「練兵館」の創設者、斎藤弥九郎の生涯を描いた小説。
最初作者は桂小五郎を書こうとしていて、資料を読み込んでいるうちに、彼の剣術の師である斎藤弥九郎の人物に魅かれ、ついにはこちらを主人公にして小説を書いてしまったのではないか、と思えるくらい、斎藤弥九郎はすごい人なのです。
北陸で農民の子として生まれながらも、学者になりたくて15歳の時に江戸に出てくる弥九郎が出会った人というのが、幕末オールスターズと言ってもいいくらいの面々。
剣術を習いに行った「撃剣館」で知り合った渡辺崋山、江川英龍、藤田東湖。
特に、後に伊豆の代官となる江川英龍とはその後主従関係を結び、生涯にわたって支え合う関係となるのである。
大塩平八郎の乱の真実を探るために大阪へ出かけ、一揆の噂の真相を探るべく江川英龍と町人に紛争して伊豆を探索し、浦賀に黒船を見に行き、江戸湾にお台場を作り、尊王攘夷の思想にふれ、桂小五郎をはじめとする長州藩士に剣を教え、維新後は大阪の造幣局の開設に尽力する。
どこを取ってもドラマチックだから、ポイントを絞りきれなかったのが難点だった。
還暦間近の幼なじみの口調が、年齢にふさわしくない子どもじみたものだったり、主筋である江川英龍のことを桂小五郎に語るときに、敬語を使わないなど、会話文に違和があったけれど、概ねよく資料を調べて書いてあると思ったからこそ、蛮社の獄からお台場設置の頃の鳥居耀蔵との確執を中心に書くとか、江川英龍との関係を中心に書くとかしてほしかった。
だってこれ、評伝ではなく小説なのだから。
気がついたらさらさらとお茶漬けのように読み終わってしまった。