やはり、賞は政治が絡み社会が軋む問題に直面する欧州が、
移民感情の不安性を昇華した作家を選択した。
訳者が「訳者あとがき」で言いたかったことであろう。
欧米が直面している問題を寓話に落とした現在性の強い普遍的な問題を扱った作品で、
ガラパゴス化している日本人にも、お隣問題に直面させられ
お伽噺ではなくなった。
カズオの心は母国を忘却するのが怖くて、
脳が本能的に何度も記憶を再生していたのではないだろうか。
だが、本人には何故繰り返し記憶が蘇るかはわからない。
幼少期の記憶が存在理由の根拠と埋め込まれていたのだろうか。
この忘却による存在理由消滅の不安が
幾多の作品を生む原動力になった思う。
2017年12日10日更新NHKインタビューでのカズオの発言にて
やっと私には「巨人」の正体をつかめた。曰く(抜粋)、
「・・・あらゆる社会には埋められた巨人がいると思います。私がよく知るすべての社会には、大きな埋められた巨人がいると思います。今アメリカでは、「人種」という埋められた巨人がいると思います。それが国を分断させています。なぜなら、それは埋められたままだからです。・・・
・・・これは日本にとって、多くの暗い記憶や日本が犯した残虐行為を、第2次世界大戦直後に押しのけなかったとしても可能だったでしょうか? 不可能だったかもしれません。日本のようなよい社会をいかにして築けるかは、無理にでも物事を忘れることにかかっているのかもしれません。・・・
確かに日本は多くのことを忘れましたが、日本は自由世界におけるすばらしい自由民主主義国家になることに成功しました。それは無視できない成果だと思います。・・・」
作品には自国、英国人の対立の物語、アーサー王物語が必然的に選択された。
そこでは、父アーサー王と殺し合う実の子モルドレッド。
アーサー王の養父名はエクトル。当書の主人公名はアクセルで似ている。
アーサー王物語では、アーサー王は実子とその配下を皆殺しにした後、
瀕死の状態で、高貴な女性達と小舟に乗ってアヴァロンの島へ行く。
物語を奪胎しており、対立問題が普遍的であることを示している。
主人公の夫婦は、異国で不安な自分のアバターであるから
年老いていなければならぬ。
始まりから鬼(犯罪者)や竜(権力の手先)が話題に出て
自己を脅かしたものを暗示する。
鬼に捕らわれ、呪いの傷を持った少年はイシグロの少年時代。
その傷は不安の象徴だろう。
カズオが書かざるを得なかった意図は美しく
本人は作品化に満足しただろう。
しかし歴史については認識が甘過ぎかなりの失敗作だ。
権力が、個人の自己防御のように
恣意的に歴史的事実を忘却しては不味い。
正々と歴史・事実を公開し批判に耐え得る権力こそが王道だろう。
それでも国家・民族・個人が融合せざるを得ない大きな潮流の中で、
後世、対立構造を解消させる先駆的作品との評価がされると思う。
多忙な読者はラスト9ページから読んで良いと思う。
そこからがカズオが言いたかったことだろう。
そこには女に裏切られた男の深い怨念と許しが書かれる。
男は腑に落とされ、女は嬉しく落涙することだろう。
つらい体験がないと、許せない感情が読み切れないので、作品をより難しくしている。
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忘れられた巨人 単行本 – 2015/5/1
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『わたしを離さないで』から十年。待望の最新長篇!
アクセルとベアトリスの老夫婦は、遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村を後にする。若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士……さまざまな人々に出会いながら、雨が降る荒れ野を渡り、森を抜け、謎の霧に満ちた大地を旅するふたりを待つものとは――。
失われた記憶や愛、戦いと復讐のこだまを静謐に描く、ブッカー賞作家の傑作長篇。
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失われた記憶や愛、戦いと復讐のこだまを静謐に描く、ブッカー賞作家の傑作長篇。
- 本の長さ416ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2015/5/1
- ISBN-104152095369
- ISBN-13978-4152095367
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商品の説明
著者について
1954年11月8日長崎生まれ。1960年、五歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学ぶ。一時はミュージシャンを目指していたが、やがてソーシャルワーカーとして働きながら執筆活動を開始。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。その後、『充たされざる者』(1995)、『わたしたちが孤児だったころ』(2000)、『わたしを離さないで』(2005)、短篇集『夜想曲集』(2009)(以上、すべてハヤカワepi文庫)を発表。2015年に発表した本作は第七長篇にあたる。これまでの作品とは大きく異なる時代設定で話題を呼び、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーに発売直後からランクインしたほか、英《ガーディアン》紙や《タイムズ》紙で絶賛された。
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2015/5/1)
- 発売日 : 2015/5/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 416ページ
- ISBN-10 : 4152095369
- ISBN-13 : 978-4152095367
- Amazon 売れ筋ランキング: - 346,741位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 4,514位英米文学
- カスタマーレビュー:
著者について
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イメージ付きのレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2017年12月25日に日本でレビュー済み
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2023年1月20日に日本でレビュー済み
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支離滅裂な欠陥小説。小説を読むというのは一応書かれた記述を信じて読まねばならない。書き手もそれを信じて書いているはずだ。記述に矛盾があれば先行き解消されると信じて読む。それが放棄された小説なのだ。だいたい、主人公の老夫婦の旅立ちの目的が、失踪した息子を訪ねてというのだが、どこか上の空で具体的な記述がない。老夫婦の関係も怪しげで、夫が妻を頻繁に「お姫様(princess)」と呼ぶのだが、日本語として違和感があって不自然である。説明不足や矛盾に満ちた小説なのだ、それを前提と読まないと読めない。どなたかの感想に最後の数頁の記述だけで足りる小説とあったが、確かにそんな感もしないではない。そのシーンは冒頭も似たような記述があって、膨大な記述は読むに値しないと思われてくる。要するに、死を意味する島への渡航が、例えどんなに愛し合っている夫婦でも、船頭の小舟は一人ずつしか乗せられないという。死の象徴なのだろうが、ありふれた陳腐なフィクションである。しかし、考えて見れば、人生とは、小説とは違って、支離滅裂なものでストーリーの整合性がない、それを表現して、記憶喪失の社会を、古代の竜の吐く息として描いて、竜退治が設定されている。戦士によって退治されたが、その後もストーリーの進展はほとんどない。妻が訪ねていた息子はすでに死んでいて、自分たちが向う死の浄土の島に墓があるのを思い出す。以上、ネタバレ的に描いたが、ネタがばれたとしても、人生矛盾に満ちたものとすれば、ストーリーを知っていて、思わせぶりに、退屈しながら読む「純粋小説」なのかも知れない。もし、バルカン半島の戦争が下地にあるとしたら、DVD「ロープ、戦場の生命線」の方がずっとリアリティーに満ちた切実な労作である。アーサー王伝説題材では、アガサ・クリスティー作の名探偵ミス・マーブルものがある。彼女に登場願って、イシグロの心の秘密を暴いてもらいたいものだ。
2017年11月21日に日本でレビュー済み
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記憶をほとんど亡くした、中世の老騎士夫婦の巡礼の旅紀行文。
老騎士とその老妻が彼らの息子がいる小島を訪ねる夫婦最後の旅です。
「アーサー王伝説」も出てきます。王のための戦いに明け暮れた中世の騎士たちの騎士道精神が時代錯誤でユーモラスです。
六世紀、七世紀ごろには、その魔法の息も絶え絶えになってしまい、すっかり弱った雌竜。しかし「まだ息をしていて、息をしているかぎりマーリンの魔法も消えぬ」(429頁)と頑張っています。霧のように、か細い息の上には、大魔法が乗っていて、雌竜は今も、戦う騎士たちの大切な記憶を奪っているのです。雌竜には「息がある。息があるかぎり義務を果たしつづける」(428頁)
雌竜の義務とは? 竜はなぜ「雌」なのか?
「アーサー王の意志とともに神の意志をも行ったのだ。この雌竜の息なしで、永続する平和が訪れただろうか」(429頁)
「かつては国のため、神のために戦ったわしらが、いまは復讐に倒れた同志の復讐のために戦う。いつ終わる。赤ん坊は、戦の日々しか知らずに大きくなる」(411頁)と嘆くアーサー王の騎士。
そして、歴史を忘れたふりをして、復讐だけを繰り返す若き騎士たちのいつまでも終わらない戦い。
主人公の老騎士とその老妻は、騎士たちから大切な歴史の記憶を奪ってしまう雌竜を退治したいという思いから、毒を仕込んだ山羊を雌竜の餌としようと計画する。
そして、巨人(アーサー王)のケルンまで、この山羊を連れて行き、そこに繋ぐ役を引き受けるのです。
結局、雌竜の巣穴に下りた若き騎士の剣が、雌竜の頭を宙に飛ばせます。
「雌竜はもういない。アーサー王の影も雌竜とともに消える」(447頁)という結末です。
中世のアーサー王の時代のことなど、ほとんど忘れかけている現代人に、この寓話はどんなことを問いかけているのでしょうか。
敗戦国日本から、五歳で渡英した著者イシグロを受け入れて、ずっと親切に接してくれ続けたイギリス人。そのイギリス人の伝説となっているアーサー王の時代のブリトン人とサクソン人の騎士たちの戦いの物語は、今もイギリス人の心の中に残っていて、EUから離脱する現代英国の政治状況に影響している、とイシグロは考えています。
争う人々の心の底の歴史認識は、今も昔も、アーサー王の時代と変わらない、と思いました。
老騎士とその老妻が彼らの息子がいる小島を訪ねる夫婦最後の旅です。
「アーサー王伝説」も出てきます。王のための戦いに明け暮れた中世の騎士たちの騎士道精神が時代錯誤でユーモラスです。
六世紀、七世紀ごろには、その魔法の息も絶え絶えになってしまい、すっかり弱った雌竜。しかし「まだ息をしていて、息をしているかぎりマーリンの魔法も消えぬ」(429頁)と頑張っています。霧のように、か細い息の上には、大魔法が乗っていて、雌竜は今も、戦う騎士たちの大切な記憶を奪っているのです。雌竜には「息がある。息があるかぎり義務を果たしつづける」(428頁)
雌竜の義務とは? 竜はなぜ「雌」なのか?
「アーサー王の意志とともに神の意志をも行ったのだ。この雌竜の息なしで、永続する平和が訪れただろうか」(429頁)
「かつては国のため、神のために戦ったわしらが、いまは復讐に倒れた同志の復讐のために戦う。いつ終わる。赤ん坊は、戦の日々しか知らずに大きくなる」(411頁)と嘆くアーサー王の騎士。
そして、歴史を忘れたふりをして、復讐だけを繰り返す若き騎士たちのいつまでも終わらない戦い。
主人公の老騎士とその老妻は、騎士たちから大切な歴史の記憶を奪ってしまう雌竜を退治したいという思いから、毒を仕込んだ山羊を雌竜の餌としようと計画する。
そして、巨人(アーサー王)のケルンまで、この山羊を連れて行き、そこに繋ぐ役を引き受けるのです。
結局、雌竜の巣穴に下りた若き騎士の剣が、雌竜の頭を宙に飛ばせます。
「雌竜はもういない。アーサー王の影も雌竜とともに消える」(447頁)という結末です。
中世のアーサー王の時代のことなど、ほとんど忘れかけている現代人に、この寓話はどんなことを問いかけているのでしょうか。
敗戦国日本から、五歳で渡英した著者イシグロを受け入れて、ずっと親切に接してくれ続けたイギリス人。そのイギリス人の伝説となっているアーサー王の時代のブリトン人とサクソン人の騎士たちの戦いの物語は、今もイギリス人の心の中に残っていて、EUから離脱する現代英国の政治状況に影響している、とイシグロは考えています。
争う人々の心の底の歴史認識は、今も昔も、アーサー王の時代と変わらない、と思いました。
2022年10月14日に日本でレビュー済み
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イメージ通りの作品で、購入してよかったと思います。
2017年11月7日に日本でレビュー済み
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以前私は、作者を誤解していた。
映画の「Never let me go」だけを見て、なんだか恋愛ものを書く人なのだと。
それが数か月前、今度は「the remain of the day」をたまたま観賞し、印象がガラッと変わった。
興味が湧き、この最新作を読んでみようかと思っていたところで、ノーベル文学賞受賞のニュースを聞いた。
注文してから届く迄の間にNHKで、作者が2015年に来日講演した際の映像を流してくれた。
ほぼ同じ年齢。
どんな人物か興味深々で見たのだが、人間の「記憶」に関する考察を実に的確に語っていた。
文庫版が届くなり、すぐに読み始め、私としては慎重に数日かけて読んだ。
舞台設定からファンタジー小説のような印象を受けるが、本質はそこでは無い。
人は不条理の中に生き、時として失った方が良い記憶もある、ということだ。
主人公の老夫婦は過去の記憶を取り戻していくにつれ、むしろ苦悩に苛まれていく。
還暦も過ぎた今、この夫婦のありようが、私の胸に迫ってきた。
結末も、イシグロ氏らしくハッピーエンドではない。
しかし、それがまた読者の想像を掻き立てるのだ、と私は思う。
映画の「Never let me go」だけを見て、なんだか恋愛ものを書く人なのだと。
それが数か月前、今度は「the remain of the day」をたまたま観賞し、印象がガラッと変わった。
興味が湧き、この最新作を読んでみようかと思っていたところで、ノーベル文学賞受賞のニュースを聞いた。
注文してから届く迄の間にNHKで、作者が2015年に来日講演した際の映像を流してくれた。
ほぼ同じ年齢。
どんな人物か興味深々で見たのだが、人間の「記憶」に関する考察を実に的確に語っていた。
文庫版が届くなり、すぐに読み始め、私としては慎重に数日かけて読んだ。
舞台設定からファンタジー小説のような印象を受けるが、本質はそこでは無い。
人は不条理の中に生き、時として失った方が良い記憶もある、ということだ。
主人公の老夫婦は過去の記憶を取り戻していくにつれ、むしろ苦悩に苛まれていく。
還暦も過ぎた今、この夫婦のありようが、私の胸に迫ってきた。
結末も、イシグロ氏らしくハッピーエンドではない。
しかし、それがまた読者の想像を掻き立てるのだ、と私は思う。
2018年8月30日に日本でレビュー済み
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読んでる最中はハラハラしながらすごく引き込まれてあっという間に読み終えたのだけれど、終わってみれば霧の中、結局何が言いたかったんだ?と、呆然、立ち尽くす、そんな読後感。
鬼、霧、赤い髪の女、夢、蝋燭、黒後家、兎、船頭、島、雌竜、戦士、山査子、全てが記号?でも一体何の?
もう、置いてかれ過ぎて、考えてもわからないから、ネット上の色々な方の書評や考察、また、作者ご本人のインタビュー内容で答え合わせ。
結果、全っ然違うこと考えて読んでたわ、自分。何故だろう、冒頭から一つの仮説に囚われ過ぎて、結局、物語終盤までその疑念が拭えなかった。
その仮説というのも、実はこの物語に登場する人物全員、本当は「霧」になんて全然影響されてなくて、皆んな忘れたフリをしてるだけ。都合の悪いことを作為的に忘れ、自分自身も騙してるんじゃないかとか、そんなこと。
だって、皆んな忘れているようで本質的なことは忘れてないように見えたし、「霧」の影響がすごく限定的に思えたから。アクセルも、ベアトリスも、お互い、ずっと何かを隠しているみたいな風に思えたから。息子について語る二人の会話が妙に白々しく思えたから。そして極め付けは、船頭とアクセルとの会話の中で明かされる息子の死が、突然でありながら、静かでさりげな過ぎたから。(でも読み返してみると…”爺さんはおれの足音を聞いて 、夢から覚めたような顔で振り向く 。夕方の光を浴びた顔には 、もう疑り深さはなく 、代わりに深い悲しみがある 。目には小さな涙もある 。”と、ここで思い出したのかなと読みとれますね。)
ていうか、その仮説でいくと、雌竜クエリグのくだりから辻褄合わなくなってくるんだけどね。うむ。ウスウスは矛盾に気づいてはいたんだけどね、ホントは、ね…いやはや、解釈はむつかし。
ポストアーサー王の時代設定プラス、ファンタジー要素により、作者のメッセージが見えにくくて、他の方のレビュー見ても、評価が二分してる。物語にメッセージ性を強く求める人たちには不評みたいだけど、イシグロ氏はアクティビストではなく文学者。敢えてこの設定にする事で、物語に普遍性を持たせようとしたのかな。時代を経ても語り継がれるアーサー王の伝説みたいに。
鬼、霧、赤い髪の女、夢、蝋燭、黒後家、兎、船頭、島、雌竜、戦士、山査子、全てが記号?でも一体何の?
もう、置いてかれ過ぎて、考えてもわからないから、ネット上の色々な方の書評や考察、また、作者ご本人のインタビュー内容で答え合わせ。
結果、全っ然違うこと考えて読んでたわ、自分。何故だろう、冒頭から一つの仮説に囚われ過ぎて、結局、物語終盤までその疑念が拭えなかった。
その仮説というのも、実はこの物語に登場する人物全員、本当は「霧」になんて全然影響されてなくて、皆んな忘れたフリをしてるだけ。都合の悪いことを作為的に忘れ、自分自身も騙してるんじゃないかとか、そんなこと。
だって、皆んな忘れているようで本質的なことは忘れてないように見えたし、「霧」の影響がすごく限定的に思えたから。アクセルも、ベアトリスも、お互い、ずっと何かを隠しているみたいな風に思えたから。息子について語る二人の会話が妙に白々しく思えたから。そして極め付けは、船頭とアクセルとの会話の中で明かされる息子の死が、突然でありながら、静かでさりげな過ぎたから。(でも読み返してみると…”爺さんはおれの足音を聞いて 、夢から覚めたような顔で振り向く 。夕方の光を浴びた顔には 、もう疑り深さはなく 、代わりに深い悲しみがある 。目には小さな涙もある 。”と、ここで思い出したのかなと読みとれますね。)
ていうか、その仮説でいくと、雌竜クエリグのくだりから辻褄合わなくなってくるんだけどね。うむ。ウスウスは矛盾に気づいてはいたんだけどね、ホントは、ね…いやはや、解釈はむつかし。
ポストアーサー王の時代設定プラス、ファンタジー要素により、作者のメッセージが見えにくくて、他の方のレビュー見ても、評価が二分してる。物語にメッセージ性を強く求める人たちには不評みたいだけど、イシグロ氏はアクティビストではなく文学者。敢えてこの設定にする事で、物語に普遍性を持たせようとしたのかな。時代を経ても語り継がれるアーサー王の伝説みたいに。
2021年2月6日に日本でレビュー済み
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面白かったです。
しょっぱなの人々の記憶を消してしまう霧、からいきなり引き込まれます。
舞台は遥か昔のイギリスの森、城、海、島といったものですが、そこから現在進行形の世界の諸問題を炙り出すように書ききれる才能がすごいですね。
一言でいってこれだけの抽象度の高いフィクションなのに、リアリティを感じれる作品は少ないかもしれないと思いました。
お奨めです!
しょっぱなの人々の記憶を消してしまう霧、からいきなり引き込まれます。
舞台は遥か昔のイギリスの森、城、海、島といったものですが、そこから現在進行形の世界の諸問題を炙り出すように書ききれる才能がすごいですね。
一言でいってこれだけの抽象度の高いフィクションなのに、リアリティを感じれる作品は少ないかもしれないと思いました。
お奨めです!