売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放(ライツ社)
- ライツ社 (2019年6月14日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909044228
作品紹介・あらすじ
8/15テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」
10/30フジテレビ「セブンルール」
5/8 TBS「NEWS23」に出演
・「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019」大賞受賞!
・「NewsPics」でも紹介されて大反響!
各メディアで話題沸騰中の「佰食屋」店主、初の書き下ろし著書。
・ランチのみ、の国産牛ステーキ丼専門店
・どんなに売れても、1日100食限定
・営業、わずか3時間半
・インセンティブは、早く売り切れば早く帰れる
・飲食店なのに、残業ゼロ
・なのに従業員の給料は、百貨店並み
社員を犠牲にしてまで 「追うべき数字」 なんてない 。
「働きやすい会社」と「経営」が両立するビジネスモデルとは?
京都の小さな定食屋が起こした、奇跡の経営革命!
感想・レビュー・書評
-
【感想】
この本が刊行されたのが2019年6月17日。そこから半年後にパンデミックが発生したが、佰食屋もコロナの影響を免れなかった。2020年4月には4店舗のうち2店舗を閉鎖する。しかし、翌月から黒字を達成し、8月には過去最高利益率を記録したという。残業ゼロ・有給休暇全消化の超ホワイト飲食店は、コロナ禍であっても生き残ることができたのだ。
本書で印象的だったのは、お店の雰囲気に合わせて「働く人」も多様化させることだった。普通は「コミュニケーション能力の高い人」「リーダー適正がある人」などを採用したいものだが、佰食屋はあえてそれをやっていない。むしろコミュニケーションが苦手な人や、そこまで働きたくない人を積極的に雇う。その理由は、「『もっともっと売ろう』という意欲のある人に仕事をされると、周りの人が困る」からだ。「スキル」というのは働く場所によって有用性が異なる。佰食屋では「バリバリ仕事をする人」ではなく、「言われたことをその中できちんとこなす人」が能力のある人なのだ。本当に目からウロコの発想である。まさに「売り上げを伸ばさない」佰食屋だからできる強みだし、同様の働き方がもっと一般的になってほしいと思った。
――貯金が将来への不安をかき消す材料にはならないとすれば、どうすればいいでしょうか。それは……無理せず働き続けることができる「持続可能な働き方」を自分の手でつかむことです。どんな時代になっても、どんな状況になっても稼げる仕組みをつくること、その力を持つこと。そして、自分の欲しい人生、それが年収500万円であろうと、1000万円であろうと、「これ以上は売らない」 「これ以上は働かない」と決めること。世の中に数ある業界のなかで、もっとも「働き方改革」からかけ離れた、ブラックな労働環境が当たり前となっていた飲食業界で、佰食屋はこの新しい働き方を実現させました。それなら、きっとほかの業界、ほかの業種でも実現できるのではないでしょうか。
―――――――――――――――――――――――
【まとめ】
1 佰食屋のビジネスモデル
メニューは3つのみ。「1日100食限定」。売り切れたら店じまいで、昼のみ営業。営業時間はわずか3時間半。
どれだけ儲かったとしても、「これ以上は売らない」「これ以上は働かない」。
あらかじめ決めた業務量を、時間内でしっかりこなし、最大限の成果を挙げる。そして残りの時間(人生)を自分の好きなように使う、それが佰食屋の働き方だ。
「100食以上売ったら?」「昼だけじゃなくて、夜も売ったほうが儲かるのでは?」
そうした質問は幾度となくあった。たしかに売上は上がるかもしれない。しかし、働く時間は増えるのに、給料はあまり変わらない。会社が儲かっても社員が報われないのはおかしい。
2 100食限定というビジネスモデルが生み出したメリット
メリット1「早く帰れる」退勤時間は夕方17時台
メリット2「フードロスほぼゼロ化」で経費削減
メリット3「経営が究極に簡単になる」カギは圧倒的な商品力
メリット4「どんな人も即戦力になる」やる気に溢れている人なんていらない
メリット5「売上至上主義からの解放」よりやさしい働き方へ
●メリット1「早く帰れる」
佰食屋とほかの飲食店の働き方の大きな違いは、佰食屋では「営業時間」ではなく「売れた数」を区切りにしていることだ。通常の飲食店の場合、労働の区切りは「時間」である。特に忙しい日になると、「もう13時なのに今日はお客様が途切れそうにない」「閉店も近いのにお客様がまだこんなにいる。まだこれから明日の仕込みがあるのに」と、従業員は心のどこかでうんざりしてしまうだろう。反対に、100食という「売る数の上限」を決めている佰食屋では、お客様が多い日=忙しくない日になる。
「早く帰れる」というのは、お金と同じぐらい魅力的なインセンティブである。就業時間も、働き方も、やる仕事も、仕事の後の時間を何に使うかも、自分が決められる。それこそが、納得のいく幸せな人生だ。
●メリット2「フードロスほぼゼロ化」
電話予約を受け付けていないので、予約キャンセルがなく、余計なフードロスが発生しない。また、食材の発注量が一定のため、店には冷凍庫を置いておらず、鮮度の高いお肉を提供できる。もちろん、100食売り切りのため廃棄も出ない。
●メリット3「経営が究極に簡単になる」
商品力に集中して生まれたのは、圧倒的なコストパフォーマンス。原価率は約50%だ。100食という上限が決まっているからこそ、手間のかかる調理法やこだわりの食材を使えるし、利益を度外視した経営だからこそ、原価率を上げてとことん美味しい商品を作れる。
●メリット4「どんな人も即戦力になる」
採用基準は今いる従業員と合う人。
面接では、一人につき1時間くらいかけて、どんなふうに働きたいのか、どんな暮らしをしたいのか、じっくりと話を聞く。そしてその人が「なるべくたくさん働いて、たくさん稼ぎたい」と考えているのなら、「きっとうちの会社では物足りないと思う」と率直に話す。「100食限定」と決めているのに、「もっと売りませんか?」というそのアイデアで、今いる従業員たちを困らせたくない。
佰食屋にはアイデアも経験もコミュニケーション力も必要ない。結果として、佰食屋が採用した従業員はみんな、話すのがちょっと苦手で、ちょっと不器用。ただ、みんな言われたことをきちんと真面目にこなすし、毎日同じ仕事を黙々とこなすことが得意だし、どんなお客様にも丁寧に接してくれる。それが、佰食屋にとっての「仕事ができる人」なのだ。
●メリット5「売上至上主義からの解放」
働くなかで、「本当はこうしたほうが効率がいいのに 」「この工程は無意味なのでは?」と違和感を持つことはたくさんあると思う。でも、心に余裕がなければ、多くの人は与えられた業務をこなし、ギリギリに設定された目標値をクリアすることに精一杯になる。「そう決まっているからしかたない」と受け流してしまう。その小さなモヤモヤが、長い目で見たとき、仕事の効率を下げ、作業の妨げとなってくる。できるだけみんなが楽しく、ストレスなく働くために、目の前のお客様に喜んでもらうために、「売上目標」はじゃまなのだ。
「それで儲かるのか?」という疑問は浮かぶと思うが、正直「めちゃめちゃ儲からない」。佰食屋の母体である「株式会社minitts」の2018年8月期末の年間売上は、全体で1億7000万円を超えたが、経常利益としてはギリギリの赤字だった。
3 労働と人生の意義
佰食屋にとって「いい人」つまり「優秀な人材」とは、真面目に業務に取り組める人、人にやさしくできる人、地道な仕事をおろそかにせず丁寧にできる人のことだ。リーダーシップがある人、コミュニケーション力が高い人、自らアイデアを出し率先して仕事を生み出せる人……そんな人材は希少価値も高く、取り合いになるのは当たり前である。しかも、どんな企業でも活躍できる能力があるからこそ、少しでもいまより良い条件で働ける会社があれば、彼らはすぐに辞めてしまう。そんな「労働者市場最前線」に身を置きつづけて、投資しつづけられるだけの体力がどれだけの企業にあるのか。
佰食屋は売上増も多店舗展開も捨てた。佰食屋にとって、労働者市場最前線にいる彼らは「優秀な人材」ではないのだ。
なぜ佰食屋が、そこまで従業員を大切にするのか。それは、自分が従業員だったとき、経営者にそう考えてほしかったから。会社員として働いて、どんなに頑張って、遅くまで残業して、休日を返上して、大きな成果を得られたとしても、わずかな昇給や手当にとどまり、「頑張った甲斐」を感じられない。自分の時間を奪われ、生活に変化がない。上司の一方的な要求や指示に振り回され、「組織の歯車でしかない」と感じながら、自分の思いを押し殺して働いて……「わたしは会社のために生きているわけではない」。そう考えたことが、たびたびあった。もし、従業員を一人の人間として、大切にして、無理な残業を強いることなく、しっかり評価して給与にも反映してくれるような会社があれば……そう考えて、夫婦で「自分たちが働きたい理想の会社」をつくったのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
逆説的なタイトルでしたが、経営者の方のマインドがよく理解できます。
多くの労働者にとって、この方のような考え方はホワイト企業と感じられるでしょう。
一方で、飲食店であり小規模事業者に極めて近い環境でP/Lを組む必要がありますので、参考として捉えましょう。 -
狐につままれた書
一読した時、損益分岐点と、社員の成長という語が頭に浮かんできた
一日100食というTOC、広告宣伝費ゼロ、フードロスゼロ、高い利益率というビジネスモデル
1000円という客単価にもかかわらず、1回20分という高回転が生み出すマジックなのでしょうか。
「従業員が働きやすい会社」と「会社として成り立つ経営」を両立させるには、どうしたらいいのでしょうか
会社の売上がどんなに伸びても、従業員が忙しくなって、働くことがしんどくなってしまったら、何の意味もありません。
頑張れという言葉を使うのではなく、仕組みで人を幸せにしたい
自分が嫌なことは従業員にもさせたくない、自分が働きたい会社にしたい
神は細部に宿る
100食限定、そして、整理券というビジネスモデルはフードロスという視点でも思わぬ成果を呼び込みました
予約もキャンセルもないので、余計なフードロスが発生しない
商品・店舗開発にあたって、クリアすべき条件を4つ定めている
①月に1回、自分がその金額を出してでも行きたいお店かどうか
②家庭で実現できないもの
③大手チャーンに参入されにくいもの
④みんなのごちそうであること
広告費は一切使わない
佰食屋の採用基準は、いまいる従業員たちと合う人
コツコツと丁寧に、毎日決められたことを、きちんとやる
広報は現場の片手間でできるほど簡単な仕事ではありません。広報こそ、売上げに直結する重要な経営戦略の1つです
クレド=行動規範・信条があります、それは、会社は明日の責任を、みんなは今日の責任を
佰食屋の業務は、誰にでもできる仕事をベースとしていますが、個性、つまり、その人に向いているかどうかで選びます
あるとき気がついたのですが、これまで苦労がたくさんあるからこそ、人にやさしくできる人が本当に多いということでした
私の座右の銘、それは、敵は己の中にあり です
ほかの人がやらないこと、選ばないことをやる決断をするのは、とても孤独なことです
目次
はじめに
第1章 超ホワイト企業「佰食屋」はどのようにして生まれたのか
第2章 「100食限定」が生んだ5つのすごいメリット
第3章 佰食屋の労働とお金のリアルな実態
第4章 売上を目標にしない企業は、社員になにを課しているのか?
第5章 佰食屋1/2働き方のフランチャイズへ
ISBN:9784909044228
出版社:ライツ社
判型:4-6
ページ数:264ページ
定価:1500円(本体)
発売日:2019年06月17日第1刷発行 -
著者の中村朱美さんを初めて知ったのは、雑誌「日経WOMAN」の記事でした。
「会社が儲かっても社員が報われないのはおかしい」と考え、「頑張ったら頑張ったぶんだけ自分に返ってくる仕組み」を作り上げられた中村さん。
しかもしっかり経営を成り立たせて、です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この本は「はじめに」の次に、「おわりに」を読んでから、本編に進むことをオススメします。
なぜならそこに著者・中村朱美さんから読者への、厳しくも優しいメッセージがこめられているからです。
「売上を、減らそう」の内容は、いろんなことが衝撃的で、読み終えてしばらくは放心状態でした。
この本のような働き方が広まれば、安心して子育てでき、家族の時間も増え、少子化はなくなります。
また、働く人にもお客様にも笑顔が増え、経済面だけでなく、時間的にも心にも余裕ができます。
自分を幸せで満たすことができるので、人にも優しくなれるし、いじめも虐待もパワハラもなくなるでしょう。
つまり、日本にはびこる社会問題を根元から変えていける働き方、それが佰食屋の実践している「売上を、減らそう」という働き方なのです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
著者の中村朱美さんは、こう書かれています。
「ビジネス書ではよく、従業員の主体性を引き出す方法や、アイデアを生み出す方法について語られています。
けれども、みんながみんな
そういう人になる必要がありますか?」
(116ページ)
「心に変調をきたし、休職や退職を余儀なくされている人がたくさんいらっしゃいます。
その原因の多くは、経営者が効率や生産性を優先させ、「従業員全員が毎日全力で頑張らないと会社が回らない」という状態を放置しているから、です。」(150ページ)
ドキッとしませんか?
わたしが働いたことのある病院の1つは、まさにこういう場所でした。
できていることは当たり前で、良いところは誉められない。
むしろ、できないところばかり指摘され、毎日毎日やりがいどころか、自信を失っていきました。
もちろん病院といえど、経営のことは考えなくてはなりません。
けれど収支ばかりに目をむけすぎると、そのしわ寄せは現場にいきます。
夜勤で睡眠はガタガタ。
育児家事をしていたら、あっという間に時間は過ぎ、休む暇もありません。
それでも体調管理は万全に、仕事はきっちりこなして、さらにレベルアップもしましょう、というのです。
わたしはもう、がんばれませんでした。
もちろん、こんな病院ばかりというわけではありません。
現実に起きたことでもありますが、 これはあくまでも一例、わたしの過去のお話です。
いやいや、医療と飲食の世界を一緒にするな、と言われる人もいるでしょう。
でもそれはもう、やる前から言いわけを並べ、始めから諦めているのと同じではないでしょうか。
佰食屋の働き方をそっくりマネはできずとも、考え方や良いところを部分的にでも取り入れることは可能なはずです。
それをハナからできない話として聞く耳もたないのは、経営者や管理職の怠慢です。
限界まで働かせるだけ働かせ、従業員の本当の幸せはなんなのか本気で向き合わない職場は、病院だろうが大企業だろうが必ずつぶれます。
なぜなら、そんなところで働きたい人は、誰もいないからです。
幸せに働ける職場がないなら、幸せな働き方自体をこれから「自分で」作っていけばいいんだ。
職場やもっている資格だけにしばられ、「優秀な人材」なんていうフワフワしたものを目指すのではなく、もっと自分が持っている根源的な良さや能力を見つめ直し、それを生かして働き生きていこう。
読み終えたあとも、そんな中村さんの声、がわたしの頭のなかに、ずっと響いていました。
この本は、働く人だけのための本ではありません。
いま生きているすべての人に向け「いまこそ自分の生き方を見つめなおそう」という、厳しくも優しい愛のこもった「応援歌」なのです。 -
このビジネスモデルの本質は"明確な出口戦略"にあるのではないか、と思った。
毎日100食を売り切るという"明確な出口戦略"が働く人のメンタルの安定とやる気に繋がっているのでは。
働いていて思うのは、終わりが曖昧で、ただただ言われたことをやって、それが終わらないのが一番ツライ。
いったい、いつまでこんな仕事をやり続ければいいのか!
人間、ここまでやればゴール、という明確な目標があれば頑張れるのだ。
働き方改革に必要なのは、明確な目標、出口戦略ではないか。
コロナ騒ぎだってそう。
明確に、どうなれば終わりです、という基準・目標がない。
ただ「皆様ステイホーム」って言われても、いつまで家にいればいいのか不安で仕方がない。
この本での主張は、売上至上主義ではなく、余裕ある仕事で余裕のある暮らしを働く人に。
なのだが、その裏には”明確な出口戦略を設定せよ”というビジネスモデルがあると読みとれた。 -
地震、豪雨で売り上げ激減も乗り気ったが、今回のコロナはさすがにそうはいかなかったようだ。
テレビで泣く泣く従業員を解雇するシーンが放送されていた。 -
飲食店経営者です。
本題である「売上を減らそう」の題名を見て「売上を減らす?!」正直パニックになりました。
しかし、中身を読んで行く中で「女性らしい」しなやかな考え方で「世の中の働き方の常識」「世の中の飲食店の働き方」をチャレンジと共に「ぶち壊す」内容でした。
とにかく、スタッフに対する愛が充満している。従業員満足を追求し過ぎる位している。
そして、しっかりとした「経営の考え方」もありながらの自分自身を曲げない信念。唸りました。
自分の今までの経営の常識は「利益を上げて、利益を事業に再投資し会社に磨きをかける」だった。その部分をほぼ放棄した新たな挑戦。
作者の中村社長の今後の展開に注目です。
-
売上を減らそうという、逆転の発想がどういう意味か気になり読んでみた。私がSNSをフォローしている経営者の中で3人が批判的なコメントをしていたこともあり、今までとは経営モデルとは異なる発想の本だと思った。
売上とは、社会に価値を与えた指標と思っているので、売上を減らすということは、社会への価値を減らすということになる。本書を読んで感じたのは、社会への価値は「従業員のライフバランスにあった働き方の提供」であることと、減らすのではなく「利益に制約をつける」ということだと分かった。
お客様や利益より、従業員の働き方を第一に考えているが、両立しようとしているところが凄いと思った。100食限定にする事で、従業員の心にも余裕が生まれ、限られた時間の中でお客様を最大限満足させることに努力できるので、従業員もお客様も満足する経営方針だと思った。
一般的に、利益を限定するということは、デメリットだと思われるが、限定したことで生まれるメリットには、社会の問題を解決するヒントもあり面白かった。
この働き方や経営モデルは良い悪いで判断されるものではなく、働き方改革で悩んでいる経営者に対して、こんな働き方もあるという、一つの事例として今の社会には価値があると感じた。 -
「生き方」を考えたうえでの「働き方」について、土台がブレずに様々なアイディアや事例が書かれています。
●本当に働きたいと思える会社の条件は、「家族みんなで揃って晩ごはんを食べられること」。
●自分が嫌なことは従業員にもさせたくない。自分が働きたい会社にしたい。時代が移り変わる限り、完成形はない。それを見出すのが私の役割。
と、著者の考えが明確なので、読んでいるとたくさんのアイディアが浮かんできました。
☆「学力」よりも「生徒・職員の幸せ」に照準をはっきり当てた方が、「学力(点数)」くらいは楽々超えていきそう。
☆「多様さ」を「良さ」と考えている今の授業・学級経営のスタイルは続けていく。自信がもてた。
☆佰食屋琉商品開発の4条件を学校に置き換えると
・お金を払っても行きたい学校か
・家庭では体験できないものがあるか
・大手チェーンに参入されないものか
・みんなのごちそう(幸せ)であるものか
となりそう。どう考えても「生徒の存在」が大事。いてくれることで、条件達成につながる。 -
2020年2冊目。(去年のレビュー書き忘れ分...)
イノベーションは実は、自由よりも制約から生まれると言われる。「1日100食しか売らない、それ以上は売上を上げない」という制約から、従業員への様々な恩恵を生み出し、日本が注目する企業となった「佰食屋」は、まさにそんな事例だと思う。
「1日100食しか売らない」。そのコンセプトはそもそも、本書の著者であり佰食屋の創業者である、中村朱美さん自身の体験から生まれている。脳性まひの子どもが生まれたが、それでも働き続けられ、そして夕食は毎晩家族みんなで食べられる会社...そんな理想像を叶えるための仕組みを一つずつ体現し、今の佰食屋に至っている。
その主たる取り組みが、1日の販売食数を絞ること。100食売り切った時点で終わり、誰もが早く帰宅でき(営業時間はわずか3時間半で、14:30には店じまいとなる)、思い思いの人生を過ごせるお店を実現してきた。
このお店が従業員として迎え入れるのは、コミュニケーションが少し苦手だったりする、いわゆる就活弱者として見なされてしまう人たちがほとんどなのだそう。常にメニューを変えず、売上を上げるために店頭で道行く人に声掛けをする必要もない佰食屋では、彼らが即戦力なのだという。
むしろ、「やる気に溢れている人はいらない」とまで中村さんは明言する。それは、やる気やクリエイティビティに溢れる人は大抵、「もっと売上を上げるアイデアがあります!」という方向に向きやすいからだそう。それでは、お店のコンセプトと本人の相性も悪いし、既にいる従業員の考え方とすれ違い、負担が生まれてしまう。一貫して「一緒に働く人の幸せ」を重視して決断されている姿が強く印象に残った。
「変化がない環境は退屈なのではないか?」、僕自身も読んでいる途中で、一度そのような考えになりかけた。が、そもそも「仕事とは刺激的でクリエイティブであるべき」という考え自体が固定観念であり、どんな環境に幸せや心地よさを感じるかは、その人によって違うのだということを思い出させられた。と同時に、佰食屋の仕事が決して「非クリエイティブ」ではないのだということも、読み進めているうちに気付く。
たしかに売上を上げるアイデアは求められない。だけどその分、「お客さんを増やすための発想」に頭を持っていかれることもなくなる。ある従業員の方は「お客様をお金として見ずにすむ」と言っていた。「人」を金ではなく「人」として見れるようになったとき、そこには「お客様の‟居心地向上”のためのアイデア」が生まれていく。これは売上アップで頭がいっぱいのときには生まれづらいクリエイティビティなのではないかと感じる。
この話は、1日100食限定にすることから生まれるメリットの、たった一つに過ぎない。この本には他にも、100食の制限から生まれるメリットが多数描かれている。
・「早く帰れる」退勤時間は夕方17時台
・「フードロスほぼゼロ化」で経費削減
・「経営が究極に簡単になる」
・「売上至上主義からの解放」よりやさしい働き方へ
...など。
読み終えたとき、佰食屋が究極的に解放しているのは「一人ひとりの思い思い」なのだと感じた。残業からの解放、売上至上主義からの解放、生産性の脅迫観念からの解放、それらが織りなされて生み出されるものは、そこで働く人たち一人ひとりが、自身が送りたい理想の暮らし(=思い思い)の実現なのだと。「負からの解放」だけではなく、一人ひとりの思い思いにとっての「正の支援」も積極的に実現していることからも、強くそう思った。
業績の成長が前提とされる今の時代にあって、佰食屋のモデルは最初、専門家たちに「アホらしい」「うまくいくわけがない」と見向きもされなかったと言う。そのモデルはいま、従業員数は30名を数え、集客にも人手不足にも赤字にも苦労しない状態になっているという。
ただの専門家は、過去のセオリーから今を見る。でも本当の知恵者は、未来の可能性から今をつくり、積み上げていく。そんな知恵者の経験と想いが詰め込まれた1冊を、これからも大切に読み返したいと思う。