- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784908465161
作品紹介・あらすじ
「プレスター・ジョンの王国を探せ!」
マルコ・ポーロが『東方見聞録』を発表したのと同じ頃、行ってもいない東方世界の旅行記を著した稀代のペテン師ジョン・マンデヴィル。世に出るのを厭い、苔と羊歯の庭いじりを唯一の喜びとしていた息子アーサーは、ある日教皇から呼び出され、亡き父の書に記されたプレスター・ジョンの王国を探すよう命じられる。
しかしその情報源は父の遺したデタラメ旅行記だった。
待ち受けるのは、羊のなる木や、魚にまたがるアマゾネス、犬頭人にマンドラゴラ、背中にギザギザのある怪物……
「ありもしない王国を探しに行くなど、人生をねずみの餌にくれてやるようなものだ」。
不満たらたらのアーサーに同行するのは、柄の悪い傲岸不遜な修道士と書物好きで夢見がちな弟。たよれる武器は、蝿を遠ざけることのできる指輪のみ。果たして父の書に真実はあるのか。驚異と笑いに満ちた奇想天外な旅へ、いざ(しぶしぶ)出発!
ーー東洋奇譚をもとに描く宮田珠己の新境地、ここに誕生。
網代幸介氏による幻想的なじゃばら絵巻つき。
感想・レビュー・書評
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中世イングランド、苔と羊歯をこよなく愛するアーサー・マンデヴィルは、亡き父ジョン・マンデヴィルが書き残した書物『東方旅行記』のせいで、ローマ教皇からその本に書かれている東方のキリスト教国への使者として旅立つことを命じられる。同行者は腹違いの弟エドガーと、修道士ペトルス。しかしアーサーの知る限りでは、彼の父は本当は東方旅行などしておらず、本に書いてあることはほぼデタラメ。いやいやながらも旅立ったアーサーたちの珍道中が始まるが…。
まず目次に並ぶ「スキタイの子羊」「アマゾニア」「犬頭人」「マンドラゴラ」などの文字だけで、もうワクワク。澁澤龍彦のエッセイみたいなラインナップ。作中のジョン・マンデヴィル『東方旅行記』は実在する書物で(しかし色々うさんくさい曰くつき)そのジョンの息子アーサー(こちらはもちろん架空の人物)が、本をガイドに東方を旅する構成。『東方旅行記』をベースにしつつ、著者は出てくる植物や動物などを自由自在にアレンジしている印象。
アーサーはこの旅に乗り気ではないが、苔や羊歯など植物への関心が強いため、行く先々で出会うスキタイの子羊=バロメッツや、マンドラゴラ、ワークワークの美人果(美女の実がなる)などには興味津々。それでついつい旅を続けてしまうはめに。途中、犬頭人のテオポンポスが一時的に仲間に加わったり、黄金を集める巨大蟻のいる島で奴隷にされていたチリとアンジロの母子が加わったりしつつ、兄弟とペトルスは東方の最果ての国を目指す。アンジロの父の名がキチジロなあたりで察したけれど、もちろん彼らがたどり着いた最果ての国は…。
好きだったエピソードは、海を漂う少女とエイ(魚の)とのラブストーリー。あとアマゾネスたちが四つ足の魚に乗ってるのがとてもシュールだった。表紙その他折込のイラストなどもとても可愛らしく(網代幸介 https://www.instagram.com/kosukeajiro/)ちょっとヘンリー・ダーガー味があってとても好きでした。 -
...旅に出たい!どこでもいいから遠くに行きたい!そんな君に『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』をオススメしよう。
マンデヴィル兄弟と修道士ペトルスは、デタラメな旅行記のせいでマルコ・ポーロ顔負けの冒険をする羽目になるのだが、内容がぶっ飛んでいて面白い。
奇譚、伝説、怪物、幻想世界、イマジナリートラベルといった荒唐無稽な話が好きなひとにとってのバイブルといっても過言ではない。
先日『中野京子の異聞奇譚』を読んで、すっかり奇譚好きになった。『アーサーマンデヴィル』は内容を知らず、表紙だけで選んだのに、大当たりを引きあてた気分。
付録『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』をめぐる選書リストも良かったのでここに記しておく。
『東方旅行記』ジョン・マンデヴィル(東洋文庫)
『コロンブスをペテンにかけた男 騎士アーサー・マンデヴィルの話』ジャイルズ・ミルトン(中央公論新社)
『高丘親王航海記』澁澤龍彦(文春文庫)
『東方見聞録(上・下)』マルコ・ポーロ(平凡社ライブラリー)
『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』ティルベリのゲルウァシウス(講談社学術文庫)
『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』逸名作家(講談社学術文庫)
『動物奇譚集1・2』アイリアノス(京都大学学術出版会)
『大航海時代の地球見聞録 通解「職方外紀」』ジュリオ・アレーニ 楊延筠
『あたまの漂流』中野美代子(岩波書店)
『中央アジア・蒙古旅行記』カルビニ/ルブルク(講談社学術文庫)
『黄金伝説4』ヤコブス・デ・ウォラギネ(平凡社ライブラリー)
『アレクサンドロスの征服と神話』森谷公俊(講談社学術文庫)
『西太平洋の遠洋航海者』B・マリノフスキ(講談社学術文庫)
『幻想の東洋 オリエンタリズムの系譜』彌永信美(青土社)
『中世幻想世界への招待』池上俊一(河出文庫)
『プリニウスと怪物たち』澁澤龍彦(河出文庫)
『キリン伝来考』ベルトルト・ラウファー(ハヤカワ文庫)
『スキタイの子羊』ベルトルト・ラウファー(博品社)
『綺想迷画大全』中野美代子(飛鳥新社)
『幻獣辞典』ホルヘ・ルイス・ボルヘス(河出文庫)
『原典 中世ヨーロッパ東方記』高田英樹編訳(名古屋大学出版会)
『イブン・バットゥータの世界大旅行 14世紀のイスラームの時空を生きる』家島彦一(平凡社新書)
『平行植物』レオ・レオーニ(ちくま文庫)
『鼻行類』ハラルト・シュテュンプケ(平凡社ライブラリー)
『フォルモサ 台湾と日本の地理歴史』ジョージ・サルマナザール(平凡社ライブラリー)
『山海経』(平凡社ライブラリー)
『世界をまどわせた地図 伝説と誤解が生んだ冒険の物語』エドワード・ブルック=ヒッチング(ナショナル・ジオグラフィック社)
『植物園の世紀 イギリス帝国の植物政策』川島昭夫(共和国) -
おもしろ旅エッセイの大御所、宮田珠己さん初の長編小説、しかもテーマがプレスター・ジョンの国まで旅したという中世の騎士、ジョン・マンデヴィル絡みとあり、期待して読みました。文体は基本、いつもの宮田節で、主人公のジョンの息子、アーサー・マンデヴィルのつっこみは、旅先で変な人やものにつっこむ宮田さんそのもののようで、くすりと笑えます。
各章のエピソードもジョン・マンデヴィルの東方旅行記はじめ、澁澤龍彦のエッセイでもお馴染みのプリニウスなどが言及している東方の驚異な怪物や植物のオンパレード。犬頭人、アマゾネス、マンドラゴラや美人果などの解釈が独特で、なるほどそういう設定もありか、と新たな発見をする楽しみ方もできるのかなと。
似たテーマを扱った物語としては、澁澤龍彦の「高岳親王航海記」や、ウンベルト•エーコの「バウドリーノ」などがありますが、それらの幻想的且つ隠喩に富んだストーリーとは違って、前知識なく読んでも物語として楽しめるのではと思います。
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もともと宮田さんのエッセイが大好きで、小説はどうなんだろう...と怖々読み始めたけど、そんなのは杞憂だった。途中から誰が作者かなんて考えずに夢中になって読んだ。
自分と異なるものを力でねじ伏せるのではなく(人類の歴史ではこっちが圧倒的に多い)、見た目や考え方に違いはあっても、根っこはみんな同じ、ゆるくつながっているっていう終わり方がとてもよかった。異形に向けるまなざしがやさしい。
コロナ禍に最適な脳内旅行ができて大満足。
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バロメッツ!
ここでその存在を知ることができたとはなんという僥倖であろう。
このあたりから、ワクワクがとまらなくなった。
なに?バロメッツって!美しく不思議な扉絵、この表紙を持ち歩き、カフェや公園で開くとたちまちファンタジー世界に飛ばされる。 -
装丁と絵に興味を惹かれて購入したが,最後は意外な結末だった。普通の冒険ものと思い読み進めつつ、途中すっかり西欧の似非冒険者の書いた本を読んでいる気になり、最後は「あ、日本人が書いてる本だった…」と思い出した。絵がたまりません!
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タマキング待望の初小説、満を持して読み始めた。どういう態度でこの作品に向き合えばよいのか要領がつかめぬうちに読了していしまった。面白かった。巻末の参考文献と絵巻解説とその裏の選書リストに目を通して腑に落ちた感じ。宮田さんがいつも面白がっていること、うりゃうりゃを感じていることがそのままこの物語に消化され投影されているのですね。再読するときはアーサー=タマキングの視点で読んでみようと思う。
大福書林も網代さんも知らなかったが、小説世界を十二分にあらわした素晴らしい本。 -
すんごく読みやすいファンタジー。
テンポの良いストーリー展開と
ハリーポッターに出てきそうな珍生物達が
とても魅力的。
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