彼岸の図書館: ぼくたちの「移住」のかたち

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909179043

作品紹介・あらすじ

古代地中海研究者の夫・真兵と、大学図書館司書の妻・海青子。夫婦そろって体調を崩した4年前、都会から逃げるようにして向かったのは、人口わずか1700人の奈良県東吉野村。
大和の山々の奥深く、川の向こうの杉林の先にある小さな古民家に移り住んだ2人は、居間に自らの蔵書を開架する「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」を開設します。訪れるさまざまな人たちとの対話を重ねるうち、「ルチャ・リブロ」は単なる私設図書館を超え、山村における人文知の拠点へと発展していきます。

本書は、青木夫妻が移住を決意してから「ルチャ・リブロ」を立ち上げ、「土着人類学研究会」を開催しながら、現代社会の価値観に縛られない「異界」としての知の拠点を構築していくまでの「社会実験」の様子を、内田樹氏や光嶋裕介氏などとの12の対話とエッセイで綴る、これまでにない「闘う移住本」です。

人文知の拠点は「地面に近いところ」に構築されるべきというシンペイ君の直感にぼくからも一票――内田 樹

【対談者】内田樹(思想家・武道家)/光嶋裕介(建築家)/神吉直人(経営学者)/坂本大祐(デザイナー)/東千茅(耕さない農耕民)/太田明日香(ライター)/野村俊介(茶園経営)/小松原駿(蔵人)/鈴木塁(ウェブ制作)

感想・レビュー・書評

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  • 「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」は、小さな古い橋を渡って、杉林を抜けたところにあります。川の向こう側の図書館ということで、「彼岸の図書館」を名乗っています。この「彼岸」にはもう一つ、「現世の社会や常識から、少し離れた場所」という意味合いも込めています。…ここでやってみてほしいのは、実はただ一つ、「現世(普段の暮らし)での立場、価値観、常識という鎧をいったん脱いで、立ち止まってみる」ことです。
    ー本文より引用

    奈良の東吉野村にある古民家。
    3.11後、街に頼り切っている生活に漠然と不安を抱いていた青木さん夫婦は、身体を壊したこともきっかけとしてありながら、兵庫県西宮市からその古民家に引っ越し、さらに自宅を私設図書館として開放した。
    かれらの暮らしは、側から見たら移住先で何か夢を叶えた、そんな風に見えるかもしれない。
    本書の副題も「ぼくたちの「移住」のかたち」とある。
    しかし青木真兵さん・海青子さんたちは当時の気持ちを咀嚼して語る。
    これは移住ではなくただの引っ越しであると。命からがら逃げ延びた先で、たまたま生まれたのがルチャ・リブロであるのだと。
    冒頭に引用させていただいたように、その場所は、夢と現実のあわいのような空間。
    真兵さんは、図書館を開くもそれはお金のためではなく、福祉施設で働いて生計を立てている。
    家兼図書館から職場に行く時、彼岸から此岸へと、渡り歩いていることを実感すると言う。
    この世は此岸。
    とてもあくせくした、漠然とした何か大事なことを考える余白もないような世界。
    そこから逃げ出した真兵さんたちは、時間の感覚も、引っ越してから変わったと言う。
    …私は物理的に彼岸には行っていないし、日々の生活を考えてみても此岸に居るという感覚だけれど、なんだか分かる気がする。
    病気になって、社会に参加できなくなってから…できなくなったけれど、そうなったことできっと何か意義を見出せると日に日に思うようになってきた今日この頃。
    毎日、普通?の人のように学校や職場に通ったり働いたりしていない環境は、どこか彼岸めいている気がする…ので分かる気がする、と書きました。
    でも心の方は早く社会に戻りたい、と焦っていた。いや、今でも焦っている。
    それが、本書の、青木さん夫婦やかれらが招く・訪れる方々の、きっと普段なかなかできないだろう語り合いを、対談を読んで、ああ、焦って私が思う社会とやらに復帰することだけが正解じゃないし、絶対必要というのでもないのかもしれないな、と思えた。私が生きていく選択肢が、増えたような。
    「働くと稼ぐ」の違いについての語りには興味深く読んだし、なんだか元気になったらやりたいあれこれを実践するために、何か参考になりそうな気がした。晴耕雨読の精神や、地に足を着けて生きるってことも。
    もしかしたらまた今後読み返すかもしれない、私にとっては重要な本かもしれないと感じた。

    実際は、私設図書館を開いてる人ってどんなふうにしてそれを実現したんだろうっていう興味があって(私設図書館を開くの、叶うか分からないけど将来の夢リストに入ってるので笑)本書を手に取った。
    でも本書の肝はそこじゃなかった。
    いい意味で予想を裏切られたかも。
    対談ではさまざまなことが語られる。
    「限界集落と自己責任」、十年後の日本のことなど、いろいろ考えさせられる。
    印象に残ったのは、「バーチャル」の反対語は、「リアル」ではなくて、ほんとうは「ネイチャー」だと思う、というところ。
    たしかに、私たちが今生きている世界は、VRなど通さなくても、もう既にバーチャルなのかも。
    足元は土じゃなくてアスファルトで、家の中も外も人工物だらけで。
    これ以上経済的な成長を求めるなら、地方が生き残る選択肢はなくて、シンガポールのような都市集中型にならざるを得ない。だから地方が生き残るためには成長するのではなく緩やかに降っていくのがいい、というのもしっくりきた。
    前々から少子化が、働き手が、と言いながら、なぜこの狭い島国のさらに狭いところに寄せ集めて、人口を増やさなきゃ、経済を発展させなきゃ、って追い詰められているんだろうと疑問に感じていた。
    それを論理的に、言葉にしてくれたなと思う。
    今、国が掲げている日本の十年後のさらに十年後には、地方創生も移住も存在しないだろうという考えには、具体的に想像できてしまってぞっとした。
    もうそんなに切羽詰まっていた。
    私は、日本全国踏破したぜ!全都道府県めちゃくちゃ愛してるぜ!というわけではないけど、このご時世お先が暗いし見切りつけたいと思っちゃうけど、やっぱり日本という全体を愛したい。
    せっかくこの国に生まれて、この国の文化が好きなので。隅々まで、できれば愛したいじゃないですか。
    同じ日本なのに、蔑ろにされるところがあってほしくない。それは人にも当てはまるのだけど。
    だから、どうしたら日本を大事にできるだろうと考えていこうと思う。いろんな人の話を聞いて、咀嚼して、自分で考えて…できる範囲のことをやりたいと。とても弱くて小さな範囲だけれど…
    本書で、移住の話からそこまで大きな話になるとは全く予想していなかったけど勉強になった。
    内田樹さんとの対談を読んでると、あっ、内田さんの著書前から気になってたけどめっちゃ読みたい…!と本気で思うようになった。
    一冊家に積読があるので、まずはそれから読んでみようかな。
    ルチャ・リブロも、一度でいいから訪れたい…!
    貸出もしてるって書いてあったけど、返す時も訪れて返す…?のかな?なかなか頻繁に通えそうにないけど(フットワーク激重なので;)。
    彼岸の空気を、まずは味わいたいな。

  • honto店舗情報 - あれから3年。「移住のかたち」はどう変わった? 内田樹×青木真兵×青木海青子トークイベント
    https://honto.jp/store/news/detail_041000074396.html?shgcd=HB300

    彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち/青木真兵・海青子/3刷 | 夕書房 seki shobo
    https://yukatakamatsu001.stores.jp/items/5e59bd365d485c51908260b0

  • 山村に移住して自宅を私設図書館として開放。そこに至るまでの経緯や、生活の在り方、考え方、などなど。

    気になるキーワードがたくさん。
    現在の都会の暮らしは、土から離れ過ぎている
    という言葉に納得。
    生命力のある場、生命力を高める場。
    そういう場所、いいなぁと思う。

    図書館の話が知りたくて手に取った本ですが、図書館自体の話はあまりなかった。

  • 東吉野の図書館を知って。

    先にポッドキャストを聞いてみたけれど、やはり本を先に読もうと。

    対談形式になっているので、難しさは前面に出てないけど、だんだん分からなくなってくる章もある(笑)

    都会に住んでいた人の考え方、都市でもない田舎でもないとことに住んでいる人間からすると、少し理解できないことも多いけれど、将来的にはこんな考え方、暮らし方があることを知る、理解すること、考えることが必要だなということを知る。

  • その場所でそこにまつわる本を読むことができたありがたいこと。彼岸の図書館から現世に戻ってきたとき、なんだか喋れなくなってしまった。

    続きはお家で読む。よく考えていることがテーマになっていた。人文系でありたい。

  • 体調を崩し奈良県の田舎町に引っ越した夫婦。自宅に人文科学系の施設図書館を開設している。「住まい」とか「働き方」「生き方」といったものをゲスト共に考える。ゲストというのは、著者が作っているインターネットラジオの番組へのゲストの意。

    田舎暮らしに至るまでの顛末記かと思っていた。それよりも充実している感じがする。

  • 一冊まるまる読み終えてから、再度自分が印象に残った文章を再度読み返した。
    印象に残った文章から、『何の意味があるのか』や、『己の不安定な部分』を楽観的もしくは悲観的にならずに受け止めたいと思っていたことがわかった。そして自分の中の流動性を以前は無理して論理的に正当性をつけていたから、これからは「なんとなく」で尊重できるようになりたい。

  •  新しい、いや、ずっと以前からわかっていたか?人間解放の思想の実践。若い人が、新しい人間の在り方を提案していることに「希望」を感じました。
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202001210000/

  • 奈良県の山奥、東吉野村にある人文系施設図書館ルチャ・リブロ。一度行ってみたい!
    この本のポイントになるのは、住む土地を自分で決める、住まいを社会に開く、お金との付き合い、というテーマでしょうか。
    移住した人と、移住したい人と、移住って引っ越しと何が違うのよという人に、読んで欲しいです。
    特に移住した人は、内田樹先生や対談に登場する皆さんにお墨付きをもらってデヘヘとなれます。わたしはデヘヘとなりました。(笑)

  • 正直、人文系はほぼほぼ読まない私にとって、思想や哲学、はたまた政治や歴史といったテーマの対談話は難しくて半分も理解できませんでした。

    ただ私は半年ほど前、自分の意思とは関係なく(家族の転勤に伴い)奈良県に引っ越してきました。最初は有名な東大寺や奈良公園、ならまちなど散策していました。

    ある時、温泉に行こうと吉野の方に出向いた時、なんとも言えない不思議な魅力を感じました。360度山、山、山。その日は生憎の雨なのに、妙に落ち着いたというか、、、。

    そんな時にこの本に出会いました。
    どんな思いで東吉野村に図書館をひらこうと思ったのだろうか、、、と興味を持ち本書を手に取りました。

    今月末、青木さんのトークイベントが私が勤める書店で行われるので、直接青木さんのお話を聞けるのが今からとても楽しみです。

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著者プロフィール

青木真兵
1983年生まれ、埼玉県浦和市に育つ。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」キュレーター。古代地中海史(フェニキア・カルタゴ)研究者。博士(文学)。社会福祉士。2014年より実験的ネットラジオ「オムライスラヂオ」の配信をライフワークにしている。2016年より奈良県東吉野村在住。著書に『手づくりのアジール』(晶文社)、妻・青木海青子との共著『彼岸の図書館 ぼくたちの「移住」のかたち』(夕書房)、『山學ノオト』シリーズ(H.A.B)、光嶋裕介との共著『つくる人になるために 若き建築家と思想家の往復書簡』(灯光舎)などがある。

「2023年 『山學ノオト4(二〇二二)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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