本書の構想は「日本の青春小説って、なんかみんな同じだな」と言う着眼から始まった。地方から上京してきた青年が、都会的な女性に魅了され、何もできずに、結局振られる。これが青春小説の黄金パターンで、このお約束に沿って戦前に人気を集めた12作品の解題を行う。評者が読んだことがあるのは「三四郎」のみだが、九州から上京して美禰子のような女性に会ったため親近感がわいて愛読書になった。
「三四郎」で描かれた3つの世界(捨ててきた故郷、知識人ないし学問の世界、恋愛を含む華やかな都会の文化)は他の作品にもあてはまる。若者の関心が出世と恋愛にあるのは今も昔も同じだが、「女が成功した男を選ぶ」モチーフが目立つのは女性の生き方が限定されたため、「ヒロインが死に急ぐ」のも進学や就職から不倫に至るまで男女が不平等な関係にあったためと戦前の時代背景が反映されている。
著者があらすじを語る際の感情移入が面白く「悪いのはそっちだっての!」「このウスラトンカチが!」「ちょ、これはあかんやろう、これは」といった絶妙な野次に笑いを誘われる。解説が詳しいためネタバレの恐れはあるが、たぶん大丈夫。評者も含めて原作を読む意欲のある人は、もはや殆どいないと思うからだ。本書は日本の近代小説を独自の視点でみた出色の文学論、エンターテインメントとして楽しめる。
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出世と恋愛 近代文学で読む男と女 (講談社現代新書) 新書 – 2023/6/22
斎藤 美奈子
(著)
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「青春とは何か」とは男女ともに簡単には定義できない命題だが、前提として必要なのは「精神的親離れ」である。しかし青春期は、自分の将来への不安に迷い、徐々に自分の世界を見つけるが、同時に好きな人ができる時期でもある。
日本の近代文学の主人公である青年たちは、恋を告白できず片思いで終わるケースが多い。たまに恋が成就しても、ヒロインは難病や事故などで、なぜか死ぬのだ。日本の男性作家には恋愛、あるいは大人の女性を書く力がないのではと著者は喝破する。
たかが文学の話ではないかと思うなかれ、近代文学が我が国ニッポンの精神風土に落としている影は思いのほか深い。
明治期の立身出世物語が青年たちの思想に与えた時代背景は見逃せない。同時に戦争が文学に与えた強い影響も。
しかし夏目漱石『三四郎』から20年、女性作家の宮本百合子『伸子』で、「新しい女性」が恋愛や結婚に縛られない「生きる価値」を見つける時代が近代にも到来する。男女ともに時代の変遷とともに成長するのだ。
近代文学で描かれた男女の生き方は、現代日本の「人生の成功と恋愛」にかける人々の思いを読み解く大いなる鍵となる。
日本の近代文学の主人公である青年たちは、恋を告白できず片思いで終わるケースが多い。たまに恋が成就しても、ヒロインは難病や事故などで、なぜか死ぬのだ。日本の男性作家には恋愛、あるいは大人の女性を書く力がないのではと著者は喝破する。
たかが文学の話ではないかと思うなかれ、近代文学が我が国ニッポンの精神風土に落としている影は思いのほか深い。
明治期の立身出世物語が青年たちの思想に与えた時代背景は見逃せない。同時に戦争が文学に与えた強い影響も。
しかし夏目漱石『三四郎』から20年、女性作家の宮本百合子『伸子』で、「新しい女性」が恋愛や結婚に縛られない「生きる価値」を見つける時代が近代にも到来する。男女ともに時代の変遷とともに成長するのだ。
近代文学で描かれた男女の生き方は、現代日本の「人生の成功と恋愛」にかける人々の思いを読み解く大いなる鍵となる。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2023/6/22
- 寸法10.6 x 1.2 x 17.4 cm
- ISBN-10406529357X
- ISBN-13978-4065293577
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商品の説明
著者について
斎藤 美奈子
1956年、新潟市に生まれる。成城大学経済学部卒業。文芸評論家。1994年『妊娠小説』でデビュー。2002年、『文章読本さん江』で第一回小林秀雄賞受賞。主な著書に『紅一点論』『本の本』(ともにちくま文庫)、『モダンガール論』(文春文庫)、『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマ―新書)、『文庫解説ワンダーランド』『日本の同時代小説』(ともに岩波新書)、『中古典のすすめ』(紀伊國屋書店)、『挑発する少女小説』(河出新書)などがある。
1956年、新潟市に生まれる。成城大学経済学部卒業。文芸評論家。1994年『妊娠小説』でデビュー。2002年、『文章読本さん江』で第一回小林秀雄賞受賞。主な著書に『紅一点論』『本の本』(ともにちくま文庫)、『モダンガール論』(文春文庫)、『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマ―新書)、『文庫解説ワンダーランド』『日本の同時代小説』(ともに岩波新書)、『中古典のすすめ』(紀伊國屋書店)、『挑発する少女小説』(河出新書)などがある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2023/6/22)
- 発売日 : 2023/6/22
- 言語 : 日本語
- 新書 : 256ページ
- ISBN-10 : 406529357X
- ISBN-13 : 978-4065293577
- 寸法 : 10.6 x 1.2 x 17.4 cm
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- - 82位恋愛論
- - 206位ロシア・東欧文学研究
- - 669位講談社現代新書
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イメージ付きのレビュー
5 星
『野菊の墓』の民子はひとりでよく頑張った、『或る女』の葉子は肉食系女子だった
『出世と恋愛――近代文学で読む男と女』(斎藤美奈子著、講談社現代新書)で、とりわけ興味深いのは、●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』、●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』、●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』、の3つです。●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』斎藤美奈子は、『友情』を恋愛結婚至上主義という時代のトレンドに乗った作品と位置づけています。私は「恋愛至上主義者」を自任しているが、「恋愛結婚至上主義」という言葉は初めて知りました。斎藤は、主人公の23歳の野島を「出会ってすぐ結婚を考える男」、ヒロインの16歳の杉子を「新しい女」と評しています。「親が結婚を仕切る時代に、杉子は自らの意思で結婚相手を選び、積極的なアプローチをかけ、愛する人のハートをみごとに射止めたのである」。「野島はなぜ失敗したのだろう。杉子の手紙は激烈だった。<私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります><私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです>。さらに別の手紙で彼女は書く。<野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを讃美していらっしゃるのです。ですから万一一緒になったら、私がただの女なのにお驚きになるでしょう>。野島の妄想の激しさに、彼女は気がついていたのである。半面、大宮への求愛は熱烈だった。<私は巴里に行きとうございます。一目あなたにお目にかかりたい。そうすれば死んでもいいと思います>」。「野島よ、君はバカだが、人生はこれからだ。青年はこのようにして成長していくのである」。●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』斎藤は、『野菊の墓』を「なめちゃいけない純愛小説」と読者に注意を促しています。「『年上の女の子(=民子)』は政夫が思うほど『おぼこ』ではない。おそらく彼女は政夫にいってほしかったのだ。『僕は家を出るけど、必ず民さんを迎えに来るから待っていてほしい』と。その言質がないと、この先、二人の関係は保証されないからである。将来を誓い合うところまでは行かないと『私は政夫さんと一緒になる』という確信は持てず、親にいわれるままに、きっと嫁に行かされる。それをおぼこぶって、なーにが<民さんは野菊のような人だ>じゃ。大事な日なのだ。もっと実のある話をしなさいよ、このオタンコナスが」。「美しい田園地帯を背景にした愛らしい恋物語に見える『野菊の墓』は、この時代の他の青春小説ともじつは通底している。やっぱりこれは近代の物語なのだ」。「『野菊の墓』は、たしかに悲恋の物語ではある。しかし、死んだ民子はひとりでよく闘ったことは銘記しておくべきであろう」。●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』斎藤は、『或る女』の主人公、25歳の早月葉子は「翔んでる女」であり、「肉食系女子」だと決めつけています。そして、この葉子のモデルは、国木田独歩の元妻・佐々城信子だと書かれています。「葉子は、誰にも強制されることなく、多くの男性を踏みつけにして生きてきたのだ。その落とし前はどこかでつけなければならない。葉子の死だけに着目すれば、たしかにそれは肉食系女子に対する『懲罰』であり『因果応報』である。しかし、葉子のいない世界にもたらされるのは、むしろ彼女が嫌いだった希望と平和である」。「世界文学の中で葉子に似た女性を探すとしたら、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラだろう。容色を武器に男から男へと渡り歩く点でも、高慢で反省を知らない点でも、二人はよく似ている。物語の最後でレット・バトラーに捨てられたスカーレットは『明日は明日の風が吹く』といって出直しを誓う。一方、病魔のおかげで葉子は出直しのチャンスを失った。それでも『或る女』が『風と共に去りぬ』より17年も早く書かれたことは特筆に値する。それも男尊女卑で有名な極東の島国で。姦通罪や検閲の網をかいくぐって」。「有島は『或る女』の4年後、人妻だった編集者の波多野秋子と軽井沢で情死した。一方、スキャンダルの主になった佐々城信子は、内縁関係とはいえ武井勘三郎との間に一女をもうけて20年ともに暮らし、武井と死別した後も71歳まで生きた。現実を生きる女性は物語のヒロインより逞しいのである」。本書に刺激されて、久しぶりに、『友情』、『野菊の墓』、『或る女』を再読したくなりました。
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2023年7月26日に日本でレビュー済み
『出世と恋愛――近代文学で読む男と女』(斎藤美奈子著、講談社現代新書)で、とりわけ興味深いのは、●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』、●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』、●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』、の3つです。
●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』
斎藤美奈子は、『友情』を恋愛結婚至上主義という時代のトレンドに乗った作品と位置づけています。私は「恋愛至上主義者」を自任しているが、「恋愛結婚至上主義」という言葉は初めて知りました。
斎藤は、主人公の23歳の野島を「出会ってすぐ結婚を考える男」、ヒロインの16歳の杉子を「新しい女」と評しています。「親が結婚を仕切る時代に、杉子は自らの意思で結婚相手を選び、積極的なアプローチをかけ、愛する人のハートをみごとに射止めたのである」。
「野島はなぜ失敗したのだろう。杉子の手紙は激烈だった。<私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります><私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです>。さらに別の手紙で彼女は書く。<野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを讃美していらっしゃるのです。ですから万一一緒になったら、私がただの女なのにお驚きになるでしょう>。野島の妄想の激しさに、彼女は気がついていたのである。半面、大宮への求愛は熱烈だった。<私は巴里に行きとうございます。一目あなたにお目にかかりたい。そうすれば死んでもいいと思います>」。
「野島よ、君はバカだが、人生はこれからだ。青年はこのようにして成長していくのである」。
●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』
斎藤は、『野菊の墓』を「なめちゃいけない純愛小説」と読者に注意を促しています。
「『年上の女の子(=民子)』は政夫が思うほど『おぼこ』ではない。おそらく彼女は政夫にいってほしかったのだ。『僕は家を出るけど、必ず民さんを迎えに来るから待っていてほしい』と。その言質がないと、この先、二人の関係は保証されないからである。将来を誓い合うところまでは行かないと『私は政夫さんと一緒になる』という確信は持てず、親にいわれるままに、きっと嫁に行かされる。それをおぼこぶって、なーにが<民さんは野菊のような人だ>じゃ。大事な日なのだ。もっと実のある話をしなさいよ、このオタンコナスが」。
「美しい田園地帯を背景にした愛らしい恋物語に見える『野菊の墓』は、この時代の他の青春小説ともじつは通底している。やっぱりこれは近代の物語なのだ」。
「『野菊の墓』は、たしかに悲恋の物語ではある。しかし、死んだ民子はひとりでよく闘ったことは銘記しておくべきであろう」。
●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』
斎藤は、『或る女』の主人公、25歳の早月葉子は「翔んでる女」であり、「肉食系女子」だと決めつけています。そして、この葉子のモデルは、国木田独歩の元妻・佐々城信子だと書かれています。
「葉子は、誰にも強制されることなく、多くの男性を踏みつけにして生きてきたのだ。その落とし前はどこかでつけなければならない。葉子の死だけに着目すれば、たしかにそれは肉食系女子に対する『懲罰』であり『因果応報』である。しかし、葉子のいない世界にもたらされるのは、むしろ彼女が嫌いだった希望と平和である」。
「世界文学の中で葉子に似た女性を探すとしたら、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラだろう。容色を武器に男から男へと渡り歩く点でも、高慢で反省を知らない点でも、二人はよく似ている。物語の最後でレット・バトラーに捨てられたスカーレットは『明日は明日の風が吹く』といって出直しを誓う。一方、病魔のおかげで葉子は出直しのチャンスを失った。それでも『或る女』が『風と共に去りぬ』より17年も早く書かれたことは特筆に値する。それも男尊女卑で有名な極東の島国で。姦通罪や検閲の網をかいくぐって」。
「有島は『或る女』の4年後、人妻だった編集者の波多野秋子と軽井沢で情死した。一方、スキャンダルの主になった佐々城信子は、内縁関係とはいえ武井勘三郎との間に一女をもうけて20年ともに暮らし、武井と死別した後も71歳まで生きた。現実を生きる女性は物語のヒロインより逞しいのである」。
本書に刺激されて、久しぶりに、『友情』、『野菊の墓』、『或る女』を再読したくなりました。
●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』
斎藤美奈子は、『友情』を恋愛結婚至上主義という時代のトレンドに乗った作品と位置づけています。私は「恋愛至上主義者」を自任しているが、「恋愛結婚至上主義」という言葉は初めて知りました。
斎藤は、主人公の23歳の野島を「出会ってすぐ結婚を考える男」、ヒロインの16歳の杉子を「新しい女」と評しています。「親が結婚を仕切る時代に、杉子は自らの意思で結婚相手を選び、積極的なアプローチをかけ、愛する人のハートをみごとに射止めたのである」。
「野島はなぜ失敗したのだろう。杉子の手紙は激烈だった。<私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります><私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです>。さらに別の手紙で彼女は書く。<野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを讃美していらっしゃるのです。ですから万一一緒になったら、私がただの女なのにお驚きになるでしょう>。野島の妄想の激しさに、彼女は気がついていたのである。半面、大宮への求愛は熱烈だった。<私は巴里に行きとうございます。一目あなたにお目にかかりたい。そうすれば死んでもいいと思います>」。
「野島よ、君はバカだが、人生はこれからだ。青年はこのようにして成長していくのである」。
●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』
斎藤は、『野菊の墓』を「なめちゃいけない純愛小説」と読者に注意を促しています。
「『年上の女の子(=民子)』は政夫が思うほど『おぼこ』ではない。おそらく彼女は政夫にいってほしかったのだ。『僕は家を出るけど、必ず民さんを迎えに来るから待っていてほしい』と。その言質がないと、この先、二人の関係は保証されないからである。将来を誓い合うところまでは行かないと『私は政夫さんと一緒になる』という確信は持てず、親にいわれるままに、きっと嫁に行かされる。それをおぼこぶって、なーにが<民さんは野菊のような人だ>じゃ。大事な日なのだ。もっと実のある話をしなさいよ、このオタンコナスが」。
「美しい田園地帯を背景にした愛らしい恋物語に見える『野菊の墓』は、この時代の他の青春小説ともじつは通底している。やっぱりこれは近代の物語なのだ」。
「『野菊の墓』は、たしかに悲恋の物語ではある。しかし、死んだ民子はひとりでよく闘ったことは銘記しておくべきであろう」。
●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』
斎藤は、『或る女』の主人公、25歳の早月葉子は「翔んでる女」であり、「肉食系女子」だと決めつけています。そして、この葉子のモデルは、国木田独歩の元妻・佐々城信子だと書かれています。
「葉子は、誰にも強制されることなく、多くの男性を踏みつけにして生きてきたのだ。その落とし前はどこかでつけなければならない。葉子の死だけに着目すれば、たしかにそれは肉食系女子に対する『懲罰』であり『因果応報』である。しかし、葉子のいない世界にもたらされるのは、むしろ彼女が嫌いだった希望と平和である」。
「世界文学の中で葉子に似た女性を探すとしたら、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラだろう。容色を武器に男から男へと渡り歩く点でも、高慢で反省を知らない点でも、二人はよく似ている。物語の最後でレット・バトラーに捨てられたスカーレットは『明日は明日の風が吹く』といって出直しを誓う。一方、病魔のおかげで葉子は出直しのチャンスを失った。それでも『或る女』が『風と共に去りぬ』より17年も早く書かれたことは特筆に値する。それも男尊女卑で有名な極東の島国で。姦通罪や検閲の網をかいくぐって」。
「有島は『或る女』の4年後、人妻だった編集者の波多野秋子と軽井沢で情死した。一方、スキャンダルの主になった佐々城信子は、内縁関係とはいえ武井勘三郎との間に一女をもうけて20年ともに暮らし、武井と死別した後も71歳まで生きた。現実を生きる女性は物語のヒロインより逞しいのである」。
本書に刺激されて、久しぶりに、『友情』、『野菊の墓』、『或る女』を再読したくなりました。
『出世と恋愛――近代文学で読む男と女』(斎藤美奈子著、講談社現代新書)で、とりわけ興味深いのは、●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』、●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』、●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』、の3つです。
●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』
斎藤美奈子は、『友情』を恋愛結婚至上主義という時代のトレンドに乗った作品と位置づけています。私は「恋愛至上主義者」を自任しているが、「恋愛結婚至上主義」という言葉は初めて知りました。
斎藤は、主人公の23歳の野島を「出会ってすぐ結婚を考える男」、ヒロインの16歳の杉子を「新しい女」と評しています。「親が結婚を仕切る時代に、杉子は自らの意思で結婚相手を選び、積極的なアプローチをかけ、愛する人のハートをみごとに射止めたのである」。
「野島はなぜ失敗したのだろう。杉子の手紙は激烈だった。<私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります><私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです>。さらに別の手紙で彼女は書く。<野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを讃美していらっしゃるのです。ですから万一一緒になったら、私がただの女なのにお驚きになるでしょう>。野島の妄想の激しさに、彼女は気がついていたのである。半面、大宮への求愛は熱烈だった。<私は巴里に行きとうございます。一目あなたにお目にかかりたい。そうすれば死んでもいいと思います>」。
「野島よ、君はバカだが、人生はこれからだ。青年はこのようにして成長していくのである」。
●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』
斎藤は、『野菊の墓』を「なめちゃいけない純愛小説」と読者に注意を促しています。
「『年上の女の子(=民子)』は政夫が思うほど『おぼこ』ではない。おそらく彼女は政夫にいってほしかったのだ。『僕は家を出るけど、必ず民さんを迎えに来るから待っていてほしい』と。その言質がないと、この先、二人の関係は保証されないからである。将来を誓い合うところまでは行かないと『私は政夫さんと一緒になる』という確信は持てず、親にいわれるままに、きっと嫁に行かされる。それをおぼこぶって、なーにが<民さんは野菊のような人だ>じゃ。大事な日なのだ。もっと実のある話をしなさいよ、このオタンコナスが」。
「美しい田園地帯を背景にした愛らしい恋物語に見える『野菊の墓』は、この時代の他の青春小説ともじつは通底している。やっぱりこれは近代の物語なのだ」。
「『野菊の墓』は、たしかに悲恋の物語ではある。しかし、死んだ民子はひとりでよく闘ったことは銘記しておくべきであろう」。
●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』
斎藤は、『或る女』の主人公、25歳の早月葉子は「翔んでる女」であり、「肉食系女子」だと決めつけています。そして、この葉子のモデルは、国木田独歩の元妻・佐々城信子だと書かれています。
「葉子は、誰にも強制されることなく、多くの男性を踏みつけにして生きてきたのだ。その落とし前はどこかでつけなければならない。葉子の死だけに着目すれば、たしかにそれは肉食系女子に対する『懲罰』であり『因果応報』である。しかし、葉子のいない世界にもたらされるのは、むしろ彼女が嫌いだった希望と平和である」。
「世界文学の中で葉子に似た女性を探すとしたら、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラだろう。容色を武器に男から男へと渡り歩く点でも、高慢で反省を知らない点でも、二人はよく似ている。物語の最後でレット・バトラーに捨てられたスカーレットは『明日は明日の風が吹く』といって出直しを誓う。一方、病魔のおかげで葉子は出直しのチャンスを失った。それでも『或る女』が『風と共に去りぬ』より17年も早く書かれたことは特筆に値する。それも男尊女卑で有名な極東の島国で。姦通罪や検閲の網をかいくぐって」。
「有島は『或る女』の4年後、人妻だった編集者の波多野秋子と軽井沢で情死した。一方、スキャンダルの主になった佐々城信子は、内縁関係とはいえ武井勘三郎との間に一女をもうけて20年ともに暮らし、武井と死別した後も71歳まで生きた。現実を生きる女性は物語のヒロインより逞しいのである」。
本書に刺激されて、久しぶりに、『友情』、『野菊の墓』、『或る女』を再読したくなりました。
●野島某の妄想――武者小路実篤『友情』
斎藤美奈子は、『友情』を恋愛結婚至上主義という時代のトレンドに乗った作品と位置づけています。私は「恋愛至上主義者」を自任しているが、「恋愛結婚至上主義」という言葉は初めて知りました。
斎藤は、主人公の23歳の野島を「出会ってすぐ結婚を考える男」、ヒロインの16歳の杉子を「新しい女」と評しています。「親が結婚を仕切る時代に、杉子は自らの意思で結婚相手を選び、積極的なアプローチをかけ、愛する人のハートをみごとに射止めたのである」。
「野島はなぜ失敗したのだろう。杉子の手紙は激烈だった。<私は野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります><私は、どうしても野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです>。さらに別の手紙で彼女は書く。<野島さまは私と云うものをそっちのけにして勝手に私を人間ばなれしたものに築きあげて、そして勝手にそれを讃美していらっしゃるのです。ですから万一一緒になったら、私がただの女なのにお驚きになるでしょう>。野島の妄想の激しさに、彼女は気がついていたのである。半面、大宮への求愛は熱烈だった。<私は巴里に行きとうございます。一目あなたにお目にかかりたい。そうすれば死んでもいいと思います>」。
「野島よ、君はバカだが、人生はこれからだ。青年はこのようにして成長していくのである」。
●戸村民子の焦燥――伊藤左千夫『野菊の墓』
斎藤は、『野菊の墓』を「なめちゃいけない純愛小説」と読者に注意を促しています。
「『年上の女の子(=民子)』は政夫が思うほど『おぼこ』ではない。おそらく彼女は政夫にいってほしかったのだ。『僕は家を出るけど、必ず民さんを迎えに来るから待っていてほしい』と。その言質がないと、この先、二人の関係は保証されないからである。将来を誓い合うところまでは行かないと『私は政夫さんと一緒になる』という確信は持てず、親にいわれるままに、きっと嫁に行かされる。それをおぼこぶって、なーにが<民さんは野菊のような人だ>じゃ。大事な日なのだ。もっと実のある話をしなさいよ、このオタンコナスが」。
「美しい田園地帯を背景にした愛らしい恋物語に見える『野菊の墓』は、この時代の他の青春小説ともじつは通底している。やっぱりこれは近代の物語なのだ」。
「『野菊の墓』は、たしかに悲恋の物語ではある。しかし、死んだ民子はひとりでよく闘ったことは銘記しておくべきであろう」。
●早月葉子の激情――有島武郎『或る女』
斎藤は、『或る女』の主人公、25歳の早月葉子は「翔んでる女」であり、「肉食系女子」だと決めつけています。そして、この葉子のモデルは、国木田独歩の元妻・佐々城信子だと書かれています。
「葉子は、誰にも強制されることなく、多くの男性を踏みつけにして生きてきたのだ。その落とし前はどこかでつけなければならない。葉子の死だけに着目すれば、たしかにそれは肉食系女子に対する『懲罰』であり『因果応報』である。しかし、葉子のいない世界にもたらされるのは、むしろ彼女が嫌いだった希望と平和である」。
「世界文学の中で葉子に似た女性を探すとしたら、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』の主人公、スカーレット・オハラだろう。容色を武器に男から男へと渡り歩く点でも、高慢で反省を知らない点でも、二人はよく似ている。物語の最後でレット・バトラーに捨てられたスカーレットは『明日は明日の風が吹く』といって出直しを誓う。一方、病魔のおかげで葉子は出直しのチャンスを失った。それでも『或る女』が『風と共に去りぬ』より17年も早く書かれたことは特筆に値する。それも男尊女卑で有名な極東の島国で。姦通罪や検閲の網をかいくぐって」。
「有島は『或る女』の4年後、人妻だった編集者の波多野秋子と軽井沢で情死した。一方、スキャンダルの主になった佐々城信子は、内縁関係とはいえ武井勘三郎との間に一女をもうけて20年ともに暮らし、武井と死別した後も71歳まで生きた。現実を生きる女性は物語のヒロインより逞しいのである」。
本書に刺激されて、久しぶりに、『友情』、『野菊の墓』、『或る女』を再読したくなりました。
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2023年7月8日に日本でレビュー済み
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青春小説は①主人公は地方から上京してきた青年②彼は当然、都会的な女性に魅了される③でもなにもできずにふられる、というパターンです。
恋愛小説は①主人公には相思相愛の人がいる②しかし二人の仲は何らかの理由でこじれる③そして,彼女は若くして死ぬ、となっています。
さらに純愛小説においては①一人称の回想形式②早すぎる恋人の死③純血主義、と分析されます。
この傾向は、男子の「立身出世」と女性の「上昇婚」という時代的な背景はあるものの実は現在のコミック、小説、ドラマ、韓流まで脈々と受け継がれており上手にブレンドすればするほどヒットの確率が高まる気がします。
イタリア人のイザベラ・ディオニシオ「女を書けない文豪たち イタリア人が偏愛する日本近現代文学 」で取り上げた小説と重なることもあり、どうしても同一作者疑惑も浮かび上がってきますが、もはや安定感を感じる「愛あるツッコミ芸」は健在です。
恋愛小説は①主人公には相思相愛の人がいる②しかし二人の仲は何らかの理由でこじれる③そして,彼女は若くして死ぬ、となっています。
さらに純愛小説においては①一人称の回想形式②早すぎる恋人の死③純血主義、と分析されます。
この傾向は、男子の「立身出世」と女性の「上昇婚」という時代的な背景はあるものの実は現在のコミック、小説、ドラマ、韓流まで脈々と受け継がれており上手にブレンドすればするほどヒットの確率が高まる気がします。
イタリア人のイザベラ・ディオニシオ「女を書けない文豪たち イタリア人が偏愛する日本近現代文学 」で取り上げた小説と重なることもあり、どうしても同一作者疑惑も浮かび上がってきますが、もはや安定感を感じる「愛あるツッコミ芸」は健在です。