ポーランドでレムの短編の読者人気投票を行い、選者とレムの好みも加味して15編を選んで2001年に出版した短編集から、日本においてその中からさらに10編を選んで刊行した一冊。
レムの短編は幾つかのカテゴリーに分けられ、それには宇宙飛行士ピルクス、泰平ヨン、宇宙建造士トルルとクラウパツィウス、といった主人公が活躍するのだが、この短編集にも彼らが登場し活躍している。
収録順に作品名と一部あらすじと若干の感想をご紹介します。
・「三人の電騎士」
ある偉大な発明建設者（？）が、全ての太陽から遠く離れた惑星に赴き、氷の山々を切り出して水晶人を作り出し、その水晶人たちが宝で満たされた美しい水晶星を創りあげ、やがてその宝を奪おうとして三人の電騎士がその水晶星を訪れるのだが・・・。
短い作品なのですが、造語が多くストーリーが想像を絶しているためか個人的には若干読みづらかったです。
・「航星日記・第二十一回の旅」
バイオを含めたありとあらゆるテクノロジーが進化し、人間の形態が自由に選択可能となり、生命体を原子まで分解しさらにそこから元の生命体を再生し、形のない精神までを物質化し、自然と人工の境目が消え、さらには太陽を消滅させることさえも可能になった二分星という星において、神とは何なのか、来たるべきものとは何か、未来永劫生き続ける真理は在りうるのか、また自由とは、権力は何を押さえつけようとするのかが解説されていく。
“死後の無に思い悩むのに、生まれる以前の無に思い悩まないのは何故なのか”という問いは意味深いのか意味が無いのか？様々な二分星人の図版も載せられ可笑しい。
・「洗濯機の悲劇」
・「A・ドンダ教授 泰平ヨンの回想記より」
・「ムルダス王のお伽噺」
猜疑心に苛まれた孤独な王が見る夢とは・・・夢の中でみる夢とは現のことなのか。「生物都市」的な悪夢。
・「探検旅行第一のA(番外編）、あるいはトルルルの電遊詩人」
・「自励也エルグが青瓢箪を打ち破りし事」
我々の言語ではとうてい説明不可能な遠い未来の世界で、アンドロメダ海峡から宇宙の中の極めて古い地域までを駆け巡る子供の喧嘩に近いような宇宙戦争物。電知やら潜空艇艦やら建造者人工器官やらもうわけがわからないのだが、でもまだ絆創膏は使われているようである。
・「航星日記・第十三回の旅」
・「仮面」
溢れるように言葉をもて遊びストーリーを展開する。レムの意図したものとしての無意味さを、思考の限りの精緻さと美麗さで飾りたてた作品といえる。
読者投票の順位は低く、逆にレムや評論家の評価は高いのだそうです。
・「テルミヌス」
レムの真骨頂ともいえる作品。
過去大惨事に遭遇し、乗組員全員が死亡した原子力宇宙船を運転する一等航宙士。数名のクルーと黒猫と時代遅れのロボットが同乗したその宇宙船が火星に行く途中、その年老いたロボットの記憶の中に隠された秘密が暴かれていく。
廃墟のような巨大な宇宙船の細部に至る描写と、そこを痴呆の徘徊老人のように歩き回る壊れかけたロボットとのやり取りの中で、全てから疎外された孤独で虚無的な世界観が描きだされていく。
全体として、レムが有する膨大な科学的知識を背景として描く、批判精神と想像力に満ちたシニカルでペシミスティックな短編集という印象が強く残る。
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