●トランスフォーマーやパシフィック・リムなど従来のものと若干趣が異なる、東洋的色合いの濃い
巨大ロボットSFです。古代中国神話の四神「朱雀、白虎、玄武など」や九尾の狐が登場するし、その
動力やメカニズムもユニーク。
パイロットの発した気の発現、霊圧の放出力、巨大ロボットへと変身して行くダイナミックな様子、
巻き起こる風や熱の放散など、幻想的かつ情緒豊かな筆致が迫力を感じます。
ロボットSFの他にもう一つの流れがあり、こちらの方も印象が強い。自分の弱さを隠し常に攻撃的
なスタンスで身構えている主人公。負けず嫌いで頑固で心はすさんでいる。ジェンダー差別などとい
う生易しい言葉では表せない程の男尊女卑の極み。
弊習に徹底的に抗う姿は凄絶。解決は相手を抹殺するか出来なければ自死かの二者択一。心の傷の
深さを吐露した言葉には諦観の匂いがする。
問答無用とばかりに人類を滅ぼした敵・渾沌(フン・ドゥン)を弊習に見立て、それを破壊する霊
蛹機に自分自身を写しています。そこまで徹底して破壊しなければこの世は変わらないのだろうか。
傷だらけの主人公と著者の姿がダブって見えてきます。
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鋼鉄紅女 (ハヤカワ文庫SF) 文庫 – 2023/5/23
シーラン・ジェイ・ジャオ
(著),
中原 尚哉
(翻訳)
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華夏(ホワシア)の辺境の娘、則天(ゾーティエン)は、異星の機械生物・渾沌(フンドゥン)と戦う人類解放軍に入隊する。巨大戦闘機械・霊蛹機(れいようき)に搭乗し、人類を滅亡させんとする渾沌と戦うのだ。霊蛹機は男女一組で乗り、〈気(き)〉で操るが、ペアの女子は多くが精神的重圧から死ぬ。ある密計のため、則天はあえてパイロットに志願し、過酷な戦いに身を投じるが……。中国古代史から創造された世界で、巨大メカが戦場を駆ける。英国SF協会賞受賞の傑作アクションSF。
- 本の長さ576ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2023/5/23
- 寸法10.6 x 2.1 x 15.7 cm
- ISBN-104150124086
- ISBN-13978-4150124083
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出版社より
シーラン・ジェイ・ジャオ『鋼鉄紅女』カバー原画
鈴木康士さんによる『鋼鉄紅女』カバー原画
作中に登場する戦闘機械〈霊蛹機〉の朱雀を鈴木康士さん描いていただきました。
本書冒頭には、本書に登場する4機〈霊蛹機〉の九尾狐、朱雀、白虎、玄武の三形態(標準形態、起立形態、英雄形態)の設定イラストも収録!
登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2023/5/23)
- 発売日 : 2023/5/23
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 576ページ
- ISBN-10 : 4150124086
- ISBN-13 : 978-4150124083
- 寸法 : 10.6 x 2.1 x 15.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 226,048位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年7月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2024年2月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
家族を奪った男に、理不尽を強いる家父長制に、くそったれな儒教社会に、強い意志を持って抗う、革命物語であり強烈な復讐劇です。
何喰ったらダーリンインザフランキスと侍女の物語を合体させるアイデアが思いつくんでしょうか。
文章でロボットものをやるのは非常に大変だと伺いますが、今作はエヴァとか鉄血系統の直接操作方式が採用されており、さらに五行の思想とロボットの能力を絡めることでバトルシーンの見応えがダイナミックで迫力あるものになっています。
また、ジェンダーSFとしての側面では儒教社会がもたらす理不尽が徹底的に描写されることで陰鬱な読み応えになるのですが、「儒教社会では女の子のほうがよりひどい目にあうが、だからといってそれが嫌な男の子だっているはずだ」という祈りのようなものを感じました。
惜しむらくは最終決戦後の展開が、なんだかまるで打ち切りが決まった漫画みたいなテンポと展開だったこと。
もしこれが中国国内で出版された小説ならまあ当局に気を遣ったのかなと思うのですが、カナダで出た小説ですし、作者はあくまで中国にルーツを持つカナダ在住とのことで、せっかく語っていたテーマをうやむやにしてしまうようなラストの展開には少し残念に思います。
どうやら続編が出るらしいのでそれを待ちたいです。
何喰ったらダーリンインザフランキスと侍女の物語を合体させるアイデアが思いつくんでしょうか。
文章でロボットものをやるのは非常に大変だと伺いますが、今作はエヴァとか鉄血系統の直接操作方式が採用されており、さらに五行の思想とロボットの能力を絡めることでバトルシーンの見応えがダイナミックで迫力あるものになっています。
また、ジェンダーSFとしての側面では儒教社会がもたらす理不尽が徹底的に描写されることで陰鬱な読み応えになるのですが、「儒教社会では女の子のほうがよりひどい目にあうが、だからといってそれが嫌な男の子だっているはずだ」という祈りのようなものを感じました。
惜しむらくは最終決戦後の展開が、なんだかまるで打ち切りが決まった漫画みたいなテンポと展開だったこと。
もしこれが中国国内で出版された小説ならまあ当局に気を遣ったのかなと思うのですが、カナダで出た小説ですし、作者はあくまで中国にルーツを持つカナダ在住とのことで、せっかく語っていたテーマをうやむやにしてしまうようなラストの展開には少し残念に思います。
どうやら続編が出るらしいのでそれを待ちたいです。
2023年8月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
表紙だけ見ると戦闘ロボものみたいに見えますが、
架空の古代中国が舞台なので、お衣装が華やかです。
小難しくなくエンタメとして楽しめます。
出てくる人名も歴史上有名な名前ばかりなので、中国原作にありがちな
「名前が難しくて覚えられない問題」もないです。
架空の古代中国が舞台なので、お衣装が華やかです。
小難しくなくエンタメとして楽しめます。
出てくる人名も歴史上有名な名前ばかりなので、中国原作にありがちな
「名前が難しくて覚えられない問題」もないです。
2023年6月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
序盤から中盤までは面白く読めました。特に戦闘シーンの描写はなかなか。
が、女性主人公と二人の男性の三角関係が出てきたあたりから、次第に自分の気持ちは離れていきます。なんとも主人公に都合のよい三角関係です。
また、男性が築いた独善的社会への反抗が繰り返し唱えられるのですが、あまりにも頻繁で表層的なので次第に鼻白んできます。男性に対する概念は、女性ではなく、死んだ姉に象徴される若い女子です(ただし、その時々で使い分けられているような)。若い女子は観念的な社会集団で完全な犠牲者として位置づけられます。物語の設定上強く虐げられた立場にあるのですが、そこに現実の男尊女卑の習慣や倫理を融合させ、男性の悪を強く主張します(なかなか巧妙です)。このロジックは主人公の場当たり的な言動を正当化するためによく使われるのですが、そんな理屈では受容できないほど、主人公と物語は破綻していきます。そして、とってつけたようなラストで物語は空中分解します。
が、女性主人公と二人の男性の三角関係が出てきたあたりから、次第に自分の気持ちは離れていきます。なんとも主人公に都合のよい三角関係です。
また、男性が築いた独善的社会への反抗が繰り返し唱えられるのですが、あまりにも頻繁で表層的なので次第に鼻白んできます。男性に対する概念は、女性ではなく、死んだ姉に象徴される若い女子です(ただし、その時々で使い分けられているような)。若い女子は観念的な社会集団で完全な犠牲者として位置づけられます。物語の設定上強く虐げられた立場にあるのですが、そこに現実の男尊女卑の習慣や倫理を融合させ、男性の悪を強く主張します(なかなか巧妙です)。このロジックは主人公の場当たり的な言動を正当化するためによく使われるのですが、そんな理屈では受容できないほど、主人公と物語は破綻していきます。そして、とってつけたようなラストで物語は空中分解します。
2023年6月12日に日本でレビュー済み
本作はどちらかといえば、敵である渾沌の戦いではなく、劇中の男性優位社会をいかにしてシバくべきかに重きが置かれているので、ロボット戦闘の描写というよりも、作者が書きたかったのは寧ろ主人公の思いだろうと感じた。
現実世界の有事にいかにして「巨大ロボット」を溶け込ませ、その挙動を現実味あるものにするかばかりに腐心し、単なるドンパチや自己満足的な難解なストーリーで終わっているロボットものが多い今、こうしたストレートで痛烈な問題提起は、それはそれで意義ある挑戦といえるだろう。
だが、主人公の問題提起が必要以上に何度も掲示されること、それがどす黒い暴力をぶちまける形で表れていることから、いささか食傷気味だった。もっとも、社会に暴言や殺意を向ける形で問題解決をする作品というのは、チョ・スンヒの戯曲のような自己完結に終わっているものが殆どだと思うが…。
現実世界の有事にいかにして「巨大ロボット」を溶け込ませ、その挙動を現実味あるものにするかばかりに腐心し、単なるドンパチや自己満足的な難解なストーリーで終わっているロボットものが多い今、こうしたストレートで痛烈な問題提起は、それはそれで意義ある挑戦といえるだろう。
だが、主人公の問題提起が必要以上に何度も掲示されること、それがどす黒い暴力をぶちまける形で表れていることから、いささか食傷気味だった。もっとも、社会に暴言や殺意を向ける形で問題解決をする作品というのは、チョ・スンヒの戯曲のような自己完結に終わっているものが殆どだと思うが…。
2023年6月18日に日本でレビュー済み
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「女主人公の中華モチーフロボSF」
本書をワンフレーズで表すとこうなる。組み合わせは新しいのかもしれないが、構成するパーツは漫画アニメゲームに慣れ親しんだ者なら見知ったものばかりだ。四神、九尾の狐、三国志、武則天、始皇帝、西遊記…。正体不明のモンスターの軍勢とそれに立ち向かうロボット。一見オリジナルに見える男女一対で乗り込むコクピットも、後書きにあるように日本のあるアニメから着想を得たと作者が認めている。最後のどんでん返しすら、SF的にはままある類型だ。本書のどの要素を抜き出しても「どこかで見たような…」という感想が出てくる。
いつもの店に行って代わり映えのしないメニューを食べて帰ってきた。本書を読んだ後はまさにそんな状態だ。私が翻訳SFに求めるものは、そういうものではなかったので、強気な値段設定と合わせて星二つとさせていただいた。
本書をワンフレーズで表すとこうなる。組み合わせは新しいのかもしれないが、構成するパーツは漫画アニメゲームに慣れ親しんだ者なら見知ったものばかりだ。四神、九尾の狐、三国志、武則天、始皇帝、西遊記…。正体不明のモンスターの軍勢とそれに立ち向かうロボット。一見オリジナルに見える男女一対で乗り込むコクピットも、後書きにあるように日本のあるアニメから着想を得たと作者が認めている。最後のどんでん返しすら、SF的にはままある類型だ。本書のどの要素を抜き出しても「どこかで見たような…」という感想が出てくる。
いつもの店に行って代わり映えのしないメニューを食べて帰ってきた。本書を読んだ後はまさにそんな状態だ。私が翻訳SFに求めるものは、そういうものではなかったので、強気な値段設定と合わせて星二つとさせていただいた。