世界の果て、彼女 (新しい韓国の文学 10)

制作 : 藤井久子 
  • クオン
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本棚登録 : 211
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855218

作品紹介・あらすじ

ある青年が図書館に貼ってある詩を偶然読むことから始まる恋愛ストーリー
『世界の果て、彼女』。
新婚旅行にソウルにきている日本人のハトコを案内する、30歳になったばかりのアタシ
『君たちが皆、三十歳になった頃』。
世界のいろんな都市のガイドブックを作って放浪する若いカップルの物語
『笑っているような、泣いているような、アレックス、アレックス』。
など、ユーモアと人間に対する、著者の愛情たっぷりの7つの作品集です。

感想・レビュー・書評

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  • 『世界の果て、彼女』も、ドラマ『ボーイフレンド』でジニョクが読んでた本の翻訳版。
    表題作の『世界の果て、彼女』のストーリーをスヒョンに語ってる姿も印象に残ってます。
    まずタイトルが素敵だなぁと思いました。

    「再び数万年が流れ、氷河期を経てさまざまな木が絶滅する間にも、もしかしたら一本の木は生き残るかもしれず、その木はある恋人たちの思いを記憶するかもしれない。」
           『世界の果て、彼女』より

    湖の横に1本だけ立っている背の高いメタセコイアの木。そこが詩人にとっての世界の果て。
    幸せで悲しい記憶に、そっと触れることができました。


    「私の前にも、私の横にも、私の後ろにも、ただただ私と同じようなスピードで、私が行こうとしている方向に向かって動いている車だけだった。運転席に体を深くうずめて座り、そんな車を眺めていたら、突然涙が流れた。戻る道はあまりにも遠く、大変なのに、私が行こうとしている場所が本当にそこでいいのかわからなかったからだ。」

    「ナベヅルたちは、こんなにも大きな世界を横切ぎってアムール川の川辺から出水まで飛んで来た。私たちがその世界を証言することができないのは、そのすべてを記憶できないことは、あまりにもはっきりしていた。でも、また同時に、私たちはそのすべてを忘れることもできなかった。」
       『君が誰であろうと、
          どんなに孤独だろうと』より

    誰にもわかってもらえない。絶望。自分だけが感じたと思っていた何かを、ほかの誰かも見たのかもしれないと思いを巡らせること。
    「簡単に慰めてもらおうなんて思わずに、人生の終わりまで駆け抜けるんだ」
    その言葉に私は、「あなたを簡単に慰めないけれど、あなたとともに生きていく」と言われているような気がしました。


    言葉にできない感情の機微を無理やり言葉にしようとすれば、その微かなしるしは意味や形を変えてしまいそうで怖い。
    それでも、どうして人は言葉にしようとするのだろう。どうして何でも言葉にできると思うのだろう。
    もしも、津波のように迫ってくるその感情に孤独という名をつけたならば、その瞬間に私は孤独という海に飲み込まれることになりそうで怖い。だとしたら、その孤独にあなたが愛と名づけてくれたとしたら、私の孤独は愛に変わっていくのだろうか。
    言葉にすること、それは誰かに聴いてほしいと願うことなのかもしれない。
    言葉にできない感情の海から、誰かに救いだしてほしいとの祈りなのかもしれない。
    それを私は文学に求め、文学に慰めてもらうのだろう。
    この本を読んで、そう思ったのだ。

    他、『君たちが皆、三十歳になった時』
      『笑ってるような、泣いてるような、
       アレックス、アレックス』
      『休みが必要』
      『記憶に値する夜を越える』
      『月に行ったコメディアン』

  • 世界の果て、彼女 – K-BOOK振興会
    http://k-book.org/yomeru/2016060501/

    「K-BOOK Review & Interview キム・ヨンス」配布開始のお知らせ | CUON | 韓国語圏の知を日本語圏でも
    https://www.cuon.jp/info/1650

    CHEKCCORI BOOK HOUSE / 世界の果て、彼女
    http://shop.chekccori.tokyo/products/detail/66

  • 『世界の果て、彼女』詩を読んでみんなで語るって読書会みたいで、とても近しいものを感じる。死んだ詩人が愛した女性が誰だったのか。詩人がどんな人だったのか。小説のなかで、ヒソンさんが主人公を彼と似ていると言う。ぐるぐると回る世界。世界の果て、きっとここは閉じられた小さな世界なのではないかと思ってしまった。美しい小説。

  •  村上春樹っぽいという意見が読書会でよせられたが、キムギドクだなと思った。「春夏秋冬そして春」のような空気が、ずっと小説の底に漂っているように思った。

     「君たちが皆、三十歳になった時」は、映画監督になりたかった同期の男が、タクシードライバーになって自分の運転を配信していることになっていて、主人公は結婚だのなんだのに迷走している。そんな敗れ去った三十の人間像を優しくえげつなく書いていて、とても良い。
     「世界の果て、彼女」での、湖とその側で立っている木の光景がとても美しい。木は世界樹のようで、世界の中心であり、果てに立っている巨木に思える。埋められた手紙を直接届けに行こうとするところで終わるのが良い。
     「休みが必要」は、韓国の政治史とキリスト教についてよく知っているととても感動できると思う。海のそばのバーみたいなところで告解するのが名場面。
     「記憶に値する夜を越える」はとてもわかりやすく、一言で言えば少女から女になる話なのだが、母親や家族からの独立というか、儒教道徳的なものに対する、ただ反抗するだけでない、乗り越え方が鮮やかに書かれてる。
     「月に行ったコメディアン」はエロゲーにもしたいぐらいの傑作だろう。これを最後に持ってきたのは大正解だし、文学賞をこれで取るのもかなり納得できる。盲目のコメディアンが事故ったレンタカーを捨てて、砂漠の果てへ、大金かかえて歩いて行く。月の砂漠をはるばると以上の、たいへん詩的な情景で、圧倒された。父を追いかけていった彼女から送られたCDを聴く場面もほんとすごい。「今、見えますか?」という彼女の問いかけに、ゾクッと鳥肌が立った。「あぁ、これは満月ですね。そうでしょう?」という主人公の台詞も見事。

     孤独な時に読む書物でも、つらい時に読む本でもなく、「普通にその完成度を楽しむ」ものだと思う。ジブリ映画しか観てこなかった人(そんな人がいるのかどうかは置いておいて)がギドクの映画を観て、「なんだこれはー!」ときっと驚くのと同じように、この本を読んで、「とにかくなんかすごい。でも勇気とか愛とか、そんなものをもらえるわけでもない、でもすごい」と言えるもの。本の装丁も相当凝っていて、よくぞ発売したなという感じです。

  • 「著者の言葉」にある「他者のために努力するという行為そのものが、人生を生きるに値するものにしてくれる。だから、簡単に慰めたりしない代わりに簡単に絶望もしないこと、それが核心だ。(272頁)」が良く、読書体験もまた他者の物語を生きてみることが大事な行為なのではないかと思っています。

  • 短編集なのだけど、どれもタイトルのセンスが抜群にいい。
    「君たちが皆、三十歳になった時」とか。「笑ってるような、泣いてるような、アレックス、アレックス」とか。
    「休みが必要」が特に胸にずんと響いた。
    どことなくオースターを思い出す語り口と展開。
    偶然、それだけではすれ違うだけだけれど、通じ合おうとする意思がそこで生まれること、結果として通じようが通じまいが、生まれる瞬間の美しさ、それを描いたような作品達だった。
    他の作品も読んでみたい。

  • これほど純粋で美しい文章に出逢えたのは久しぶり。じんわり胸をしめつける感覚と、穏やかさと、美しすぎる景色と、なんとも言えないもやもやする感情。きっと、なんどもなんども読み返したくなる作品。

  • 短編集7編。
    男女には限らないが、理解しあえない言葉に縋るような気持ちを感じる。翻訳のせいか分からないが、すっきりと腑に落ちない文章だけど、物語の展開にはとても心魅かれた。特に『月に行ったコメディアン』が良かった。

  • 短篇7編収録。「偶然」「喪失」「記憶」「孤独」「疎通」などが共通するキーワードになるんだと思うけど、かなり難解で一回読んだだけでは理解できた気がしない。それなのに、ところどころで「わかる」というか「わたしも同じだ」と思えるところがあって、不思議とここちよい余韻を残す。
    「ふと、自分でも名づけようのない孤独を感じた誰かに、本を読みたいと言われたなら、僕は今、躊躇うことなくこの本を贈るだろう」という平野啓一郎さんの帯の文にものすごく納得。孤独な人ばっかり出てくるのに、読むとひとりじゃないというか、なぜだか心強い気持ちになれると思う。

    「君が誰であろうと、どんなに孤独だろうと」っていうツルの描写が印象的な一篇について。以前読んだアンソニー・ドーアの‟Demilitarized Zone"っていう短篇を思い出した。これもツルの描写がものすごく印象的で、しかも韓国が舞台。こういう偶然からも著者のいう「同じ時代を生きる神話」みたいな力を感じた。

  • “その写真は私に「簡単に慰めてもらおうなんて思わずに、人生の終わりまで駆け抜けるんだ!」と言っているようだった。”

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著者プロフィール

代韓国文学を代表する作家の一人。
一九九四年長編小説『仮面を指して歩く』で第三回作家世界文学賞を受賞して、本格的に作家デビュー。長編小説『グッバイ、李箱』で二〇〇一年東西文学賞、短編小説集『僕がまだ子供だった頃』で二〇〇三年東仁文学賞、短編小説集『僕は幽霊作家です』で二〇〇五年大山文学賞、短編小説「月へ行ったコメディアン」で二〇〇七年黄順元文学賞、二〇〇九年短編小説「散歩する者たちの五つの楽しみ」で韓国で最も権威のある李箱文学賞を受賞。日本では長編小説『ワンダーボーイ』(クオン)、『夜は歌う』(新泉社)、短編小説集に『世界の果て、彼女』(クオン)、『僕は幽霊作家です』(新泉社)がある。

「2021年 『四月のミ、七月のソ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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