読み始めたときは、「分厚いから途中で飽きちゃうかな」などと思っていたのですが、どうしてどうして、最初から最後までダレることのないストーリー展開で、楽しく読み終えました。
隅々まで丁寧に作りこまれているのに、軽やかに進行していくところが秀逸と思います。
2018年のドイツSF大賞第1位作品と聞いて、とても納得しました。
過去の名作SF作品(映画も小説も)に関する小ネタもいっぱいです。SF好きなら、ぜひご一読を。
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クオリティランド 単行本 – 2019/8/24
マルク=ウヴェ・クリング
(著),
森内薫
(翻訳)
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恋人や趣味までアルゴリズムで決定される究極の格付社会。役立たずの主人公が欠陥ロボットを従えて権力に立ち向かう大ベストセラー。
- 本の長さ446ページ
- 言語日本語
- 出版社河出書房新社
- 発売日2019/8/24
- 寸法14 x 3.4 x 19.5 cm
- ISBN-104309207774
- ISBN-13978-4309207773
商品の説明
著者について
マルク=ウヴェ・クリング
1982年独シュトゥットガルト生まれ。作家・詩人・歌手・コメディアンとして活躍。ラジオ・ドラマの脚本も手がける。前作『カンガルー・ニュース』はドイツ・ラジオ賞受賞、書籍化されベストセラーとなった。
1982年独シュトゥットガルト生まれ。作家・詩人・歌手・コメディアンとして活躍。ラジオ・ドラマの脚本も手がける。前作『カンガルー・ニュース』はドイツ・ラジオ賞受賞、書籍化されベストセラーとなった。
登録情報
- 出版社 : 河出書房新社 (2019/8/24)
- 発売日 : 2019/8/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 446ページ
- ISBN-10 : 4309207774
- ISBN-13 : 978-4309207773
- 寸法 : 14 x 3.4 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 776,348位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 64,439位文芸作品
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.8つ
5つのうち4.8つ
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上位レビュー、対象国: 日本
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2021年8月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
面白い!!『銀河ヒッチハイク・ガイド』にも通じるユーモアセンス(こっちのほうが品がないけど)。
デジタルでがんじがらめの監視社会を風刺しつつも、軽やかな筆致でぐいぐい読ませる、まさに巻を措く能わずの一冊。
コメディだけど含蓄に富んでいて、「機械とは違って人間は人間を満足させるために存在しているのではない」「意義と共同体という幻想」「人間はブラックボックス」あたりの台詞にはどきりとさせられた。
電子詩人のカリオペ7.3が可愛い。
デジタルでがんじがらめの監視社会を風刺しつつも、軽やかな筆致でぐいぐい読ませる、まさに巻を措く能わずの一冊。
コメディだけど含蓄に富んでいて、「機械とは違って人間は人間を満足させるために存在しているのではない」「意義と共同体という幻想」「人間はブラックボックス」あたりの台詞にはどきりとさせられた。
電子詩人のカリオペ7.3が可愛い。
2020年3月1日に日本でレビュー済み
人間とロボット(機械)が生き残りをかけて選挙を闘う近未来を描いた
コミカルなSF小説です。
同姓同名の主人公のもとへ、誤って、注文していない卑猥な商品が届いたことで、
返品をめぐって大騒ぎ。そんなところから始まるドタバタ喜劇・悲劇。
本書のタイトル『クオリティランド』って、ディズニーランドみたい。
「ミッキー」という名のロボットも出てくるコメディー小説です。エンジョイ!
その「舞台は、おそらく近未来のドイツと思われる国家」(「訳者あとがき」より)。
「近未来」とは言っても、
オーウェルの「1984年」とか、映画『2001年宇宙の旅』のような「予言の失敗」(260頁)
をしないように、具体的な年数はこの小説にはありません。
「現実が小説に猛スピードで追いついてきている」(425頁)ので、
「近未来」は、<ほとんど現在>になっているように感じられました。
「SF作家たちの予測よりも早く、テクノロジーの全般的発達はあるポイントに到達していたのです。 …(中略)… 昨今の予測が誤っているのは、すべてが彼らの予測よりも早く進行している点です」(260頁)
この小説『クオリティランド』には、
「クオンティティランド7――陽光あふれる海岸と魅力的な遺跡」(414頁)も登場します。
質より量、の生産に価値を置いていた時代とは、物があふれる現代の世界のようです。
「クオリティランド」は、「クオンティティランド7」が進化した島だと思います。
「電子詩人のカリオペ」(400頁)は言います。
「アーサー・C・クラークも、『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という文章を書いています」(145頁)
本書のSF世界は、現実になりつつある魔法の、科学技術のワンダーランド。不思議な物語です。
魔法使いのような主人公のペーターとキキは、「人間の二人」(373頁)です。
「トイレに行ったり食事をしたり、体を伸ばしたりするために休憩をとった」(373頁)りしなければならない人間です。
一方、「アンドロイドは自慰をしない。変態的な性的嗜好ももたない。不倫もしない。愛人に子どもを産ませたりもしない。彼らは……クリーンなのだ」(360頁)
「機械は過ちを犯さない」(182頁、424頁)
でも、機械は、壊れる。
「戦闘ロボット」(136頁、368頁)のミッキーは、
「コワレッタ」(308頁、311頁、315頁、374頁、386頁、387頁)の一語しか言わない。
「コワレッタ」の後に、疑問詞?か感嘆詞!を付けるだけで、質問し感嘆します。
人間は過ちを犯します。
人間は自慰をする。変態的な性的嗜好ももつ。不倫もする。
愛人に子どもを産ませたりもする。人間は……クリーンではないのだ、
と著者は考えていると思います。
「バイブレーター」
(154頁、183頁、224頁、262頁、339頁、340頁、341頁、
344頁、354頁、389頁、393頁、401頁、410頁)
「バイブレーター」が、何度もしつこく、この物語に登場します。
「バイブレーター」は、この本の危ないキーワードです。
さて、最後に。
この物語を締めくくる、最後(420頁)の一節の言葉は、
落語の落ちのようです。「オールド・マンがくすくす笑う」(420頁)
「ニルヴァーナは好き?」ピンクが聞く。
「バンドの?」
「いいえ、涅槃の!」ピンクが言う。「もちろんバンドに決まってるでしょ! 聞くまでもない質問をするのが、ほんとに好きね……」
オールド・マンがくすくす笑う。
これで、おしまいです。
なぜ? くすくす笑うのでしょうか?
訳者の森内 薫さんは、品格高く「涅槃(ねはん)」と訳されています。
「オールド・マンがくすくす笑う」わけがわからなかったです。
そこで、下ネタとしてくすくす笑えるように、
「いいえ、涅槃の!」という箇所に言葉を補って、説明調になってしまいますが、
ここんところを飛躍して私訳してみました。
<いいえ、女性用バイブレーターの商品名「ニルヴァーナ(涅槃)」が好き!
おっとあぶない。いやねえ、淑女のピンクに変なこと言わせないでよ。
もちろんのことだけど、バンドの『ニルヴァーナ』が好き、に決まってるでしょ!
聞くまでもない質問をするのが、男の人ってほんとに好きね……>
近未来ではコンピューターの性能アップにより、
クオリティ(品質)の良くなった<アンドロイド>たちですが、
品格のほうは逆に、下劣な人間に近づいていってしまって、
今やクリーンでもなくなってしまったようです。
おあとがよろしいようで……。
こんな私訳では、落語としては落ちないですね。笑えないから。
さて、「フェザツ」(23頁、242頁、339頁、396頁)も何度も登場します。
油と塩と砂糖だけを三分の一ずつ混ぜて固めた近未来の食品だそうです。
あまりおいしそうには思えません。
てなことで、この本で描かれた近未来、あんまし期待できそうもありません。
暗くなってきたので、お先に失礼します。さよなら、さよなら、さよなら。
《備考》
〈本書に登場する人物、アンドロイド、ロボットたち〉
ペーター・ジョブレス
十代の若者(356頁)。人間(373頁)。一人っ子(71頁)。無職太郎(422頁)。スクラップ業者(402頁)。知的テロリズムの火付け役(393頁)
ジェイラ・ジョブレス (341頁)。無職花子。
キキ・アンノウン 十代の若者(356頁)。
「あの女はあまりお上品とは言えないやつだな」(285頁)とオールド・マンは言う。
ムジン 無人(14頁)。ペーターのパーソナル・デジタル・アシスタント(14頁)
ミッキー 戦闘ロボット(136頁、368頁)。「ロケットランチャーのついた腕」(390頁)
ジョン・オブ・アス 進歩党(398頁)。新しい大統領(400頁)
カリオペ7・3
世界に名だたる電子詩人(72頁、400頁)。歴史小説『インターンと大統領』(72頁)やSF小説(144頁)『クオリティランド』(407頁)を書いた小説家。ペーターが所有者(144頁)。
ピンク クオリティ・パッド(145頁、307頁、308頁、311頁)。
ヘンリク・エンジニア オンライン・リテーラー、ザ・ショップのCEO(377頁)
マルティン・チェアマン
例のソックス野郎(406頁)。「機械を打倒せよ!」(405頁)と叫ぶ男。
オールド・マン くすくすと笑う(224頁、420頁)
コミカルなSF小説です。
同姓同名の主人公のもとへ、誤って、注文していない卑猥な商品が届いたことで、
返品をめぐって大騒ぎ。そんなところから始まるドタバタ喜劇・悲劇。
本書のタイトル『クオリティランド』って、ディズニーランドみたい。
「ミッキー」という名のロボットも出てくるコメディー小説です。エンジョイ!
その「舞台は、おそらく近未来のドイツと思われる国家」(「訳者あとがき」より)。
「近未来」とは言っても、
オーウェルの「1984年」とか、映画『2001年宇宙の旅』のような「予言の失敗」(260頁)
をしないように、具体的な年数はこの小説にはありません。
「現実が小説に猛スピードで追いついてきている」(425頁)ので、
「近未来」は、<ほとんど現在>になっているように感じられました。
「SF作家たちの予測よりも早く、テクノロジーの全般的発達はあるポイントに到達していたのです。 …(中略)… 昨今の予測が誤っているのは、すべてが彼らの予測よりも早く進行している点です」(260頁)
この小説『クオリティランド』には、
「クオンティティランド7――陽光あふれる海岸と魅力的な遺跡」(414頁)も登場します。
質より量、の生産に価値を置いていた時代とは、物があふれる現代の世界のようです。
「クオリティランド」は、「クオンティティランド7」が進化した島だと思います。
「電子詩人のカリオペ」(400頁)は言います。
「アーサー・C・クラークも、『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という文章を書いています」(145頁)
本書のSF世界は、現実になりつつある魔法の、科学技術のワンダーランド。不思議な物語です。
魔法使いのような主人公のペーターとキキは、「人間の二人」(373頁)です。
「トイレに行ったり食事をしたり、体を伸ばしたりするために休憩をとった」(373頁)りしなければならない人間です。
一方、「アンドロイドは自慰をしない。変態的な性的嗜好ももたない。不倫もしない。愛人に子どもを産ませたりもしない。彼らは……クリーンなのだ」(360頁)
「機械は過ちを犯さない」(182頁、424頁)
でも、機械は、壊れる。
「戦闘ロボット」(136頁、368頁)のミッキーは、
「コワレッタ」(308頁、311頁、315頁、374頁、386頁、387頁)の一語しか言わない。
「コワレッタ」の後に、疑問詞?か感嘆詞!を付けるだけで、質問し感嘆します。
人間は過ちを犯します。
人間は自慰をする。変態的な性的嗜好ももつ。不倫もする。
愛人に子どもを産ませたりもする。人間は……クリーンではないのだ、
と著者は考えていると思います。
「バイブレーター」
(154頁、183頁、224頁、262頁、339頁、340頁、341頁、
344頁、354頁、389頁、393頁、401頁、410頁)
「バイブレーター」が、何度もしつこく、この物語に登場します。
「バイブレーター」は、この本の危ないキーワードです。
さて、最後に。
この物語を締めくくる、最後(420頁)の一節の言葉は、
落語の落ちのようです。「オールド・マンがくすくす笑う」(420頁)
「ニルヴァーナは好き?」ピンクが聞く。
「バンドの?」
「いいえ、涅槃の!」ピンクが言う。「もちろんバンドに決まってるでしょ! 聞くまでもない質問をするのが、ほんとに好きね……」
オールド・マンがくすくす笑う。
これで、おしまいです。
なぜ? くすくす笑うのでしょうか?
訳者の森内 薫さんは、品格高く「涅槃(ねはん)」と訳されています。
「オールド・マンがくすくす笑う」わけがわからなかったです。
そこで、下ネタとしてくすくす笑えるように、
「いいえ、涅槃の!」という箇所に言葉を補って、説明調になってしまいますが、
ここんところを飛躍して私訳してみました。
<いいえ、女性用バイブレーターの商品名「ニルヴァーナ(涅槃)」が好き!
おっとあぶない。いやねえ、淑女のピンクに変なこと言わせないでよ。
もちろんのことだけど、バンドの『ニルヴァーナ』が好き、に決まってるでしょ!
聞くまでもない質問をするのが、男の人ってほんとに好きね……>
近未来ではコンピューターの性能アップにより、
クオリティ(品質)の良くなった<アンドロイド>たちですが、
品格のほうは逆に、下劣な人間に近づいていってしまって、
今やクリーンでもなくなってしまったようです。
おあとがよろしいようで……。
こんな私訳では、落語としては落ちないですね。笑えないから。
さて、「フェザツ」(23頁、242頁、339頁、396頁)も何度も登場します。
油と塩と砂糖だけを三分の一ずつ混ぜて固めた近未来の食品だそうです。
あまりおいしそうには思えません。
てなことで、この本で描かれた近未来、あんまし期待できそうもありません。
暗くなってきたので、お先に失礼します。さよなら、さよなら、さよなら。
《備考》
〈本書に登場する人物、アンドロイド、ロボットたち〉
ペーター・ジョブレス
十代の若者(356頁)。人間(373頁)。一人っ子(71頁)。無職太郎(422頁)。スクラップ業者(402頁)。知的テロリズムの火付け役(393頁)
ジェイラ・ジョブレス (341頁)。無職花子。
キキ・アンノウン 十代の若者(356頁)。
「あの女はあまりお上品とは言えないやつだな」(285頁)とオールド・マンは言う。
ムジン 無人(14頁)。ペーターのパーソナル・デジタル・アシスタント(14頁)
ミッキー 戦闘ロボット(136頁、368頁)。「ロケットランチャーのついた腕」(390頁)
ジョン・オブ・アス 進歩党(398頁)。新しい大統領(400頁)
カリオペ7・3
世界に名だたる電子詩人(72頁、400頁)。歴史小説『インターンと大統領』(72頁)やSF小説(144頁)『クオリティランド』(407頁)を書いた小説家。ペーターが所有者(144頁)。
ピンク クオリティ・パッド(145頁、307頁、308頁、311頁)。
ヘンリク・エンジニア オンライン・リテーラー、ザ・ショップのCEO(377頁)
マルティン・チェアマン
例のソックス野郎(406頁)。「機械を打倒せよ!」(405頁)と叫ぶ男。
オールド・マン くすくすと笑う(224頁、420頁)
2019年10月26日に日本でレビュー済み
ドイツ(Deutchland)からクオリティランド(Qualityland)へと姿を変えた国では、親の職業が苗字に指定され、恋人関係や購買嗜好もアルゴリズムが判断する。
ペーター・ジョブレスはある日イルカ型のピンクのバイブレーターをザ・ショップから送られる。アルゴリズムの判断に基づくものだが、それを必要としないペーターが返品を試みるが、ザ・ショップによって頑なに断られ続ける。
一方、クオリティランドでは大統領選が進められていて、ジョン・オブ・アスがアンドロイド初の立候補者となっていた。しかし機械による統治を恐れるレジスタンスたちが彼の選挙戦を妨害しようとして……。
------------------
ネットの購入履歴や検索履歴をもとに次々とお勧め商品が画面表示されるのが当たり前の時代になりました。AI搭載の機械が自走し、人間生活はより快適さを増しています。しかし収集された個人データに基づいて人間が外部の判断によって自己同定されていく世界が広がっているともいえます。コンピュータの能力は人間を超え、多くの職業が数十年後には社会から消えるといわれています。その近未来社会で人間は何をもって自己実現をするのか。それを問いかけるドイツ製のSF小説です。
――と書くと、コンピュータ制御の暗澹たるディストピア物語に聞こえるかもしれませんが、作者の筆致はいたってユーモラス。ピンクのバイブレーターを何とか送り返しても、再び送り返されてきてしまうドタバタや、機械スクラップの憂き目から救われた機械たちがペーターを恩人扱いするなど、馬鹿馬鹿しくも楽しい物語が展開します。
その滑稽さの狭間に、私たちの足元に既に確実に忍び寄ってきているどこかいびつな社会の実相が浮かび上がってくる構成が見事です。
400頁を超える長編小説ですが、愉快で洒脱なディストピア物語は読んでいて飽きません。
作者のコミカルな物語を見事な日本語に移し替えてくれた訳者の森内薫氏の手腕にも敬意を表したいと思います。森内氏のドイツ語からの翻訳書を手にするのはこれが初めてですが、調べてみたところ氏は英語圏の書物の和訳も手掛けていて、私はアメリカのノンフィクション『 ヒトラーのオリンピックに挑め:若者たちがボートに託した夢 』(ダニエル・ジェイムズ・ブラウン著/早川書房)を読んでいたことをすっかり忘れていました。ボート競技の知識がまるでない私が、この上下二巻に及ぶ大部の書を心躍る思いで読むことができたのも、森内氏の訳業に助けられたからだということを思い出しました。しかも3年前、この書のレビューで私は「機会があればぜひともほかの訳書も手に取ってみたいと強く思います」と記していました。その思いをようやく果たすことができ、しかも期待が裏切られなかった喜びをかみしめています。
------------------
*25頁:最終行に「ペーターはたっぷり生えた頭髪【中略】に無意識に手をやり」とありますが、この場面で頭髪を手で触っているのは「マルティン」です。おそらく前章の主人公マルティンとこの章の主人公「ペーター」とを混同して訳したものと思われます。当該箇所のドイツ語原文は代名詞の「er(彼は)」となっています。この「彼」は2つ前の文章「Durch einen fokussierten Blick und ein langes Zwinkern markiert sich Martyn das Mädchen für später.(マルティンは娘に視線をあわせてゆっくりまばたきをし、のちのちのためにブックマークした)」の主語Martyn(マルティン)でなければ辻褄が合いません。
*272頁:「ボブ・チェアマン」の名前を一か所だけ「ボブ・チェアマンン」と誤記しています。
-------------------
ディストピア小説をいくつか紹介しておきます。
◆デイヴ・エガーズ『 ザ・サークル 』(早川書房)
:24歳のメイは大学時代の友人アニーのつてを頼って、世界中が憧れるインターネット企業サークルに就職を果たす。サークルは次々と人間と社会の<透明化>に向けた新機軸を打ち出していく。政府や政治家が国民に隠し事をしないよう、そして犯罪者やテロ組織が街の平穏に乗じて密かに紛れ込むことがないよう、対策を講じていき、世界に賛同者を増やしていった。そしてメイはその<透明化>の顔に指名される。そのメイに、カルデンと名乗る謎の男が近づく。カルデンはサークルの社員だと言うが、その記録は社員データに見つからない…。
サークル社はGoogle、Facebook、Youtube、Instagram、さらにはニコニコ動画を統合したかのような企業です。国家の不正を暴露し、犯罪の抑止を進めるための様々な仕組みの構築に邁進する姿は、社会の<進化>と人類の<向上>に向けた素敵な取り組みに見えます。 しかし、それはやがて、個人に一切のプライバシーを許さない、人間活動の森羅万象をネット上で永久に公開し続ける仕組みへと変貌していきます。
◆ジョージ・オーウェル『一九八四年』(ハヤカワepi文庫)
:39歳のウィンストン・スミスは真理省に勤め、歴史の改ざんを担当している。<ビッグ・ブラザー>が率いる党が独裁する全体主義国家に、ウィンストンは強い疑問を抱いていた。彼はジュリアという若い女性と知り合い、秘密の逢瀬を重ねるが、ある日、抵抗運動家が書いたとされる禁断の書を手に入れる…。
この小説に書かれていることは、執筆当時の1940年代よりもずっと現実味のあるものとして迫ってくるように感じられます。だからこそでしょう、この500頁になんなんとする長編小説は難なくするすると読めてしまうのです。そのことがなんともやるせない思いがします。つまり世の中はますますこの『一九八四年』の姿に近づいてしまったようです。
.
ペーター・ジョブレスはある日イルカ型のピンクのバイブレーターをザ・ショップから送られる。アルゴリズムの判断に基づくものだが、それを必要としないペーターが返品を試みるが、ザ・ショップによって頑なに断られ続ける。
一方、クオリティランドでは大統領選が進められていて、ジョン・オブ・アスがアンドロイド初の立候補者となっていた。しかし機械による統治を恐れるレジスタンスたちが彼の選挙戦を妨害しようとして……。
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ネットの購入履歴や検索履歴をもとに次々とお勧め商品が画面表示されるのが当たり前の時代になりました。AI搭載の機械が自走し、人間生活はより快適さを増しています。しかし収集された個人データに基づいて人間が外部の判断によって自己同定されていく世界が広がっているともいえます。コンピュータの能力は人間を超え、多くの職業が数十年後には社会から消えるといわれています。その近未来社会で人間は何をもって自己実現をするのか。それを問いかけるドイツ製のSF小説です。
――と書くと、コンピュータ制御の暗澹たるディストピア物語に聞こえるかもしれませんが、作者の筆致はいたってユーモラス。ピンクのバイブレーターを何とか送り返しても、再び送り返されてきてしまうドタバタや、機械スクラップの憂き目から救われた機械たちがペーターを恩人扱いするなど、馬鹿馬鹿しくも楽しい物語が展開します。
その滑稽さの狭間に、私たちの足元に既に確実に忍び寄ってきているどこかいびつな社会の実相が浮かび上がってくる構成が見事です。
400頁を超える長編小説ですが、愉快で洒脱なディストピア物語は読んでいて飽きません。
作者のコミカルな物語を見事な日本語に移し替えてくれた訳者の森内薫氏の手腕にも敬意を表したいと思います。森内氏のドイツ語からの翻訳書を手にするのはこれが初めてですが、調べてみたところ氏は英語圏の書物の和訳も手掛けていて、私はアメリカのノンフィクション『 ヒトラーのオリンピックに挑め:若者たちがボートに託した夢 』(ダニエル・ジェイムズ・ブラウン著/早川書房)を読んでいたことをすっかり忘れていました。ボート競技の知識がまるでない私が、この上下二巻に及ぶ大部の書を心躍る思いで読むことができたのも、森内氏の訳業に助けられたからだということを思い出しました。しかも3年前、この書のレビューで私は「機会があればぜひともほかの訳書も手に取ってみたいと強く思います」と記していました。その思いをようやく果たすことができ、しかも期待が裏切られなかった喜びをかみしめています。
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*25頁:最終行に「ペーターはたっぷり生えた頭髪【中略】に無意識に手をやり」とありますが、この場面で頭髪を手で触っているのは「マルティン」です。おそらく前章の主人公マルティンとこの章の主人公「ペーター」とを混同して訳したものと思われます。当該箇所のドイツ語原文は代名詞の「er(彼は)」となっています。この「彼」は2つ前の文章「Durch einen fokussierten Blick und ein langes Zwinkern markiert sich Martyn das Mädchen für später.(マルティンは娘に視線をあわせてゆっくりまばたきをし、のちのちのためにブックマークした)」の主語Martyn(マルティン)でなければ辻褄が合いません。
*272頁:「ボブ・チェアマン」の名前を一か所だけ「ボブ・チェアマンン」と誤記しています。
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ディストピア小説をいくつか紹介しておきます。
◆デイヴ・エガーズ『 ザ・サークル 』(早川書房)
:24歳のメイは大学時代の友人アニーのつてを頼って、世界中が憧れるインターネット企業サークルに就職を果たす。サークルは次々と人間と社会の<透明化>に向けた新機軸を打ち出していく。政府や政治家が国民に隠し事をしないよう、そして犯罪者やテロ組織が街の平穏に乗じて密かに紛れ込むことがないよう、対策を講じていき、世界に賛同者を増やしていった。そしてメイはその<透明化>の顔に指名される。そのメイに、カルデンと名乗る謎の男が近づく。カルデンはサークルの社員だと言うが、その記録は社員データに見つからない…。
サークル社はGoogle、Facebook、Youtube、Instagram、さらにはニコニコ動画を統合したかのような企業です。国家の不正を暴露し、犯罪の抑止を進めるための様々な仕組みの構築に邁進する姿は、社会の<進化>と人類の<向上>に向けた素敵な取り組みに見えます。 しかし、それはやがて、個人に一切のプライバシーを許さない、人間活動の森羅万象をネット上で永久に公開し続ける仕組みへと変貌していきます。
◆ジョージ・オーウェル『一九八四年』(ハヤカワepi文庫)
:39歳のウィンストン・スミスは真理省に勤め、歴史の改ざんを担当している。<ビッグ・ブラザー>が率いる党が独裁する全体主義国家に、ウィンストンは強い疑問を抱いていた。彼はジュリアという若い女性と知り合い、秘密の逢瀬を重ねるが、ある日、抵抗運動家が書いたとされる禁断の書を手に入れる…。
この小説に書かれていることは、執筆当時の1940年代よりもずっと現実味のあるものとして迫ってくるように感じられます。だからこそでしょう、この500頁になんなんとする長編小説は難なくするすると読めてしまうのです。そのことがなんともやるせない思いがします。つまり世の中はますますこの『一九八四年』の姿に近づいてしまったようです。
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2019年10月22日に日本でレビュー済み
抱腹絶倒!何処か懐かしい味のドタバタ風刺SF。
個々人が数字でランク付けされ、それが全ての評価に成ってしまい、個人ごとにカスタマイズされたAIが、本人に表示するニュースを本人の関心有るもの、或いは有りそうなものに限定して見せ、本人が注文する前に本人が欲しがると推測される物がドローンで配達されてくるクオリティランドと云う國で、欲しくもないディルドーを配達された男は、返品しようとして悪戦苦闘を繰り𢓉す中、實は自分の個人情報に閒違いが有る事に気付く。一方クオリティランドの次期大統領候補はアンドロイドで、あちこちに波紋を生じていく。
膨大なデータから確率的に導き出される結果を至上のものとし、まだ生まれて來る前の娘の人生に親は一喜一憂し、死亡日を云い渡されていた瀕死の患者は何とかその日に自分の死を郃わせようとする。
昔は翻訳物でもこうした風刺ものを時折見掛けたものだし、日本では平井和正や筒井康隆がこうしたドタバタを書いてくれたものだが、最近は見なく成ってしまっていた。そう云う点でも嬉しい。
個々人が数字でランク付けされ、それが全ての評価に成ってしまい、個人ごとにカスタマイズされたAIが、本人に表示するニュースを本人の関心有るもの、或いは有りそうなものに限定して見せ、本人が注文する前に本人が欲しがると推測される物がドローンで配達されてくるクオリティランドと云う國で、欲しくもないディルドーを配達された男は、返品しようとして悪戦苦闘を繰り𢓉す中、實は自分の個人情報に閒違いが有る事に気付く。一方クオリティランドの次期大統領候補はアンドロイドで、あちこちに波紋を生じていく。
膨大なデータから確率的に導き出される結果を至上のものとし、まだ生まれて來る前の娘の人生に親は一喜一憂し、死亡日を云い渡されていた瀕死の患者は何とかその日に自分の死を郃わせようとする。
昔は翻訳物でもこうした風刺ものを時折見掛けたものだし、日本では平井和正や筒井康隆がこうしたドタバタを書いてくれたものだが、最近は見なく成ってしまっていた。そう云う点でも嬉しい。