若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義

著者 :
  • ナナロク社
4.09
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感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904292655

作品紹介・あらすじ

悲しみを通じてしか見えてこないものが、この世には存在する。涙は、必ずしも頬を伝うとは限らない。悲しみが極まったとき、涙は涸れることがある。深い悲しみのなか、勇気をふりしぼって生きている人は皆、見えない涙が胸を流れることを知っている。人生には悲しみを通じてしか開かない扉がある。悲しむ者は、新しい生の幕開けに立ち会っているのかもしれない。耳をすます、小さな声で勇気と希望に語りかける、二十五編のエッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 私がほしいのは自らを鼓舞する言葉じゃなくて
    この本にあるような悲しみに寄り添ってくれる言葉だった。

    きっとこれから何度も読み返すだろう一冊

  • 俵万智さんが「一生モノ」と評したのも納得です。生きること、悲しむこと、言葉を読む(詠む)ことと紡ぐことの意義を、様々な引用を以て、やさしく、丁寧に説いてくれます。辛いとき、悲しいとき、虚しいときなど、人生の様々なタイミングで読み返したい一冊です。

  • 「誰かを愛しむことは、いつも悲しみを育むことになる。」

    たしかにズシンと射抜かれたような気持ちになっているのに、それを言葉にできない。。
    静かに自分と話をしたいとき、また読むことになる本だと思う。

  • 14章 花の供養に  から。
     

     きよ子は手も足もよじれてきて、

    手足が縄のようによじれて、

    我が身を縛っておりましたが、

    見るのも辛うして。
    それがあなた、死にました年でしたが、

    桜の花の散りますころに。

    私がちょっと留守しとりましたら、

    縁側に転げ出て、

    縁から落ちて、

    地面に這うとりましたですよ。

    たまがって駆け寄りましたら、かなわん指で、

    桜の花びらば拾おうとしよりましたです。

     

    曲がった指で地面ににじりつけて、

    肘から血ぃ出して、
    「おかしゃん、はなば」ちゅうて、

    花びらばさすとですもんね。

    花もあなた、かわいそうに、

    地面にねじりつけられて。
     

     何の恨みも言わじゃった嫁入り前の娘が、

    たった一枚の桜の花びらを拾うのが、望みでした。
    それであなたにお願いですが、

    文ば、チッソの方々に、

    書いてくださいませんか。
    いや、世間の方々に。
    桜の時期に、花びらば一枚、

    きよ子の代わりに、

    拾うてやっては下さいませんでしょうか。

    花の供養に。

    HNKの番組で『死にたくなったら読む本』で紹介。



    筆者は言う。

    できれば、声に出して、ゆっくり読んで頂きたい。

    一度でなく、二度、読んで頂きたい。

  • 最初から、
    涙がポロポロでました。

    こころについて、
    たくさん考えさせられました。

    うまく言葉にできないですが、

    悲しみが、こころの底にあることは、
    別れを惜しんだ、今亡き存在と、
    今も、繋がっているということを、
    感じ取ることができました。

    自分では、
    絶対選ばない、見つけられない、本だと思います。
    インスタグラムで、
    見つけた本でした。

    本との出会いに感謝。

    こころが、豊かになったような感じがします。

  • 図書館で借りて、自分用に購入。
    文庫化されたものを友人に贈った。

    …引用は、人生の裏打ちがあるとき、高貴なる沈黙の創造になる。

    …本書を手にした読者が、紙に記された言葉を読むだけでなく、文章を書くことで出会うべき言葉と遭遇する。

  • エッセイ一編が5,6ページ程だし、書かれている言葉も平易で読みやすいのだけど、ゆっくりゆっくりと咀嚼するような感じで読んでいった。
    この本を手に取った時、私自身が深い悲しみに支配されていた。それは著者が経験されたものとは種類は異なるけど、読んでいて共感できる部分も多かったし、少しだけど「自分はこれでいいんだ」と思えた。深く言葉が突き刺さると言うより、著者の人柄にそっと包まれていく感じ。じわっとくる。また読もうと思う。

  • 「悲しみ」について、私は、できるだけ少ないほうが良いと思っていた。
    「悲しみ」につながる出来事や経験は、できれば出会いたくないと思う。

    しかし、若松英輔さんの著書「悲しみの秘儀」を読むと、「悲しみ」の価値が分かる。
    「悲しみ」を知るからこそ、「喜び」が分かるということだ。

    「悲しみ」につながる経験を、積極的にしようということではない。
    人生の中で、予期せぬ出来事は、少なからず起こる。
    耐え難い気持ちになったり、心に傷がついて、それがトラウマのように残ることもある。

    「悲しみ」を転換して、「喜び」に変えることはできないだろう。
    「悲しみ」は「悲しみ」として存在し、その存在があるからこそ、別の感情をよりいっそう強く感じとれるということだと思う。

    本書の中で、若松さんは、恩師の井上洋治神父の遺稿を紹介している。

    『宗教は考えて理解するものではなく、行為として生きて体得するものです。たとえてみれば、山の頂上にむかって歩んでいく道であるといえましょう。人は二つの道を同時に考えることはできても、同時に歩むことは決してできません』

    この遺稿では、「宗教」について言及しているが、「宗教」を「生きることの意味」と言い換えてもよいだろう。

    若松さんは、恩師の遺稿を受けて、
    『人生の意味は、生きてみなくては分からない』と書いている。

    人生において、自分が歩くことができるのは、たった一つの道である。
    頭の中では、「あんな人生」「こんな人生」と複数の道を描くことができるが、
    実際の人生は、たった一つだ。

    どんな人生なのか。自分で生きてみるしかない。

  • 若松英輔 「悲しみの秘儀」 良書。生きる力が湧くエッセイ集。文章に 悲しみを乗り越えた人の 優しさ を感じる引用した本の言葉を借りて、著者の心の声を伝えている。

    人生について
    *生きるとは 人生とは何かを問うことではなく、人生からの問いに応えること
    *人生には悲しみを通じてしか開かない扉がある
    *絶望のあるところには必ず希望が隠れている

    心を開くとは 他者を迎合することではない〜自らの非力を受け入れ、露呈し、変貌を切望すること

  • NHK 理想的本棚
    で『もう死にたいと思った時に読む本』で紹介されていた本


    25編のエッセイ

    それぞれに引用された書籍が最後にブックリストになっている
    特に
    5番目のエッセイに引用された
    『こころの旅』神谷美恵子著
    を読んでみようと思った


    なるほど目から鱗は
    12頁
    亡き者の訪れを告げる出来事だと感じることはないだろうか  
    出会った意味を本当に味わうのは、その人とまみえることができなくなってからなのかもしれない   

    あなたと出会えてよかった
    と伝えることがら始めてみる
    心のなかでそう語りかけるだけで
    何かが変わり始めるのを感じるだろう。


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著者プロフィール

1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家。 慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年『詩集 見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門受賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞、2019年に第16回蓮如賞受賞。
近著に、『ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う』(亜紀書房)、『霧の彼方 須賀敦子』(集英社)、『光であることば』(小学館)、『藍色の福音』(講談社)、『読み終わらない本』(KADOKAWA)など。

「2023年 『詩集 ことばのきせき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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