楽器たちの図書館 (新しい韓国の文学)

  • クオン
3.72
  • (5)
  • (9)
  • (10)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 137
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855041

作品紹介・あらすじ

「この短編集は、僕からみなさんへ贈る〈録音テープ〉です」
音の世界に魅せられて「楽器図書館プロジェクト」をはじめる表題作「楽器たちの図書館」をはじめ、ピアノ、CD、ラップ、DJなどさまざまな音が聴こえてくる短編小説8編を収録した、韓国の人気新鋭作家、キム・ジュンヒョクの短編集。
奇抜な想像力とユーモアあふれる作品で、韓国文学界でも独自の存在感を放つ作家、キム・ジュンヒョクの、これまでの韓国文学とはひと味もふた味もちがう、新しい感覚のポップな小説世界。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 空間に放たれた音が消えてしまった後に残る何か。
    会えそうで会えないピアニスト、突然現れた合唱団時代の昔の友人、レコードやオルゴールなど、音楽を題材にした魅力的な8編の物語。軽やかで淡々とした文章と、少し奇妙な世界が広がるのは村上春樹短編風でもあるが、こちらには癖のある気取ったようなところがなくとても良かった。

  • なにその表現!初期の村上春樹(?)みたい!なセンテンスもあれば、え、なんでその会話の流れでそのフレーズ出した?ちょっと蛇足感(…)っていうセンテンスもあって、それが作者の持ち味なのか、訳者の意図した意訳なのか分かりかねるところもありました。
    (そういう疑問が浮かんで物語世界に没入してる時間がフッと途絶えてしまう点は、翻訳本の背負う課題ですね)

    さて、初めての韓国文学です。
    いつも英米文学・ヨーロッパその他文学の棚で足を止めがちなので、ちょっと足を伸ばして東洋文学を覗いてみたのがキッカケで、背表紙に呼ばれました。
    でもさ、場所もわかりにくいと思うんだ…。海外文学ってジャンルで分けてくれればまだしも出会いやすいのに、さも日本文学の続きみたいな位置に置かれると…すみません、一図書館ユーザーの意見ですハイ。

    韓国の近代文学といえば、(読んだことないくせに)植民地時代のこととか〜南北問題とか〜そういうテーマ重めな作品多いんじゃないですかね??
    日本人にはなかなか厳しめな目線多めなんじゃないですかね??

    っていう浅はかな先入観があったわけですが、今作の軽やかなタッチで描かれた韓国の青年像に見事に打ち崩して頂きました、先入観。ありがとうございますキム先生…キム先生って、なんか新鮮な響き…。

    今作は「音』にまつわる8編の短編が「録音」されています。
    物語の主人公達は、様々な出会いや出来事に人生を翻弄されつつ、時に試練や苦難を軽やかに乗り越え、時に屈します。
    物語のエバーアフターは必ずしも大団円ではないと想像させる作品も少なくないのに、読後感が総じて爽やかなのは、きっと作者の持ち味なんでしょう。このタッチなら、悲壮感漂う悲劇も爽やかに書けてしまうんじゃないかな、ちょっと読んでみたいな、と思ってしまいました。

    何だよ爽やかな悲劇って←←


    【内容まとめ:作者の文体に倣って、平易簡潔を心がけてみた】

    ◉自動ピアノ…一人の演奏家を追ったドキュメンタリーを見なければ、僕は今頃偉大なピアニストになっていたかもしれない。将来を嘱望された若きピアニストと、リサイタルを頑なに拒み続ける老ピアニストとの一瞬の邂逅。

    ◉マニュアルジェネレーション…よい製品には、よいマニュアルが付き物である。そんな信念のもと、マニュアル制作会社を経営する僕に、クライアントから奇妙な提案が持ちかけられる。「マニュアル専門誌、つくってみません?」

    ◉ビニール狂時代…「私の所蔵LPを差し上げましょう。選べる期限は今日1日。どうしますか?」
    レコード店で出会った奇妙な男に、うまい話を持ちかけられた僕。目利のきく男の誘いに、一抹の不安を覚えつつ乗った僕は、密室と化した倉庫で1人、選定を始めるが…。

    ◉楽器たちの図書館…交通事故で死にかけた僕は、会社を辞め、毎晩浴びるように酒を飲む日々が続いていた。そんなある日、恋人の誘いで立ち寄った楽器店にひょんなことから勤めることになり、楽器の分類・音の収集に偏執的に取り組むようになるが。

    ◉ガラスの盾…就職面接に落ち続けること数十回。そんな僕とMのちょっとした好奇心から起こしたイタズラが意外な反響を呼び、人生に意外な転換点が訪れる。

    ◉僕とB…エレキギターと太陽アレルギー。

    ◉無方向バス…母が失踪した。かつて掛売りの帳簿であり、次に僕の日記帳となった「デカ帳」を連れて。

    ◉拍子っぱずれのD…音痴でも運動音痴でもないのに、皆と合わせて何かをやろうとすると、途端に拍子を外してしまうD。20年ぶりに出会ったかつての同級生「拍子っぱずれのD」と、人気上昇中のアーティストのコンサートを手がけることになった僕は、20年前のある事件を思い出す。

  • 韓国文学はキム・ジンギョン氏の「ねこの学校」しか読んだことがなく、これが2冊目。

    初めは物足りなさがあるものの、韓国のまっとうな(?)オタク作家と言われる著者はなかなかにしぶとく、捉えどころのなさが最終的には何とも言えぬ味わいとなる。

    この本の主人公の男子たちは、絶望するでもなく、希望を持ちすぎるでもなく、ただ好きなことをしてちんまりと暮らしている。ハードな社会に疲れきった疲労感はある。だが暗さはなく、何よりも主人公たちには必ず友人や仲間や家族といった「誰か」がいる。そこに「健全」を感じて安心する。著者のオタクぶりもどことなく品がよく感じるのはなぜだろうか。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「キム・ジンギョン氏の「ねこの学校」しか」
      タイトルに惹かれてレヴューを拝見したら、、、もっと気になる本が(韓国の映画は観たコトありますが、...
      「キム・ジンギョン氏の「ねこの学校」しか」
      タイトルに惹かれてレヴューを拝見したら、、、もっと気になる本が(韓国の映画は観たコトありますが、文学や小説は全然なので、何か読んでみたい)!!!
      2013/09/20
    • けろ姫さん
      コメントありがとうございます!
      私もこれから韓国文学をもっと読もうと思ってます(^^)/
      コメントありがとうございます!
      私もこれから韓国文学をもっと読もうと思ってます(^^)/
      2013/09/24
  • 泣いたし、1人で笑ったし、共感したし、面白かった。

  •  韓国の小説を読むのは初めて。とはいっても、韓国っぽい要素は皆無で、読み心地としては(翻訳である以上実際どうだか知らないが)村上春樹を読んでいる時の感覚に近いものがあった。
      どの話も非常に面白く、平日の夜にも拘わらず時間を忘れて読み耽る(社会人の常識の範囲内ではあるが)なんて何年振りだっただろう。同著者の他の小説もガシガシ読んでいきたいが、日本で韓国の小説なんて滅多に聞かないので残念なところ。今韓国でブームを巻き起こした小説が日本でも売れているらしいので、これを機に良い小説に出会える機会が増えたらいいなと思っている。
     以下、各短篇の感想。

    <自動ピアノ>
     人気のあるピアニストが、とある映画の音楽担当をしていたピアニストの演奏をDVDで聴き、衝撃を受けるところから物語が始まる。具体的な曲名やメロディが提示されるわけでもないのに、素敵な音楽を聴いて寛いでいたかのような読後感があり、新鮮だった。

    <マニュアル・ジェネレーション>
     デジカメ買ったら300ぺージ超のマニュアルが付いてきて、読んだら感動しちゃってマニュアル制作の小さな会社を創っちゃった男の話。
     マニュアルジェネレーションというタイトルからは、よく新人を揶揄する「マニュアル人間」のような言葉を想起する。良いイメージではない。でも、ここでは良いマニュアルを「緻密な知識の建築物」と評し、物語の中で輝く。
     先の「自動ピアノ」も、自分の演奏が自動ピアノですねと言われたらピアニストは怒りそうなもんだけど、作者は自動ピアノにそういう役割は与えていない。そこにずっとあったものが小説を通してぼんやりと明るく光り出すような感覚。「音楽は生じるものではなく、消滅するものです。音楽はどこにでも存在します。どこからはじまって、どこに消えるのかがわからないだけです。いま、この場所のどこかにも音楽があります。」(p.15)というピアニストの言葉が、少し腑に落ちた気がした。

    <ビニール狂時代>
     DJ学術研究所に通う主人公が、レコード(レコードをビニール盤とも呼ぶらしい)漁りをしているうりに怪しい男に出会ってしまう話。
     男曰く、DJは人の音楽をパクるに留まらずそれを切り刻んで自分がクリエイティブだと考えるクズ。一方、主人公は、新しいものなんてどこにもなくて、誰かの影響の上に自分が絵を描いていくんだという趣旨の考えを持つに至る。
     そういえば、随分昔、ニコニコ動画でVOCALOIDの曲を歌って動画にしてアップロードする「歌い手」がブームになり、一部「インターネットカラオケマン」と揶揄されていた。他人の褌で相撲を取る、的な非難だろうか。私も当時はVOCALOIDの曲を聴いていたが、歌い手ブームというのは肌に合わなかった。元の動画より再生数が伸びているのを見たりして、なんだかなあ、という気分になっていた。

     この作家は「オタク」作家と呼ばれているらしい。確かに、他の短篇においても、一定のモノに対する偏執とさえ言える熱量が描かれており、オタクを描いた小説と言われても、まぁなるほどな、と思える。
     で、この短篇をオタク的側面から読み解くなら、「原作厨」(二次創作やメディアミックスをひたすら否定し、原作こそが一番だと頑なに主張する者のこと……と思ってる)と「原作を蔑ろにする二次創作者」、双方への警鐘ということになるだろうか。
     怪しい男の立場からすれば、DJは元のレコードや音楽を大切にしないクソ野郎という偏見があるのだろう(現に、レコード盤を大切にしないと批判しそれを修正されている)。VOCALOIDの「歌ってみた」動画を見て、「〇〇歌ってみた、だ?貴様この野郎」といったところだろうか。まあ、DJのことは知らないけど、原作をろくにリスペクトしない者だってなかにはいるだろう。どの世界でもそうだ。
     一方、主人公の立場からすれば、怪しい男こそ、男が好む音楽が存在するに至るまでの過程を見ていないことになる。その音楽は、何年何百年何千年の音楽の歴史の上に成り立っているものなのだ。何億年もの命のバトンがあって私がいる、みたいな話は、命に限ったことではない。原作至上主義といったって、原作にはその原作があるのだ。
     だから、必要なのは、自分の前の世代をリスペクトしつつ、その上に新しいものを築いてゆく、というのが健全なオタク的思考なのかな、と思う。「あなた自身のようにあなたの隣人を愛さなければならない」(旧約聖書『レビ記』より)と同じく、原作自身のように原作のメディアミックスや二次創作を愛さなければならないのだ。もちろん、原作への尽きることのない愛とともに。

    <楽器たちの図書館>
     車に轢かれた瞬間「何者でもないまま死ぬのは無念だ」と思い、その文句がヘルメットになって奇跡的に助かった男が、その文句に取りつかれて会社も辞めてアル中になっているところに楽器と出会う話。
     この物語を読みながら、自分が夢破れて就職もしないまま大学を卒業しちゃって、フリーター生活をしていた頃のことを思い出していた。幸い実家で脛を齧ることができたので(!)何一つ不自由することはなかったが、空虚な時間を埋めたくなって、あるいは「何者でもないまま」でいることが何だか寂しくて、本気で就職活動を行った。
     「ミュジカで仕事をすることを決めたのは、自分を突きはなすためだった。どんなことが起きようとその流れに自分を放置しあかった。僕の人生の串に新しいものが一つずつ刺さっていく様子を、ちょっと離れたところから見守りたかった。」(p.148)という文は、自分が就職活動を通じて自分を磨いていたころの、空の本棚に本をとすとす挿していく時の感覚と重なる。
     こう書くと、一度壊れてしまった人が自分を見付け直すまでの物語、とでも括れそうだが、この短篇はそうするのがもったいないほどに自分に刺さっている。

    <ガラスの盾>
     二人で一つの「僕」と「M」(男同士。ゲイではない)が、面接で訳の分からないことをして落とされまくる話。難しいこと抜きに奇抜な行動とそれに与えるもっともらしい屁理屈が非常に面白いのだが、ひょんなことから転機が訪れる。
     誰かのためになれる人になりたい、そんなニュアンスを表題作と続けて感じた。理由は分からないけど、良作揃いの本書の中でもかなり好きな部類。

    <僕とB>
     太陽アレルギーのCDショップ店員が、万引き男を捉えたのをきっかけに、その男にエレキギターを習うのだが、体が電気を受け付けず諦めてみじめな気持ちになる話。
     太陽アレルギーで長く陽の下にいられなかったり、ギター弾きたくても駄目だったり、働き先が潰れてしまったりと、何かと積み重ねることができない主人公。偶々迷い込んだ隘路を心許なげに歩むような彼の生活は、透明感と閉塞感が共存したとでも言えるだろうか、独特の印象。

    <無方向バス>
     リミックス「美しかったペンドク」とあるが、ネットで検索しても「美しかったペンドク」情報が全然出てこないので、訳者あとがきに頼らざるを得なかった。
     韓国及び朝鮮半島の歴史はまだあんまり学んだことなくて、立地が悪すぎて常に大国に蹂躙され隷属せざるを得ないというイメージしかない。それも世界史的な視点なので、内側の文化や風土までは分からない。最近女性差別をテーマにした小説がベストセラーになっているとメディアで見たので、そういう側面はあるのかな?と思っているくらいだ。
     何を目的としてリミックスを行ったのかは分からない。訳者あとがきを無視して考えるとするならば、、、リミックス前と後で共通して描かれている「離散」は、南北分断という政治的悲劇がなくとも現代韓国において起こりうるもので、当時に比すれば政治的に落ち着いてきた今こそ、内側に目を向けていこうではないか……みたいな意図があるのだろうか。
     楽器や音楽が出てこないという意味においても、何か主張のようなものが見えることでも、この一冊の中では異色と感じた。

    <拍子っぱずれのD>
     音楽教師に殴られるレベルの音痴である同級生Dに二十年振りに再開した主人公が、音楽界のスターと評されるグループの講演企画を行うDのコンサルティングを引き受ける話。
     かつて不協和音によって合唱が台無しになってしまった、あるいは台無しにしてしまったと思っているかもしれないDが、音楽公演を通じて何をつくろうとしたのか。これが最後の短篇として配置されているところがなんとも心憎い。

  • 神保町でブックフェアみたいのをやってたときに、買った。韓国の本の専門店みたいな店が、ブースを出していて。ちょっとあざといところもあったけど、いいねー、ってなノリで楽しめた。

  • どの短編も文句なくうまい内容も文体も重くならないよううまくコントロールされていて、それでも読んだ後に何かが残る。。(「自動ピアノ」「拍子っぱずれのD」あたりが好きです)。けれど何か、物足りなさも感じる。この感じ、自分にとっては、村上春樹を読んだ時に似ている。

  • [江戸川区図書館]

  • たまたま図書館の新刊書コーナーで見つけました。

    まずは、タイトル<strong>「楽器たちの図書館」</strong>
    音楽好きなら自然と目がいきます。

    手に取ってみるとシンプルでセンスの良い装丁。
    表紙のバイオリン?の絵のバランスもよい感じです。
    それから、今、訳者 吉原育子さんのブログで知ったのですが、本の上の部分がふぞろいな、アンカット、という作りになっています。いい感じです。

    <strong>「この短編集は僕からみなさんへ送る録音テープです」</strong>という言葉ではじまる「みなさんへ」と題する前書き。
    見開きの右のページにはカセットテープのイラスト。

    ぱらぱらとめくって拾い読みしてみると、心にすーっと響くような文章。

    さらに、奥付をみると訳者の、<strong>波田野節子</strong>さんと<strong>吉原育子</strong>さん、お二人とも新潟県の出身。

    と、いうことで借りてきました。
    ロシアの作家の短編集も気になっていたのですが…

    でも、これは、ビンゴ!素晴らしい作品です。
    われながら自分の眼力にほれぼれします(うそうそ)。

    久しぶり一気に読んじゃいました。

    音楽、音、リズムにまつわる8編の作品が収められた短編集。
    良い意味で韓国文学のイメージ、私が勝手に思い描いていた韓国文学のイメージを払拭してくれます。

    訳もこなれていて、翻訳調というのが全くなく、日本の作家の作品を読んでいるようでした。
    いつか体験したような味わいなのですが、いつのことなのか、誰の文章の風合いと似ているのか思いだせません。

    読み終えて8篇のうちどれが一番か、と考えるのですが、どれもが味わいのある、それぞれ鳴り響く音がちがう小説で、すべてまとめて良さがわかるような、どれも慈しめる短編集です。

    音楽好きな方はもちろん、みなさんにおすすめの一冊です。

    ---
    キム・ジュンヒョク「楽器たちの図書館」 | 御経塚通信 http://okyouduka.com/201206/books/3464.html

  • 「音楽」を軸とした短篇集。読んでいる間にも文と文が発する音が耳から流れ込み、グルーヴに身を任せることができる良書。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1971年、韓国・慶尚北道金泉生まれ。啓明大学国文学科卒業。
ウェブデザイナー、雑誌記者などを経て、2000年に月刊誌『文学と社会』に中編「ペンギンニュース」でデビューした。
2008年、短編「拍子っぱずれのD」で第2回金裕貞(キムユジョン)文学賞、2010年には短編『1F/B1』で第1回若い作家賞を受賞。
創作のほかにも、インターネット文学放送番組「文章の音」の司会や、ハンギョレ新聞のコラムを担当するなど、多彩な活動をおこなっている。
短編集『ペンギンニュース』、長編小説『ゾンビたち』がある。
個人ブログ: http://www.penguinnews.net/

「2011年 『楽器たちの図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

キム・ジュンヒョクの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×