ザリガニの鳴くところ

  • Audible Studios/早川書房 (2020年5月15日発売)
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感想・レビュー・書評

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  • Audibleにて聴く。
    2019年アメリカでいちばん売れた本とのことで、それだけの圧倒的なヴォリュームがある内容。

    過酷な境遇にひとり取り残されてしまった「湿地の少女」カイアの物語。
    怒りと哀しさと喜びと嬉しさ。感情全てを総動員して読んだ。(というか、聴いた)

    読み終わって「ザリガニの鳴くところ」に思いを馳せる。自然には善も悪もない。「生きる」ことがある。

    結末がとても深い。
    単純には受け止めたくないな。

  • 「ーーはるか遠くの、ザリガニの鳴くところへと」の最後の一文で、ゾクゾクと震えた。ベタかもしれないけど、タイトル回収で終わるのは個人的に好み。

    酔いどれの粗暴な父親から逃れるように、母親や姉兄も去っていき、やがて父親も去ってしまう。バークリーコーブの村の外れにある湿地に立つ小屋で幼いながらも一人生きなければならなかったカイヤ。学校にも通わず、泥だらけの彼女を“湿地の少女”と蔑む村人の中で唯一、尊重し、援助の手を差し伸べてくれたのは、同じく蔑みの対象であった黒人の商店主ジャンピン。ジャンピンの妻メイベルも、成長していくカイヤに必要とするものを与え、気にかけてくれた。
    やがてカイヤは湿地で釣りをしていた年上の少年テイトと交流するようになる。本や様々な知識を与えてくれた彼にカイヤは心を許し、彼も恋心を抱くが、大学へ進学したことで二人は離れてしまう。ふたたび一人ぼっちとなった彼女に地元では有名な女たらしのチェイスが近づいてくるーー

    この小説は様々な要素を含んでいるので、人によってカテゴリは変わってくると思う。チェイスが遺体となって発見され、カイヤが容疑者として捕まり、裁判にかけられる過程が、過去と現在を幾度も行き来しながら描かれるので、そこだけを見るとミステリなのだが、正直、アリバイや目撃証言、物的証拠もこの作品ではあまり重要ではない。
    個人的にはカイヤがテイトによって恋を知り、絶望し、チェイスの甘言を信じて、ふたたび裏切られる切なさと怒りに都度共感し、彼女の人生が報われることを願いながら恋愛小説として読み進めていた。そして思いのほかあっさりとハッピーエンドへ導かれたのだが、喜んだ私を最後の章で見事に叩き落とす。
    けれどそれは誰より自然と生き物を知っているカイヤが、何度も匂わせていたことだった。彼女はあのままでは自分は母親のように追い詰められてしまうことがわかっていた。だから生存本能として排除しただけなのだ。

    オーディブルで聴いたので、ナレーターの池澤春菜さん(声優)のかなり演技過剰な読み方は、人によっては好き嫌いがあるかもしれないと思った。私はドラマを聴いているような感覚でいけたので大丈夫だったけど。これを聴くのが楽しみでウォーキングが捗った。

  • 湿地で家族で暮らしていたカイア。兄弟はたくさんいたはずだが、彼ら彼女らは体が育つと、この湿地と暴力をふるう父親から逃げ出していく。仲の良かった上の兄のジョディも、そしてまさかの母さえも、カイアを残して家を出ていってしまった。置いて行かれてしまうことに怯え、暴力的で理解し合えないとしてもたった一人の父親と、少しでも手を取り合おうとするカイアだったが、うまくいきかけた二人の関係は母からの一通の手紙により一瞬で瓦解する。父親さえもカイアを見捨てて出て行ってしまう。
    父親が出て行ってから、彼女は貝や魚の燻製を、父親経由で知り合った船の燃料屋兼少しばかりの日用品を売っているジャンピンに買い取ってもらって生計をたてた。
    学校に行かせようとやってくる職員から逃げたために、文字も数字も知らないまま、それでも湿地の自然を先生に様々な現象を観察していたカイア。彼女に文字を教えたのはジョディと友人だったテイトだった。彼は湿地に通ってはカイアに勉強を教えてくれた。彼もまた湿地の生き物たちに愛情をもっていた。二人はいつしか心を通わせ合うのだが、テイトは大学へと行くことが決まっていた。大学に行けば自分のことを忘れてしまうというカイアに、テイトはけしてそんなことはしないと誓う。しかし、約束した日に、彼は帰ってこなかった。兄、母、父、そしてテイトも帰っては来なかったことで、カイアは一人で生きていくことを誓うのだが、テイトが呼び起こした彼女の女性として他社を求める気持ちが、村のプレイボーイのチェイスの誘いを受け入れてしまう。それは彼女の人生における最大の悲劇の始まりだった。


    湿地で生きていくことが差別されることでもある、カイアという少女の成長物語であり、湿地という場所と彼女の魂が織り上がっていく様を見守っていくことであり、テイトとの愛、チェイスで埋めようとする体の中の欲求とどう折り合いをつけるのか、受け入れていくのかという女性の感覚の物語でもある。
    湿地という特異で豊かな場所の自然を知れる、詩的で誠実な文章がその砂浜を、水の感触を、カモメたちの羽毛の光の反射を目に直接映してくれるようだった。
    カイアという女性の孤独に寄り添い、彼女を包み込む湿地という場所を彼女に手を引かれて巡り、テイトの胸が締め付けられるような愛情の深さに心の中でカイアを説得してみたり。
    本当に楽しかった。自然小説、少女の成長物語、ミステリ、恋愛もの、いくつもの要素を絡めて出来上がった物語は、読み終わるのが、あの湿地を離れるのが、とても惜しく思う本だった。
    読み終わって、思わず猫を抱きに行ってしまった。
    まるで昔の親しい猫を抱くような気持ちで、二時間ほど前にあったはずの猫を。遠くにいった気持ちになる本はいい本だと思う。

  • 湿地で孤独に過ごす少女と転落死事件の話が並行して進んでいく。犯人は結局誰なのだろうと思ってたら最後に明かされた。ホワイト・トラッシュという生活困窮にありながらも逞ましく生きる姿が印象に残った。

  • アメリカ東海岸の湿地帯に生まれて父はアル中で暴力。
    母も逃げて一家離散の中、一人の少女が奇跡的に成長する。
    一方、田舎町のスーパースター青年の死体が発見される。
    2つの時代が迫った時に事件が起こり、成人になった少女が渦中に。
    静かさと自然と孤独、そして恋。裁判劇にミステリーまで詰まっている。面白い。
    書店員さんのコメントに「ラストは墓場まで持っていきます」と書いてあった。そりゃそうだと納得。

  • 主人公の少女は湿地のホワイト・トラッシュ。ホワイト・トラッシュという言葉は初めて知ったが、アメリカの最貧困白人のことだそうだ。トランプ現象の文脈でヒルビリーという言葉は聞いたことがあり興味を持っていたが、似たような人々を指すようだ。ホワイト・トラッシュは、上流・中流の白人からは差別されている。物語には黒人差別の描写もあり、多面的な差別の構造が見える。

    物語は二つの時代(1969年のある男の死亡と、1950年代に始まり徐々に1969年に近づく主人公の少女カイヤの人生)が交互に描かれる形で進む。男の死にカイヤが関わっているようだが、なかなか真相が明らかにならない。親しい人に次々去られるカイヤの困難と孤独、そしてカイヤが生きる湿地の自然の描写が続く。最後に真相が明らかになる。この真相(特にカイヤが口ずさむ詩について)を知ったうえで再読してみたい。

    カイヤを傷つける酷い人間(特に男が酷い)が何人も出てくる。その中で個人的に一番好感を持ったのは、カイヤの恋人テイトの父親スカッパー。息子テイトを心から誇りに思い、彼とカイヤの関係も否定はしないが「親は子どもに忠告しなきゃいけない。俺の仕事なんだ。」と言って、焦って関係を進めようとするテイトに釘を指す。

  • みなしごになった少女が2人の男性との交流を通じて変化していく様子を描く恋愛小説の要素、そして殺人事件を捜査するサスペンス小説の要素が交互に描かれる。
    家族が家を離れた後、孤独に暮らしていた少女が人の優しさを通じて自立していく点が印象に残った。できすぎかもしれないが、不幸にしか見えない少女が幸せになって欲しいと願わずにはいられなかった。

  • すばらしかった。運転しながら夢中で聴いて、眠くならず。

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