまでの考え方を修正したり
謎解きに夢中になって時間を忘れたり
そういう作業がたまらなく楽しいのです。
ただ、最初に申し上げたように私は哲学のシロウトですから
カントやマルクスといったあたりを真っ向から取り上げられるとやはりついていけないところがあるんですよね。
でも、この本のテーマである柳田国男は私が昔から大好きで
著書もかなり熱心に読んできている思想家ですから
私にとってはちょうどいい。
「遊動論」も面白かったし
「小さきものの思想」も柳田の魅力を再認識させてくれる名編集でした。
「柳田国男論」ももちろん手に取って、夢中で読みました。
そんな風に柄谷さんの語る柳田国男の魅力にどっぷりハマッてしまった私ですから
今回の「世界史の実験」の最初のページをどれほどドキドキしながら開いたか十分お察しいただけるでしょう。
なのに…あれ?
なんだかノッていけないぞ~
あれっ、あれっ?
書いてあることがこれまでみたいにうまく頭に入ってこない…
お前の理解力がないだけだろと言われればそれまでですが
どなたか私と同じような感想持った人はいらっしゃいませんか。
なんだかこれまでの柳田モノと比べて散漫なところがあるというか
柄谷さんが何をおっしゃりたいのかよく分からないというか…
こんな物分かりの悪いの、私だけでしょうか。
2019年9月17日に日本でレビュー済み
1941年生まれの思想家・柄谷行人氏の近年の活動は、『世界史の構造』(岩波書店、2010年)に代表されるように、世界史における社会構成体の歴史を「交換様式」から整理し、資本=ネーション=国家の三位一体構造として世界を席巻しているグローバリズムの克服への一連の試み、と言ってよいだろう。
本書で著者は、柳田国男の1935年の論文「実験の史学」(筑摩書房版・柳田國男全集27所収)に徹底的にこだわる。著者は評論家としての駆け出し時代の1973年に早くも「柳田国男試論」を発表している。世界史に関する考察など40年以上の思索を経た現在、再び柳田国男に回帰したことになる。柳田国男の多領域の学問は体系的でないとして吉本隆明などにより批判されているが、著者はそうは考えず「実験の史学」や民俗学に柳田独自の方法論を見出し、高く評価する。
「歴史は実験できない」というのが一般的な常識だが、柳田国男の「実験の史学」はそうは考えない。様々な民族間はもちろん、自国内でも地域間の風俗習慣を比較分析することで文書化されていない歴史の積み重ねが浮かび上がる、というものである。柳田国男の「民俗学」の真意は、風俗習慣の比較分析は一種の歴史の実験である、というところにある。ジャレド・ダイアモンドらの『歴史は実験できるのか-自然実験が解き明かす人類史』(慶應義塾大学出版会、2018年)を遥か以前に先取りしていることになる。柳田が「山人」を終生追求し続けたのも、日本国内における「実験の史学」により、先史時代からの歴史を読み解くためだったという。
本書は『世界史の構造』とは異なり、まだ体系化された思想とまではいかないが、そこへ至る興味深い素材を提示したと考えられる。柳田国男という日本が生み出した、世界的な視野を持った思想家を参照しながら、どのように柄谷氏自らの思想として換骨奪胎し体系化するのか、今後が楽しみである。
本書で著者は、柳田国男の1935年の論文「実験の史学」(筑摩書房版・柳田國男全集27所収)に徹底的にこだわる。著者は評論家としての駆け出し時代の1973年に早くも「柳田国男試論」を発表している。世界史に関する考察など40年以上の思索を経た現在、再び柳田国男に回帰したことになる。柳田国男の多領域の学問は体系的でないとして吉本隆明などにより批判されているが、著者はそうは考えず「実験の史学」や民俗学に柳田独自の方法論を見出し、高く評価する。
「歴史は実験できない」というのが一般的な常識だが、柳田国男の「実験の史学」はそうは考えない。様々な民族間はもちろん、自国内でも地域間の風俗習慣を比較分析することで文書化されていない歴史の積み重ねが浮かび上がる、というものである。柳田国男の「民俗学」の真意は、風俗習慣の比較分析は一種の歴史の実験である、というところにある。ジャレド・ダイアモンドらの『歴史は実験できるのか-自然実験が解き明かす人類史』(慶應義塾大学出版会、2018年)を遥か以前に先取りしていることになる。柳田が「山人」を終生追求し続けたのも、日本国内における「実験の史学」により、先史時代からの歴史を読み解くためだったという。
本書は『世界史の構造』とは異なり、まだ体系化された思想とまではいかないが、そこへ至る興味深い素材を提示したと考えられる。柳田国男という日本が生み出した、世界的な視野を持った思想家を参照しながら、どのように柄谷氏自らの思想として換骨奪胎し体系化するのか、今後が楽しみである。
2019年4月28日に日本でレビュー済み
前半は①柳田国男やジャレド・ダイアモンド、の読みの中から見出される「歴史の実験」という方法論、②それを民俗学的に日本にあてはめて得られる日本的なるものの正体(普通選挙のダメさ、神道のずれ、私小説化する自然主義文学など)。
後半は③遊動民(山人)の歴史的考察から(なぜかゾミアは触れられていない)、④トッドを援用しながらの母系制・父系制・双系制といった分析から、なぜ日本は「する」ではなく「なる」社会なのか、とレベルの高い歴史エッセー。
岩波新書ということである程度の起承転結を期待して読み始めたが、いろいろな連載などを集めたせいか、焦点は定まらないので、エッセーだと思って読むと落ち着く。柄谷先生も喜寿ですか。読んで書く、その姿勢は勉強になります。
後半は③遊動民(山人)の歴史的考察から(なぜかゾミアは触れられていない)、④トッドを援用しながらの母系制・父系制・双系制といった分析から、なぜ日本は「する」ではなく「なる」社会なのか、とレベルの高い歴史エッセー。
岩波新書ということである程度の起承転結を期待して読み始めたが、いろいろな連載などを集めたせいか、焦点は定まらないので、エッセーだと思って読むと落ち着く。柄谷先生も喜寿ですか。読んで書く、その姿勢は勉強になります。
2019年10月9日に日本でレビュー済み
私が柳田国男のことを初めて知ったのはたしか大学一年のころ、吉本隆明の「共同幻想論」を読んでからだったと思う。吉本の著作は国家論というふれこみで理解に苦しんだが、柳田の「遠野物語」から多くを引用していたことを記憶している。その後、「明治大正史 世相篇」「海上の道」「山の人生」などをつまみ食いするように何冊か読んだが、こういうものが民俗学の書かと思っただけで、あまり強い印象を持てなかった。膨大な著作を残した柳田という鬱蒼とした森を前にして迷子にならずにどう分け入って行くべきか、途方に暮れていたと言ってもよい。フィールドワークを重視する民俗学は社会科学のような理論的、体系的な学問とは異質だと勝手に決めつけていたのである。柄谷氏はそんな柳田をどう読むべきか、その良きお手本を示してくれた。その試みの一つが本書である。
「第一部 実験の史学をめぐって」は興味深い見事な柳田国男論になっている。柳田の学問は広範な領域にわたり一見体系的には見えないが、内的体系性を備えているのではないかと氏は指摘する。そしてジャレド・ダイアモンドがポリネシアの島々の歴史的差異を比較考察した「歴史の自然実験」という視点を手がかりとして、氏は柳田も同様の比較分析の視点を歴史に持ちこんで「実験の史学」(1935年)を著わしたのではないかと洞察した。たとえば列島中央から東西、あるいは南北に広がった言語は中央で消滅していても、東北や九州の辺境で方言として残っていたりする。つまり周縁に「歴史の古層」が存在する。東西に細長く延びた日本列島はその最適な「実験」場であることを柳田は見いだした。地方ごとに異なる事象を比較観察し、その空間的差異を時間的差異に読みかえることで、生活文化の歴史が明かされるというのが、柳田の歴史把握の方法だと言うのである。そして氏は「柳田は民俗学者ではなく、民俗学を方法とした歴史家である」(p21)と見なす。
柳田が「実験の史学」の着想をえたのは、1921年柳田が新渡戸稲造からの誘いで国際連盟委任統治委員となって、ジュネーブに滞在するようになって以後と言う。氏によればその当時ある意味で壮大な世界史の実験が進行中だった。言うまでもなく一つはロシア革命である。これはマルクスの提起した社会主義革命の理念によって引き起こされたものだ。もう一つは国際連盟の創設で、これはカントが「永久平和論」で展開した理念を国際システムとして具現化したものだと氏は指摘する。この柄谷氏の見立ては鋭く、われわれ読者の腑に落ちさすがと言わざるをえない。そしてこうした二十世紀の歴史の実験が失敗に終わったことは、一方は1939年の第二次世界大戦の勃発によって、他方は1991年のソビエト連邦の崩壊によって無惨に証明されてしまったが…………
柄谷氏によれば、柳田はその国際連盟の仕事に関わる経験を経て得た世界史的な視座を備えた「実験の史学」の方向性を一時断念し、一国民俗学、固有信仰の探求へと向かったが、敗戦後、枢密院顧問として幣原内閣の憲法制定審議に加わったのは、戦争を二度と起こさぬための「新たな社会組織」(=憲法九条)の創出という「実験」の企てを意図したからではなかったかと推察している。その意味で柳田は転向したのではなく、思想的一貫性を内に持ち続けてきたのである。
「第一部 実験の史学をめぐって」は興味深い見事な柳田国男論になっている。柳田の学問は広範な領域にわたり一見体系的には見えないが、内的体系性を備えているのではないかと氏は指摘する。そしてジャレド・ダイアモンドがポリネシアの島々の歴史的差異を比較考察した「歴史の自然実験」という視点を手がかりとして、氏は柳田も同様の比較分析の視点を歴史に持ちこんで「実験の史学」(1935年)を著わしたのではないかと洞察した。たとえば列島中央から東西、あるいは南北に広がった言語は中央で消滅していても、東北や九州の辺境で方言として残っていたりする。つまり周縁に「歴史の古層」が存在する。東西に細長く延びた日本列島はその最適な「実験」場であることを柳田は見いだした。地方ごとに異なる事象を比較観察し、その空間的差異を時間的差異に読みかえることで、生活文化の歴史が明かされるというのが、柳田の歴史把握の方法だと言うのである。そして氏は「柳田は民俗学者ではなく、民俗学を方法とした歴史家である」(p21)と見なす。
柳田が「実験の史学」の着想をえたのは、1921年柳田が新渡戸稲造からの誘いで国際連盟委任統治委員となって、ジュネーブに滞在するようになって以後と言う。氏によればその当時ある意味で壮大な世界史の実験が進行中だった。言うまでもなく一つはロシア革命である。これはマルクスの提起した社会主義革命の理念によって引き起こされたものだ。もう一つは国際連盟の創設で、これはカントが「永久平和論」で展開した理念を国際システムとして具現化したものだと氏は指摘する。この柄谷氏の見立ては鋭く、われわれ読者の腑に落ちさすがと言わざるをえない。そしてこうした二十世紀の歴史の実験が失敗に終わったことは、一方は1939年の第二次世界大戦の勃発によって、他方は1991年のソビエト連邦の崩壊によって無惨に証明されてしまったが…………
柄谷氏によれば、柳田はその国際連盟の仕事に関わる経験を経て得た世界史的な視座を備えた「実験の史学」の方向性を一時断念し、一国民俗学、固有信仰の探求へと向かったが、敗戦後、枢密院顧問として幣原内閣の憲法制定審議に加わったのは、戦争を二度と起こさぬための「新たな社会組織」(=憲法九条)の創出という「実験」の企てを意図したからではなかったかと推察している。その意味で柳田は転向したのではなく、思想的一貫性を内に持ち続けてきたのである。