- Amazon.co.jp ・電子書籍 (199ページ)
感想・レビュー・書評
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初読みの作家さん また知らなかった作家さんに出会えたことが嬉しい
ブク友さんのレビューに魅かれて読んだが、評価通りの
しみじみと心に沁みるお話だった
母親と二人暮らしの勉強も運動もイマイチ、存在感の薄い枝田光輝少年の小学5年生のひと夏の話
子供の頃の夏休み、おばあちゃんの家にいとこ連中が集まって広い座敷に雑魚寝して、夜遅くまでわいわい騒いだ楽しかった思い出が蘇ってきた
帯に『やさしくすこやかな感動作』とあったが、まさしくすこやかという言葉がピッタリの作品だった
枝田少年を取り巻く押野やヤマ、じゃらしの子供らしい胸がすくような清々しさ
学校や学年は違っても友達、上下関係や陰湿ないじめなど微塵もない
さらに、言葉は少なく愛想もないが、深い愛で見守るおじいさんの存在にも心惹かれた
こんな人たちに囲まれて、少しずつ自分を表現できるようになり逞しく成長していく枝田少年
人生は劇的ではない
もしあの時〜〜だったら、まったくちがう人生だっただろうと思ったことは何度もあるけれど、そんなことを言ったらきりがない
ぼくらは日々何かしらの選択をして生きている
今の自分というのは、これまでの過去を全部ひっくるめた結果なのだ
いろんなことがあって、これからもあるだろうけど、どんなことも静かに受け入れていくのがぼくの人生で日常だ
人生は劇的ではない
ぼくはこれからも生きていく
枝田光輝少年があの夏を回想して語る最後の言葉に、派手ではないけれど、誠実な生き様がうかがわれるようだ
静かな余韻が残る素晴らしい本だった
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「しずかな日々」 椰月美智子
椰月さんの作品は「るり姉」が大好きだけど、本作はそれ以上です。
小学5年生になった枝田光輝は、運動も勉強もダメで友達もいない、小さなアパートで母親と二人で暮らしている。そんな光輝に初めて友達が出来、下手ながらもみんなでやる草野球の楽しさも知る。そんなある日、母親の仕事の都合で転校すると知らされた光輝は、初めて母親に逆らい一人でも残ると告げる。担任の先生の協力を得て、転校を免れた光輝は、これまで一度しか会ったことのないおじいさんと、縁側の広い古い一軒家で暮らすことになる。母親と離れる寂しさを感じていた光輝であったが、おじいさんの家で友達と一緒に一生忘れられない夏休みを過ごすことに…。
しずかな日々なんてとんでもない。新しい発見と驚き、夢や希望にあふれたキラッキラな夏の日を過ごす光輝。さらにスタンバイミー顔負けのひと夏の冒険までやってのける。いたずら、悪ふざけ、初恋まで男の子あるあるも満載。光輝の親友となる押野広也、やんちゃで明るいムードメーカーで文字通り闇の中からひかり輝く世界へと光輝を引っ張り上げてくれた恩人。そう、枝田、押野、出席番号順の偶然が二人をつなげてくれた。これも学生時代ならよくあること。この押野のキャラが素晴らしい。彼が夏休みの宿題で書いた作文、この出来の良さには感動もの。草野球を通じて遊び仲間となった1学年上のヤマとじゃらし、4人揃ったらまさにスタンバイミーだよ。後に回顧するところも。
これはずっと手元に置いておきたい一冊。今年読んだ本ベスト10入り確実です -
とある理由から祖父と2人で暮らすことになった小学生の主人公。新たな家族との静かで穏やかな日々がゆっくりと流れる。読みながらふと遥か昔、夏ともなると皆で花火をしたり縁側でスイカを食べたのを懐かしく思い出した。大切なのはこんな何気ない毎日なんだろうな。
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何気なく手に取った本が穏やかで染み入るような世界に連れて行ってくれる時の幸せな気持ち。秘密の旅をしているような興奮と、しんしんと時が堆積していく静やかさが入り混じっている感じ。本を読むって、幾つになってもわくわくする。
小学生の男の子のきらきら輝く賑やかな夏休みの物語なのに、タイトル通り、1日1日が逆光で見ているかのように静かでもある。
子どもの頃のなんでもない毎日が、その後の人生の大きなよるべになるんだ、としみじみ思う。
私は静かな水槽に子どもたちを閉じ込めていなかったか。毎日に必死で、それに気づいてあげられなかった。 -
枝田とおじいさんの生活はタイトル通り、静かで穏やかで優しい。小学五年生のひと夏の物語で枝田にとって忘れられない夏だ。母さんと離れて暮らすことは物理的だけでなく親子関係の離別だ。おじいさん、押野、じゃらし、ヤマたちとの濃密な夏休みとは対称的に母さんとの離別は薄暗い。枝田が初めての友だちの押野と離れたくなくて転校を拒んだのは、結果的にそれだけの理由じゃなかったように思う。ところで押野の夏休みの宿題の作文「ある夏のできごと」は、よかったなあ。子どもの頃は空き地があってそこには土管、ってよくある風景だった。なんだかあの中でこそこそやってたなぁ。オイラのおじいさんもおばあさんももういないけど、母さん父さんにちょっと会いたくなった。そして、いまでもときどき連絡を取り合う幼馴染みはずっと大切にしたいと思う。オイラも枝田と同じように友だちから勇気をもらっていた気がするなぁ。
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除架をしていて見つけた。装丁のシンプルさが、小学校の柚月美智子ゆずきみちこ
「しずかな日々」
除架をしていて見つけた。装丁のシンプルさが、小学校の図書館では目立った。一般書ではないかしらと調べたら小学高学年向けになっている。周辺の小学校の図書館にも置いている。
でも、この装丁だよ、ウチの児童は手に取るかしらと、疑問に感じて読んでみることに。
大人になった主人公が、小学生の自分を振り返り、あの時期があったから自信を持って生きていけると振り返り、本章の5年生の時の物語へと導いていく。
ぼくは、母さんと二人暮らしで、かなしいイメージが付き纏い、だれの目にもとまらない幽霊のような子だった。それが、5年生の始業式の日に、押田が野球に誘ってくれたのをキッカケに、友達と遊ぶ生活、楽しい生活に変わった。
母さんは仕事の関係で引越しをするから、転校する事になると言う。ぼくはイヤだったので、付き合いのなかった、母さんの父さん、つまりおじいさんと暮らすことになる。
ここでの、おじいさんとぼく、そして時々遊びに来る押田と草野球仲間の二人、その生活がその後のぼくの糧になっていく。
おじいさんと少年、夏休みの話だからか、湯本香樹実の「夏の庭」を思い出した。
子どもの頃の良い思い出は、その後の人生を支えてくれることを実感する。2014年には青い鳥文庫として出版されている。