ミッション・エコノミー:国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910063195

作品紹介・あらすじ

NHK「コロナ危機 未来の選択」出演で大反響!
「資本主義の未来を築くリーダー25人」(WIRED誌)選出
「ビジネス界の最もクリエイティブな50人」(Fast Company誌)選出
「英国で最も影響力のある50人」(GQ誌)選出

「世界でもっとも影響力のある経済学者の一人だ。マッツカートの資本主義修復計画に、私たちは耳を傾ける時期に来ている」
――WIRED誌

行き過ぎた新自由主義による「スタートアップ盲信」「民営化盲信」の時代は終わった。これからは国と企業が手を取り合い、万人のウェルビーイングからSDGsまで巨大なミッションを掲げ、経済を成長させながら「公共の目的(パーパス)」をかなえていく時代だ。それこそが「新しい資本主義」の姿である――。

スウェーデン、ノルウェー、イタリア、南アフリカ、アルゼンチンなど各国首脳の経済政策顧問を務め、ビル・ゲイツ、ローマ教皇、トップCEOらに立場の違いを超えて支持され、ウィズコロナ世界で急速に注目を集める経済学者、マリアナ・マッツカート。彼女が本書で提唱する「ミッション・エコノミー構想」は今、欧州委員会ホライズン・プロジェクトに採用され、世界各国の経済政策に実装されつつある。
『ファクトフルネス』訳者・関美和氏+気鋭のベンチャーキャピタリスト・鈴木絵里子氏の共訳で、最新作にして主著が早くも日本上陸!


「人間の公共心を信じることが『より良い資本主義』につながるというマッツカートの主張が今この時代に大きく注目されていることに、私は希望を感じている」
――関 美和(MPower Partners Fundゼネラル・パートナー。本書共訳者)

「いま求められているのは『富の分配』をめぐる議論ではない。『新たな富』を生み出す議論だ。そうマッツカートは言う。世界中の政治家が耳を傾けている」
――ニューヨーク・タイムズ紙

「マッツカートは火炎放射器のような経済学者だ。『価値』とは何か? 誰がその意味を決めるのか? 誰がそれを測るのか? 彼女は根本的な問いを突きつける」
――Forbes誌

「彼女のビジョンこそが未来を考える助けになる。私はそう信じています」
――ローマ教皇フランシス

「マッツカートのオピニオンには忖度が一切ないのみならず、舌鋒も最高に鋭い」
――フィナンシャル・タイムズ紙

「イノベーション創出における『市場』と『政府』の役割について、マッツカートは従来の経済学の見解をくつがえす」
――エコノミスト誌

感想・レビュー・書評

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  • 納得のできる提言。
    現在の日本にこうしたディスラプティブな発想を持つことに期待できず、また実行力も無いと思えてしまうのは、非常に残念なことだ。
    目的やミッションを共通意識として持てていないために、施策の正しさが評価できない。

    日本はどこを目指しているのだろう。
    日本はどこを目指すべきなのだろう。

    改めて考えるきっかけになる一冊。

  • 仕事に対して惰性で取り組んでないか。そこにビジョンがあるか。振り返る良いきっかけになる。
    一般人が長期的視点で物事を考えることが出来るか。この点が大事だと改めて思った

  • 政府がミッションの実現に向けて企業や社会と協働して社会変革をリードしていかなければならない、と主張する本。従来政府は新自由主義の元で救済と再配分、修正が主な役割とされ、企業だけが価値を創出するとされていたが、環境問題等の大きな社会問題の解決には政府こそがミッションを定義し社会全体をリードできる、これまでもアポロ計画やインターネット、ワクチン開発等重要なイノベーションは政府が最初の投資家となってリスクを取ってきた、市場経済では数字に換算できない価値が見落とされそうした課題への対応ができない、と主張し政府がリスクを取って社会変革をリードしていくべきだとしている。
    政府の役割と言うと大きな政府小さな政府の議論がよく出るが、著者はその論争より大切なこととして、「政府が人々のためにどう価値を創造するか、またどうその能力を高めるか」が重要であり、政府が関わるからこそ「人材開発や知識、人脈、専門知識といった非財務的なリソース」に価値を見出し高めていけるとしている。

    最初はよくある新自由主義、コンサル批判が展開されてちょっと読むのやめようかなと思った。笑 それでも体系だった主張と豊富な実践事例には説得力があって、自由主義者からも共感されているらしい。
    https://courrier.jp/news/archives/229768/

    本書の核心となる政府がリスクを取って社会を共創していくというビジョンは、それはそうだねと思うものの、じゃあそれが政府にできるんですかと言うと、どうにも暗澹たる思いになる(アメリカだってうまくできてるとは思えない)。一企業だって市場ニーズへの迅速な反映もエコシステムの生成も大変なんだから、それを政府が国全体でやるのはそりゃまあ大変よな、と改めて。それ以前に国がその重厚長大さから腐敗や組織の論理にかまけて最低限の運営もできなくなってきたから小さな政府論も出てきたわけで。それでも、市場の問題点も浮き彫りになって久しい今、大きなスケールで社会を引っ張っていける政府の役割に久しぶりに胸が熱くなった。何か関れる道を探していきたいと思わせてくれた。

    市民が制度の設計、実現に参画し、フィードバックを繁栄する柔軟さが必要だ、パーパスをコミュニティも関わって決めることで数字で測れない価値を見出すことができる、という点はその通りなのだが、政治学が新しい社会の形を提示する時ってサンデルもそうだがコミュニタリアンになりがちよな、と斜に構えて思ってしまった。市民社会論が一昔前に盛り上がってから少なくとも日本ではあまり定着せずに下火になった感があるが、欧州米国ではこうした点がうまく取り入れられているのだろうか。先の自分の関わりと合わせて何か探していきたい。

    業務柄、政府のコンサルへの委託が多くの問題を起こしてきた点は業務委託の改善の点から興味深く読んだ。ドイツが移民処理センターの設置をマッキンゼーに委託した際、家族と再会できないなど基本的人権への配慮がない手続きになり数多くの裁判が起きた件は、受託先とパーパスを共有する重要性、それでも受託先は委託された業務の部分最適にしかならず、委託元がリードしなければ委託元組織の専門性や部門横断の知見を活かすことができない好例だと思った。委託先の管理で手一杯になりがちだが、そこにちゃんと時間を割かねばなあと改めて思わされた。

    具体的な事例が豊富で楽しいのだが、中身についてはこの本の主題ではないので深掘りはされていないように見えた。ミッションマップを環境、医療、デジタルデバイド等色々な課題について示しているが、ミッションプロジェクトがふわっとしてて、コンサルがこの図を提示してきたら突っ返すな、、とか思った。笑 でも具体的なイメージがついたので本書の目的としては達成。いい加減重箱の隅を突いて本の批判して読んだ気になるのは止めて、建設的な読書をしたい(毎回言ってる)。

    2022年は家族と仕事に追われて読書だったり自分の仕事でやりたいことを振り返る時間が取れなかったが、我が事として捉えられる主張をしてくれたので星四つ。これ数年後に何か行動に移せたか振り返らねばな(これも毎回言ってる)。

  • はじめに
    カネよりも「仕組み」が肝心
    「外注」と「民営化」がすべてをダメにした
    スポイルされた「政府の危機対応能力」
    資本主義をつくり直す時代がやってきた
    第1部 世界の「今を」理解するー次なるムーンショットに立ちはだかるものとは
    第1章 政府・企業・資本主義をつくり直す
    なぜケネディはメリットの怪しいアポロ計画に賭けたのか
    ミッション遂行のためにすべてを注ぎ込む
    巨大な課題に「ミッション志向」で挑め
    官民の関係を「パーパス」でつくり直す
    「つくりたい社会の姿」から逆算してすべてを決める
    なぜブラックロックCEOたちの呼びかけは響かないのか
    第2章 危機に瀕した資本主義
    行き詰まる資本主義
    コロナ危機であらわになった資本主義のもろさ
    問題の根っこを解きほぐす
    根っこ①内輪でお金を回しあう金融業界
    根っこ②「株主価値の最大化」に奔走する民間企業
    根っこ③気候変動危機
    根っこ④ 「対処」するだけの政府
    すべては私たちの「選択」の結果だ/政府の役割を変えれば「経済」が良くなる
    ミッション経済の時代
    第3章 新自由主義の間違い
    政府の役割は「救済」「再配分」ではない
    思い込み①「価値を生み出し、リスクをとるのは企業だけ」
    シリコンバレーは国家のハイリスク投資の産物
    思い込み②「市場の失敗を正すのが政府の役割」
    市場失敗理論(MFT)/公共選択理論/「官と民はライバル」という誤解
    「政府は企業のように運営されるべき」
    ニュー・バプリック・マネジメント(NPM)の失敗/費用対効果分析の失敗
    「民営化は税金の節約になり、リスクを減らす」
    イギリスの民営化政策の失敗/国民保健サーピスのIT化は「最も高くついた失敗」/最大の委託先企業の倒産/政府の仕事を業者に丸投げするリスク/イギリス国鉄民営化の失敗/誰よりも得をしたのは結局、大手コンサル会社/「入札なし」契約の横行/マッキンゼーに移民センターを委託したドイツ政府/不透明なコンサルの効用と責任/外注失敗のツケを払うのは納税者/コンサルは栄え、政府は人材難に
    思いこみ⑥「政府が『勝ち組」を選んではいけない」
    韓国政府主切のHDテレピ開発/璽要なのはポートフォリォーテスラの成功とソリンドラの失敗/投資の失敗から得られるもの/政府抜きの「市場」は存在しない/バフェットの至言
    「大きな政府」対「小さな政府」論争より大切なこと
    第2部 ミッション・ポッシブルー大きな夢を実現するために必要なこととは?
    第4章 いま、アポロ計画こそが「最高の教訓」である
    政府がふたたび「ハイリスク初期投資家」になる日
    アポロ計画6つの今日y君
    教訓①リーダーシッブ:ビジョンとパーパス
    教訓②イノベーション:リスクテイクと実験
    ミッション志向のイノベーション/命がけの選択/イノベーションは試行錯誤からしか生まれない
    教訓③組織改革1 俊敏さと柔軟性
    タテ割りが人命を奪う/システムマネジメントの発明/マトリックス管理/上下左右に情報を行き渡らせる/試練を乗りこえる/解決策をポートフォリオ化する/「複雑性の矛盾」を突破するには/NASAの成功の鍵は「組織の分散化」/インターネットを生んだDARPAの柔軟性
    教訓④波及効果:セレンディピティとコラポレーション
    飢えた子どもよりロケットのほうが大事なのか/人々を救う発明は「無駄」から生まれる/アポロ計画最大のイノペーション/コンピュータの小型化と信頼性を実現する/集積回路の採用/「ソフトウェア」の登場/21世紀のすぺてはアポロ計画の波及効果/ミッションは意志ある主体を選ぶ
    教訓⑤財務管理:成果に基つく予算編成
    乗数効果/費用ではなく価値創出でミッションを評価する/環境保護意識にあたえた影響/「予算」の概念を変える
    教訓⑥企業と国家:共通のパーパスをともなうバートナーシッブ
    つねに業界最高のバートナーと組む/バートナー問の競争をうながす仕組みをつくる/外注すぺきものとそうでないものを明確にする/組織内の知識創造に投資する/民間企業の投資/月恙陸船というイノペーション/技術の限界を超えた解決策を出す
    「商業化」を進めたければ「商業化」を考えてはいけない
    さらに大きな教訓
    第3部 ミッションを実装するー今、私たちが取り組むべき壮大な課題とは?
    第5章 課題起点のミッションマップをつくる
    今日のビッグイシューにミッション志向を適用する
    ミッション志向アプローチとSDGS
    「課題」にフォーカスすれば「技術」は後で追いつく
    課題起点の「ミッションマッブ」をつくる
    ミッションマップ①「気候変動に具体的な対策を」/ミッションマッブ②「海の豊かさを守ろう」
    取捨選択が鍵
    イギリス政府のアドバイザーとして私がやったこと
    ミッションマッブ③「モビリティの未来」/ミッションマップ④「健康的な高齢化」
    現代でミッションを達成するには
    ステップ①ミッションを選ぶ
    DARPAに逸材が集まる理由/政府の役割は「リスクテイキング」/決め打ちではなく分散化
    ステップ② ミッションを実装する
    報奨金制度/公的資金を「最初の投資家」にする/民間資金/ミッションの進捗を管理する/これは慈善事業ではない
    ステップ③市民を巻き込む
    ひとつのドキュメンタリー番組が市民を動かした/ミッションを自分ごと化する/ドイツのエネルギーヴェンデ/スウェーテンの「道路」「給食」改善/ロンドンの街区再生ブロジェクト/オンライン市民参加ツール/ミッションの「評価」にも市民を入れる/「誰が決めるのか」に慎重になる
    ミッション:グリーン・ニューディール
    リスクをとって長期投資し、生産・流通・消費を変える/アメリカのグリーン・ニューディール/成長戦略としての欧州グリーンディール/10年で1兆ユーロの投資を呼び込む/炭素税頼みからの脱却/政府主迎で全分野のイノペーションをかけあわせる/優遇税制や補助金ではダメ/企業と政府の関係を変えたエネルギーヴェンデ/課題
    ミッション:医療包摂を可能にするイノベーション
    莫大な税金が投じられているのに薬が安くならないわけ/新薬開発投資と医療アクセスを結ぶ/新型コロナワクチン/政府が枠組みを変えるしかない/政府は人命のかかった技術開発の投資家であり当事者/ミッションマップ⑤「認知症」/寿命は住むところで決まる
    ミッションi デジタル・デバイドの解消
    37億人がインターネットにアクセスできていない/デジタル・デバイドは多面的な問題/インフラ/デバイス/価格/ミッションマップ⑥「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」/英BBCが主導した国民コンピュータ教育とその副産物/「ゲームのルール」ではなく「ゲームそのもの」を変える
    第4部ミッション経済の時代がはじまるー私たちの未来を問い直す
    第6章 理論と実践―政治主導のあらたな経済の7 原則
    21世紀型の「大聖堂」を建てる
    政府・企業・資本主義はどう変わるべきか
    政治主等の新しい経済、7つの柱
    柱①価値:共創する
    「公益」を復活させる/公共財とは何なのか
    柱②市場:修正ではなく、形成する
    より良い競争理論/どのような市場を望むのか
    柱③組織:機動力
    政府こそ「学習する組織」になれ/進化経済学/難題に対処するための5つの能力
    柱④:財務ニ成果に基つく仕組み
    戦争やアポロ計画のように予算を組む/グリーンスバンもそう考えた/「政府の借金」をめぐるウソ/政府の赤字は国民の黒字―MMT/コロナ救済用の2兆ドルはどこから来たのか/パイを拡大する/負偵を帳消しにするとインフレになる?/金融は経済に奉仕するもの
    柱⑤分配:リスクとリターンの共有
    事前分配/公的ファンドー政府がテスラ株を保持していたら?/政府も株を持つべき/価値創造と価値分配を結びつけるーケインズの「投資の社会化」論
    柱⑥ 4 バートナーシップ:パーパスとステークホルダー価値
    ステークホルダー価値とは何か/ワクチンをバテントプールで共同管理する/49億ドルの補助金を受けたイーロン・マスクがすべきこと/デジタルブラットフォーム/データコモンズ/循環経済
    柱⑦参加:オーブンシステムを通して未来をみんなで設計する
    市民参加こそが大螢生産資本主義と全体主義から逃れる道/エリートヘの反発/本物の市民参加とは/複雑系/ROAR
    第7章 新しい資本主義へ
    人類共通のパーパス
    新しい資本主義をつくるために政府をつくり直す
    パーパス志向の企業
    新しい美観
    原注
    「なぜ世界は今、マリアナ・マッツカートを支持するのか?」

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1305999

  • 大きな夢を掲げることや、社会的意義を共有し人々のモチベーションを作ることの重要性が書かれていた。大きく無謀な目標と、小さく現実的な目標、目標自体の難易度は前者のほうが高いはずなのに、人がついてきた結果、前者のほうが実現できる皮肉...と思った。

    「皮肉なことに、雇用創出等の短期的な経済価値だけに目を向けると、商業化は遅れる。逆に、ミッション志向の政策のほうが商業的な波及効果は大きい。商業化を考えない方が、商業化が進むということだ。(月面着陸の副産物として、カメラ付き携帯電話やワイヤレ スイヤホン、マウス、LED 等、現在の生活を取り巻くものは生まれた)」とあった。

    JR九州相談役の唐池さんは「世界一」を多用し大きな夢を掲げることで人がついてくる組織を作ったそう。結果、豪華客船『ななつ星』は大成功した。重なるなあ。

    大きな夢を掲げることや、社会的意義を共有し人々のモチベーションを作ることの重要性は、今の社会課題解決にも通ずると思う。成長期の『資本主義』とも違い『社会課題』に目が向けられている時代だからこそ尚更。

  • 新しい資本主義、新しい社会づくりの参考にすべく、購読。世界的なイノベーションを起こすために必要なこととして、国や行政の役割を重視し評価しようという考え方。確かに、行き詰まりを見せた企業を救済する「最後の貸し手」というより、まだ将来性が見通せない会社に対する「最初の出し手」の方が、うまく行った時のリターンは大きいし、そのリターンを次の投資に回せる。テスラや製薬会社へのワクチン開発など、事例は少なくない。民業圧迫とか、その能力はないなどという偏見を捨て、積極的に行動していただくことで、社会が変わるかも。

  • 組織にとって、危機は学習のチャンスである。
    新たな挑戦が手強いものであればあるほど、実践を通じて組織の総合力は高まり、成員のスキルは強化される。
    しかし、コロナ禍で取られた各国政府の対策はこれとは真逆のものだった。
    接触者追跡システムの管理など多くを外注することで、組織的な学習に投資せず、困難な課題の管理をコンサルティング会社に丸投げしてきた。

    公的機関自らが主体的に社会課題を解決しようとしなくなったのは、何もいまに始まったことではない。
    民間企業の方が効率がいいと誤解し、多くの公共事業が民営化され、外注が進んだ。

    「もっと規制緩和し、もっと節約を」と、公的機関を営利企業のように運営しようという試みは、深刻なツケを招くことになった。
    とりわけITサービスは、外注を通して民間に委ねられることが多かったが、外注されたサービスの品質や信頼性は、総じて期待外れで割高なものとなった。
    民営化と外注によって、経験豊富なベテラン官僚の仕事が奪われ、政府は専門的な能力を失い、官僚のスキルやモラルはどんどん低下していった。

    気候変動や少子化対策など、今日のビッグイシューに対し、イノベーションで解決していくために求められる、政府の能力は何か?

    「今、政府に必要な大切な能力が、リスクを取り、不確実性を歓迎し、試行錯誤を通して学ぶ力である」

    政府の役割は、大胆な目標を掲げ、多くの人たちとの力も心も注ぎ込んで、ミッションを成し遂げることであって、起きた問題に対処することではないはずだ。
    そのためには「予算がどれだけあり、それで何ができるのか?」と問うのではなく、「どう予算を組んだらその目標が達成できるか」と自問すべきだ。

    政府の仕事は、規制し、再分配し、市場の失敗を直すことではない。
    自ら経済の方向性を先導し、「最初に頼れる投資家」としてリスクを取るべきだ。

    政府には率先して市場を形づくり、望ましく必要なパーパースを果たすため、新たに社会を創造し形づくる役割がある。
    これまでの市場「修正」ではなく、市場「形成」に政府の役割の軸足を移すべきだ。

    そのために著者は、官民が手に手を取って重要な社会課題を解決するための手法として、「ミッション志向」の取り組みを掲げる。
    大胆で刺激的な目標を設定すれば、予測できないテクノロジーや組織のイノベーションを生む波及効果が期待できる。
    その好例がアポロ計画だった。
    この実験は、航空宇宙工学に留まらず、多くの分野に革新をもたらした。
    食品、医療、材料、生物学、微生物学、地質学、さらにはトイレ、航空宇宙工学、電子工学、コンピュータなど、こうしたすべてのイノベーションが、物理的な製品から社会変革まで、数多くの予期せぬ波及効果を生み出した。
    幅広い分野にまたがるイノベーションとコラボレーションのきっかけになったのは、「10年以内に人類を月に送り、帰還させる」という、明確で大胆で差し迫った期限つきの目標だった。
    このミッションを達成するには、官民の協力はもとより、異なる分野や業界の研究者が問題解決に向けて力を結集させる必要があった。

    ミッションには明確な方向性が必要で、技術的な偉業を達成するミッションの方が、社会的なミッションよりも人々の賛同を得やすい。
    気候変動対策といったものより、「100のカーボンニュートラル都市をヨーロッパにつくる」といった、具体的でしかも数字で測れるものがよい。
    締切も重要で、期限が決まっている方が、課題にフォーカスしやすい。

    イノベーションによって解決したい課題に焦点をあわせれば、技術は後からついてくる。
    インターネット自体がコンピュータへの注目から生まれたわけではなく、衛星を使った通信の必要性から生まれたものだ。

    「ミッション志向の取り組み方とは、支援したいセクターを選ぶのではなく、さまざまな分野の連携をうながすような問題を見つけることだ。また、小さいからとか、困っているからという理由で資金を手渡すのではなく、多くの組織から異なる解決策(プロジェクト)を呼び込めるように政策を設計することだ。それは、市場を修正することではなく、市場を創造していくことを意味する。それは、リスクを取り除くことではなく、リスクを共有することである」

    まず「つくりたい社会の姿から逆算してすべてを決めろ」とか、「課題にフォーカスすれば、技術は後で追いつく」であるとか、「大胆なミッションのためには、競争環境や条件を、公平中立なものではなく、偏らせる勇気も必要だ」など、刺激的な提言に溢れる一方で、主張に説得力を持たせる成功事例がほぼ「月面着陸」一択なのが気にかかる。

    それとこれは訳書自体の問題なのだが、たかだか265ページ中に8カ所も誤字脱字があった。
    訳者が2人いて、編集者も下読みの段階で気づかなかったのか?
    この傾向は、本書に限らず、コロナ禍以降とりわけ顕著な印象を受ける。

  • この手のビジネス書は苦手なのだけれど、薦められて読んだ。

    何かあった時に修正する小さな政府から、ミッションベースで市場を先導する行動する政府へ、という壮大な計画を情熱を持って説いていた。

    まぁすごいなこの人は。覚悟が違う。

  • 世界の今がわかる本。
    資本主義の限界を唱え、国も衰えていく。

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著者プロフィール

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン教授。同大学イノベーション&パブリックパーパス研究所創設所長。世界保健機関(WHO)「万人の健康のための経済会議」議長。
現代を代表する経済学者としてリベラル派・保守派を問わず圧倒的な人気と信頼を誇り、イタリア、スコットランド、南アフリカなど各国政府の経済アドバイザーを務める。2020年、WIRED誌「資本主義の未来を築くリーダー25人」、Fast Company誌「ビジネス界における最もクリエイティブな50人」、GQ誌「英国で最も影響力のある50人」に選出。
2020年、NHK「コロナ危機 未来の選択」に出演し、SNS上で大きな反響を呼んだ。著書に『企業家としての国家』(薬事日報社)ほか。日本では本書が一般書としては初の本格紹介となる。

「2021年 『ミッション・エコノミー 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マリアナ・マッツカートの作品

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