90年代のこと: 僕の修行時代

著者 :
  • 夏葉社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (139ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904816301

感想・レビュー・書評

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  • マメイケダさんの挿絵がとてもよい。特に「創刊号はチャールズ・マンソンと佐川一政をセットで」の挿絵は目が釘付けになる。

  • 「80年代はスカだった」という言われように、そうでもなんじゃないの?と書かれたのが宮沢章夫の「80年代地下文化論」。90年代もいよいよ歴史として記録され、アーカイブされ、検証され始めています。時も時、令和へのカウントダウンの中で大きな物語としての「平成史」は各メディアでコンテンツ化されていますが、「90年代のこと」はもっともっと小さな時代の空気の揺らめきみたいなことの記憶です。アラン・トゥーサンが入っているコンピレーションCD「FREE SOUL」について著者の先輩が「こういう軽薄な捉えられ方をすると腹が立つんだよね」という反応するとか。この頃、村上隆がスーパーフラット論を引っさげて登場し、すべての表現の等距離性が時代感になっていて、そしてiPodというテクノロジーがその象徴になっていった頃。そのちょっと前のカセットテープ時代から始まる編集とかキュレーションとかが文化の中心になっていった頃。そして、80年代の文化の中心がピテカントロプスに代表される青山・原宿だったのに対して、この本の著者のように地方都市とか小さなコミュニティで育まれていくカルチャーがいよいよ見えて来たのは90年代でした。本書にも登場するけど、都築恭一にはビックリしたなぁ。著者の今の居場所が、京都の町の小さなスペシャルな本屋さん、というのも、そこから始まるロングテールカルチャーが脈々と続いているから。ゼロ年代にSNSでさらに細分化された個人をもう一度、再編集する「可能性」が「90年代のこと」なのかな。

  • たまたま本屋で開いたページが検索にまつわる部分だった。
    「抽象的な要請を検索ワードへと変換する語彙」(本書62頁)
    という言葉が印象的で、その語彙は昔より今の方が偏ってしまいがちだ。

    最近、本屋にまつわる本が増えてるなあと思っていた。
    「二〇一〇年前後から本屋を特集する雑誌や本屋に関する出版物が目に見えて増えつつあった。もはや庇護すべき絶滅危惧種となりつつあった本屋は、その内容である書物ではなく、それ自体が消費の対象になってしまった」(本書136頁)
    と著者は書いている。
    一方で、本棚を作るという行為にある「編集」というクリエイティブな行為が簡単には消費されない、消費だけではないものを生み出すのかもしれない。
    「過去に出版された膨大な本を選択し、並べることで本棚という一つの世界観を作ることも同じように『編集』のひとつだ」(本書99頁)。

    面白かった。
    90年代の事を丁寧に辿っていく。失われてしまった感覚を鮮やかに思い出させる。自分より上の世代だけど、なんとなくわかる部分もある。

    装丁も素敵。
    堀部篤史さんは本屋を経営している人だった。

    読んだ後に気づいたのは『これからの本屋読本』(NHK出版、内沼晋太郎著)で「本屋として生きるということ」で著者と対談していた人だった。

  • 京都で誠光社という書店を経営されている方のエッセイ集。SNSもオンデマンド映像サービスもなかった1990年代に青春を過ごした著者。その頃に貪欲に吸収し愛好した本や音楽や映画について語られます。同世代なので当時のリブロの雰囲気とか太田出版のこととか、そうだったそうだったと思い出しながら読みました。最後に収められた『一九九六年、本屋は僕の学校だった』では、1990年代から現在にかけて書店という場所とその店員・出版社・取次・客がどのように変質していったかが見事にまとめられています。

  • この時代のことを知るためには良い本だと思いましたよ…社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    著者もまだ40代だのに郷愁と言うのか、そういうものを感じているようですね…今の時代にやや否定的というか、「昔はよかった」的な物言いが多いのが気になるところではあります…。

    でもまあ、昔には戻れないですからねぇ…Amazonやら楽天やら、あとはスマホとか? 無い時代に戻っても現代人は困ってしまいますよ!!

    90年代…僕はまだ小学生やら中学生でしたけれども、インターネッツもまだ一般的でなかったあの時代、自らの足を動かして目的の物を掴みに行くしかなかったんですねぇ…

    それがまた見知らぬものとの出会いのきっかけにもなったと…確かに今は誰もが検索してちゃっちゃと目的のものに到達しますもんね…ちょっと風情と言うか、ロマンが無いように思いますね…

    さようなら…。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  •  先日読んだ「火星の生活」がオモシロかったので読んでみた。90年代に青春を過ごした著者が個人的な体験を振り返りながら90年代を現在の価値観で相対化していく。著者と同じくヒップホップが好きなので90年代がゴールデンエラであることに異論はないのだけど、どうしても説教臭さを感じてしまった…
     テクノロジーが効率を促進してきた結果、カルチャーの周縁を駆逐してきたのは事実だし、失われてしまったものも多いと思う。それと同時に手に入れた便利さ、情報が民主化されたことなど正の側面があると思うのだけど、著者は負の側面しか見ていない気がした。お金や時間をかけて能動的に一生懸命情報を集めてきたことを否定するつもりもないし、自分もそういう時期はあったので気持ちは良くわかる。ただ厭世感が本著全体を覆っているので、そこまで悲観的になる必要があるのか?と思った。ただ実際に書店を経営していて店中の写真だけ撮って何も買わずに、もしくは記念のポストカードだけ買って出ていかれたら、こういう気持ちになるのかも。
     なんだかんだ言いつつも30代のミドルチャイルド世代なので著者の気持ちも分かる部分が多い。以下一部引用。
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    人は常に、理解するのに時間を要さない明快さを求める。反対に非合理さの良さは説得ではなく、時間を伴う感化でしか伝播することはない。

    出会ったことのない過去の音楽は等しく新しい音楽であり、どのように並べるかでその意味を定義し直すことができる。先輩のように知識も経験もない自分にとっては、上の世代に対抗すべき手段として「こういう聴き方だってありますよ」と提案する、編集行為こそが唯一の武器だった。
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     特に二つ目の編集行為、キュレーションの可能性については情報が並列化した今こそ求められることであると思うので意識していきたい。関係ないけどジョナ・ヒルが監督した「mid90s」を早々に見たくなった。

  • 著者と90年代の青春を過ごした同年代なので懐かしい。ガロ系漫画、丸尾末広、川崎ゆきお、三月書房、駸々堂、クイックジャパン創刊号、電気グルーヴのオールナイトニッポン、楽器屋のバンド募集チラシ、都築響一のTOKYOSTYLE、汚い下宿の文化サロン、レンタルビデオのツインピークス、カイトランド、エルマガジン、4時ですよ〜だ、マーダーケースブック、創刊号はチャールズマンソン、ソニックユース。

    著者はセレクト書店の有名経営者だが、ミックステープを一生懸命編集して人に渡す行為や、既存の音楽をサンプリングするヒップホップにたとえているのは興味深かった。「本棚のことをうるさく言ってくる常連の代わりに、本棚ではなく店そのもを見る客が増えだした」2010年代から本屋を特集する雑誌が増えて、こうしたセレクト書店も「消費」の対象になったとも。「絶滅危惧種」と自嘲する書店をどうしてデザインしていくか、著者の動向を追いたい。

  • なんか漠然と、いつかこういう本を作りたいと思った。
    文化的な当時の知識に対してもっと詳しくなりたいと思った。
    "僕"の過去のことについて綴っているけど、すごくロマン。

  • なぜか自分より一回り上の世代を羨ましく思う。なぜか、あまり考えたことがなかったが、この本を読んで、そうか90年代を10代後半で、つまりある程度自己ができた段階で過ごせていることを羨ましく思ったのか、と気づいた。書店でのアルバイト、私の世代ではすでに街の本屋は数を減らし、大学時代に色々アルバイトをしたがその選択肢に挙がってきてはいなかった。
    チャンスがあれば、逃さず本にまつわる仕事に挑戦したい。

  • 昔は京都にたくさんいた喫茶店のマスターの話みたい。懐かしい感じ。

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