新しい手洗いのために

著者 :
  • 素粒社
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  • Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910413037

作品紹介・あらすじ

この本に書かれているのは「手洗い」つまり手を洗う行為についての叙事詩です。……この本には、詩の言葉で、手洗いについてのさまざまな事象や、手の洗い方、歴史、物語が書かれています。(「はじめに」より)

新型コロナウイルスによるパンデミック以来、さまざまな変化を強いられてきた私たちの社会や生活――政治や科学のことばがあつかう“大きな変化”に対して、日常における微細な変化、ささやかだけれどきわめて切実な変化をすくいとるのには、詩のことばこそ、うってつけです。

「テノウオ」なる全自動手洗いマシンが出現した今よりちょっと先の未来を舞台に、「手を洗うこと」についての統計、歴史、省察、記憶や物語が、共同制作という方法によってアクロバティックに織りなされる、ヴァーバル・アート・ユニットTOLTA(トルタ)による、ポップでシリアスな“現代の叙事詩”。

これからの「手洗い」の話をしよう――


【以下、本編「新しい手洗いのために」より抜粋】

マスクをしているかしていないかは目に見えるが、手洗いは目に見えないから。



今日も地平線に手が昇る



こんなにじっくり自分の手をみたのは久しぶりだ



手が冷たい人間は心も冷たいとか、手が冷たい人間は逆に心が温かいとか、そういった
どうでもいい言説がこの世には溢れている



人が集まっているとなんとなく
いけないことをしているような気分になる



わけのわからないことを言っている人がいて
心細くなったら
ひとまず手を洗って落ち着こう。



石鹼に関するもっとも古い記述は
紀元前2500年頃
羊毛の洗浄に関するメソポタミアの粘土板に遡る。



手のかたちに似たものを唱える。
ヤツデ、ヒトデ、カエデ、クマデ、もみじ
手と手がダンスしている。



なぜ手だけ洗えば良いと思ったんですか?
体に区切りなんてないのに
「手」なんてあいまいな領域を決めて



今日も猫がかわいい。猫のおててはかわいい。



推しの手を握った手を意識の平行世界に保存し、
それが永遠であることを信じ
そして現在に戻り、手を洗う。



今日、あなたの手が触れたものをよく思い出すこと

(本書は、2020年11月にTOLTAにより刊行された冊子『新しい手洗いのために』を加筆修正し、「はじめに」、書き下ろし詩篇「さらに新しい手洗いのために」「付記」を加えたものです。)

感想・レビュー・書評

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  • 感染症は人の身体にダメージを与えるだけでなく、心までむしばむ。わたしは清潔か?わたしが持ってるスマホは?わたしのとなりにいる人は?
    そんなふうに疑心暗鬼になって、心が狭く小さくなったとき、本書を開く。あらすじにある通り、これは叙事詩であって、実話ではない。正論からずれた、意味不明な文章を読むと、また心が元のサイズに戻る気がする。

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著者プロフィール

河野聡子、佐次田哲、関口文子、山田亮太の4人からなるヴァーバル・アート・ユニット。2006年発足。詩を中心とした言語作品の多様なあり方を探求し、出版物のほか「言葉」との関わりを軸にしたインスタレーション・パフォーマンスを制作する。また多数の詩人、短歌・俳句・音楽・演劇等、他ジャンルのアーティストを巻き込んだプロジェクトを実施。主な刊行物に『TOLTA』1~5および詩集『この宇宙以外の場所』(TOLTA6)『閑散として、きょうの街はひときわあかるい』、パロディ教科書『トルタの国語』シリーズ、アンソロジー詩集『現代詩100周年』。主なインスタレーションに「ポジティブな呪いのつみき‐ダダでない、ダダでなくない展」(ダダ100周年フェスティバル+SPIRAL GALLERY VOLTAIRE/2016)「質問があります」(アーツ前橋×前橋文学館「ヒツクリコ ガツクリコ 言葉の生まれる場所」展/2017-2018)「ポジティブな呪いのつみき 2019」「漠然とした夢の雲」「ロボとヒコーキ」(東京都現代美術館「あそびのじかん」展/2019)。主なパフォーマンス作品に「代替エネルギー推進デモ」(2011、2017)「スペクトラム・ダダ・ナイト」(ダダ100周年フェスティバル+SPIRAL GALLERY VOLTAIRE/2016)など。

河野聡子(こうの さとこ)
TOLTA代表。詩人、書評家。詩集に『時計一族』(思潮社)、『やねとふね』(マイナビ出版)、『地上で起きた出来事はぜんぶここからみている』(いぬのせなか座)ほか。

佐次田哲(さしだ さとし)
エンジニア。自動詩作プログラム「詩作くん」や会話ロボット「トルタロボ・トーク」等を制作する。

関口文子(せきぐち ふみこ)
俳優・劇作家。主な作・演出作品に「余生のはじまり」「傘の確率」。

山田亮太(やまだ りょうた)
詩人。詩集に『ジャイアントフィールド』(思潮社)、『オバマ・グーグル』(思潮社、小熊秀雄賞)。

「2021年 『新しい手洗いのために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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