みな、やっとの思いで坂をのぼる—水俣病患者相談のいま

著者 :
  • ころから株式会社
4.31
  • (7)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 106
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907239282

作品紹介・あらすじ

不知火海を見下ろす丘の上に水俣病センター相思社はある。
2004年の水俣病関西訴訟の勝訴にともない、「自分も水俣病ではないか」との不安を抱える数千の人たちが、いまも患者相談に訪れる。
著者は、相思社での患者相談などを担当する日常のなかで、自分の生まれ故郷でいまもタブーとされる水俣病事件の当事者たちと接するようになり、機関紙で「水俣病のいま」を伝えるための連載「患者相談雑感」を開始した。
本書は、本連載をもとに大幅に加筆して一冊にまとめた記録だ。
「やっと思いで語り出した人びとの声」がここにある。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 何をどうしたら、公害が終わった過去のことだと言えるんだろう?
    被害者が裁判で勝ち、政府や企業が責任を認めて補償が行われるようになったら?
    それとも被害者が死に絶えたら終わったと言えるのか?

    ユージーン・スミスの写真集で、被害者による集団訴訟で補償を受けられるようになったのを見て、なんかもう一件落着な気がしていた。チッソ株式会社も水俣病の補償を行うための会社に変わった。

    でも、未だに水俣病認定訴訟は行われている https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220330/k10013559601000.html し、2018年には水俣病犠牲者慰霊祭でチッソの社長が「救済は終わった」と発言して、その後謝罪文をHP上で公開し http://www.chisso.co.jp/news/-pdf.html 同年に辞任している。https://www.nishinippon.co.jp/item/n/474940/

    アクティビストやジャーナリストが去り、水俣病という大きな物語は幕を閉じた。その幕の裏で人生は続き、その物語に入りきれなかった人は今も取り残されたまま。

    全盛期の1/5-1/4くらいの規模に落ち込んだとはいえ、今はもう水俣湾で漁業が行われて、魚の販売もされている。
    https://nora-yokohama.org/reading/?p=3863
    でもそれは、水俣病に関わる葛藤がなくなったということではない。
    かつて流された水銀は今も海底に残されていて、大地震や護岸の老朽化をきっかけに新しい水俣病患者が増える可能性もある。
    https://dot.asahi.com/wa/2016052000053.html?page=1

    西日本新聞の2020年4月30日の公式確認64年 水俣病は終わっていないという社説が、水俣病という公害が終わったとは簡単に言えない事情を簡潔にまとめている。
    https://www.nishinippon.co.jp/item/n/604766/

    水俣病はあまりに政治的、社会的な意味を持たされてしまった。そのことが患者の人生を阻んできた。

    https://www.soshisha.org/jp/archives/5837
    読後に相思社のブログを読んだら、韓国で2017年頃に起きた河川の水銀汚染についてのエントリーを見つけた。
    もう対処済みで、被害もそんなにないと思うけど、今どきこんなことがあるんだな。
    ブログに貼り付けられているニュース動画を見てみたけど、短い時間で水俣病についてよくまとめられていた。

  • 少しずつ読もうと思っていたのに、読み始めたら苦しいけれど止まらなくなり一気に読了。これは、2010年代〜の話なのである。被爆者である祖母や母の事を思いながら、寄り添うことの意味を考える。

  • 被害者が「今」語ることに耳を傾ける。矛盾の中で被害者とともに身悶えする。時代は変わり直面する課題も変わったように見えるが、大切なことは変わらない。著者の姿勢や眼差しは、間違いなく石牟礼道子の直系だ。石牟礼が口寄せの巫女の様な「聖性」を感じさせるのに対し、著者には、何物にも寄り添い苦しみを共にする菩薩のような「聖性」を感じる。水俣病とそれをめぐる動きに詳しいわけではないが、水俣の今を知るための必読書ではないだろうか。

  • 第61回アワヒニビブリオバトル「運動」で紹介された本です。
    チャンプ本
    2020.02.04

  • この国は、なんでこんな地獄のような国なんだろう。
    たくさんのひとを病気にして地獄の苦しみを与えておきながら、患者と支援者以外の他の人々は見ないふり、知らんぷりを続けてきた鬼だ。
    そして、俺も鬼の一人だ

  • 2019.06―読了

  • 数ある水俣関連の本の中で、啓蒙と救いを真から提供してくれる本だった。冒頭の自らの懺悔的なエピソードには驚いたし、隠れた水俣病の規模の大きさという現実に打ちのめされた。ただ、その著者本人が毎日苦しみに寄り添い、記録し語ることで、ひとりひとり、心が救われていく。その地道な活動に心揺らされた。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/763107

  • 519-N
    閲覧

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1983年熊本県水俣市生まれ。2008年一般財団法人水俣病センター相思社職員になり、水俣病患者相談の窓口、水俣茶やりんごの販売を担当。同法人の機関紙『ごんずい』に「患者相談雑感」を連載する。2014年から相思社理事、翌年から常務理事。2017年から水俣病患者連合事務局長を兼任。本書は初の単著。

「2018年 『【特装版】みな、やっとの思いで坂をのぼる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

永野三智の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×