失われた名前 サルとともに生きた少女の真実の物語

  • 駒草出版
4.12
  • (19)
  • (30)
  • (4)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 229
感想 : 32
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905447221

作品紹介・あらすじ

誘拐、サルたちとの生活、売春宿、そしてストリート・チルドレン…。数奇で過酷な運命をへて幸せをつかんだ、ある少女の真実の物語。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • この間読んだ小川糸さんのエッセイに出てきたので、気になって読んでみた。
    なんて辛いんだろう。
    こんな事があるなんて。
    何度もチャンスはあるのにその度に意図せず辛い環境に身を置く事になってしまう。
    でも彼女の凄いところは絶対に絶望しなかったところだろうか。
    その度に手を差し伸べてくれる人がいたからだろうか。
    本当に強い。
    これが物語だったらと何度思っただろう。
    それ位に衝撃的な本だった。
    後編?があるのかな。調べてみよう。

  • サルに育てられた少女のノンフィクション。「これは本当にあった事?!」と都度都度驚くほど、壮大で信じられないような話の数々。
    コロンビアの家の近くで誰かに攫われ、ジャングルに置き去りにされサルと共に育ち、その後人間界に戻り色々な場所を転々とするもひどい仕打ちばかり受け、そしてようやく家族として大事にしてくれ人間らしく暮らせる場所を見つけるまで。

    コロンビアの子供や人々を取り巻く想像を絶する状況や、人間の冷徹さ、サルの感情豊かで慈悲深い様、など読んでいて胸に迫ってくるものがあった。
    これは、環境や野生動物などに対する人間の仕打ちに関して、「サルの視点」で書かれた物凄く貴重なものだと思う(少女はサルと共に日々暮らし、コミュニケーションしあい、愛情を感じ合っていたので「サルの視点」と言っていいと思う)。
    自分と家族の危険も顧みず、人間界で彼女を救い出してくれたマルハはとても素晴らしい。あまりにもひどいことばかり起こる少女にも救いがあってよかった。

    これは前編らしいので、後編も是非読んでみたいけどまだ出ていない模様。

  • 彼らの感情はとても繊細で複雑だった。そのニュアンス一つひとつに、私は人間の感情と同じものを感じた。謙虚や高慢、降伏や防御、嫉妬や賞賛、怒りや喜びといった、あらゆる感情を持ち合わせていた。彼らとの関わり方を会得すると、寂しいのか、孤独なのか、愛情に飢えていて抱きしめて欲しいのか、それとも挑発しているのか、干渉したいのか、彼らの気持ちが手にとるようにわかった。
    言葉の多様性にも、いつも驚かされた。甲高い警告の叫びや、苛立ちや喜びの表現、フルートのような響きをもつ日々の会話の優しい音色‥‥。
    ごくたまに単独で行動することもあったが、サルたちは群れの秩序の中で生きる社会的な動物だった。私はただ、彼らの仲間の一員でいられることが嬉しかつた。私はここに属するのだ、と感じていた。(69p)

    霊長類からどうやってヒトは人になったのか。という研究は数多くある。しかし、霊長類とヒトはその幸福の度合いにおいて、どれほどの「差」があるのか。という学問はない。

    コロンビアの環境が生んだ特異な経験によって、この少女は5才から10才の頃までジャングルのサルたちに育てられ、やがて売春宿に売られ、ストリートチルドレンとして生き、マフィアのメイドから逃げ出してやっと人並の生活を手に入れる。その間に車ごと崖から落ちたり、爆発死から寸前で生き残り、マフィアの追求から奇跡的に逃げおおせる。映画の題材には十二分になり得るけれども、私の興味はやはり前半のサルとの生活である。

    思い出すのは、ネアンデルタール人と一緒に育ったクロマニヨン人のエイラを描いた小説である。あのネアンデルタール人は、見事な社会生活と信仰と薬処方の技術、狩の技術を持っていた。それと、マリーナが語るサルたちとの距離があまりにもないことに、驚きを禁じ得なかった。そして、母親への憧れから彼女がヒトの世界に戻った途端にヒトという動物は彼女をとんでもない境遇に陥れる。売春娘として育てる。ヒトがヒトを殺す世界生きる。その理由は大きく言えば、カネである。カネのために、ヒトは動物としての最低限度の思いやりさえ無くなるのである。

    しかしながら、そんな彼女を助けるのもカネの力ではなく、ヒトなのだから、人間はむつかしい。

    2014年5月1日読了

  • ここまでドラマチックなストーリーがあるだろうか。

    およそ信じがたいが、幼少期に誘拐されてジャングルに置き去りにされ、そこでサルに育てられて命をつなぎ、その後人間社会に戻って家族を持ち、幸せに暮らす女性の自伝だ。
    といっても、昨今注目のゴーストライター事情から(!)自分自身の覚書のためにも付記しておくと、著者とはあるが文章そのものをご本人が書いたわけではなく、聞き取りと裏付け取材をした著者の娘ヴァネッサとライターの三人の共作であり、そのあたりは、あとがきや執筆協力者としてのリストでも明記されている。

    ただその内容は、想像をはるかに超えるエキサイティングさで目が離せず、ほぼ一気読み。
    ライターのリン・バレット=リー氏はもともとは小説家だったようで、その文章力もこのノンフィクションをより一層魅力的なものにしている。翻訳もとても読みやすい。

    おそらく、人間界を離れた年齢が絶妙だったのだろう。発達の面から考えても、これ以上幼ければ、のちに人間らしい暮らしを取り戻すのは不可能であったろうし、これ以上年齢が上だったなら、サルとともに生きることはできなかったかもしれない。
    加えて、ご本人が、もともと情熱にあふれた非常に頭の良い人物であったことも大きい。延々と続く過酷な環境の中、サル社会からの脱出、人間社会で生き抜く日々、どれをとっても生来の著者のタフさと知性がなければ果たせなかった事実と想像する。

    読み終えて、現在に至るまでの取り戻しの日々がない!と慌てたが、どうやら続編に備えて、ネタは温められているらしい。
    続編が本当に楽しみな一作である。

  • 小さいころ「シートン動物記」が好きだったのは、あたかも自分が動物になったかのような錯覚を覚えるほどリアルな動物世界だったから。
    しかし、この本を読むと「シートン」ですら、やはり人間(=外部)からの観察記だったのだと気づく。なんといっても、主人公は幼児期にジャングルに置き去りにされ、その後数年サルの群れとともに生き、言葉を棄ててサルとして生きたのだから(実話!)。
    これだけでも一冊の本になりそうだが、ここはあくまで本の前半。後半はサルであることを自らやめ、また戻った人間界での過酷なサバイバル記。
    5歳前後で誘拐され、家族から引き離された彼女が「母」なるものを追い求める姿が切ない。人は、やっぱり慈しんでくれる存在が必要なのだと思う。
    それにしても、ジャングルもコロンビアという国も、危険度では変わらない!むしろコロンビアの方が恐ろしい…。中学生くらいの子に勧めたい。一気に読める。

  • ​​​​​​小川糸さんの本に書いてあって、

    感動した旨。
    図書館にあったので、借りてみました。

    子供の頃、親とはぐれて狼に育てられた、、、とか
    猿に育てられた、、、とか。
    今までも、何例もありますが、

    この主人公マリーナは、
    4〜5歳ごろ、子供を誘拐する組織に誘拐され、年齢なのかジャングルに置き去りにされた少女。


    その彼女の娘が母親の物語を残さなければ、と決心し実際に現地まで赴き、取材を敢行し、作り上げたノンフィクション。

    物語を読むとわかるのだが、ナキガオオマキザルの群に、付かず離れずして生き延びるが、ある日人間を垣間見て、人間の里に降りてゆくのだが。。。


    これでもかというほど、彼女には暴力などの危機に晒され続けるのです。


    人間と再び生活を始めるのが11〜2歳。
    なので、人間社会に戻れた。
    多くの例では、動物の社会に長くいすぎて、人間社会への対応ができなかった例がほとんどだ。

    実に克明で、ジャングルの中の猿との生活の箇所は秀逸。機会があれば読んで欲しい1冊です。

  • あまりにも壮絶で、言葉が出てこない。
    途中からあまりの救いのなさにこのあとどうなってしまうのか、と思うと読むことをやめられなかった。

    ジャングルで数年を過ごす、という経験は稀有なのかもしれないけれど、そもそもこうして活字にできるような人生を歩めなかった、同じ境遇の人たちもたくさんいるように思う…。道徳心の芽生え、初めて人から贈り物を受け取る喜びなど、ものすごく濃密な、人生の悲喜こもごもが溢れていた。

  • 「ホントに本当の話なの!?」
    と思わず聞きたくなっちゃう奇想天外な話。

    やっぱり人との出逢いというのはすごく大事。
    彼女がちゃんとした人と出逢えたのは、彼女が賢くて力強くエネルギーに満ち溢れていたからだと思う。
    人との出逢いも、その人の魅力で引き寄せられるものだと思う。

    自分のことを愛してくれる人がそばにいるということは、人を人として成長させる上で最も大切なことだ。

  • h10-図書館ー2022/12/24 期限1/14 読了1/8 返却1/9

  • 5才くらいから10才くらいまでサルと暮らし、その後人間社会に戻って家庭を持って幸せに暮らしている女性が娘と一緒に書いた本があると聞き、早速読んでみた。サルだったときに世界を、人間を、どう見て、どう感じてたのかが知りたかったのである。

    最初の100ページはサル時代の話だ。5才の女の子が誘拐されジャングルに捨てられ、サルに受け入れられてサルたちと暮らすのだ。その暮らしぶりは興味深い。しかし世界は言葉でできている。サルが見る世界も、人間の頭で理解してその言葉で読み物にしてしまうと、ごく普通の人間の見る世界と同じになってしまうのだ。まして当人のマリーナは50年以上前の記憶をほりおこしながら語る。それは仕方のないことだ。記憶は上書きされるものだ。人語も話せない子どもが人間のような感情と思考回路で理解し感じたかのように書かれている。当時の見方ではなく、後天的に脳内で解釈されてストーリーがつくられているように感じてしまった。つまりはリアルに思えない。

    しかしマリーナの波乱万丈の人生はここから始まる。ハンターに捕まり、街の売春宿に連れて行かれる。そこを脱走して路上生活するストリートチルドレンへ。そこを抜け出しギャングの家へ。またそこから逃げ出し修道院へ。さらに脱出して、新しい家族と出会い、自分の名前を生まれて初めて自分で付ける。それがマリーナ、14才(くらい)の時。

    ジャングルというのは危険も多いが、おおらかで恵みに溢れている。毎日働かないと生きていけない現代の人間社会がバカらしいほどだ。そして危険という意味でもジャングルのルールがわかればそれほど怖くない。しかし人間社会の人間は時に攻撃的で歪んだ人も多く怖い。100ページ以降でマリーナは嫌な思いを沢山する。彼女の理想はジャングルでのサルたちとの穏やかで温かい家族との生活なのだ。ジャングル育ちだから束縛を嫌うところはあるけれど、その暮らしが嫌なら脱走する。困難にぶつかっても逃げちゃいけないと根拠なく言いたがる現代社会とは違い、脱走して次のチャンスをつかむ積極的な若さとワイルドな逞しさは嬉しくなるくらい。そして逃げるだけじゃなく何より次のチャンスを自ら掴みに行くことが大事なのだ。

    あとがきによると、続編も準備中らしいが、今の彼女は2人の娘と5人の孫がいてロンドンに住んでいる。波乱万丈の前半生だけで十分満足。

全32件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1950年頃、南米で生まれる。正確な出生地や誕生年は不明。のちにイギリスに移住、1978年に結婚。二人の娘と三人の孫に恵まれる。イングランド北部ブラッドフォード在住

「2013年 『失われた名前』 で使われていた紹介文から引用しています。」

マリーナ・チャップマンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×