- Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
- / ISBN・EAN: 9784924914698
感想・レビュー・書評
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新彊北部、アルタイ地区で暮らしていた著者が、実家の裁縫店兼雑貨店を訪れる遊牧民のとの交流や生活を描いた散文集。
著者の李娟は漢民族の生まれ。定住を基本とする彼らが、冬にはマイナス30度を下回るという厳しい自然環境の中、言葉もわからない状態で店を開き、客を求めて何度も移動するのだから、決して楽な生活ではなかっただろう。それでも、彼女が語る遊牧民の人たちとの交流エピソードは、くすっとしてしまうようなユーモアや温かみにあふれている。
ツケで洋服を購入した男性の居所がわからず、たまたま立ち寄った遊牧民らしき男性に聞いてみたら、購入した覚えがないがノートの文字は自分の字だ、と費用を分割で支払っていったという『普通の人』のエピソードが大好きだ。いつ会えるかわからない遊牧民なのにツケが成り立ち、購入したかどうかもあいまいなのに支払ってくれる律儀さというかおおらかさに、自分とは全く違う価値観で動く世界があるんだな、と驚いてしまう。
『お酒を飲む人』では、酒に飲まれるちょっと困った人たちが大勢登場する。酔っぱらうと電気代の集金に行き、取り立てが終わると今度は電気を1軒1軒止めて回る人、店が閉まっていても開けてくれるまで何時間も扉をたたき続ける人、氷点下の雪の中で眠ってしまい、危うく命を落としかけたのに懲りずに飲み続ける人。トンでも人間の面白さの中に、酒を飲んでやり過ごしたい生活の厳しさも感じられてちょっと切なくもなる。
著者の李娟は、20歳の時に文章を書く練習としてこの散文を綴ったそうだ。ぎこちなさが残る部分もあるが、雄大な自然の描写はハッとするほど美しく、食事作りを中心とした生活行為の描写は臨場感にあふれていて心を打たれる。
中国の政策によってなくなりつつあるという遊牧民の生活を垣間見ることができるという点でも貴重な本だ。 -
遊牧民の生活に興味があって手に取った本。
期待どおり遊牧民や大自然の様子を堪能したが、素朴で飾らない文体が良かった。伝えたい思いがありすぎて、もじもじしてる感じがして、何だか可愛らしい印象。(もじもじしてる文体って面白い)
漢民族と遊牧民との組み合わせは、政策としてどうなのよと思うところは色々あるが、本書のように、違いがあるからこそ互いの良さを享受し、上下や優劣なく対等に存在できればいいのにと願う。 -
著者20歳前後の身辺雑記。訳文であっても、まだ文章が小慣れていないのがわかる。ただ本書が貴重なのは、ゴビ砂漠あたりで遊牧民相手の雑貨商を営む漢族一家の少女の身辺雑記である点だ。国家の政策により定住化が強制されつつある遊牧民の、それ以前の暮らしぶりや、彼らを相手に商売を営む漢人の生態が等身大で描かれており、その地の人々の生活のあり様をリアルにイメージさせてくれる。老若男女様々な人々、そして子羊・犬・ニワトリ・金魚などの動物たちのことが、一つひとつ愛情を持って描かれている。
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新疆の遊牧地域で雑貨店や裁縫店を営む生活を綴ったエッセイ。読んでいるだけでこちらまでも寒くなってしまうほどの厳しい環境の中での生活。それでも日々のささやかな楽しみや人とのつながりが穏やかな時間を繋いでいく。どんな人にも平和に暮らしていく権利があり、それは誰にも侵されてはいけない。
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河崎みゆき(翻訳):國學院大學非常勤講師。
※國學院大學図書館
所蔵なし
ご丁寧にありがとうございます。
私はむしろ、いつも地球っこさんのレビューの深さ(人間模様を見る視線の鋭さ・共感・温かさ)...
ご丁寧にありがとうございます。
私はむしろ、いつも地球っこさんのレビューの深さ(人間模様を見る視線の鋭さ・共感・温かさ)に心動かされています。
新しい分野に触れて、そのときはすぐには全てを理解しなくても、あとから繋がって理解が深まるのも楽しいですよね。
本当におっしゃる通りで、だからといって遊牧民としての生活を続けることを当事者全員が望むとは限らないというのが難しいところだと私も思います。
その土地に根づいて編み出された生活の知恵は、その場所において一番持続可能で理に適っている場合が多いのですが、政府の意向、またはある程度当事者の意向によって、変化していっている、というのが現実な気がします。『熱源』を読んだ時も、まさにこのテーマで「どうしたらいいんだろう」とぐるぐる考えた記憶があります。
ここは不勉強な領域でふんわりした理解ですが、少数民族の保護政策も、国によって様々なようですね。(例えば、近代教育は全員に施し「国語」は学ばせたり、自由にさせるがほぼ隔離状態で没交渉だったり)
考え続けることが大事なんでしょうね。
「熱源」も読んでみます!
梨木香歩さんがエッセイ『ここに物語が』で、塩...
考え続けることが大事なんでしょうね。
「熱源」も読んでみます!
梨木香歩さんがエッセイ『ここに物語が』で、塩野米松著『失なわれた手仕事の思想』の一文をあげておられました。
「私たちは手仕事の時代を終焉させてしまったのである。それなのに、今現在、手仕事の時代に代わって進もうとする方向性は指し示されてはいない」
この一文に。なんか通ずるものを感じました。
梨木さんはこの「失われてゆく」でも、「失われようとする」でもなく、『失なわれた』としたタイトルに、著者の思いが込められていると書いておられました。
今ならまだ振り返ることができる。今書き留めて置かねば、という使命感が感じられる、と。
それは、感傷的なものとか、警鐘的なものではなくて……。
きっと李娟さんもそうだったのかもしれないなぁと思ってます。
実は中央アジアらへんのことにちょっと興味を持ち始めたところなので、こういうこともこれから少しずつ勉強していきたいと思ってます。
また、いろいろ教えてくださいね♪
「ここに物語が」気になっていたんです。ご紹介いただいた一文、とても刺さりました。
中央アジア、素敵ですね!レビュー楽しみに...
「ここに物語が」気になっていたんです。ご紹介いただいた一文、とても刺さりました。
中央アジア、素敵ですね!レビュー楽しみにしています。
青色が大好きなのでウズベキスタンは憧れの土地です。旅行というものが遠ざかって久しいですが、いつか行けたらいいな…!
お付き合いありがとうございました(^^)