- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909048042
作品紹介・あらすじ
音楽家として高い評価を受け、書き手としても注目を集める著者による、これまでの集大成となる待望のエッセイ集。
私も父も彗星だったのかもしれない。暗い宇宙の中、それぞれの軌道を旅する涙もろい存在。ふたつの軌道はぐるっと回って、最後の最後でようやく少しだけ交わった。そんな気がした。――「ふたつの彗星」
遠くて遠い父、娘たちのぬくもり、もう会えない人と風景――未婚での子育て、混沌とした結婚とようやく至った離婚。歌うことと書くことだけ、いつも手放さなかった。ひとりの人間として、母として、女として切実に生きる日常を、世界を、愛おしく、 時には怒りにも似た決意を持って綴る。闇から明かりさす世界に向かう、光のような言葉。
亡くなった父親について書き、大きな反響を呼んだ「ふたつの彗星」をはじめ、新聞、雑誌、ウェブ、これ まで様々な媒体で書いた文章の他に、大幅に書き下ろしを追加。唯一無二の文章家によるエッセイの到達点。
感想・レビュー・書評
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原発や差別などを「他人ごと」にしていた自分に一緒に考えていこうと手を差し伸べてくれているような感と、逆に全てやり過ごせない真面目さにもどかしいような植本一子さんの本を読んだ時と似た気持ちになった。父子の話も読みたい。
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ライブで演奏を聴いているときと同じ空気が流れていた。じっくり眺め、人のどんな思いもバカにせず、よくよく味わう。
文中、孤独な人をなくしたいというようなことを、何回か書かれていた。それは「みんな」の輪の中に引っ張りこむということではなくて、ひとりでいても孤独ではない世界を作る、作りたい、ということなのかなと思った。 -
タイトルの「彗星」は寺尾紗穂さんと父との関係を表している。
丁寧に生きていることが分かる日々の記録は詳細で、その時の温度感まで文字で伝わってくる。曲が出来上がるまでの過程で彼女がどんな状況で、誰とやり取りをしていたかまでも追えれる。今や大ファンであるマヒトゥさんや坂口恭平さんもこの時初めて知ったような。ここで出来上がった曲のヒストリーを少し知れたことで後からゆっくりと想像しながら聴いている。大袈裟ではなくこの本を読了してから私は歌詞を意識するようになった。
また、福島への想いや見過ごしてきた社会の溝についても優しく綴られていて私たちはあらゆる負荷を背負いながら人生を歩んでいるんだと認識する。
いい言葉がたくさんあるよ -
とても細やかで解像度の高い眼差しの記録。グロスに宿る真実性もあれば、一人一人の言葉に表出するリアリティだってあるということ。
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彼女の言葉が頭の中で反芻する。
「日が沈みゆく空を仰ぐ時。過ぎ去った今日を思う。それから昨日を思う。会えない人を思う。なぜいないのかと思う。なぜ出会ったのかと思う。浮き上がる疑問符を残り場はやさしく照らす。」
「文学や芸術とは、『社会の役に立たないから』という硬直した考え方を前に、しなやかに返答し続けるもの。」
淡々と語りかけているが、彼女の歩んできた人生の深さを垣間見れる。答えのない問いに対し考え続け、ひとつひとつに向き合う姿勢が魅力的だ。楽曲を聴いてから本書を知ったが、曲がつくられた背景なども詳細に記憶しており、丁寧に過ごされてきた人生の有意義さに感服した。 -
紗穂さんっていう人間の存在にホッとする。
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「気を衒うことなくとてもシンプルなのに、ものすごい力強さと美しさを持っている」
というのは、文章だけでなく歌や演奏、作詞作曲に至るまで、寺尾紗穂さんの表現活動全てに共通する特徴だと思いますが、どの分野においても高いレベルで具現化されていることに、ただただ圧倒されます。
本書は内容も素晴らしいですが、帯にあるいとうせいこうさんの「丁寧に書くことは 丁寧に生きること。」という言葉に心を掴まれました。
本書の中のどこか一場面を指しているわけでもないのですが、本書のどこを読んでも奥底でこの言葉が共鳴するようで、こんなに短い一文で的確にこの本の本質を表現できることにとても驚かされました。 -
記録
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歌を歌う人のエッセイ集と軽い気持ちで読み始めたのだが、思いがけず重みのある貴石を手にしていた。
原発労働者のこと、親日と知られる南洋で実際に起きていたことなど、知らなかったこと盛りだくさんで、読み応えがあった。
図書館で借りた本だが、心に留め置きたいフレーズがありすぎて、そして何度も読み返したいので購入を決めた。