あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室

著者 :
  • 西日本出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784908443282

作品紹介・あらすじ

奈良少年刑務所で行われていた、作家・寮美千子の「物語の教室」。
絵本を読み、演じる。
詩を作り、声を掛け合う。
それだけのことで、凶悪な犯罪を犯し、世間とコミュニケーションを取れなかった少年たちが、身を守るためにつけていた「心の鎧」を脱ぎ始める。
「空が青いから白をえらんだのです」が生まれた場所で起こった数々の奇跡を描いた、渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 星で評価できない、したらいけない、、そんなふうに感じた一冊。


    夏フェアで手に取った「空が青いから、白をえらんだのです」を読んだ。少ししか読んでないのに涙が止まらなくなった。


    このまま読み進めることが出来なくて、
    本を閉じた。


    なんで、こんなにもやさしさで溢れている子たちが刑務所にいるのか、いなくてはいけないのか。胸が詰まって苦しくなった。堪えきれない思いが、目から滝のように溢れ出した。


    寮さんの取り組みとか少し詳しく書いてるから先にこっちを読んでみたら?
    と母がこの本を薦めてくれた。



    案の定、もっと泣いて、目が腫れた。



    泣きながらも、手をとめることなく最後まで読みきった。目を背けたくなるような現実がそこにはたくさん書いてあった。フィクションだったらいいのにと何度も、何度も思い、強く願った。



    詩を通して、受講生の少年たちから、あふれでたやさしさに触れたとき、見える世界が、やさしくなった。



    世の中(人)の見方が変わった。



    受けとめるとは、どういうことかを教えてもらった。



    奈良少年刑務所の子達が、今まで私が知らなかったやさしさや幸せを教えてくれてた。




    読み終わって、

    なれるか分からないけれど、

    ゆりかごのようなひとに、私はなりたい。

    そんなふうに感じた。


    一生、この一冊は手放したくない。

  • 詩集「空が青いから白をえらんだのです」のドキュメンタリー的な本。奈良少年刑務所で、著者が講師となった詩の授業に参加した少年たちに起きた、奇跡についての実話。

    著者が奈良少年刑務所の更生プログラムの講師となったいきさつや、奈良少年刑務所とはどんな場所なのか。というような事から、そこで行われたのはどんな授業で、授業によって少年たちはどう変化していったのか等が丁寧に書かれている。

    掲載されているエピソードや詩は、詩集と同じものがほとんどだった。しかしこの本では、授業の中のどういう要素が鍵となって彼らが変わっていったのかが具体的に記されている。

    自分の心の中を「言葉」にして発することの影響の大きさ。そしてそれが他人に「受容」された時に起きる奇跡のような変化。人は「受容される」ことだけで変わるのではなく、「受容する」ことでも大きく癒されるということ。などなど。

    著者は心理学の専門家でもなく、教師の資格があるわけではない作家さん。それでも、少年たちの変化を目の前にして、人の心の素晴らしさと可能性に心から感動し希望を持っておられた。それほどに、この授業に含まれていた様々な要素が素晴らしいものだったのだなと思わされた。

    刑務所の授業でなくとも全ての人々の心にとって、この授業は大きな癒しと救いを与えうるだろうと思った。その詳細な記録となっているこの本は、とても貴重な物に思えた。詩集と合わせて読んで欲しい。

  • 『空が青いから白を選んだのです―奈良少年刑務所詩集』(新潮文庫)が生まれた背景。
    絵本作家がなぜ奈良の少年刑務所で社会性涵養プログラムにかかわるようになったのか、そこで具体的にどんなことをしていたのか。入所している青年たちがどうやって「詩」を生み出すようになったのか、が描かれたノンフィクション。

    犯罪は悪である。犯罪者はその罪を償うべきである。被害者のことを思うと、そこにどんな理由があろうとその加害者を擁護する気にはならない。ならない、と思っていたのだけど。
    少年刑務所にいる少年、あるいは青年たちは犯罪に手を染める以外に生きるすべのなかった者たちも多いという。
    子どもの頃に当たり前のように注がれるはずだった親からの「愛情」。それを受けた経験もなく、学校にも通ったことのない子どもが、世の中にはたくさんいる、という信じられないような現実。
    罪を罪として認識することさえできなかった生い立ち。だから罪を犯してもいいとはいわない。けれど、ヒトはヒトに愛され大切にされて初めて自分を、そして人を愛し尊重し大切にすることができるのだ。
    その過程なしに大人になろうとしている彼らに必要なもの、その一つを作者は「詩」を通して伝え続けた。
    自分の言葉で自分を表現すること。誰かの気持ちを否定せずに受け止めること。月に一度、たった6回のプログラムで、劇的に変化する彼ら。
    一人一人の育ってきた背景、そして、このプログラムを通してそこで新しく生まれ生きなおす時間。そのどれもが尊くて。
    一言一言を、一文字一文字を、丁寧に読んで欲しい。彼らの声を聴いて欲しい。あふれでるやさしさを受け止めて欲しい。



  • 童話作家の著者が、奈良少年刑務所で「社会性涵養プログラム」の講師を務めた10年近くの経験を書いたもの。著者が担当したのは絵本を使った朗読や簡単な朗読劇、詩の作成と感想を述べ合う授業。

    対象となるのは実習場でも孤立しがちな、コミュニケーションが取りにくい少年たち。「落ちこぼれてしまった人たちのくる刑務所の中で、さらに一段と落ちこぼれてしまうトラブルメーカーでしょうか?」と著者が教育統括に質問したように、「選り抜きの難しい子」を対象としたプログラムである。

    少年刑務所は少年院と違い、17歳から25才までの重い犯罪を犯した者が服役している場所。教育者でもない童話作家の著者は、窃盗犯、殺人犯、レイプ犯と向き合っての授業に不安を覚え、デザイナーの夫と共に出席することを願い出てそのプログラムへ協力することを受け入れる。

    そんな著者に「わたしは、分断化された社会の上澄みで、きれいな水だけを飲んで、のうのうと過ごしてきたに違いない」と言わしめるほど彼らの生きてきた背景は想像を絶するほど過酷だった。しかし、授業を通して、友から優しい言葉を浴びて、全く無表情だった少年が微笑み、激しいチック症状がピタッと止まり、吃音が消え、ならず者の様な子が姿勢を正し、引っ込み思案の子が手を挙げる。硬く不器用な鎧を纏った彼らの奇跡の様な変化の様子は涙無くしては読めなかった。

    計186名、一人として変わらぬ子はなく、心を開くとやさしさがあふれ出て、何故ここに彼らはいるのか?と著者は思う。加害者になる前に彼らは被害者であり、適切な支援を受けられないままにここまで来てしまったことが、ほんの一行の詩や、頑なに押し黙っていた口からこぼれ出る言葉に痛いほど感じられた。表現すること、それが他者に受け入れられること。人間味溢れる熟練した教官達、熱意のかたまりの統括、先生夫妻に見守られてプログラムを受ける仲間たち。言葉の力だけではない「場と座」の力。これは少年刑務所ではなくとも通じる非常に深い情操教育の根幹に触れるルポルタージュでもあると思った。

    そもそも、奈良に越してきた近代建築好きの夫婦が、この明治四十一年に竣工された美しい赤煉瓦の奈良少年刑務所の建築に惹かれて見学に行ったのがこの少年刑務所との縁だったと言うから人生はわからない。また、講師を始めた時からこの建築物の保存を強く願って活動して来られた著者の働きがこの建物の保存に非常に大きな影響を及ぼしたことを知り、教育というソフトの面でも、建築物保存のハードの面でも深く奈良少年刑務所の環境を理解していた著者の記録は貴重だと感じた。

    「社会性涵養プログラム」の10年を通して、人間への信頼を深く呼び覚まされ、生まれた時からの悪人などいない、刑務所の中にいるのはモンスターではない、人は変われる…人間の根本はやさしい。そう心から信じられる様になった著者。それはこのプログラムに選抜された特に感受性が強かったり、発達障害を抱えていたり、場面緘黙の少年たちとのみ関わったからかも知れない。しかし、一番弱く虐げられた立場の子たちが劇的に変化することで、実習場の雰囲気も良くなり、毎回確かな変化があったことはまぎれもない事実だ。

    関連書『空が青いから白を選んだのです 奈良少年刑務所詩集』も読んでみたいと思った。「奇跡の」とか「涙無くして読めない」という言葉は、この様な本のために大切にとっておきたいなあ…としみじみと思わずにはいられなかった。

  • 『空が青いから白をえらんだのです』が好きなので、読んでみた。『空が青いから白をえらんだのです』は詩集だが、こちらは詳細なルポ形式。
     著者が奈良少年刑務所の「詩の教室」を担当するきっかけが、建築に惹かれたからということに驚いた。てっきり元から更生支援に興味がある方かと思っていたが、講師を依頼されたときの戸惑いがリアルに描かれている。

    ――愕然とした。殺人犯やレイプ犯と直接向き合って授業をせよ、ということらしい。正直、それは怖い。――
     (26ページより)

     実際の授業をへて、著者は「みんなまっ白な心を持って生まれてくる。それが、生育の過程で傷ついてしまう。その傷をうまく癒やせないと、心が引きつれて歪んでしまい、犯罪に至ってしまう」と教えられたという(217ページより)。
     受刑者の書いた詩や、その背後にあるそれぞれの事情、家庭環境を読むと、胸が痛み、涙が出る。
     私自身、劣悪な家庭環境というわけではなかったけれど、子供のころに親から「ダメだ」と否定された言葉がいまだに胸に刺さっている。受刑者たちは、そのような傷を何度も負って、満身創痍で、やがて罪を犯してしまったのだろう。罪を犯した人は、私と地続きの場所にいる、同じ人間なのだ。
     25年間生きてきて、社会は失敗を許さない息苦しい場所のように感じる。少しずつでも、すべての人に対して温かく、やさしく、生きやすい社会になってほしいと願う。私にできる身近なところから、「やさしさ」を広げていきたい。

  • 人の持って生まれた性格でももちろん、その人の人生を左右するだろうが、特に子供の頃の環境や人間関係も少なからず影響するのだろうと思った。劣悪な環境で育ち犯罪に走ってしまう彼らの悲しさを想った。

  • 旅で立ち寄った高梁図書館にて。
    奈良少年刑務所の建物コンセプトが、罪を犯した人であっても、その人権を考えるべきで・・と。
    結局、その建物に招かれ、足を踏み入れる。
    更生ボランティアを経験し、少年たちだけでなく、著者自身も生きている意味を掘り当てたように読めた。

    人は人によって、不遇にも、再生もされる。
    それを教えてくれた筆者に感謝です。

  • 「空が青いから白を選んだのです」がとても好きなのに、こんな本が出ていたことに気付かず今まで未読。今回は刑務所での詩の授業を受けた経緯が導入。中盤~後半が授業についてといった内容となっていました。とても良かったです。心と言葉の結びつきは凄く重要なのだと再確認しました。
    作品批評と人格攻撃は全く違うもの、当たり前だけど混同しがちです。素直な作品批判に終始した受刑者たちの心に拍手。

  • 誰にもこの本を読んでほしい!と、こんなに思ったのは初めてです。
    最後の文に込められた願いを、明日の私が忘れずにいられますように。

  • 先日、奈良少年刑務所の美しい建築を見てきたところだったので、読んでみた。やさしい光が建物と、心にも差し込んだ情景が目に浮かぶようでした。

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著者プロフィール

東京生まれ。
2005年、泉鏡花文学賞受賞を機に、翌年奈良に転居。
2007年より、奈良少年刑務所で「物語の教室」を担当。その成果を『空が青いから白をえらんだのです』(新潮文庫)と、続編『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』(ロクリン社)として上梓。
『あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』(小社刊)ほか著書多数。

「2021年 『なっちゃんの花園』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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