- Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907514426
作品紹介・あらすじ
孤高に生きた画家・戸嶋靖昌-そのリアリズムへの想いを辿る「美の思考」。謎に満ちた画家の生涯と芸術に、執行草舟のエクリチュールが迫る。他に、西洋美術史の第一人者小池寿子が本書に寄せた論文「戸嶋靖昌存在の地層」も合わせ収録。
感想・レビュー・書評
-
第一部は「戸嶋芸術へのオマージュ」と題して、戸嶋靖昌の作品をカラーの図版で紹介している。作品ごとに幾らかの文章が添えられているのだが、これらが戸嶋靖昌が言ったことなのか、書いた文章なのか、あるいは執行草舟が書いたものなのか、一読しただけでは判然としない。図版の作品については、B5程度の大きさではあるが、鬼気迫る作品であることがよくわかる。
第二部は「無点に非らず—戸嶋靖昌の痕跡—」。何となく読めてしまうのだが、あまりにも抽象的なことばかりが述べられている。つまり修辞的。また、著名な芸術家が多数引用されているが、あまりにも多いので何となく権威づけのように感じられてしまう。戸嶋靖昌と執行草舟は数年間交流があったはずなのだが、どうも戸嶋靖昌の描写にリアリティがなく、本当のところ、彼は何を考えていたのかというところが、モヤモヤとしてしまう。とはいえ、戸嶋靖昌を研究するには貴重な資料と言える。
第三部は小池寿子の評論である。こちらは客観的な論文で安心して読める。戸嶋靖昌が長年滞在したスペイン・グラナダの地勢・歴史の検証から始まり、戸嶋の生立ちからたどる。地道ではあるが、後の芸術批評に説得力を与えているように思う。断片的ではあるが、戸嶋靖昌のグラナダでの生活が垣間見え、どのような思いで制作に取り組んでいたのか、想像をめぐらすことになる。ただ、客観的な論述が多いため、やや「だるく」感じるかもしれない。
戸嶋靖昌の作品は、今の世ではあまり受け入れられないとは思うが、大変優れた作品を残していると思う。その生き様も心打たれるものがある。詳細をみるコメント0件をすべて表示