写訳 春と修羅

  • ナナロク社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784904292518

作品紹介・あらすじ

彼方の世界の音律を紡いだ詩人・宮沢賢治の四篇の詩と、音の無い世界を生きる写真家・齋藤陽道が、東北を中心に撮影した写真群。言葉の奥に流れている無限の声に耳をすます、一冊。

感想・レビュー・書評

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  • わたくしといふ現象は
    仮定された有機交流電燈の
    ひとつの青い照明です
    (あらゆる透明な幽霊の複合体)
    風景やみんなといつしよに
    せはしくせはしく明滅しながら
    いかにもたしかにともりつづける
    因果交流電燈の
    ひとつの青い照明です
    (ひかりはたもち その電燈は失はれ)

    これらは二十二箇月の
    過去とかんずる方角から
    紙と鉱質インクをつらね
    (すべてわたくしと明滅し
    みんなが同時に感ずるもの)
    ここまでたもちつづけられた
    かげとひかりのひとくさりつつ
    そのとほりの心象スケツチです

    これらについて人や銀河や修羅や海胆は
    宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら
    それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうか
    それらも畢竟こころのひとつの風物です
    ただたしかに記録されたこれらのけしきは
    記録されたそのとほりのこのけしきで
    それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで
    ある程度まではみんなに共通いたします
    (すべてがわたくしの中のみんなであるやうに
    みんなのおのおののなかのすべてですがら)

    けれどもこれら新生代沖積世の
    巨大に明るい時間の集積のなかで
    正しくうつされた筈のこれらのことばが
    わづかその一点にも均しい明暗のうちに
    (あるいは修羅の十億年)
    すでにはやくもその組立や質を変じ
    しかもわたくしも印刷者も
    それを変らないとして感ずることは
    傾向としてはあり得ます
    けだしわれわれがわれわれの感管や
    風景や人物を感ずるやうに
    そしてただ共通に感ずるだけであるやうに
    記録や歴史 あるいは地史といふものも
    それのいろいろの論科(データ)といつしよに
    (因果の時空的制約のもとに)
    われわれがかんじてゐるのに過ぎません
    おそらくこれから二千年もたつたころは
    それ相応のちがつた地質学が流用され
    相当した証拠もまた次次過去から現出し
    みんなは二千年くらゐ前には
    青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ
    新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層
    きらびやかな氷窒素のあたりから
    すてきな化石を発掘したり
    あるいは白亜紀砂岩の層面に
    透明な人類の巨大な足跡を
    発見するかもしれません

    すべてこれらの命題は
    心象や時間それ自身の性質として
    第四次延長のなかで主張されます

    大正十三年一月 宮沢賢治

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

    宮沢賢治作の『序』『春と修羅』『告別』『眼にて云ふ』の四篇を収録。
    それらを写真家齋藤陽道さんが「写訳」。
    解説の若松英輔さんの言葉を借りれば、「齋藤の写真は賢治の詩を「画」に翻訳する。解説しているのではない。だが、齋藤の写真は、私たちを賢治が感じていた世界に連れて行ってくれる。」
    冒頭に掲げたのは1924年の1月に賢治が著したもの。
    はっきりいって、私には何言ってるのかわからない。
    解説書や考察記事を読めば理解できるのかもしれない。
    でも、しばらくは、賢治の言葉と一対一で向き合って、考えて、感じてみようと思う。
    『眼にて云ふ』は、深い深いところで賢治のあの眼と向き合っているような気になる。
    齋藤さんの写真の中ではガラス窓に付いた羽をはばたかせている鳥の形の水滴が、太陽に向かって飛んでいるような、もしくは太陽をついばんでいるかのような写真がお気に入り。

    ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

    遅くなりましたがあけましておめでとうございます。
    今年もよろしくお願い致します。






  • ぽろぽろと涙がこぼれた。
    陽道さんの写真は、賢治の目を通してこの世界を見ているかのようだ。
    世界はこんなにも美しい。

    ‪以前、ワタリウムでやっていた陽道さんの写真を見に行ったとき、陽道さんの書いた文章は詩人のようだと思った。
    ‪解説で若松氏が書いているように、「写真家は画で詩を紡いでいる」んだなあ。‬

  • 大好きな本の一冊。後半の写真がえんえんと何かの眼差しを捉えていて、有機物も無機物も生物も生物ではなくなるものも入っているのがとても良かった

  • 写訳という言葉。なるほど、写真家であればそれが可能なのか。

    「眼にて云ふ」の写真たちが持つ力強さ。

    そして、若松さんのいう言葉の多様さ。言葉にならないものたち。いつも考えている。

  • すごい写真ばかり。見ていると周囲の喧騒は消え、体の中に写真が染み込んで、揺さぶってくる。

  • 眩しくて、目を細めてしまう。
    彼の写真を見ていると、いつもちょっと泣きそうになる。
    宝物みたいな一冊。

  • 図書館で立ち読みした。じっくり読みたい。

  • 素敵な写真と春と修羅場とのコラボ。
    詩歌が好きな人はたぶんとても楽しめる。
    写真と言葉の間に比較的大きな解釈の余地があるように思うので、じっくり1頁1頁味わうように読むのが良いと思います。ちょっと難しかったです。
    本じゃなくて展覧会とかで見たかったなあ。

  • リリース:(淳子さん)

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著者プロフィール

齋藤陽道(さいとう・はるみち)
1983年東京都生まれ。写真家。文筆家。まんが家。都立石神井ろう学校卒業。2020年から熊本在住。写真新世紀優秀賞。日本写真協会新人賞受賞。『感動』『感動、』(赤々舎)、『宝箱』(ぴあ)、『写訳 春と修羅』『それでも それでも それでも』(ナナロク社)、『声めぐり』(晶文社)『異なり記念日』(医学書院、第73回毎日出版文化賞企画部門受賞)など。

「2022年 『育児まんが日記 せかいはことば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

齋藤陽道の作品

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