音楽とことば あの人はどうやって歌詞を書いているのか

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784906700899

作品紹介・あらすじ

こうして、書いている。そうやって、悩んでる。作詞にまつわるロング・インタヴュー13編。

感想・レビュー・書評

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  • 13人のアーティストのインタビュー集 野口路加挿絵
    フジファブリック志村さんの生前の貴重なインタビューが掲載されていると知り、図書館にあったのでお取り寄せ
    曽我部恵一、安藤裕子、小西康陽、いしわたり淳治、小山田圭吾(コーネリアス)、坂本慎太郎(ゆらゆら帝国)、西井鏡悟、木村カエラ、向井秀徳(ZAZEN BOYZ)、志村正彦(フジファブリック)、レオ今井、中納良恵(エゴラッピン)、原田郁子(クラムボン)
    『饒舌に笑いながら、ときに天井から聞こえる秒針の音に気づかされるような沈黙の中で思案しながら、言葉を選び、実際に「ゼロ」を脱出した当事者にしか語りえない本音や経験というもの』をまとめて、それぞれの『他者多様』の作詞という表現に対する価値観に触れることができる

    レンタルレコードの時代は夢中になって歌詞カードと解説を読んでいたのが懐かしい
    ライブが映像と合わせて美しかったスーパーカーのSTROBOLIGHTSがループしたり、ピチカートファイブは確かに小西さん歌ってないや、オザケンとの意外な関係性、木村カエラさんの芯がブレない感じってそういうことなのかと勝手に納得したり、向井さんて男湯的なかっこよさがあるなあ、変なストイックすぎるところとか読書家(学生時代図書館の本1日3冊ですって!)だったとか好きな娘が拾ってくれたシャーペンを大事にしているエピソードを持つ志村さんにきゅんとなったり(茜色の夕陽はやはり名曲)、お母様が絵本の読み聞かせ会されてたり団地のお楽しみ会上演子供劇台本を原田さんご自身が書いてたりする原田さん素敵すぎ!クラムボンの絵本みたいって思ってたけどそういうところからきているのかなどいろいろ連想して楽しかった
    (私のレベルと比較するのはおこがましいが)三十一の短歌作りに生みの苦しみがあるのに、こんなにも素晴らしい作詞を生み出すアーティスト皆さんへ畏敬の念

    覚書
    優しさと残酷さみたいものを同時に表現している歌詞にこそ、俺はリアリティを感じるし、それが音楽をやっていくうえでの重要なテーマ(曽我部恵一)
    歌詞に煮詰まったときは、目隠しをされても、好きな生地が探せるようになるまで待つ(安藤裕子)
    僕にとっての作曲というのは、曲と歌詞が同時なんですよ。さらに言えば、アレンジも同時。全部がかたまりで降りてくる。だから僕には「朝、目覚めて」と始まる曲が異常に多いんです。(小西康陽)
    曲や演奏に繰り返しが多いなら、その繰り返しの中で、だんだん意味が深まっていく歌詞がいいなっていう、発送の転換があった。(略)足し算の数式にしてみたらいいんじゃないかということを思いついた(いしわたり淳治)
    妄想がバーッツと広がっているときは、言葉が次々に「外に出してくれ!」って言ってくる。あとでその曲を書いたときのことを思い出そうとしても、頭の二行くらいしかおぼえていないぐらい。(木村カエラ)
    孤独感を払拭したいという気持ちから、自分というものをアピールし続けているとは思うんですけど、どうしても最後には、諸行無常が待っていると。(向井秀徳)
    僕は多少の無理や努力をしてでも、アーティストとしての自分と、ふだんの自分というのをシンクロさせたい(志村正彦)
    連想ゲームごっこをしてみるとよくわかるんやけど、「白い」から始めてみて、そのとき自分がめっちゃ落ちてたりすると、凄い黒いところまで落ちていく(中納良恵)
    歌詞を書いているときって、8割がたはボーっとしてるのね。いったん、わざと全体をボカした状態にしておく。そうすると、あるとき、ひゅっ、ってピントがあう瞬間がくる(原田郁子)

  •  日本のロック/ポップ・アーティスト13人に、歌詞作りの舞台裏を聞いたインタビュー集。8人のライターが、それぞれ自分の好きなアーティストにインタビューしている。
     インタビューイとして登場するアーティストは、以下のとおり。

    安藤裕子
    いしわたり淳治(ex.スーパーカー)
    小山田圭吾(コーネリアス)
    木村カエラ
    小西康陽
    坂本慎太郎(ゆらゆら帝国)
    志村正彦(フジファブリック)
    曽我部恵一
    中納良恵(エゴラッピン)
    西井鏡悟(スタン)
    原田郁子(クラムボン)
    向井秀徳(ZAZEN BOYS)
    レオ今井

     好きなアーティストのインタビューだけ拾い読みしようと思ったのだが、けっきょく全部読んでしまった。

     インタビューの質が総じて高く、各アーティストの表現者としての「核」にまで踏み込んでいる印象。登場するうちの何人かが好きなら、読んで損はないと思う。

     私がとくに面白く読んだのは、曽我部恵一、向井秀徳、それに昨年末に急逝してしまった志村正彦へのインタビュー。
     
     あと、木村カエラへのインタビューは、ヒット曲「リルラ リルハ」の舞台裏を明かしたくだりがドラマティックで、目が釘付けになった。
     あの曲の歌詞は、カエラの自殺してしまった友達に向けて書いたものなのだという。「もしその子に話しかけることができて、その子が死んでしまうのを防げるとしたら、おそらくこういう言葉をかけてるなって思った言葉を書いた」のだと……。

     そこまでなら、「よくある感動話」で終わる。
     だがカエラは、“自殺した友人に向けて作った曲がヒットしてスターになったこと”について、戸惑いと罪悪感めいた感情を抱いていると語る。そして、その後は歌詞を作るたびに、「もしこの言葉を使ったら、聴いた人はどう思うだろう?」と、自分の歌が誰かを傷つける可能性をつねに考えるようになったという。

    《凄くギリギリで生きている人たちにとって、この言葉はきついかもしれない、って思った言葉は絶対に使わないですね。スタッフには「そんなことないよ。気にしすぎだよ」って言われても、絶対に使わない。》

     このインタビューを読んで、私の中で木村カエラの好感度が大幅アップした。

     その他、印象に残った発言をいくつかピックアップ。

    《誰かほかの人が言いそうなことをわざわざ言う必要はないと思うし、自分にしか言えない真実を、自分の言葉で歌うというのが歌詞なり歌の在り方だと思うのね(曽我部恵一)》

    《昔はこんなことまで歌になってなかったよなぁ……みたいに思える曲が、どんどんリリースされてるじゃない? そういう曲を聴くと、歌詞は確実にサウンドよりも先に行っているなって思うしね。あと、逆に、僕が古い歌謡曲なんかを大好きでよく聴くのは、「こういうことが歌になっちゃう時代があったんだな」っていう面白さがあるからなんだよね(小西康陽)》

    《僕は、(セックス・)ピストルズはロック史上でも珍しい「いっこも嘘がなかったバンド」だと思ってるんですよ。だからすぐ解散したんですよね。つまり、続けるには嘘が必要なんですよ(西井鏡悟)》

    《愛してるってことが歌えないからこそ、(自分は)一流になれないというか。だって、それを歌えるアーティスト、たとえばミスチルみたいなアーティストというのは、やっぱりそのぐらい自分に自信があるんでしょうし、いろんな愛を歌うことで、世間をハートマークだらけにしていく自信があるってことじゃないですか。でも、残念ながら、僕にはそれがない(志村正彦)》

    《言葉をピシッと的の真ん中に当てることの難しさはいつも痛感しているけれど、その的の周りをクルクル回りながら、みんなで真ん中の部分を感じ取ることはできると思うんだよね(原田郁子)》

     本としての作りもなかなかオシャレだ。
     たとえば、各インタビューの扉ページにはアーティストのポートレイトが載っているが、それはインタビュー時に撮影した写真を、イラストレーターがわざわざ絵に起こしたものなのだ。このへん、なかなか凝っていてよい。

     ただ、一点だけ不快感を覚えたのは、一部のライターが、相手のアーティストが敬語を使っているにもかかわらず、「~だよね」などというぞんざいな言葉遣いをしているところ。これは失礼というか、ライターとしてのマナー違反だと思う。
     筒井康隆が作った「インタヴューアー十ヶ条」の中に、「インタヴューイの地位は教養、学歴に関係なく、常にインタヴューアーより上」という一節がある。まったくそのとおりで、たとえ相手のアーティストが自分より年下だったとしても、インタビューでは敬語を使うべきなのである。
     私は、どんなに年下にインタビューする場合でも、必ず敬語を使っている。

     ま、それはそれとして……。

  • 音楽の楽しみ方、言葉の楽しみ方、どちらから見ても、歌詞は すごく楽しい。何名かのアーティストの感情を歌詞へ載せるプロセスを知れる

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