菜食主義者 (新しい韓国の文学 1)

制作 : 川口恵子 
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904855027

作品紹介・あらすじ

「新しい韓国文学シリーズ」第1作としてお届けするのは、韓国で最も権威ある文学賞といわれている李箱(イ・サン)文学賞を受賞した女性作家、ハン・ガンの『菜食主義者』。韓国国内では、「これまでハン・ガンが一貫して描いてきた欲望、死、存在論などの問題が、この作品に凝縮され、見事に開花した」と高い評価を得た、ハン・ガンの代表作です。

ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる夫(「菜食主義者」)、妻の妹・ヨンヘを芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫(「蒙古斑」)、変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ(「木の花火」)―
3人の目を通して語られる連作小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 韓国の純文学の分野なのかな。
    三部からなる連作短編。

    ある日突然肉を食べなくなり、痩せ細り、次第に狂っていくヨンヘ。社会の役割や人間であることを拒絶する様子を描いている。
    二部からは、彼女の周囲の人間の歪んだ欲望や狂気が、彼女によって増幅されて行く様子が描かれている。
    どうやら根に、韓国に根強く残る家父長制や抑圧がありそうだ。ヨンへ姉妹が育った家庭、父親の暴力の描写に目を背けたくなった。

    1「菜食主義者」
    ヨンへがある日突然「夢を見た」という理由で食べなくなる。日に日に痩せ細り、家族は無理矢理肉を食べさせようとする。彼女の行動の一つ一つが狂ったようで、しかし淡々としていて不気味。

    2「蒙古斑」
    ヨンへの義兄(姉の夫)が語り手。裸でいることも厭わなくなったヨンヘの体に残る蒙古斑から植物的なものを感じ、彼女の身体に花の絵を描いて映像に残す。ついには自分の身体にも描き、その花と花を重ね合わせたくなる。

    3「木の花火」
    ヨンへの姉が語り手。
    精神病院にいる今にも死にそうな妹ヨンへ。治療で何とか生かそうとするが「…なぜ死んではいけないの?」と妹。
    そこで気づく。自分も苦しんでいた。眠れなかった。妹はかなり以前に先に進んだ(=狂った)のだろうか。「あなたは死んでいくじゃない」と彼女を揺すって投げつけたい衝動に駆られるが押さえ込む。

    こういう純文学的な暗い内容は苦手なはずなのに、人間の歪みとか狂気というものに、なぜかどんどん引き込まれていく感じ。
    特に三部は圧巻だった。それは私も精神を病んだことがあるので、人の狂いとか、心の奥の深いところに疼いている何とも言い難い重いものをうまく表現してくれた感じがした。

    • なおなおさん
      さわわさん、こんばんは。
      レビュー上手くないですよ〜。
      こういう本は苦手なはずなのに、なんか読めちゃいました!
      韓国文学に興味があり、少しず...
      さわわさん、こんばんは。
      レビュー上手くないですよ〜。
      こういう本は苦手なはずなのに、なんか読めちゃいました!
      韓国文学に興味があり、少しずつ読みたいなと思っております!
      2023/08/18
    • りりうさん
      なおなおさんおはようございます。
      韓国文学に興味があるんですね!私は児童書と辻村深月さん、瀬尾まいこさんを行ったり来たり……児童書を読んでい...
      なおなおさんおはようございます。
      韓国文学に興味があるんですね!私は児童書と辻村深月さん、瀬尾まいこさんを行ったり来たり……児童書を読んでいると母にからかわれます。韓国文学とか、思い込みで、難しそうだから手が出しにくくて。私もチャレンジしてみようかな♫
      2023/08/19
    • りりうさん
      レビューはお上手ですよ、絶対!
      レビューはお上手ですよ、絶対!
      2023/08/19
  •  ある日を境に、肉食を拒むようになったヨンヘを取り巻く夫、義兄、姉の目線で語られるお話。

     妻がベジタリアンになるまで、私は彼女が変わった女だと思ったことはなかった。という一文から始まります。

     ヨンヘが中心のお話ですが、彼女視点で語られることがないので、なぜ肉食を拒むようになったのかなど、彼女の気持ちや考えは最後まで誰にも分かりません。ゆえに、読む方は惹きつけられ、考えてしまう。
     
     血生臭い匂い…
     無気力な絶望…
     誰が狂ってるのか…
     誰がまともなのか…
     タブーを犯す先にあるもの…
     本当に死にたかったのは誰…?


    著者のあとがきに、この作品を書いていたときのメモにこのような文章が綴られていたとあります。

    “慰めや情け容赦もなく、引き裂かれたまま最後まで、目を見開いて底まで降りていきたかった。もうここからは、違う方向に進みたい”

     違う方向に進んでいっている著者の作品をまた読みたい。

     今まであまり読んだ事のない側面から、生と死について触れた読書になりました。

     

  • ある日を境に肉食を拒否するようになったヨンヘ。
    彼女の夫が語り手の「菜食主義者」、姉の夫が語り手の「蒙古斑」、姉が語り手の「木の花火」という三つの中編からなる連作小説集。

    肉を食べない娘ヨンヘに、”おまえのため”と言いながら、殴り、ヨンヘの夫と弟と三人がかりで、無理やり口に肉を押し込み食べさせようとする父親に強烈なインパクトを受けた。

    そして母親の不在を感じた。いや、いることはいるんだが。しかし、父親の腕を掴み止めようとするのは姉だけだ。最終的に、入院費を払うのも保護者になるのも姉だ。

    衝撃的ではあっても、仰々しさはなく簡潔な文章で描かれている。
    暴力、家父長制、世間体、被害者意識、役割、赦し、自責、罪悪感。家族とは。夫婦とは。
    なぜ、死んではいけないの?という言葉が残っている。

  • 『菜食主義者』読了。
    美しい文体なのに容赦ない暴力要素が詰まった内容だった。
    各章で登場する彼女の身内たちが語るそれはエゴの塊ともいえる言い訳。つらつら語っているようで、読んでいて気分悪くなりそうになった。
    彼女の自由は誰が守るんだろうと思うも物語は彼女を救急搬送するシーンで終わる。
    なんかすごいものを読んでしまったな…後味はそこまで悪くなく、清々しいくらい。
    何故、人は他人の自由や意思を拘束したがるんだろうな。それが普通ではないことであっても本人にとっては普通なのだから。いいじゃん、本人がそれを望んでるならって思うけど。
    彼女の周りにいる人たちは彼女に対し「生かさなきゃいけない責任」が付き纏う。
    自分の仕事に知らず知らずのうちに直結してしまいがちなんだけど、考えてしまうな。
    生きるとは何?みたいな。本人が拒否してるのに無理して治す必要はあるのか?とか。
    彼女の「…なぜ、死んではいけないの?」が印象的だった。

    2021.6.30(1回目)

  • 一読して、菜食になった彼女がやがて木になろうとするのは、加害を受けて来た彼女が加害と無関係なところへ行こう行こうとしてのことなのだろうと思った。
    が、しばらくして二つの疑問が浮かんだ。
    一つ目は、菜食になるというのは彼女が自分自身が加害することも辞めたくてなのだと思ったのだけど、彼女は周囲に頓着している様子がなく、自身の加害について関心がないのなら菜食も木になることも加害を避けることとは違うのでは? ということ。
    二つ目は、菜食になることと木になること、「植物」だし、と雰囲気で繋がっているような気になって読んだのだけど、イコールではないな? 筋が違うのでは? ということだった。
    一つ目については、ではなぜ菜食になったのかと考えると夢のせいで、あの夢は溜まってしまった命が見せると思ったから肉食を辞めた、でも本当は腹の中の顔だった、と書かれている。
    腹の中の顔、というのは加害に抵抗する術のない彼女自身、特に蒙古斑が残っているということからも子ども時代の彼女なのかな、と私は思う(安直すぎる気もするし、他にも色々なものを含むと思うけど)。
    蒙古斑、を頭に残したまま二つ目を考えて、第二部で義兄が木になるイメージを植え付けたからでは、と思い、ぞっとした。
    初読の段階で、木になりたいというのはそれだけだと綺麗な願いのように感じてしまったのだけど、実際には彼女はその願いのせいで死にかけているわけで、彼女は自分の中から生まれた願いだと思っていても、本当は義兄に誘導されたものに私には見える。
    義兄が蒙古斑にこだわっていたからには彼女が成人女性であっても小児性愛の側面があるわけで、大人が子どもに性的な誘導をすることで歪めてしまう加害を私は感じた。
    そうすると、様々な加害を受けた果てに見つけた願いまでも加害によるものであってそのせいで死に向かう、と読めて何ともしんどいのだけど、そこまで加害を描き切ったことで非常に力のある作品になったのだと感じた。

    (読書会で様々な意見を聞いて、色々再考していくつもりなのだけど、ひとまず会の前の私の感想)

  • ある日突然病的に菜食主義者になってしまったヨンヘ。
    彼女の周囲にいる他者3名の視点からなる、連作3部作。

    菜食主義者:夫目線の、彼女が異常をきたした初期段階でのエピソード。夫酷いって思うけど、普通の反応なのかもしれない。
    蒙古斑:義兄目線。ヨンヘが前作で“事件”を起こしたあと、蒙古斑があるということを聞いた義兄はヨンヘに性的な感情を抱く。そうして破滅していく。
    木の花火:姉目線。あんなことがあったのに、姉はヨンヘを見捨てない。植物になろうとするヨンヘ。自身も崩壊していく中のラスト。

    静かに、ほんとうに綺麗に崩れていく日常。アートです。
    ハン・ガンの作品は、2作目。すばらしいよ…。

  • 妻が突然ベジタリアンになった事件を契機に、強烈に壊れてゆく日常を3人の視点から描く連作小説。現実と夢、正常と狂気、生と死、思考と感情の起伏、動物と植物、自然、時間、色彩、濃密なイメージを喚起させる描写力とスピード感のある展開に引き込まれる。ほとんど翻訳を感じさせない文章も読みやすい。この人の小説は他も読んでみたい。

  • この小説は頭に映像が流れるような鮮明な描写と繊細な文章で、読後も強烈な印象が残った。
    主人公の女性をその夫、義兄、姉からの視点で描いている。動物的なものを拒絶し、次第に水と光を求めて植物的なものになることを望む主人公の女性。その背景に主人公が父親の支配的な態度、暴力を受けて育った家庭環境や夫との関係から生じた抑圧のようなものを感じた。主人公の姉がひたすら従順な態度を貫いていたことも同様の抑圧や支配に対して適応するための生存戦略であると見受けられた。そのせいか、夫が主人公女性を「平凡」と描写していたことに私は特に違和感を感じてしまった。
    普段は小説の感想を言語化するのはあまり得意ではないが、この小説はとても印象に残った作品の1つであるため感想を述べた。筆者の文章はとても綺麗で繊細で、それを読んでいるだけでも心が満たされた。美しいもの、鮮明なものを求める人にはお薦めの1冊。

  • ぐぐぐと一気に読んでしまった。
    陰鬱な映画のようだなという印象。

    とても個人的な話、若いころ、ひどくショックを受けて、急に菜食主義者になろうとしたことがある。倫理観などではなく、この本の彼女のように、どうしても食べられなくなった。

    親にいろいろと言われて、結局長くは続けられなかったのだけど。
    その頃の危うさの意味を、思った。きっかけはひとつの傷なのだけど、そこにはもっと前から積み重ねられたものがあったのかもしれない。

    ずっと傷を見ないようにしてきたこと。ある日溢れてしまうこと。
    植物になりたいこと。
    身体の絵の具の色を、消したくないこと。
    光合成。

    突飛なのに、なんだかわかってしまうから、とても個人的な経験につながってしまう。すごい小説なのだと思う。

    考察読みたくなる。

  • 韓国文学。ある日突然極度の菜食主義になる女性。そこから精神異常を引き起こすのだが、彼女のセリフを聞いていたら、ただの考え方の違いで、マイノリティを精神異常者と称してしまっているのではないかと自分を一度見直したくなった。‬

    「木の花火」はセリフに「」がついていなくて、視点であるはずの姉のことを「彼女」と称していたり、姉自身が姉自身を俯瞰で見ているようだった。
    「なぜ死んではいけないの」という問いを見て、精神異常者の考え方が全く分からなくはないなと思った。

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著者プロフィール

著者:ハン・ガン
1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文学科卒業。
1993年、季刊『文学と社会』に詩を発表し、翌年ソウル新聞の新春文芸に短編小説「赤い碇」が当選し作家としてデビューする。2005年、中編「蒙古斑」で韓国最高峰の文学賞である李箱文学賞を受賞、同作を含む3つの中編小説をまとめた『菜食主義者』で2016年にア
ジア人初のマン・ブッカー国際賞を受賞する。邦訳に『菜食主義者』(きむ ふな訳)、『少年が来る』(井手俊作訳)、『そっと 静かに』(古川綾子訳、以上クオン)、『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳、晶文社)、『すべての、白いものたちの』(斎藤真理子訳、河出書房新社)、『回復する人間』(斎藤真理子訳、白水社)などがある。

「2022年 『引き出しに夕方をしまっておいた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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