音楽とことば あの人はどうやって歌詞を書いているのか
- スペースシャワーネットワーク (2013年6月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784906700899
作品紹介・あらすじ
こうして、書いている。そうやって、悩んでる。作詞にまつわるロング・インタヴュー13編。
感想・レビュー・書評
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日本のロック/ポップ・アーティスト13人に、歌詞作りの舞台裏を聞いたインタビュー集。8人のライターが、それぞれ自分の好きなアーティストにインタビューしている。
インタビューイとして登場するアーティストは、以下のとおり。
安藤裕子
いしわたり淳治(ex.スーパーカー)
小山田圭吾(コーネリアス)
木村カエラ
小西康陽
坂本慎太郎(ゆらゆら帝国)
志村正彦(フジファブリック)
曽我部恵一
中納良恵(エゴラッピン)
西井鏡悟(スタン)
原田郁子(クラムボン)
向井秀徳(ZAZEN BOYS)
レオ今井
好きなアーティストのインタビューだけ拾い読みしようと思ったのだが、けっきょく全部読んでしまった。
インタビューの質が総じて高く、各アーティストの表現者としての「核」にまで踏み込んでいる印象。登場するうちの何人かが好きなら、読んで損はないと思う。
私がとくに面白く読んだのは、曽我部恵一、向井秀徳、それに昨年末に急逝してしまった志村正彦へのインタビュー。
あと、木村カエラへのインタビューは、ヒット曲「リルラ リルハ」の舞台裏を明かしたくだりがドラマティックで、目が釘付けになった。
あの曲の歌詞は、カエラの自殺してしまった友達に向けて書いたものなのだという。「もしその子に話しかけることができて、その子が死んでしまうのを防げるとしたら、おそらくこういう言葉をかけてるなって思った言葉を書いた」のだと……。
そこまでなら、「よくある感動話」で終わる。
だがカエラは、“自殺した友人に向けて作った曲がヒットしてスターになったこと”について、戸惑いと罪悪感めいた感情を抱いていると語る。そして、その後は歌詞を作るたびに、「もしこの言葉を使ったら、聴いた人はどう思うだろう?」と、自分の歌が誰かを傷つける可能性をつねに考えるようになったという。
《凄くギリギリで生きている人たちにとって、この言葉はきついかもしれない、って思った言葉は絶対に使わないですね。スタッフには「そんなことないよ。気にしすぎだよ」って言われても、絶対に使わない。》
このインタビューを読んで、私の中で木村カエラの好感度が大幅アップした。
その他、印象に残った発言をいくつかピックアップ。
《誰かほかの人が言いそうなことをわざわざ言う必要はないと思うし、自分にしか言えない真実を、自分の言葉で歌うというのが歌詞なり歌の在り方だと思うのね(曽我部恵一)》
《昔はこんなことまで歌になってなかったよなぁ……みたいに思える曲が、どんどんリリースされてるじゃない? そういう曲を聴くと、歌詞は確実にサウンドよりも先に行っているなって思うしね。あと、逆に、僕が古い歌謡曲なんかを大好きでよく聴くのは、「こういうことが歌になっちゃう時代があったんだな」っていう面白さがあるからなんだよね(小西康陽)》
《僕は、(セックス・)ピストルズはロック史上でも珍しい「いっこも嘘がなかったバンド」だと思ってるんですよ。だからすぐ解散したんですよね。つまり、続けるには嘘が必要なんですよ(西井鏡悟)》
《愛してるってことが歌えないからこそ、(自分は)一流になれないというか。だって、それを歌えるアーティスト、たとえばミスチルみたいなアーティストというのは、やっぱりそのぐらい自分に自信があるんでしょうし、いろんな愛を歌うことで、世間をハートマークだらけにしていく自信があるってことじゃないですか。でも、残念ながら、僕にはそれがない(志村正彦)》
《言葉をピシッと的の真ん中に当てることの難しさはいつも痛感しているけれど、その的の周りをクルクル回りながら、みんなで真ん中の部分を感じ取ることはできると思うんだよね(原田郁子)》
本としての作りもなかなかオシャレだ。
たとえば、各インタビューの扉ページにはアーティストのポートレイトが載っているが、それはインタビュー時に撮影した写真を、イラストレーターがわざわざ絵に起こしたものなのだ。このへん、なかなか凝っていてよい。
ただ、一点だけ不快感を覚えたのは、一部のライターが、相手のアーティストが敬語を使っているにもかかわらず、「~だよね」などというぞんざいな言葉遣いをしているところ。これは失礼というか、ライターとしてのマナー違反だと思う。
筒井康隆が作った「インタヴューアー十ヶ条」の中に、「インタヴューイの地位は教養、学歴に関係なく、常にインタヴューアーより上」という一節がある。まったくそのとおりで、たとえ相手のアーティストが自分より年下だったとしても、インタビューでは敬語を使うべきなのである。
私は、どんなに年下にインタビューする場合でも、必ず敬語を使っている。
ま、それはそれとして……。 -
音楽の楽しみ方、言葉の楽しみ方、どちらから見ても、歌詞は すごく楽しい。何名かのアーティストの感情を歌詞へ載せるプロセスを知れる