- Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909832085
作品紹介・あらすじ
歌は、21世紀でも「平和」を作りだすことができるか。
「『古今和歌集』から日本文化が始まる」という新常識のもと、千四百年の歴史を誇る和歌・短歌の変遷を丁寧にひもとく。
「令和」の時代を迎えた現代が直面する、文化的な難問と向かい合うための戦略を問う。
日本の近代を問い直す!
感想・レビュー・書評
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水鳥の鴨部【かんべ】の神の霊【みたま】得て夷【えびす】がどもを皆殺してよ
林桜園【おうえん】
和歌とは何か。国文学者で源氏物語研究者の島内景二が、近刊で新たな定義を示している。
「和」の思想とは、「平和=四海【しかい】兄弟【けいてい】」がモットー。それゆえ、和歌文化とは、平和と調和と和合の思想であり、「古今和歌集」「源氏物語」「伊勢物語」を融合して創出された文化という。
「源氏文化」とも呼ばれる和歌文化は、異文化を重層的に取り込む寛容な思想でもあったが、江戸時代後期、そんな和歌文化は危機に直面した。異文化を排除しようとする国学の思想が肥大化していったのだ。
本居宣長が「源氏物語」から抽出した「もののあはれ」という概念が、「暴力装置」として近代にも浸透していった経緯も明かされ、思わず息をのんでしまう。
本居のいう「もののあはれ」は、和歌文化とは対極的に、「荒魂【あらみたま】」の怒りの爆発を肯定するものであったという。そのため、掲出歌のような「皆殺しの歌」も登場したのだ。林桜園は、江戸末期の尊王攘夷運動の時代を生きた思想家である。
その後、「もののあはれ」は「大和心・大和魂」と同義となり、明治以降の日本の対外拡張戦争にも援用されていったという。和歌文化は、破壊力のある「もののあはれ」に凌駕されていったのだ。
しかも、「皆殺しの歌」は、現代短歌にも存在する。では今後、寛容で平和を尊ぶ和歌文化の時代には戻れないのだろうか? 重い問いを突き付けられる一冊である。
(2019年12月22日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示