となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代

著者 :
  • ミシマ社
3.92
  • (59)
  • (104)
  • (51)
  • (10)
  • (2)
本棚登録 : 925
感想 : 120
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784903908786

作品紹介・あらすじ

仲良くやっていきましょう。

テロ、戦争を起こさないために―
大勢のイスラム教徒と共存するために――

現代イスラム地域を30年以上見つめつづけてきた研究者である著者が、いま、なぜ「こんなこと」になっているのか? を解説。
「一夫多妻制って?」などの日常的な話題から、「イスラム国」がなぜ生まれたか、といった世界情勢の見方や「テロを本当になくすために必要なこと」まで、抜群のわかりやすさで綴る、現代必読の一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代」ですが、イスラム教のニュースってテロとか女性差別が多いですよね。するとイメージとして「イスラム怖い」となってしまいます。
    そこでこの本ではイスラム教徒を「自分の隣にいる人」として、どんな考えや道徳をもっているのかが書かれます。「怖いニュースに出てくる一部の人」でなく、ちゃんと人を知ることって大切ですよね。
    2016年刊行のため過激派の「イスラム国」にも触れています。(日本人人質身代金要求動画が公表されたのが2015年)

    ❐イスラム教/ムスリム
    イスラム教徒のことをムスリムという。ムスリムとは「イスラムする人」という意味で、「イスラムする」というのは、唯一神に帰依する(全面的に従う)ということ。

    ❐一神教
    神様は一人。そのため、ユダヤ教とそこから派生したキリスト教と、さらにイスラム教も、信じるのは同じ神様。
    これが、当事者である例えばキリスト教徒にとっては改めて言われるとびっくりしてしまうこともあるらしい。仏教だと「宗派の違うけど仏教同士」という感じだけど、一神教だと当事者も戸惑ってしまうくらいに隔たっているのね。

    ❐名前から見る。
    イスラム教:マリアム/キリスト教:マリア
    イスラム教:イーサー/キリスト教:イエス
    イスラム教:ムーサー/キリスト教:モーセ
    イスラム教:スレイマン/キリスト教:ソロモン
    イスラム教:イブラヒーム/キリスト教:アブラハム
    イスラム教:ヌーフ/キリスト教:ノア
    イスラム教:ダウト/キリスト教:ダビデ

    ❐神の言葉はずっと変わらない。
    「コーラン」は、唯一神の言葉をムハンマド(マホメット)が人間に伝えたもの。神からの直接の言葉となり、イスラム教徒が守るべき人生のルールブックでもある。これをすべて受け入れることが、神を信じたことになり、「イスラムした」ことになる。
    コーランは神の直接の言葉なので、内容を勝手に解釈したり、「今の時代に合わないから変えよう」ということはできない。
    ⇒法律や社会ルールもコーランに基づくので、他の宗教の人たちが「時代に合っていない。変だ」と言っても、「だけどムスリムは、ずっと前からコーランに従い、この先も永遠にコーランに従うので、変えません」という永遠の平行線になってしまう。それは良くないよね、まずは相手の規範を分かりましょうよ(理解できなくても)、というのがこの本の趣旨でもある。
    ⇒神の言葉といっても、行動をガチガチに固めるのではなくて「できる範囲でいいよ」「全部が無理ならこのくらいはやろうね」という緩さも残されている。話がわかる神様だ(笑)

    ❐イスラム教徒の行い
    ・善い行いをしたら天国に行ける。悪いことをしたら地獄に近づく。
     ⇒悪いことをしたら施しをするなど善い行いをして罪の軽減を図る。すると施された人は「お前を天国に近づけてやった」という考えになり、施す人と施された人に上下関係はない。
    ・弱者を助ける。
     ⇒困っている人は助けるし、支払いも求めない。
     ⇒まあこれは国の制度が頼れないので人間同士で助け合うという面もある。
    ・神の下にある人間は平等。人と人の間に線は引かない。
    ・神の定めたルールの下では存分に生活を楽しむ。

    ❐イスラムと国家
    イスラム教徒が多い国でも「宗教は国家に干渉してないけない」という「世俗主義」の政権が多く、イスラムに基づいた法律の国家はほとんどない。例えばイスラム教で決まっている断食をしなくても、法律違反ではないので逮捕されない。
    多くのイスラム教徒は、自分がいる国の法律と、イスラム的な生き方両方に従わなければならない(まあこれは他の宗教でもそうだが)。
    以前は、全イスラム教徒に号令を出せる存在として「カリフ」がいた。カリフは「神の使徒であったムハンマドに変わって、国という枠組みを超えた全世界のイスラム教徒の集団を率いていくリーダー」となる。(現世での神の代理行為者のため、一世代には一人だけ。…教皇みたいな存在??)
    現在ではそのカリフがいないので、イスラム教徒が国に分断され派閥による争いが起きたりしているんじゃないの、カリフ復活してもいいんじゃないの、という案もあるそうな。

    ❐ヨーロッパとの概念の違い
    イスラム教徒にとって、起こることは「神様が決めたこと」と受け取る。それは、起きてしまったことを「定め」として受け入れることでもある。何かが起きた時、自分が悪かった、あの人が悪かった、と人間に責任を求めるのではなく、神の定めだからとして受け入れるということで、人間同士の助け合いの考えを持つことができる。

    ❐移民と、その国の隔たり
    多くのイスラム教徒がヨーロッパに移民しているが、その国に同化しない事も多い。
    ヨーロッパでは、神から離れて人間が自由になる、市民が個人としての自由を持つ、という概念を持つ(勝ち取った)が、それをイスラムに当てはめることはできない。
    するとイスラム教徒は、移民先の社会に同化せずにイスラム教徒だけで固まってしまったり、うのだが、それによりヨーロッパの国も「いるのがいやだ」になってしまう。

    ❐では「となりのイスラム」と交流するには?
    イスラム教徒の人をもてなすような場合には、日本人では何を出してはいけないのかなどがわかりません。それならまずは聞いて、できる範囲でやって、それを伝えれば良い。
    「ハラール認証」の認定を取ろうとか、ハラールの本に書いてあることで判断するのではなく、相手にきちんと伝えることが大切。例えばお酒を調味料として使ってよいのかわからなかったら「この煮物には、日本酒とみりんを使っています。しかしきちんと煮切っているので、アルコール分は飛んでいて子供にも出せるものです。それでも良ければ食べてください」とちゃんと伝えること。それでどうするかは相手が決める。




    ❐それならなぜ…
    ということで、イスラム教の基本や、「となりのイスラム」を知ることはとても参考になりました。
    しかしどうしても気になるのが、イスラム教徒がこちらに書かれているように弱い人を助けたりコーランを絶対視するなら、なぜイスラム教徒やイスラムが多い国の当事者たちからも「テロが日常」「酷い男尊女卑がある」などの話が多いのだろう。
    私がコーランの内容について知っているのは阿刀田高の解説で読んだだけ。
    https://booklog.jp/item/1/4101255296
    それを読んだ感じでは、そこまでの男尊女卑は感じなかった。一夫多妻だって「戦争などで男性が死んで、遺された子供を助けるために、その母親と結婚するのは良い。でも妻は平等にして、まあ4人くらいまでなら妻をもってもいいんじゃないかな」と言っている。小説やニュースで見聞きするような絶対的な男性上位ってどこからそうなったんだ。(このことは、著者もイスラム教徒の人にぶつけたが、相手からは答えはないらしい)
    男性優位ではあるが、たとえば結婚するときには妻に資産を渡しておくなど、離婚したとしても妻がすぐに困窮しないようになっている。
    これは「起きることは神が決める。人間が永遠の愛の誓いをしても変わることだってある。それなら結婚の契約はフェアにしておこう」という考え方となっている。
    しかし現実では「学校に行った女性を銃撃した」「女は男に従う」というニュースや、イスラム圏小説家の小説ばかり目にするんですよね。
    こちらの本で、離婚は三回口に出したら成立すると書かれている。そして「それは『本当に離婚するの?怒りに任せて口から出ちゃっただけじゃない?やり直したいなら前項をつめばやり直せるよ』という猶予を持たせるため」と書かれている。
    しかしある小説では「夫が三回離婚と言ったら離婚になる。もし後悔して元妻とやり直したい場合は、元妻が他の男と結婚して性行為してから離婚する、という手順を踏まなければならない」と書かれていた。男にとって「元妻が別の男に抱かれている」という苦痛を乗り越えてこそ元妻を取り戻せるんだそうだ。
    ではそれってコーランには書かれてないってこと?それではコーランが絶対といいつつも、それに付随した「補足」のようなものが決められているってこと?
    それならコーランが絶対であったとしても、人間が決めた「補足」を変えることはできるんじゃないの?

    最後にダラダラ書きましたが、人を思い込みやニュースでしったつもりになり距離を置くのではなく、相手を知り、お互いできることを探り合おうね、ということは他のことにも当てはまるので、改めて大事ですよね。
    そして宗教を心の指針として人を思いやったり物事を受け入れるのは良い教えですよね。

  • イスラム教の理解のために購入。一応、人よりはイスラム教に対して知識がある方だと思っていたが、新しい情報が多く、イスラム教理解の道はまだまだだと感じた。端的にいえば、生活における宗教の占める割合が日本やキリスト教文化圏とは異なっていることにより、イスラム教の「異物感」があるのだと感じた。もちろん宗教は生活に根差したものであり、両者は非連続なものではないのだが、昨今の日本社会では両者が重なり合うエリアはかなり狭くなってきたのではないだろうか。

    宗教について体系的に説明した本というよりも、筆者の個人的なエピソードと関連付けながらイスラム教の特徴を解説しているので、うまく頭に入ってきたと思う。イスラム教について全く知らない人でも、この本を読めば親近感を感じるのではないだろうか。むしろイスラム教の教えが何なのかということよりも、2000年代~2010年代のイスラムとの戦争・テロが多く報道される中で語られる筆者の個人的な体験談こそ本書の魅力ではないだろうか。日々イスラム教徒と接する機会がない日本人にこそ是非読んでもらいたい作品である。

    ゆるめの話だけではなく、移民やテロなどの話も含まれており、国際政治などに興味がある人にもおすすめである。西欧諸国の問題だけでなく、中東の国々の問題についても描かれており、昨今のイスラムに関する問題が全体像(ここ大事)で解説されている。ただ、この点については内容が深いわけではないので、ニュースなどを追っている人には物足りなく感じるかもしれない。

  • 15億人がイスラム教徒。
    これは、いまや世界の人口の四分の一。

    ところが西欧世界とイスラム世界の価値観の違いから、関係はこじれ、暴力によって人の命が奪われているという現実。

    まずイスラム教徒を正しく知り、排外するのではなく、病を抱えた価値観を正常化するために、人に線を引くのではなく、共存する。

    そして、排外されようとしているのは、世界の四分の一。そんなことはあり得ない。しかも、まだ増えていて、3人に1人がイスラム教徒になる時代。

    イスラム教は、自分たちはすべて神様に従う。
    神様にすべてを丸投げする宗教。

    感覚的には難しく、感じるが、
    この考え方に救いを求める、楽になるコツがある。

    神から離れて自由になる西欧、神のもとで自由になるイスラム教。

    イスラム教側からの目線でのアプローチから学ぶことは多い。

    ひょっとして、西欧は自由なイスラムに嫉妬しているのでは?とさえ思う。

    嫉妬の炎が世界を燃やし尽くしませんように。

  • "世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代"がやってくる!!日本にいると縁遠いイスラム教徒が身近になる時代は必ずやってくる。その良い予習になりました。良書です。

  • 複雑な問題なんだろうくらいの認識でいた。知らないから怖い。イスラム教徒を知って、仲良くしていく方法を探ろうという提案と表紙のほっこり感を理由に読んだ。読めば読むほど複雑だが、より知りたくなった。

    イスラムと西欧世界とが水と油であることを前提にして知ろうとする姿勢を持つ。違いばかりに注目すると、暴力でぶつかり合うだけで終わりがない。イスラム側から見たフランスは、私の知らないフランスだった。

  • イスラム教とはどういう宗教なのか、なぜ過激派組織がうまれるのか、なぜこの悲惨な状況の中で神を信じることができるのか、それらのことを知って少しでも理解できれば、イスラム教徒に対する過剰な恐怖心や不安感を消せるんじゃないかと思い、この本を手に取りました。

    この本には、フランスは「ブルカは遅れている。世俗主義に反しているからブルカを禁止する。普段ミニスカートを履かない女性に履けと強要するのと同じ事。セクハラを働いているようなものだ」というようなことが書かれています。その一面もあるのでしょうけど、フランスその他のヨーロッパ諸国からすれば、「テロが多発している今、ブルカの中に爆発物や銃を隠し持ったりさせないためにブルカを禁止する」という面もあることを、この著者が知らないとは思えません。

    徹底的にイスラム側から見た意見であり、公平性にかけると思うけれど、イスラム教を知るにはよい本だと思いました。

    この本を読み終わった翌朝、イギリスのニュース番組で「難民は寄生虫を持っている可能性があるから受け入れるべきではない。財政的に国を支援して、自国で解決させるべきだ」というような主旨の話をしていて、憤りを覚えました。もちろん、難民問題が深刻な状況にあることはわかっていますが、それにしてもなんて何という言い方をするのだと。

    西欧諸国のイスラムに対する根深い蔑みの意識が、現在のこの状況に関わっていることを受け止め、弾圧するのではなく、信仰を認め、イスラム教徒の居場所を奪わず共存していく道に進んでいかない限り、たとえIS(イスラム国)が滅びたとしてもまた同じような組織ができ、テロが起きてしまうだろうと思います。

    何の罪もない、助け合いの精神に溢れたイスラム教徒が、穏やかに暮らしていける日がいつか来るでしょうか。アメリカの大統領選を見ていても、アレッポすら知らない候補者がいることに唖然とします。日本が何をすべきなのか、もっと議論をしていかなければ、日本の平和も長くは続かないだろうと感じました。

  • 知らなかったので知ることができてよかった

    本当のグローバルな考え方ってなんだろうと考えさせられる
    現実では、欧米基準のグローバルな考え方がまかり通っていると思うし、特に戦争に関しては中東に対する欧米のやり方がとても嫌いでそれが正しいと思うことができなかったから相手を知って尊重することが大切だと思う

    本にもあったようにイスラム国がなぜ出来上がったかを考えることが何より大切だと思う

    それと
    本を読んでイスラム教の人と話をしてみたくなった

    へーっと思うこともあったし、噛み合わないかなぁと思うところもあったけど
    そもそも日本人、というか私はやおよろずの神様を信じているので

    ここまで広がった、イスラム教はやっぱりすごい宗教なのかなと思う、惹きつけられるのかなーと

  • 比較的読みやすい良書。
    ただ本著はイスラム礼讃の傾向があり、この本だけで「なんてムスリムはいい人達なんだ!」のように考えるのは危ないと感じる。

    イスラムの目を通してみる欧州世界を知りたい、という人にはうってつけだと思います。
    良き隣人として付き合っていくために、互いに寛容でありたいものです。

  • イスラム教の教えと信者の事情について、歴史を眺めながら知ることができた。神から離れることで自由になる西欧人と、神のもとで自由になるイスラム教徒という指摘は興味深い。西欧が進んでおり、啓蒙してやるという意識のもとで行っていることのおかしさに気づかされた。隣人としてイスラムの人と接するときに、どういうことが大切かを説いた本。

  • ミシマ社本は面白いものが多い。
    イスラムみついて簡易言葉で誤解を解いてるくれます。

全120件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学文科卒業。社会学博士。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、同支社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『イスラームから世界を見る』(ちくまプリマー新書)『となりのイスラム』(ミシマ社)『外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?』(集英社)ほか多数。

「2022年 『トルコから世界を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内藤正典の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×