懐かしい未来 ラダックから学ぶ (懐かしい未来の本)

制作 : 「懐かしい未来」翻訳委員会 
  • 懐かしい未来の本
4.48
  • (15)
  • (8)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 148
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905317005

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 人の「幸福」とは何なのかを、
    ラダックで起きた事実に基づいて書き記した素晴らしい本です。

    貨幣経済に飲み込まれず、地域の人々と強く結び付き、
    喜びや豊かさを分かち合っていたラダックの人々が、
    グローバル化の波により資本主義経済に飲み込まれ
    人々の絆がバラバラになっていく姿に、
    現在の日本社会で生きている自分自身が感じていた
    疑問や寂しさを重ね合わせた。

    現在のような行き過ぎた拝金主義や経済至上主義は
    人々の「幸福」を蝕む最大の原因であることをこの本を通して
    感じることができる。

    経済発展による社会の進歩はもちろんいい面もある。
    しかしその「経済のしくみ」から沸き上がる、
    人間の底なしの欲望はコントロール出来ていないし、
    このままのしくみではコントロールすることは難しいだろう。

    ただ、ラダックの人々がその事に気づき、
    どのようにその「しくみ」と向き合っていきているかは、
    この日本で生きていく上でも、参考になると思う。

    「幸せ」になりたい!
    でも「幸せ」とはどうゆうことなのか?

    そんな疑問やこれからの「生き方」を
    改めて考えさせられたとてもいい本でした。

  • 長い間ラダックは近代化をまぬがれ、自給自足の生活を守ることができていた。仏教が生活に深く結びつき、自然への畏怖を忘れず倹約を美徳とする生活がながらく続いていた。ラダックにいる誰もがそれを幸福と感じることができていた。インド政府もこの地域の自然、文化、風習が壊されることがないように保護していた。
    しかし、一九七四年以降、インド政府がラダックを観光化のために解放しはじめた。
    その途端、わずか数十年で、状況は一変する。資本が入り、開発が進み、近代の文化・文明が容赦なくなだれ込む。すぐに若者は自分たちの文化が「遅れている」と認識し、欲望に駆られて村を離れ、「進んでいる」街へ働きに出る。農村共同体は粉々になり、街の人たちはむき出しの競争原理に晒される。人と人との連帯は急速に失われていく。そして粗悪な加工食品を口にすることで、ぶくぶくと太りはじめ、これまでなかったような奇病が流行る。ラダックの自然環境、それに即したこれまでの文化などまったく知らない為政者が西欧モデルの教育を施すが、それはラダックの自然環境を無視しているため、地産の資源をあつかってものづくりをすることを教えるものではない。教わったことを実践しようとすると、そのための資源は圏外の近代化された環境から持ち込まなければならない。
    こうなるまでにたったの十年ほどしかかかっていないという事実が、得体のしれない恐ろしさを覚えさせる。たった十年で人は自分の足場を奪われてしまう。そして無条件に人びとから足場を奪う威力をもっているのが「近代」という世界。私たちは近代化というこの変化の前後を経験しているのではなく、すでに変化後の世界を生きている。変化前の世界を知らずに、この変化後の世界だけが唯一の世界の価値観だと思って変化前の世界を「遅れている」と蔑視する。
    ラダックの「過酷な生活」が絶対的な善であるとも思えない。それは自分が近代の世界を生きているから。だからラダック式に戻れと安易に叫びたいわけでもなく、かといって近代を捨てることもできず、かといって近代をこれ以上は好きになることもできず、なんとも悩ましい状態が続く。
    読むたびに、スタート地点に戻され、その悩ましい状態から思考を再スタートすることしかできない。


    【#ブックカバーチャレンジ Day5

  • 大学1年のときに出会った本。
    発展って、グローバルってなんだろうって思った。

  • 戦後から現在にかけて日本でも起きていること。以下抜粋

    生きていくためにお金が必要になったラダックの人びとが、国際金融市場のエリートの支配下に置かれているということである。土地に頼っていたころは、自分たち自身が支配者であった。はじめ人びとは、新しい経済が依存を生み出すということに気づいていなかった。お金は便利なものとしか映らなかった。お金は遠方の贅沢品をもたらし、昔からよいものとされてきたため、増えることは無条件で進歩だと思われた。175P

    今日では、教育はまったく別のものになってしまった。教育は、西洋化、都市化された環境に適した視野の狭い特殊な子どもにしつけ、自分の文化や自然から隔離してしまう。ラダックでは、この過程に特に目を見張らせるものがある。子どもたちが自分の居場所を見極められないようにしている近代教育は、ほとんど目隠しのような働きをしている。子どもたちが学校を卒業するときには、自らの持てる資源の活用はできなくなっているし、自分が社会で果たすべき役割を果たせなくなっている。187P

    相互扶助が消え、それに代わって自分たちとは疎遠だった権力への依存が進むにつれ、人びとは自分たちの生活に係わる決断に無力感を抱きはじめている。あらゆる面に消極性、無関心が浸透しはじめている。人びとが個人の責任を放棄しているのである。204P

    社交的でたくましかったラダックの女性たちが、自己を確立することもなく、容姿にとてもこだわる新しい世代の女性に変わっていくのを、過去何年にもわたって私は見てきた。211P

  • チベット地域に住んでいた時の風景を思い出し、泣きながら読んだ本だった。

    「文化を崩壊へと導いていく圧力は数多く、その形はさまざまである。だがそういった圧力の中で、もっとも大きな問題は、進行する開発の真っただ中にいるために、広い視野から何が自分たちに起きているのかという全体像を見ようとせず、または見ることができなくなつてしまっているというつ事実である。」

    全体を見えないのは、人類の宿命であろうか。

  • 昨年「幸せの経済学」というラダックを舞台としたドキュメンタリーを観てこの本を買ってからツンドクしていたが、ようやくこのタイミングで読了。

    「ヒトのシアワセ」ってどういうことなのか?が一層深く考える。

    ラダックの30年間を通してラダックの伝統的な文化と生活が西洋を中心としたグローバル経済によって変化してきた様子が生々しく語られており、これからどうすれば、グローバル経済が提唱する自由貿易の地球村から、真の持続可能な社会を実現していけば良いかを示唆している。

  • インドのチベットよりの「辺境」の地、ラダックが近代化の波に飲まれる前から現地入りし、その激動を目の当たりにした言語人類学者の本。

    (西洋文化は)誰もが自分たちと同じであるか、または同じようになりたいと望んでいると思い込んでいる(日本も西洋文化側なんだろな)

    【Before】
    喧嘩は稀。自然発生的に仲裁者が出てくる。
    不貞よりも激高のほうが恥ずかしい
    どの農民も完全に近い自給自足をしているため、自立性が高く、共同体としての意思決定をする必要は殆どない。(そりゃイザコザおきないわ)
    顔が見えるつながり→ごまかしできない
    日常的に関係が保てる共同体の規模が、柔軟性を許容している
    一妻多夫制がメイン。一夫多妻制も単婚もみられる。結婚できない人は僧になる。婚姻制度と僧院制が補完している。
    土地の細分化、人口の過剰な増大を防いでいる
    BE動詞が20以上に変化する
    断定を避ける
    彼らは私たちのいうプライドというものを、全く持っていないように見える。これは、彼らが自尊心を持っていないと言うことではない。
    どんな状況でも幸福を感じる力がある
    相互扶助(→権力依存)
    世界の中心は自分たちのいるところ

    【After】
    散財する観光客を見て、急に自分たちが貧しく見える
    デスクワークは仕事しているように見えない
    現代人の「ストレス」を感じたことがなく、理解出来ない。(説明しようとすると「つまり、仕事していないからいらいらするということ?」)
    貨幣経済が浸透→世界経済の一部に
    失業の誕生
    (相互扶助→)権力依存
    権力依存による無力感
    今や自分と比較するのは、謳うのは自分よりうまいかもしれないが、踊るのはそれほどでもない実在の隣人・友人ではなくなってしまった。(ラジオから流れてくるスタート比べる)
    一緒に曲を作ったり踊ったりする代わりに、最高のものを受け身になって聞くことによって、共同体としての結びつきも薄れてしまう
    世界の中心地はボリウッド、もしくは欧米。自分たちのいるところは辺境

    【その他】
    人口の増加に目を向けずに乳幼児死亡率を下げることは、長期的に住民の利益にならない(まさに。とりあえずアフリカいって人命救助って言って助けやすい赤ちゃん助けて、成人後には仕事なく飢餓や紛争してたりするわけで。。。)

  • すごい本です。
    まさに論文!
    衝撃的です。

全8件中 1 - 8件を表示

ヘレナ・ノーバーグ=ホッジの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ジェームス W....
レイチェル・L....
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×