へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々

著者 :
制作 : 装画:奥村門土(モンドくん)  AD:寄藤文平+鈴木千佳子 
  • ナナロク社
4.20
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本棚登録 : 456
感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904292648

作品紹介・あらすじ

お金も権力もない老人介護施設「よりあい」の人々が、森のような場所に出会い、土地を手に入れ、必死でお金を集めながら特別養護老人ホームづくりに挑む!

感想・レビュー・書評

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  • 1人の困ったお年寄りをなんとかするところから始まった『宅老所よりあい』
    資金も後ろ盾もない、ただただ目の前のこと、目の前の人の為に動くパワーだけは無尽蔵にある人たちの、無謀にも思えるような挑戦と資金集めの日々。

    介護の問題はいつか自分ごとになるとわかっていても、なかなか知る機会もなく、また知ろうとすることもありませんでしたが、老人を(たとえボケていても)施設に囲い込んで社会から見えなくしてしまうのではなく、地域社会の一員として自然にいられるようにする、という『よりあい』のやり方は、現在老人である人やその家族にとっても、将来老人を介護する可能性のある人、また介護される可能性のある人にとっても(つまりはすべての人にとって)確実に幸福度が高い社会の実現に与するものであるなぁと思いました。
    そのために必要な工夫も人手も資金もとにかくたくさん必要にはなるけれども。

    よりあい創始者の下村さんがとにかくパワフルで前向きで、《ケーセラ〜セラ〜

  • 施設の利用者を主としたお話だと思ったけれど、経営に係わった人々のお話だった。老人社会になり、雨後の竹の子の様に施設が出来、問題も事件も増え続けている現実。しかし難しい問題にもケセラセラの精神で明るく立ち向かう人々がいる事に大きな希望が見えた。

  • へろへろ、ヨレヨレ

    タイトルに騙されること勿れ

    この物語は、1人の強烈な、明治生まれの気骨あるお婆さん

    ボケて風呂にも入らず、自分の「下の世話」も怪しい、買った食料も腐らせてしまう

    それなのに、マンションでの一人暮らしを止めようとしない

    そんなおばあさんを、「ボケても人間らしく過ごせる場所で過ごしてもらいたい」

    初対面で熱い思いを抱いた、無職の社会福祉士、下村恵美子さんの行動が全ての起点となっている。

    書いたのは、雑誌『ヨレヨレ』を1人で編集している鹿子浩文さん。

    彼は十数年、編集者という仕事を「干されてきた」人。

    この施設に関わり、雑誌の編集に携わるまで、鹿子さんこそが、ヨレヨレ、へろへろだったのかも。

    しかし、彼の冷静な視点を通して描かれる下村さん、村瀬さんや他の世話人たちは実にパワフルでエネルギッシュ。

    この本に老人たちの描写は少ししか出ていないが、老人たちの視点で考え、奮闘するスタッフたちの姿はふんだんに描かれている。

    母親を早々に施設に預けた僕の胸が少し痛くなるほどに。

    誰もがいずれは自身のこととして向き合わねばならない老化、心身、頭の衰え。

    それを改めて考えさせられるいい本だと思う。

    サンキュー、レビューに載せておいてくれてありがとう。いい本だった。

  • 市の広報誌に小っさく紹介されていたのですが
    不思議な表紙絵と?なタイトルに惹きつけられおもわず
    図書館で検索→予約者0名

    熱量の高い人たちがからまりあって特別養護老人ホームをつくる 
    とてつもなくおもしろくて大変な様子がいきいきと描かれています

    核になる一風変わった社会福祉士下村恵美子さんが
    介護の世界では有名で人気のある村瀬孝生さんをはじめ
    次々とおもしろそうなひとを巻き込んでいく様を
    おもしろおかしく書かれているのです

    そして筆者もその巻き込まれたひとりとして
    福岡の介護施設「宅老所よりあい」異色の雑誌「ヨレヨレ」を作る

    この本を読んでから雑誌を読みたくて探しましたが手に入らず残念

    土地代だけで1億2千万円の資金を企業のバックアップなしに
    101人の支援者を行脚して3ヶ月で集めてしまう
    補助金 借金 バザー イベント カフェ 寄付 物販
    で建物代1億6千万円を2年間でかき集めてしまう

    施設で暮らすお年寄りたちのあられもない日常描写
    そして巻き込まれたひとたちの なんと面白いこと
    世話人の威勢のいいおばちゃんたち
    工事をうけおうおっちゃんたち
    補助金申請先の担当者たち
    詩人の谷川俊太郎氏とそのご子息
    雑誌の表紙絵を描いた少年モンドくんとミュージシャンの父

    そんなはちゃめちゃぶりだけでなく
    レビューに書ききれないくらいの介護業界に関わる金言の数々

    ひとりの困ったお年寄りから始まる
    大きな夢や目的を掲げて始めたのではない
    目の前の困ったひとがいるからやる
    その迷いのなさが まぶしく羨ましい

    ボケても普通に暮らしたい
    ボケたら普通に暮らせない今の世の中
    老化現象のひとつでしかないボケを業病のように扱い「予防」を呼びかける風潮
    本当にそうでしょうかと村瀬さんは問いかける

    ぎりぎりまで自宅で過ごす方法とは
    自分の時間を誰かのために使うこと

    「交流」ということばを施設からもちだされると 
    どうしてもやらねば感が出てきてしまう
    「交流」なんかしなくていい
    「気配」がなんとなく混ざっていればいい

    最後の最後で建築資材の高騰に悩まされる
    「必ずしも今やる必要のない国家的プロジェクト」東京五輪が原因

  • 「老人ホームに入らないで済むための老人ホームを作る」
    1億2千万のお願い行脚で、本当に1億2千万を集めてしまったんだからすごい。

    この本は、社会のいろんな問題を浮き上がらせている。
    大場さんが言った「野垂れ死ぬ覚悟」とは何だったのか?
    この国ではボケたら普通に暮らせないのはなぜか?
    下村さんは何に対して怒りを感じていたのか?

    この宅老所「よりあい」の介護のあり方は、多くの人を動かすでしょう。
    私たちは誰しも老いるし、足腰も弱るし、程度の差こそあれボケるのだ。

    最後にひとこと。
    下村恵美子さんみたいになりたい。

    http://zazamusi.blog103.fc2.com/blog-entry-1210.html

  • (ユートピアなんて)“ここになければ、そこにもないのだ。あっちこっち出かけて上澄みだけをすすり、それで世界が広がったとか深まったとか失望したとか言うのは間違っている。”
    ここまで強く言い切れるのは、筆者がそれだけ「宅老所よりあい」やここで与えられた役割に対して深い思い入れ、愛情、覚悟、自信を持っているからなんだろうな。めちゃくちゃ癖が強くてハードな毎日なんだろうけど、それでも正々堂々自信満々で活動されてるのはやっぱり羨ましいし、素直に見習いたいと思った。

    かなり独自の道を切り拓いているらしい「よりあい」でさえ、“頭の使い方をわざと間違えた人たち”が作った制度とかオリンピックなどとは無関係ではいられない様子も書かれていて、なんか逆に励まされる気持ちになった。笑

  • 図書分類、369、社会福祉。
    369で一番おもしろい本じゃないかと思った。
    きれいごとではいかない介護の現場。理想と現実。
    とにかくパワフルで、へこたれなくて、見栄や外聞を気にしないで、たくましく、笑って乗り越えて、生きていく。
    谷川賢作さんのコンサートをこども劇場で観たことがあるけれど、その時の息子の鍵盤ハーモニカですーといいながらの演奏の楽しかったことを今でも覚えている。なので、父谷川俊太郎さんの衣服をはぎとりオークションにかけた時の彼のあおりのエピソードは、想像できてより笑えた。
    著者の、愛情ありつつも全く遠慮のない表現が楽しくて、雑誌ヨレヨレも読んでみたいと思った。
    結局、やっぱり、人生は楽しんだものがち。
    目の前の出来事にかっつりと取り組むこと。
    読めてよかった。読むエナジードリンク。

  • 『ハートネットTV』で宅老所よりあいのことを知って「自分も将来ははこんなところで過ごしたいな…」と一目惚れ。
    「何か紹介してる本はないかな?」と思って調べて出会ったのがこの本でした。
    無理ゲーのように次々とあらわれるハードルもドタバタしながら乗り越えて行くパワーに圧倒されると同時に、集まってくる人々が生み出すうねりや熱量のお裾分けをもらったような気分になり、なんだか読んでいてとっても元気がでました。

    ケ・セラ・セラ、やっぱり良い言葉だな。

  • 久しぶりに声を出して笑いました。傍でテレビを観ていた姪がビックリした顔で私をみていました。特別老人介護施設を立ち上げるために資金集めに奔走する人々のパワーに魅了されます。私の故郷博多が舞台でコテコテの博多弁で繰り広げられるストーリーにも親しみを感じました。

    • shukawabestさん
      さっき読み終えたよ。いい本、ありがとう。
      さっき読み終えたよ。いい本、ありがとう。
      2022/11/05
  • 一万円選書で届いたうちの一冊!

    種類は全く違うけど、自分が大学時代にやっていた学生NGOの活動で考えていたこと、感じていたことを思い出した。
    街頭で募金活動をしている時、少しずつ重くなっていく募金箱といろんな人からの声掛けに、お金としての価値だけではないあたたかいものを感じていたこととか
    理屈とか正義感とかではなくて、単純にその人たちが/その場所が好きだから、という理由で自分のお金や時間をそこに費やすことをいい意味で当たり前だと思えていたこととか

    宅老所をゼロから作り上げた人たちの思い切りと行動力、純粋にすごいなあと思うと同時に、自分もそんな風に当然の如く突き進める信念を持って生きたいなと思った。よりあいの森、本当に素敵だった。
    でも、この本の中では「よりあい」という場所のあたたかさと対比するように、歳をとったから、ボケたから、その人たちを切り離して別世界の中で管理しようとする世の中の仕組みも言及されていた。まさに、そういう仕組みがお年寄り本人たちに「自分がいることで迷惑をかけている」と思わせたり、周りの人たちに「年寄りは可哀想」と思わせている気がする。個人の考え方の問題ではなくて、社会の仕組みが作り出している空気感だと思う。

    今のところ、この「宅老所よりあい」は特別な場所に見えるけど、これが普通と言われる社会になっていくといいなあと。

    追記: やっぱり、これだけ頑張らないとこういう場所を守れないのって、おかしくない?いろんな人の善意というには真っ直ぐでピュアすぎる気持ちの上に成り立っていることって、ものすごく素敵なことではあるけど、それでは当たり前にはなり得ないと思うの。

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著者プロフィール

1965年福岡県生まれ。編集者。早稲田大学社会科学部卒業。ロック雑誌『オンステージ』、『宝島』で編集者として勤務した後、帰郷。タウン情報誌の編集部を経て、1998年からフリーの編集者として活動中

「2020年 『ブードゥーラウンジ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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