ショウコの微笑 (新しい韓国の文学 19)

  • CUON
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855812

作品紹介・あらすじ

今注目の作家チェ・ウニョンの短編集第1作、待望の邦訳

高校の文化交流で日本から韓国へやってきたショウコは、私の家に1週間滞在した。帰国後に送り続けられた彼女の手紙は、高校卒業間近にぷっつり途絶えてしまう。
約十年を経てショウコと再会した私は、彼女がつらい日々を過ごしていたと知る。
表題作のほか時代背景も舞台も異なる多彩な作品を収録。
いずれの作品の登場人物も哀しみ、苦しみを抱えながら他者と対話し、かかわることで、自らの人生に向き合おうとする。
時と場を越えて寄り添う7つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • よかった~

    地球っこさん、松子さん、aoi-soraさんとの涙活 第6弾。
    今回は地球っこさんが選書してくださいました。
    教えていただかなければ、自分では絶対選ばない一冊。

    海外物はあまり得意ではなく、最初は時間がかかったけれど、韓国の文化や時代背景がすごくでていて、自分の見方がすごく変わったように感じます。
    今の日本はすごく幸せなんだと。
    ちょっと 平和ボケ??

    解説にも書かれていたけれど、古さを感じさせない まさに純文学という感じがしました。
    そのぶん、すっきりしないところもあって。
    ちょっと読み返してみたいと思います。
    皆さんが読み終えたら、いろいろなことを聞いてみたい。
    よろしくお願いいたします。。

    • いるかさん
      みなさん おはようございます。
      稚内 最高気温18℃。
      涼しいです。
      明日の夜 戻ります。
      ありがとうございます。
      みなさん おはようございます。
      稚内 最高気温18℃。
      涼しいです。
      明日の夜 戻ります。
      ありがとうございます。
      2023/08/13
    • mei2catさん
      おはようございます!
      読みたい本登録させて頂きました。ありがとうございます✨
      おはようございます!
      読みたい本登録させて頂きました。ありがとうございます✨
      2023/09/04
    • いるかさん
      mei2catさん 
      コメント ありがとうございます。
      また感想 楽しみにしていますね~
      mei2catさん 
      コメント ありがとうございます。
      また感想 楽しみにしていますね~
      2023/09/04
  • チェ・ウニョンさんの文章は、飾らない言葉でとても丁寧に綴られていて、私の心に真っ直ぐ伝わってきた。
    そしてどの話も余白のような部分があり、その隙間に読者である自分の心を滑り込ませて、主人公たちと共に時の流れを感じ、感情の変化を体験できた気がする。
    それは少し苦しいけれど、一編一編を丁寧に読むことで、結末の余韻というご褒美が待っている。

    7つの短編と「作家の言葉」「作家と作品について」
    から構成されているが、あとがきの「作家の言葉」は短いながらも作者の思いが伝わって何度も読み返してしまった。

    最初は表題作
    「ショウコの微笑」
    高校生の文化交流で日本からやってきたショウコ。
    日本人の話で最初の一編ということもあって、とても印象に残るストーリーだった。
    人の感情をこんなにも微細に表現する文章に圧倒される。

    「シンチャオ、シンチャオ」
    この話が一番好き。
    ベトナム戦争にまつわる話で、それは過去のことなのに決して過ぎ去ってはいない。
    ラストの余韻が絶妙で、短いストーリーなのにいつまでも瞼の奥に残る。

    「オンニ、私の小さな、スネオンニ」
    実際の冤罪事件がモデルになっていて、とても苦しく悲しい。

    「ハンジとヨンジュ」
    人種差別やフェミニズムといった問題を扱っているが、全体的には淡いラブストーリーでしょうか。
    やっぱり日記というアイテムは最強だ。

    「彼方から響く歌声」
    舞台はロシアでポーランド人女性との交流。
    これも辛い話だが、読後はほわっと温かい。

    「ミカエラ」
    “女は年老いた人を見るたびに尊敬の念を抱いた。
    長く生きるということは、愛する人たちを見送った後も長い間、残されるということだから。”
    響く言葉がたくさんあって、いつまでも余韻が続く。

    「秘密」
    余命宣告をされたマルチャは、孫娘のチミンに手紙を書く。
    “どんな手紙も配達されないというその場所へ、マルチャはチミンに直接届けるその手紙を折りたたんで、胸に抱いた。”
    もう涙が止まらない……



    過去は消えない。
    けれど私達は生きなければならない。
    そんな今を生きる私達に、そっと寄り添ってくれる一冊だと思います。



    この本は、地球っこさん・いるかさん・松子さんとの【夏の会】で地球っこさん選書の一冊です。
    普段あまり読むことのない韓国文学で、とても新鮮でした。
    素敵な本をありがとう。
    また新しい世界が広がったことに感謝します!

    • aoi-soraさん
      まっちゃん、おはよう♪
      コメント欄がネタバレになっていて、ごめんね(^^ゞ
      焦らず自分のペースで読んでね
      どの話も全部いいから、是非ゆっくり...
      まっちゃん、おはよう♪
      コメント欄がネタバレになっていて、ごめんね(^^ゞ
      焦らず自分のペースで読んでね
      どの話も全部いいから、是非ゆっくり楽しんで下さい(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)⁠
      まっちゃんはどの話が好きなのか、楽しみにしてまーす♪
      2023/08/11
    • 地球っこさん
      aoiさん 松子ちゃん

      ごめんなさいっ!
      私がネタバレしちゃった。
      ほんと、ごめんね(ToT)
      aoiさん 松子ちゃん

      ごめんなさいっ!
      私がネタバレしちゃった。
      ほんと、ごめんね(ToT)
      2023/08/11
    • 松子さん
      えっ、ぜんぜんだよっ!
      みんなが感じた事、思った事を参考にしつつ
      私はどこが心に残るのかなぁって楽しんでます(^^)
      えっ、ぜんぜんだよっ!
      みんなが感じた事、思った事を参考にしつつ
      私はどこが心に残るのかなぁって楽しんでます(^^)
      2023/08/11
  • 記憶は薄れていくのに。
    それでも寂しくて、悲しくて。
    けれど優しくて。
    時が経つってそういうことなのかもしれない。

    哀しい記憶も振り返れば、幸せな時間だったと思える日がやってくる。
    逆に幸せな記憶を思い出すと、後悔が生まれることだってある。
    ふと思う。
    哀しさと幸せ、幸せと後悔……
    そういう相反する感情にはくっきりとした境界線なんてものはなくて、その二つは混じりあい絡み合いながら、ゆっくりゆっくり心の奥底に沈んでいくんじゃないかな、と。
    ただ曖昧に、混沌と。
    それが時の流れなのではないかな、と。

    「ハンジとヨンジュ」の時の流れが印象的だった。
    進路に迷った27歳のヨンジュは、フランスの修道院にボランティアとして長期滞在することを決めた。彼女は同じ修道院に来たハンジという名のケニアの青年に淡い恋心を寄せる。ヨンジュはハンジと出会ってから、ノートに彼との出来事を毎日綴っていた。

    “〈ハンジ〉と〈ヨンジュ〉は、今も私のノートの上にいる。
    あの頃の日記を読んでいくと、私たちが交わした笑顔と会話、夜の風景と夜気に漂う菩提樹の花の香りまで感じることができる。私に笑いかけるハンジの顔、ハンジが売店で買った底の薄いサンダル、二人で分け合って飲んだコーラと、脚の一本ぐらついてすぐ後ろに倒れてしまう簡易ベンチが、全部鮮やかによみがえってくる。なのに、それらは何もかもなかったことのように光を失う。ハンジと過ごした時間を細部まで一つ残らず覚えているのに、実感はだんだん薄れていく。”
            「ハンジとヨンジュ」p188

    ヨンジュが最後、ハンジとの記憶にどう決着をつけたのか……
    私は現代を舞台にした恋愛小説はあまり好きじゃないのだけれど、この物語には、とくにこの結末のエピソードには心が震えた。たぶん、きっと、これからも忘れられない。


    “私は冷たい砂の中に両手をうずめ、黒く光る海を見る。
    宇宙の果てのようだ。
    ショウコは、海辺に立つと、この世の果てに立っているような気がすると言っていた。”
              「ショウコの微笑」p9

    “氷河に反射する光を見ながら、あなたのことを考えてる。
    百日間の白夜。
    光は人を酔わせると同時に覚醒させる。ここにいると、目を開けたままでも夢を見られるんだ。”
            「ハンジとヨンジュ」p145

    この2編の書き出しの文章に一目惚れして、チェ・ウニョンさんは好きな感じの作者さんだと直感した。
    短編集は苦手な方も多いように感じるけれど、私はこの短編集はとても素晴らしかったと思う。短編だからこその物語の余韻が格別だったから。
    そんな余韻に引っ張られ7つの物語を読み終えたときには涙が滲み、そしてチェ・ウニョンさんの後書き「作家の言葉」を読んだときには、もう堪らなくなって涙がぽろぽろこぼれた。
    書店の韓国小説コーナーで私はダメなのだろうかと、しばらく立ち尽くしていた30才の頃のチェ・ウニョンさんをギュッと抱きしめたくなった。大丈夫ですよ、こんな素敵な小説が生まれましたよ、ありがとう……

    K文学はフェミニズムや格差などの社会問題が題材になったものが多く、そのなかでもストレートな言葉でまっすぐ伝えてくるものを何冊か読んだことはあったけれど、チェ・ウニョンさんの文章は、同じテーマを描きながらも押しつけがましくもなく正解を求めてるわけでもなく、とても自然で読みやすかった。
    そして他のそれらの小説と違うなと感じたのは舞台は韓国に留まらず、登場人物たちは世界に散らばっていること。これがとても新鮮だった。
    自国の問題を描くのに自国に留まる必要はないんだ。
    たとえば「シンチャオ、シンチャオ」の舞台はドイツの小さな町。家族ぐるみの付き合いをしていた韓国人一家とベトナム人一家のなごやかな会話に亀裂を走らせたのは、韓国のベトナム戦争参戦という過去の出来事だった。
    また「彼方から響く歌声」はロシア。韓国の大学のサークルに蔓延していたフェミニズムと闘い、傷ついた女性はサンクトペテルブルクに留学し、その10年後に後輩がその地を訪れるというもの。

    淡々と静謐な文章で描かれた7つの物語はどれも時が流れたことで見えてきたものと向き合う人たちの話だったと思う。過ぎ去った過去の痛みや苦しみを抱えながら生きていく、そんな登場人物たちが愛おしかった。

    この小説はいるかさん、aoiさん、松子ちゃんと、同じ本を読もう「夏の会」で選書させていただきました。K文学からは離れていたのだけど、ずっと読みたいと心の片隅に思っていた小説。読む機会をいただけたことに感謝です。ありがとう。

    • 地球っこさん
      こんばんは~

      了解です!
      私も初読み作家さんです。
      楽しみです(’-’*)♪
      こんばんは~

      了解です!
      私も初読み作家さんです。
      楽しみです(’-’*)♪
      2023/10/01
    • 松子さん
      いっちゃん、こんばんは(^^)
      秋の部スタートですねっ
      1話読み終わったところです
      もう、涙涙で1話を読み終わったのですが
      この感動がこの後...
      いっちゃん、こんばんは(^^)
      秋の部スタートですねっ
      1話読み終わったところです
      もう、涙涙で1話を読み終わったのですが
      この感動がこの後も続くとなると、
      明日の目は腫れぼったくなるの間違いなしです(^^;
      2023/10/01
    • aoi-soraさん
      こんばんは
      まっちゃん読みはじめたのね^⁠_⁠^

      私も初めての作家さんです
      表紙のイラストから素敵な雰囲気ですね
      楽しみ♪
      ひとつレビュー...
      こんばんは
      まっちゃん読みはじめたのね^⁠_⁠^

      私も初めての作家さんです
      表紙のイラストから素敵な雰囲気ですね
      楽しみ♪
      ひとつレビュー上げたら読みはじめますね(⁠◠⁠‿⁠◕⁠)
      2023/10/01
  • チェ•ウニョンさんの『ショウコの微笑』。
    いるかさんのレビューにもありましたが、涙活で勧められなければ、おそらく手に取らなかった作品です。そして「新しい韓国の文学シリーズ」がある事も知りませんでした。『ショウコの微笑』はシリーズ19冊目になります。

    韓国の小説は少し苦手意識がありました。
    なぜかというと…過去2冊しか読んでいないのですが、その2冊から、女性の社会的立場の弱さや、格差社会を感じて、物語りを味わう前に、自分の中で勝手に辛さや悲しみを感じてしまって…。
    みんなで読む涙活だからこそ、そんな苦手意識を克服できたらなぁと思いながら読みました。

    「ショウコの微笑」は7つのお話と「作家の言葉」と「作家と作品について」からなる短編集で一つ一つのお話と作者の紡ぐ文章が不思議と心に寄り添ってきてくれます。

    歴史、文化、死生観、宗教に違いはあっても、恋心、大切な人を愛する気持ち、友人との気持ちのすれ違い、育ててくれた人に対しての感謝と深い愛情、そういった心を感じられました。

    どのお話も余韻が素晴らしくて大好きですが、
    「ショウコの微笑」
    「シンチャオ、シンチャオ」
    「ハンジとヨンジュ」
    「秘密」が好き。

    あと、何度か出てくる手紙の場面も好きだなぁ。
    片思いの相手への渡せなかった手紙。
    祖母から孫への手紙。友人への手紙。
    手紙ってどうしてこんなに心に残るんだろう…。

    この本は辛さや悲しみよりも、韓国で生まれ育った韓国人女性の生活や考えや心が伝わってきて、それらの心に共感し、親近感がわき身近に感じられました。自分の中の偏った考えをそっと方向転換してくれた作品です。
    読んでしみじみと良かったぁぁ、と思える作品。

    涙活「夏」で選書してくださった地球っ子さんに感謝。涙活メンバーのいるかさん、aoi-soraさん、地球っ子さんに、特大の感謝です!
    新しい世界が広がるって本当に楽しい(^^)

    • 地球っこさん
      みんなのおかげで、自分一人では気づけなかったいろんな見方を知ることができてよかったよ~
      ありがとうーー♡
      みんなのおかげで、自分一人では気づけなかったいろんな見方を知ることができてよかったよ~
      ありがとうーー♡
      2023/08/16
    • いるかさん
      いや 本当に素晴らしいですね。
      ハンジ まっちゃんの意見を聞いて、なるほど~って思いましたs。

      韓国のセウォール号の後、アナウンスに...
      いや 本当に素晴らしいですね。
      ハンジ まっちゃんの意見を聞いて、なるほど~って思いましたs。

      韓国のセウォール号の後、アナウンスに従った学生に対して、自分の命を守る行動をとれるように、アナウンスを信じずに自分の判断が必要だったと報道を見たことがあります。
      徴兵制もあり、自分の命は自分で判断すような基礎的な考え方があるのかもしれませんね。
      日本の文学も文化・習慣が反映されますが、海外の文学もまさしくそうなのでしょうね。
      とっても面白いです。
      世界が広がりますね。
      2023/08/16
    • 松子さん
      いっちゃん、わたしもいっちゃんの「基礎的疾患」の意見を読んで「おぉ!なるほどぉ〜!」でした。
      色々な考えで登場人物の気持ちに迫っていくのが、...
      いっちゃん、わたしもいっちゃんの「基礎的疾患」の意見を読んで「おぉ!なるほどぉ〜!」でした。
      色々な考えで登場人物の気持ちに迫っていくのが、ほんと楽しいです。

      セウォール号の報道の話、初めて知りました。
      読んでて涙出たよ。
      この本を通して韓国の文化習慣思想、色々なものに出会えて考えさせられたなぁ。
      やっぱりみんなで読めて良かったと思える作品です。
      ありがとうございます(^^)

      秋の部はいっちゃんの選書で良かったかな?
      楽しみにしてます♪
      2023/08/17
  • 過去を振りかえり立ち上がってくる切ない想いを描いた話に惹かれる。それだけ過ぎ去った時間が増えたからなのか。
    フッと蘇る心の奥にしまわれた記憶。鋭い痛み、後悔、哀しみ、さまざまな想いに揺れる。
    二度と会う事ができない人との想い出はなおのこと切ない。
    けれどその痛みは、過ぎた時間がオブラートのように包み込み、苦い想いを少しだけ呑み込みやすくしているとも感じる。
    7つの話は、どれも人との出会いと別れを描いている。繊細で内省的な主人公たちが、過去を回想し静かに物語る。それは歴史や社会を揺るがす事件、時代の空気とも無縁ではない。
    過去を振り返りながらも人生に向き合い真摯に生きている姿がいい。
    著作『わたしに無害な人』も良かった。チェ・ウニョンはまだ30代。これから年齢を重ねたらどんな話を送り出してくれるのだろう。
    とても楽しみ。

  • 収録されている7篇、全てよかった。
    人と人との関係。すれ違い、わかりあえなさ、一緒にはいられない人たち。書かれていないことも多くて、想像しながら読んでいく。哀しくてつらい話が淡々と。書き手のまっすぐで、温かなまなざしを感じる。

    前々から読んでみたいと思っていたが、韓国文学を読むには、気合いが必要というか、身構えてしまって、今になってしまった。身近に感じられて共感する、人におすすめしたくなる一冊だった。

    作家の言葉より
    自分が自分であるという理由だけで自らを蔑み嫌う人たちの立場で、社会や人間を見つめる作家になりたい。その過程で私もまた、恐れることなく、ありのままの自分になれたらいいと思う。

  • 「人目を引くような斬新さも特別な技巧もなく、文章も淡々としているのにもかかわらず、人を感動させる力がある」
    韓国のベテラン作家達が驚いただけあって、日本語に翻訳されても著者らしい文体やニュアンスが伝わってストーリーや登場人物の話す言葉が胸の奥にヒリヒリとせつなく沁みる。韓国語を勉強してみたくなるし、「新しい韓国の文学シリーズ」既刊本を読みたくなる。一冊丸ごとタイトルも覚えておきたい。

    各作品の翻訳者
    牧野美加「ショウコの微笑」「オンニ、私の小さな、スネオンニ」「ミカエラ」「秘密」「作家の言葉」
    横本麻矢「シンチャオ、シンチャオ」「ハンジとヨンジュ」
    小林由紀「彼方から響く歌声」

  • 〇韓国は大陸にある国なんだなあと。外国との距離感が違うように感じた
    〇“ゆるし”の物語

    「ショウコの微笑」
    …日本人の留学生ショウコと出会い、ソユとソユの家族は変わっていく。ショウコからの手紙が途絶えて、おじいちゃんとソユは。
     短編ながら、じっくりと女性の半生が描かれている

    「シンチャオ、シンチャオ」
    …ドイツの小さな町で、家族ぐるみの付き合いをしていた韓国人1階とベトナム人一家。
     壊れたのは私の言葉がきっかけだった。
     ベトナム戦争の影。日本と韓国の間の戦争についても考えさせられた。自分たちは何度でも向き合わなくてはならないのではないか。

    「オンニ、私の小さな、オンニ」
    …母と母が慕っていた“お姉さん”韓国を揺るがした冤罪事件で、二人の間に溝ができる
     打ち込んで、どうにもならない壁にきづいたときの無力感

    「ハンジとヨンジュ」
    …自分の進む道を見失いフランスの修道院でボランティア活動に打ち込むヨンジュ。アフリカからボランティア活動に参加したハンジに心を寄せる
     しかし突然ハンジに無視されるようになり。
     理由のわからないモヤモヤ。多分ささいなキッカケだったのだろうけど…。実際、理由のわからないままの別れは多いのかも

    「彼方から響く歌声」
    …大学サークルでは女性が蔑視されていた。ミジン先輩は鮮やかに抵抗していた。
    しかし私はそんなミジン先輩に複雑な思いをいだいていた。

    「ミカエラ」
    …夫と娘のために献身的に働き続ける母。善良な母と大切に思っているがすれ違ってしまう娘。
    ローマ教皇の韓国訪問とセウォル号事件

    「秘密」
    …自慢の孫娘に苦労をかけたくないおばあちゃん。孫娘は中国の学校の教師になりにいったというが、便りが途絶えている。
    描かれていない事情を推しはかる

  • 自分が自分であるといる理由だけで自らを蔑み嫌う人たちの立場で、社会や人間を見つめる作家になりたい。(作家の言葉:あとがきより)

    今の私が、読みたかった物語たち。自分自身で在る悲しみに対して、都合のいい解決や、安易な救いや、気休めの寄り添いなんて必要ない。孤独でも自分自身として生きる人の姿がある。

  • 遠ざかってしまった記憶を静かに悼み、弔うような短編たち。
    二度と戻れない過去に自分が他者を傷つけたこと、取り返せないままここまで生きてしまったことを思い、しんと冷たく胸が凍える。
    痛みは消えないし、きっと忘れもしない。忘れないまま、明日も静かに生きていく。

    表題作よりも他の短編たち、なかでも「ハンジとヨンジュ」「彼方から響く歌声」「ミカエラ」が好きだった。
    今となっては何が最善だったのかもわからないこと、もっとやれることがあったかもしれないこと、だけどできなかったこと、そういう体の奥に石のように沈む後悔の表象が際立つ作家だなと思う。

    「作家の言葉」で、もう自分は小説で身を立てることはできないかもしれない、諦める時が来たのだと思い泣いたという記述にこっちが泣いてしまいそうになった。
    この人が作家の舞台に上がることができて、日本にいながら本を手に取れること、それはただただ貴いのだと、鮮やかな表紙をゆっくり撫でる。

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著者プロフィール

1984年、京畿道生まれ。高麗大学国文科卒。
2013年に「ショウコの微笑」で『作家世界』新人賞を受賞し、デビュー。
翌年には同作で第5 回若い作家賞を受賞。
2016年にホギュン文学作家賞、
2017年に「その夏」で第8回若い作家賞をそれぞれ受賞している。
「その夏」も収録した短編集第2作『私にとって無害な人』は、
2018年に第51 回韓国日報文学賞を受賞した。
静かで端正な文体でつづられた作品は、
長く濃い余韻をもって読者の心を動かすと支持されており、
今後の作品に期待が高まる、注目の若手作家の一人である。

「2018年 『ショウコの微笑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

牧野美加の作品

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