本書における著者の主張は、上記の書評タイトルの通りである。民間税制調査会メンバーである著者は、日本の税制度に対して辛口の批判を行っている弁護士資格を有する学者である。本書では、納税者に焦点を当てて、日本の税を考察している。本書は、著者の作品「日本の税金」の続編にあたる。文章も前書同様に平易であり、税金の知識が少ない人にも、わかりやすい内容となっている。
本書の内容で参考になった点は、次である。
・全国の約267万社の会社のうち、黒字は約3割である。(p.6)
・地方税には、住民監査請求という制度があり、違法なお金の使い道を住民が監査請求できる。住民訴訟という方法もある。しかし、国税の場合は、監査請求や納税者訴訟制度はない。国に監査請求したり、会計検査院に審査請求したり、裁判所に訴えたりすることができない。(p.10)
・明治憲法の制定過程を見れば、納税の義務と兵役の義務は一体のものとして考えられており、金で払う義務が税で、血で払う義務が兵役だった。そして、「血税」は兵役を意味した。(p.15)
・明治憲法下で主権者は天皇であるため、臣民は主権者のための義務として税と兵役を負わされていた。(p.17)
・国家財政が潤沢であれば、国民の納税義務は不要となる。それを実践したのが、リン採掘で財政が潤っていたナウル共和国であったが、崩壊した。(p.22)
・明治憲法に記載された納税義務は、政府原案に記載がなかった項目であったにも関わらず、与野党からの要望が強く、政府原案を通過させるための妥協策として納税義務が憲法に盛り込まれた。(p.24)
・給与所得に対する源泉徴収制度は1940年に導入された。GHQから申告納税制度の導入を迫られ、旧大蔵省は1947年に申告納税制度を導入した際、年末調整制度も整備し、給与所得者は実質的に申告制度の枠外におかれることとなった。年末調整制度は、シャウプ勧告でも問題視され、給与所得者と税務署との接点がなくなるので、「年末調整を税務署に移管すべき」ことが提言されたが、今でも無視されている。結果、現在、日本の「申告」納税制度における確定申告者数の割合は17%である。(p.32-33、p.48、p.50)
・日本では給与所得者約4500万人のうち、約5%の方が納税申告を行っている(p.63)
・白色申告書の場合、所得税申告書の「更正処分」の通知書に処分の理由の付記が不要であった。納税者としては、何故「更生処分」とされたか判明しないという不可解な法の不整備状況が存在していた。平成二三年国税通則法の改正により、2013(平成25)年より、全ての不利益な課税処分には理由が付記されるようになった。(p.79-90)(当該不整備状況については、志賀櫻氏の作品「タックス・オブザーバー」(エスピー新書、2015年)でも同様に指摘されている。志賀氏も民間税制調査会メンバーである。)
・租税法律主義の理念は、1215年のマグナカルタに遡る。恣意的な課税を排除するため、納税者の代表が議会で同意したものしか負担しないというもので、法律により課税権者を縛るものであった。(p.104-105)
・1890年の明治議会開設当時の税は、地租、売薬税、所得税、醤油税、印紙税、北海道水産税などであり、根拠規定は法律ではなく布告又は勅令であった。議会開設前に制定された税が効力を保てるため、政府にとっては議会開設前に多くの税を導入した方が都合がよい。このような背景があり、日本の所得税は、国際的に早い時期である、日本帝国議会が開設される前の1887年に導入された。(p.106-107)
・課税処分の場合、処分を受けたことを知った日の翌日から3カ月以内に不服申し立てをしないと、原則として争えなくなる。(p.112)
・日本では国税不服審判所も裁判所も和解での決着はない。一方、ドイツでは、税金専門の裁判所があり、裁判官が両当事者と話し合って和解を勧めることがよくある。米国でも不服申立段階で和解による解決が図られる。(p.127-128)
・日本は申告納税制度だが、欧州は賦課課税制度である。賦課課税のドイツでは、申告書に税額を書く必要はなく、税額を計算するのは税務署の仕事である。(p.131)
・税務訴訟数は、英国30、日本300、韓国3,000、ドイツ70,000程度である。税務訴訟は、処分の取消を求める争いである。そもそも処分がなければ税務訴訟はない。日独の差異の背景には処分件数の差がある。処分数は、日本で約25,000、ドイツで約1億。日本は申告納税制度だが、欧州は賦課課税制度で、税務署が税金を計算するため、処分数は増える。(p.129、p.131-132)
・税理士という制度は多くの国で存在しない。ドイツ、オーストリア、日本、韓国などでは、税理士という制度がある。(p.136)
・財務省は税理士の懲戒権限を有し、税理士会総会の決議の取消権(税理士法49条の17)まで保持している。(p.145)
・日本人が体験した「一億総中流」という社会は、戦争による資産家層の疲弊と戦後の超過累進税率による所得再分配政策がもたらしたものである。英米でも、第二次世界大戦後に財源調達のために相続税の最高税率を80%程度にするなど、超過累進税率を適用して富の再分配が実施された。(p.171-172)
・諸外国では、1980年代頃から納税者権利憲章を作成しているが、日本にはまだない。(p.176-177)
・財政法の公債不発行の原則(4条1項・5条)は、戦費調達のため国債が乱発されたことへの反省として説明されてきたが、政権交代を担保するものでもあった。政権交代後の財政運営の足を引っ張るような国債発行は許されない。国債不発行の原則が崩れたのは、赤字国債発行が不可避となった1975年に、特例公債法が公布されて、特例公債として赤字国債の発行が可能となった。財政法の原則では許されないが、特例法を制定すれば、その年度は例外として発行が可能とされた。(p.201-202)(1975年に初めて赤字国債を発行したかのように書かれているが、実際に赤字国債が戦後初めて発行されたのは1965年で、その後1975年までは発行されなかった。)
最後になるが、現代の日本の税制度の問題点を理解するための基本書のひとつとしてはお薦めである。(2017/10/6)
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日本の納税者 (岩波新書) 新書 – 2015/5/21
三木 義一
(著)
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税金はややこしくてわからない。いや、ちょっと待て。わからないで済まされるのだろうか。税務署がどこにあるかさえ知らない日本の納税者。その無関心と無理解につけ込んだ「お上まかせの税制」が、今日の財政危機と格差社会を生んだともいえるのだ。国民の大多数を占めるサラリーマンが、いかに税にたいして関心を持てなくされているか。その現状や背景を伝える。
- 本の長さ224ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2015/5/21
- 寸法11.5 x 1 x 17.5 cm
- ISBN-104004315441
- ISBN-13978-4004315445
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商品の説明
著者について
三木義一 (みき・よしかず)
1950年東京都に生まれる
1975年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了
専攻─税法
現在─青山学院大学法学部教授・法学部長(博士・一橋大学),弁護士,民間税制調査会メンバー
著書─『日本の税金 新版』(岩波新書,2012)
『よくわかる税法入門(第9版)』(有斐閣,2015)
『よくわかる法人税法入門(第2版)』(編著.有斐閣,2015)
『よくわかる国際税務入門(第3版)』(共著.有斐閣,2012)
『実務家のための税務相談』(共著.有斐閣,2006)
『税ってなに?』(監修.かもがわ出版,2014)ほか
民間税制調査会 HP http://minkan-zei-cho.jp
1950年東京都に生まれる
1975年一橋大学大学院法学研究科修士課程修了
専攻─税法
現在─青山学院大学法学部教授・法学部長(博士・一橋大学),弁護士,民間税制調査会メンバー
著書─『日本の税金 新版』(岩波新書,2012)
『よくわかる税法入門(第9版)』(有斐閣,2015)
『よくわかる法人税法入門(第2版)』(編著.有斐閣,2015)
『よくわかる国際税務入門(第3版)』(共著.有斐閣,2012)
『実務家のための税務相談』(共著.有斐閣,2006)
『税ってなに?』(監修.かもがわ出版,2014)ほか
民間税制調査会 HP http://minkan-zei-cho.jp
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2015/5/21)
- 発売日 : 2015/5/21
- 言語 : 日本語
- 新書 : 224ページ
- ISBN-10 : 4004315441
- ISBN-13 : 978-4004315445
- 寸法 : 11.5 x 1 x 17.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 423,274位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 234位税務会計 (本)
- - 498位税法
- - 1,355位銀行・金融業 (本)
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2021年2月14日に日本でレビュー済み
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2021年1月5日に日本でレビュー済み
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以前どこかで日本人の重税感に関する記事を読んだがそれに対する回答を提供してくれる本。
結局国民は税金が何に使われているのかを知らないのである。
民主党政権時に情報公開が進められようとしていたが結局頓挫したことすら私は知らなかった。
情報公開とセットで増税という話であれば国民の満足が得られるであろうしもっとそういった主張を政治家は発信しても良いのではないかと思う。
結局国民は税金が何に使われているのかを知らないのである。
民主党政権時に情報公開が進められようとしていたが結局頓挫したことすら私は知らなかった。
情報公開とセットで増税という話であれば国民の満足が得られるであろうしもっとそういった主張を政治家は発信しても良いのではないかと思う。
2018年9月9日に日本でレビュー済み
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今日の税金をめぐる問題点は何か、私たち納税者が主権者意識を持つためにはどうしたらよいか等について、とてもわかりやすく書かれています。
日本の納税者の多くは給与所得者であり、「源泉徴収」と「年末調整」という制度が日本国民の納税者意識を奪っているという意見にはとても納得させられました。私も給与所得者ですが、昨年、ふるさと納税により確定申告をして初めて、こんなに税金を払っていたのかと驚かされた記憶があります。
日本国民全員が確定申告を行うというのは現実的ではないと思いますが、何かしらの形で国民の納税者意識の醸成を図っていくことが必要だと感じさせられました。
日本の納税者の多くは給与所得者であり、「源泉徴収」と「年末調整」という制度が日本国民の納税者意識を奪っているという意見にはとても納得させられました。私も給与所得者ですが、昨年、ふるさと納税により確定申告をして初めて、こんなに税金を払っていたのかと驚かされた記憶があります。
日本国民全員が確定申告を行うというのは現実的ではないと思いますが、何かしらの形で国民の納税者意識の醸成を図っていくことが必要だと感じさせられました。
2015年8月7日に日本でレビュー済み
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たまに青色申告をしますが、税金を払う側がもっと有利になるべきとの意見は共感できます。
青色申告が大変だとは思いませんが、もっとわかりやすく計算できるように配慮すべきです。
資料でも電子データ化するなど工夫してほしいですね。税務署でも実務担当者はそう思っているはず。
青色申告が大変だとは思いませんが、もっとわかりやすく計算できるように配慮すべきです。
資料でも電子データ化するなど工夫してほしいですね。税務署でも実務担当者はそう思っているはず。
2015年12月9日に日本でレビュー済み
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あまりにも納税意識の乏しい日本の国民。少なくとも税金は取られるのではなく、納めるという意識を持たなければならないと感じさせれれる本でした
2016年6月17日に日本でレビュー済み
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税金に関する手続面、制度面について歴史的事実に触れながら記述されてます。
やや内容的には難しいものも含まれてますが、こういった書籍はあまりないので、そういった意味で興味がある方にはお勧めです。
なお税法の具体的な内容について書かれている「日本の税金」は、法人税法や所得税法、消費税法など具体的な税法の概要を知るにはかなりお勧めできます。
やや内容的には難しいものも含まれてますが、こういった書籍はあまりないので、そういった意味で興味がある方にはお勧めです。
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2015年5月22日に日本でレビュー済み
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裁判所、税理士会、弁護士会等から出入り禁止になるかもしれません。ホントのことを正直に描いちゃいました。 と三木先生がおっしゃっていました
2015年6月14日に日本でレビュー済み
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日本の憲法は「主権在民」を説くが租税制度に於いては国民の義務としての「納税」制度の矛盾をつく。著者は弁護士で法学部の大学教授。租税の納入過程で発生すする税申告の修正に関する法的な手続きを通し裁判所、税理士、弁護士、公認会計士の夫々の立場からその取扱いの見解を客観的に紹介。その各界の担当者の限界と問題点を指摘する。
申告制税制に対し修正が生じた場合や現在の税制制度取扱者の租税認識について法学者の立場から見解を述べて行く法的税制の解釈を試みたユニークな新書です。税制そのものより納税時に生じる税法の法律としての見解をまとめる。
主権は国民にあり税制の「民主化」が公平な税負担に繋がると主張する。法学的な見地から述べた考えさせる内容です。こんなところに「日本が世界から非難される税の不透明性」を指摘する啓発の意欲的な新書です。
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主権は国民にあり税制の「民主化」が公平な税負担に繋がると主張する。法学的な見地から述べた考えさせる内容です。こんなところに「日本が世界から非難される税の不透明性」を指摘する啓発の意欲的な新書です。