- Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
- / ISBN・EAN: 9784907497088
作品紹介・あらすじ
熊本には、心を休ませてくれる橙書店がある。映画の感想を伝えにくる人、泣きにくる人、北海道から葉っぱを送ってくれる人……。作家の渡辺京二、坂口恭平、詩人の伊藤比呂美、時には猫や鳩まで。チェーン店による画一化が進むなか、一人一人にやすらぎを与えてくれる熊本のカフェ兼本屋、橙書店には全国からファンが訪れる。2016 年4 月の熊本地震で、店は一部損傷。店主は新しい店舗への移転を決める。変わらぬ日常を作り出そうと静かな強い意志をもつ彼女のもとに、いつもの客が集い、新しい店で日々が始まっていく。橙書店の365 日を綴る掌編エッセイ集。(装丁:祖父江慎、根本匠 cozfish/版画:豊田直子)
「田尻さんは私たちの生が、何げない細部によってこそ充溢し輝くことを知っている。彼女のカフェ兼書店を訪ねる万象、人々はむろんのこと、風、陽光、鳩や蜂など、ほんの微細なことが書きとめられるとき、世界は変貌し生きるに値するものとなるのだ」(作家・渡辺京二)
感想・レビュー・書評
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熊本にある橙書店主によるエッセイ。
日常を丁寧に言葉にしている。
それがとても優しくて和む。
気に入りの言葉を抜粋〜
夜明け〜雨降りは好きだが、陽の光を浴びないまま幾日も過ぎると、ちょっと太陽が恋しくなる。
雨の日の本屋〜雨の本屋は気持ちがいい。本が雑音を吸収して雨音だけが響き、いつもより言葉と親しくなれる気がする。
海の青〜夜のとばりがおりて、空に半月が浮いている。月はいつになく橙色でくっきりしている。あやしいくらいに色鮮やかだ。空は、暗いが蒼い。夜の海にも、月が浮いていることだろう。
書棚と蜘蛛〜背表紙はけなげだ。どんなに薄くても、ちゃんとタイトルと著者名が入っている。
雨と言葉〜日々を穏やかに過ごせていない自分に、雨の詩を読みながら気付いた。忙しいとか、体が不調だとか、そんなことばかり言っているよりも雨を見ているときの穏やかな心持ちを言葉にできればいいのにと思う。
夕暮れ〜今日という日が終わるのが、物悲しいのだろうか。
握手〜さみしいってことは、楽しかったことだよね。
まだまだたくさんあるのだが、一部だけを拾ってみた。
共感できて、言葉に寄り添える。
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熊本の書店主のエッセイ。
静かな語り口がまるで詩のよう。
しとしと降る雨のような文章が心に染み入る。
オチをつけない、余韻を残す終わり方、
淡々とした日々の描写が、星野道夫の「旅をする木」と似た雰囲気に思えた。
わたしもすぐ人に本をあげてしまう。
そしてあげたことを忘れる。
「避難所」の「死というものは、ほうっておいても誰のところにもいずれやってくるので、引き寄せないでほしい。誰ひとり動揺させることのない死などないと思っている」
という文が特に心に響いた。 -
淡々と。
装丁と、中身と、うまくフィットしている。
熊本の風景が浮かぶ。
おばあちゃん「みかん1個てあるかい」
そうそう。そうなのだ。
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20200816
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読んでいると、静かな穏やかな気持ちになる。
作中に出てきた本や詩集や映画、いつか読んでみたい。 -
日々の些細な出来事をきちんと丁寧に受け止めて、しまっていくような感じ。
自分にはない感性というか、雑で、言葉が乱暴になるたちなので、読むと自分の言動を反省する。
いわゆる空気の読めない子だったし、認めてほしいあまりに自己アピールするし、こんなふうに静かにしっかり生きてる大人になりたい。
だいぶ行ってない橙書店。 -
松陰神社前の古本屋さんですーっと目に入ってきた装丁で、紙の手触りも好みで本屋だ、引っ越しだと、そそられる単語が、遠い地の見知らぬ作家の割とお高い値段の本をそんなに躊躇せずに買った理由かな。
ゆっくりbedsideで読みまして、また最初から繰り返してみようと思っている。
同じクラスで親しくはならなかったであろう感じの作者だけれど、怖いもの見たさでいつか訪れてみたくもある本屋さん。
馴染みの本屋のある人って羨ましい。 -
改行が そんなにされてるわけでもなく、どちらかというと文章が続いてる感じなのに、なぜだか、とても読みやすかったです。
ゆっくりと、静かに語られてるかなような……
どこか安心感のあるような……
ずっと訪れてみたい。と思ってるのですが、この本を読んで、さらに強く橙書店に行きたい。と思いました。
行こう。うん、ぜったい。 -
テンポよく読める1冊。
万人に無理していい顔するわけではなく、
自身の身の丈にあった(できる限り)やり方で自然に影響を与えることができると思われる方が書いた1冊。
陰もそれなりにパーソナリティとして持ち合わせていると思われる方で、読んでいてキラキラ明るすぎず日々の風にあたる感覚で読んでいくことができた。
ひとつの長さも今の私には丁度よかった。