工夫をこらしたアネクドートをこしらえる知恵者が、ロシアにはあちらこちらにいて、日本でいえば、落書(らくしょ)、の伝統のように広く民衆のなかに根付いています。そして、その性格は、陽気なものからそうではないものまで様々ですので、本書の著者は、ある側面をひきうけているのです。
文学運動の歴史、の上に立つ人物ではありますが、あまりその事実を重視しすぎないことです。より広く作話能力のある者のそれに従った振る舞いであったと考える方がふさわしいと思います。しかし、作風は本人にとっては後年命取りの原因となります。
皮肉を、しかもなくても良い皮肉を言葉にするには、その習慣への依存を不可避とする、絶え間ない精神活動を伴うのであり、やむにやまれぬものであったと推察します。でも、たとえば、おそらく、これらの内容ですとマリヤ・ユーディナにはひょっとすると擁護してもらえなかったかも知れません。ちょっと逸脱がありますね。
追伸。それにしても、『未来派野郎』のコンセプト検討のときに、アヴァンギャルド理論導入については、やりませんでしたっけ?
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ハルムスの世界 (白水Uブックス) 新書 – 2023/7/29
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「ある日のこと、オルロフはえんどう豆のピュレをいやというほど食べて死んだ。クルィロフはそのことを知って、やはり死んだ。スピリドノフは勝手に死んだ」
(「出来事(ケース)」より)
長くソ連では当局に禁止されていたものの、いまやロシアはもとより、欧米諸国でカルト的な人気を集めているダニイル・ハルムス。ロシア・アヴァンギャルドの終焉に燦然と輝くハルムスは、そのミニマルな文体、意味と無意味の戯れ、ユーモアと不条理で、「ロシア文学」のイメージを颯爽と覆す。
代表作である生前未刊行の短篇集『出来事(ケース)』と、訳者がセレクトした短篇38篇からなる旧版に、新たに訳出した10篇〈アンコール・ハルムス〉を加えた増補版として待望の復刊。岸本佐知子氏推薦!
(「出来事(ケース)」より)
長くソ連では当局に禁止されていたものの、いまやロシアはもとより、欧米諸国でカルト的な人気を集めているダニイル・ハルムス。ロシア・アヴァンギャルドの終焉に燦然と輝くハルムスは、そのミニマルな文体、意味と無意味の戯れ、ユーモアと不条理で、「ロシア文学」のイメージを颯爽と覆す。
代表作である生前未刊行の短篇集『出来事(ケース)』と、訳者がセレクトした短篇38篇からなる旧版に、新たに訳出した10篇〈アンコール・ハルムス〉を加えた増補版として待望の復刊。岸本佐知子氏推薦!
- 本の長さ290ページ
- 言語日本語
- 出版社白水社
- 発売日2023/7/29
- 寸法17.7 x 11.3 x 1.4 cm
- ISBN-104560072493
- ISBN-13978-4560072493
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商品の説明
著者について
ダニイル・ハルムス
1905年ペテルブルク生まれ。ロシア・アヴァンギャルドを代表する作家のひとり。1927年に詩人ヴヴェジェンスキーらとともにオベリウ・グループを設立し、詩や戯曲など多彩なジャンルで前衛的・実験的な作品を発表。スターリン政権下でアヴァンギャルド芸術が弾圧を受けるようになった後は、児童文学作品を執筆して糊口をしのぐ。1931年に逮捕され、一年間の流刑生活を送る。釈放後は発表のあてもないまま、不条理の感覚を前面に押し出した作品を数多く執筆。1941年に再逮捕され、翌年に刑務所で死去。ハルムス作品はソ連では長らく当局によって禁止されていたが、1970年代にアメリカとドイツで「発見」された後、ソ連でもペレストロイカ期に解禁された。
増本浩子(ますもと・ひろこ)
1960 年生まれ。神戸大学教授。専門はドイツ文学。著書に『フリードリヒ・デュレンマットの喜劇』、訳書にベアラウ『ブレヒト 私の愛人』(共訳)、『デュレンマット戯曲集』(共訳)など。
ヴァレリー・グレチュコ
1964 年生まれ。東京大学特任准教授。専門はロシア文学。著書に『ロシア・中欧・バルカン世界のことばと文化』(共著)、 『再考ロシア・フォルマリズム』(共著)、訳書にブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』(共訳)など。
1905年ペテルブルク生まれ。ロシア・アヴァンギャルドを代表する作家のひとり。1927年に詩人ヴヴェジェンスキーらとともにオベリウ・グループを設立し、詩や戯曲など多彩なジャンルで前衛的・実験的な作品を発表。スターリン政権下でアヴァンギャルド芸術が弾圧を受けるようになった後は、児童文学作品を執筆して糊口をしのぐ。1931年に逮捕され、一年間の流刑生活を送る。釈放後は発表のあてもないまま、不条理の感覚を前面に押し出した作品を数多く執筆。1941年に再逮捕され、翌年に刑務所で死去。ハルムス作品はソ連では長らく当局によって禁止されていたが、1970年代にアメリカとドイツで「発見」された後、ソ連でもペレストロイカ期に解禁された。
増本浩子(ますもと・ひろこ)
1960 年生まれ。神戸大学教授。専門はドイツ文学。著書に『フリードリヒ・デュレンマットの喜劇』、訳書にベアラウ『ブレヒト 私の愛人』(共訳)、『デュレンマット戯曲集』(共訳)など。
ヴァレリー・グレチュコ
1964 年生まれ。東京大学特任准教授。専門はロシア文学。著書に『ロシア・中欧・バルカン世界のことばと文化』(共著)、 『再考ロシア・フォルマリズム』(共著)、訳書にブルガーコフ『犬の心臓・運命の卵』(共訳)など。
登録情報
- 出版社 : 白水社 (2023/7/29)
- 発売日 : 2023/7/29
- 言語 : 日本語
- 新書 : 290ページ
- ISBN-10 : 4560072493
- ISBN-13 : 978-4560072493
- 寸法 : 17.7 x 11.3 x 1.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 53,994位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 16位白水Uブックス
- - 45位ロシア・ソビエト文学 (本)
- - 170位ロシア・東欧文学研究
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年4月7日に日本でレビュー済み
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2023年11月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
たいへん不勉強なことに、私はダニイル・ハルムスの作品を読んだことがなかった。ロシア・アヴァンギャルドファンを自称し、本もたくさん読み、生意気なレビューもいろいろ書いたのに、ダニイル・ハルムスは見事にすり抜けていた。
しかし、まあ、そのおかげで、ダニイル・ハルムスを初めて読むという楽しい楽しい体験をすることができた。
で、いまさらいろいろ書くのも恥ずかしいので、レビューは、簡単に終わりたい。
本書は2010年にヴィレッジ・ブックスから刊行された本の復刊増補新書化である。「アンコール、ハルムス」という章題で、作品10編とコラム1編、計43頁が増補されている。
個人的に、特別気に入った5編を選ぶと、
①邪魔 184頁
②プーシキンとゴーゴリ 21頁
③レジ係 138頁
④騎士 167頁
⑤心の準備のできていない人が突然新しい考えに出会ったときにどうなるかを示す四つの例 43頁
次点 インクを買おうとしたおばあちゃんの話 264頁
コラムの中では、椰子の木の下で 218頁が一番面白かった。
ちょっとだけネタバレを書くと、椰子の木の下で、はハルムスの妻だった女性の話。ハルメスと二度目の妻マリーナとの関係は良好で、1934年にハルムスが逮捕されるまで一緒に暮らしていたが、逮捕後ドイツ軍が侵攻してくると、マリーナは捕虜となり、強制労働のため、ドイツに送られる。終戦後パリに亡命したが、その後行方不明となり、ハルムス研究者達が何年も捜索した結果、マリーナは再婚して夫とベネズエラにいることが判明する。マリーナは先夫が超有名人になっていることを知らなかった。90年代に研究者が90歳近いマリーナに会いに行き、彼女のハルムス回想口述を本にした。マリーナはベネズエラの椰子の木の下で、ハルムスの作品のような突拍子のない思い出をいくつも語ったが、それが事実であったか、老女の妄想であったか誰にもわからない。しかし、これ以上ハルムスにふさわしい回想記はない。
しかし、まあ、そのおかげで、ダニイル・ハルムスを初めて読むという楽しい楽しい体験をすることができた。
で、いまさらいろいろ書くのも恥ずかしいので、レビューは、簡単に終わりたい。
本書は2010年にヴィレッジ・ブックスから刊行された本の復刊増補新書化である。「アンコール、ハルムス」という章題で、作品10編とコラム1編、計43頁が増補されている。
個人的に、特別気に入った5編を選ぶと、
①邪魔 184頁
②プーシキンとゴーゴリ 21頁
③レジ係 138頁
④騎士 167頁
⑤心の準備のできていない人が突然新しい考えに出会ったときにどうなるかを示す四つの例 43頁
次点 インクを買おうとしたおばあちゃんの話 264頁
コラムの中では、椰子の木の下で 218頁が一番面白かった。
ちょっとだけネタバレを書くと、椰子の木の下で、はハルムスの妻だった女性の話。ハルメスと二度目の妻マリーナとの関係は良好で、1934年にハルムスが逮捕されるまで一緒に暮らしていたが、逮捕後ドイツ軍が侵攻してくると、マリーナは捕虜となり、強制労働のため、ドイツに送られる。終戦後パリに亡命したが、その後行方不明となり、ハルムス研究者達が何年も捜索した結果、マリーナは再婚して夫とベネズエラにいることが判明する。マリーナは先夫が超有名人になっていることを知らなかった。90年代に研究者が90歳近いマリーナに会いに行き、彼女のハルムス回想口述を本にした。マリーナはベネズエラの椰子の木の下で、ハルムスの作品のような突拍子のない思い出をいくつも語ったが、それが事実であったか、老女の妄想であったか誰にもわからない。しかし、これ以上ハルムスにふさわしい回想記はない。
2023年9月16日に日本でレビュー済み
①作品の多くは1930年代に発表されている。スターリン体制の下で五ヵ年計画が着々と進行していた。重化学工業の発達により多くの武器が生産され、来るべく戦時体制に備えていたソ連。芸術ではアーヴァンギャルドが提起され、新しい芸術の前衛運動が展開されていた。
②その中でこの作品が描くのは死=無の世界である。例えば老婆の死を身を乗り出して目撃したもう一人の老婆が落下して死ぬ作品や、赤毛の男が実在しない=無であったこと等、いずれも死=無に繋がる内容を有している。
③その無は何を意味しているのか?芸術=文学の死ではないか?
あまりに短い作品が多く、体系性に乏しいのが難である。
たまにはこういう作品を読み当時のソ連について思いを馳せるのは良い。
お勧めの一冊だ。
②その中でこの作品が描くのは死=無の世界である。例えば老婆の死を身を乗り出して目撃したもう一人の老婆が落下して死ぬ作品や、赤毛の男が実在しない=無であったこと等、いずれも死=無に繋がる内容を有している。
③その無は何を意味しているのか?芸術=文学の死ではないか?
あまりに短い作品が多く、体系性に乏しいのが難である。
たまにはこういう作品を読み当時のソ連について思いを馳せるのは良い。
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