アンダー、サンダー、テンダー (新しい韓国の文学 13)

  • CUON
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855317

作品紹介・あらすじ

映画業界で働いている「私」は、
たわいのない毎日を動画撮影で記録していた。

気のおけない友達とのおしゃべり、お気に入りのMDプレイヤー、
風に揺れるガイコツTシャツ、
20万円分の多種多様なハサミ…。
そこに外国から戻った「ハジュ」兄妹に出会い、「私」の動画記録にも変化がではじめたが…

感想・レビュー・書評

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  • はあああああエモい!!!いま30代の方々が読むと余計にエモいんじゃなかろうか。舞台は韓国だけど、作中に出てくる映画や流行りモノなんかは日本でも馴染みがあるものが結構あって、そのあたりも親しみやすさを感じる。私はこんなにたくさんの友達と一緒に過ごした青春時代ではなかったけれど、それでも「あのころ」の匂いを、「なじみのある匂いだけれど、名前を知らない(p.302)」匂いを感じることはできる。
    忘れられない人がいて、忘れてしまう人がいて、思い出す人がいて、思い出したくない人がいて。風にのってときどき、その人たちの匂いが鼻腔をかすめるときがある。それが懐かしさってやつなのか、なんなのか、わからないし定義したらいけない気がするから、「エモい」とだけ言っておく。最高のエモ小説です。

  • 自分は社会の一構成員に過ぎない。
    同じような人間はいくらでもいて代わりがきく。
    皆10代の早い段階からそう悟ってるようだった。
    だからといって投げやりになるわけでもなく、淡々と学んだり働いたり遊んだりしていて、大人。

    友達は好きだけどこの場所は嫌
    考え方には賛成しないけど幸せを願う
    など、全肯定でも全否定でもない気持ちを当たり前に受け入れて
    生活している姿がとても好きで、読んでいて安心できた。

  • なかなかにヘビーな事件が起きてるのに、湿り気がなくサラッとした文体で書かれているので、スルスル読めた。
    「フィフティ•ピープル」同様、セランさんはどうやってこの複雑な登場人物たちを思いつき、なぜ共感できなくても友だちになりたいと思うくらい暖かく描けるんだろう。
    もっとこういう話を読みたい。

  • 自分が悲しすぎる時に読むほど救われる気がして、読む速度が早まった。20世紀末、北朝鮮との境、坡州で育ち旅立つティーンエイジャーたちの成長の記録。特殊な時代と地域でじんわりと繰り広げられる物語に、作者は普遍的な青春像を描くことを忘れなかった。読後、それでも生きていこうと強く思える一冊

  • 私、この作家好きかも
    と思いながら読みました。
    フィフティピープルが面白かったので、同じ作家の本を図書館で探したら、この本のみ所蔵。

    郊外の新しく開発されている地域に住む中学からの仲間たち。高校に通うために皆同じバスに乗って通う。その中の主人公の女の子が後に映像作家になるのだけれど、現在のその映像のカット(動画の中のセリフ)と、過去の事が交互に出ながら進行していく。
    それぞれのキャラクターが詳しく、よくわかるように描かれていて、其々の悩みや成長、恋愛、そして起こる事件とその後が描かれている。
    日本で私の好きな津村記久子とかの初期の感じに似てるかな。
    次を追いかけたい作家です。
    ネットで探したら、フィフティピープルとこの2冊のみ。次3月に翻訳本が出るらしいから、楽しみです。他のもたくさん読みたいなー

  • 訳者の用語解説が丁寧で、「離散家族再開」という表現が印象に残っている……その表現自体がSFみたいだが、日本という国の平和ボケも甚だしいのかもしれないという気もする。
    内容に驚くというより、撮った映像を次々言葉にしていくその構築スタイルが読書の快楽だった。内容にももちろん驚いたが、この本を読んで聖地巡礼したいとは、あまり思わない(笑)。日本の文化なども引用され、様々な文化の網目模様となっている。

  • 前半の高校生時代に描かれる坡州市の風景は自分の中にイメージ出来上がっていて、それができている時って比較的本に集中できているサインで、本数が限られてるから必ず同じバスで6人が学校に通う毎日の話の中でそれぞれのキャラが少しずつ分かってくるところが楽しかった。読後に気づいたけど、自分も電車だけど状況的には全く同じ環境で、微妙な距離感が座席位置に現れたり、同じ空間にいるのがキツければ無理やり電車を変えるとかする3年間を送ってきたから、どこかで共感してたんだと思う。調べたら、坡州市は今は英語村やよくドラマで見るロケ地なんかがあって観光地にもなってるらしい。。。うーむ。

    そんな中、当時の国境の街ならではの事情が遠因で起こるいきなりの事件に、あー韓国の小説だなぁ、と。
    映画好きな引きこもり少年ジュワンと主人公のエピソードが好きだったから悲しかった。のちに少年のお姉さんが言っていたように彼はあまりにもフラジャイルで、どのみち長くは生きられなかったタイプの人間だったんだろう。彼女がジュワンの死を受け止めきれず、様々な未来のシチュエーションを頭に描くところ、すごく共感できた。もっと違う日常事故的な死に方をしたパターンを想像したり、実は死んでなくて外国に行って離れただけとか、あのままただ引きこもりながら褒められた形ではないにしろ関係が続いていたパターンとか・・・

    彼女の新しい彼氏に対する感情も共感できる。決して嫌いなわけではない、でも一度とんでもない喪失感を味わった者だけが無意識的にとってしまう思考パスウェイというか。P249「彼ともたいして通じ合ってるわけでもない。でも通じないからかえって、ほっとするのが不思議だ。通じないから、あまり掘り返すこともない。通じないから、相手の一部が私に伝染することもない。通じないから、私の中の病んだ部分を、敢えて見せる必要もない。通じないからあまりたくさんの時間を一緒に過ごさなくてもよい。通じないから、思い出すものもない。通じないから、目が合っても、痛くない」

  • 個人的には、チョン・セランさんの作品は2本目。
    面白いですー。
    にしても、韓国は生きづらいぞ! 日本もなかなかだけど、もっとキツい気がする。差もあるし。

    伊坂幸太郎のサブマリン(少年犯罪が関係する話)を読んだ後で、若い人たちの生きる環境は、どちらも厳しいと強く思ってしまった。うう。

    他の作品も読みたいと思う作家さん。

  • 北に近い田舎町に住む同じ高校の仲間達。王子と言われながらもそれ以降の人生ではそれ以上の名声を得ることはなかったミヌン、暴力的な家庭に育ちミヌンに救われたスミ、他人の目を気にせず自分の道を突き進むことのできるソンイ、頭のいいピンク色の男の子のチャンギョム、インドから引っ越してきたジュヨン、そして「私」。
    ジュヨンの兄で、家で映画を見続けているジュワンと「私」は静かに関係を育み始めるが、思いがけない事件により「私」は壊れてしまう。

    長く緩慢な話が続いて、こういう社会の発展途上時代のいわゆる底辺で育つ少年所女達の不安定さや社会環境を見せるだけの話かと思ったら、あまりにも「転」が衝撃的だった。ジュワンが未来にはいないことは察することができるけれど、予想すらできない事件でジュワンが奪われてしまうことがあまりに残酷で、それと同時にこの時代のこの社会環境にぴったり当てはまるような事件であるがゆえに、そういう息苦しい時代と社会に流されることしかできなかった「私」たちの象徴でもあるような。
    その事件のあと「私」の心が壊れていき、仲間は一緒にいることができなくなり、その崩壊のピークは「私」ではなくジュワンが生き残っている世界を見てしまうという独白で、そのあとはまたゆるやかな流れに戻るという物語全体の流れが逸材。
    そのあといくつかの死を経験して「あんなことも起こりうるものだ」と認識することで仲間たちが再び集まるようになるのも、チャンギョムに「私たちを代表して順調のアイコンになってほしい」と願うのもそういう時代をただ受け入れていくだけという生き方の象徴にも見える。

    事実をうまく把握できない「私」がジュヨンに何度も事実を言い聞かせて欲しいと頼むシーンや、ハジュの別れの挨拶など印象的なシーンや言葉も書ききれないほどに多い。

    ジュワンが死んだあとにジュヨンが「鋼鉄ではなくセラミックの心だった」とジュワンが生きていてそのまま幸せに生きたのかと言われればそうでもなかったということが明かされることにやるせなさもある。そういう心のちがいを考えられない親たちや、「構成員のいい会社は悪くなる速度が遅くなるだけ」というような社会が今はもっとマシになっていることを願うばかり。

  • 素晴らしい作品だった

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著者プロフィール

1984年ソウル生まれ。編集者として働いた後、2010年に雑誌『ファンタスティック』に「ドリーム、ドリーム、ドリーム」を発表してデビュー。13年『アンダー、サンダー、テンダー』(吉川凪訳、クオン)で第7回チャンビ長編小説賞、17年に『フィフティ・ピープル』(斎藤真理子訳、亜紀書房)で第50回韓国日報文学賞を受賞。純文学、SF、ファンタジー、ホラーなどジャンルを超えて多彩な作品を発表し、幅広い世代から愛され続けている。他の小説作品に『保健室のアン・ウニョン先生』(斎藤真理子訳)、『屋上で会いましょう』(すんみ訳)、『声をあげます』(斎藤真理子訳)、『シソンから、』(斎藤真理子訳)、『地球でハナだけ』(すんみ訳、以上、亜紀書房)などがある。

「2023年 『八重歯が見たい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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